11 / 11
後日譚
元婚約者アランのその後
しおりを挟む
「ねぇアラン聞いてる? ねぇアラン! アランってば!」
「ん……? あぁ。悪い、ぼーっとしていたよ」
セリアがアベルと結婚したあのパーティーの日から数日経ったとある日の昼下がり、子爵家の令息――アランと、同じく子爵家の令嬢――サラは、2人で並んで茶を嗜んでいた。
彼らの婚約はつい先日成立したばかりであり、彼らは今までとは違い、表立って人目をしのぶことなく会うことが出来た。本来なら大いに喜んでいただろう。けれども、2人の表情は晴れない。
サラは、唯一の姉であるセリアがアベルのもとに嫁いでしまったことを寂しく思っていた。願わくば、もう一度セリアに会って彼女に謝らせてほしい、と思っていたのだ。自分の過ちを悔いることが出来る程度には、サラも大人だった。
そして、表情が晴れないのはアランも同じだった。セリアとの婚約を解消して、サラと婚約したのは果たして正しかったのか、と考えていたのだ。
アランは別にサラのことを不満に思っている訳では無い。わがまま放題の令嬢、ということならきっとアランも困り果てていただろうが、サラには人並みには常識も良識も備わっていた。
それがセリアに対しては正常に働かなかった訳だが、アランにとっては大きな問題ではなかった。
彼が思い詰めているのは、セリアがアベルと結婚したことが原因だった。もしアランがあの場で婚約を破棄しなければ、セリアとアベルが結婚することはなかっただろう。
その事を考えると、アランは複雑な気持ちに囚われた。別に、セリアがアベルと結婚したことが不満な訳では無い。アランはセリアのことを嫌っていたわけでも無かった。
むしろ、元婚約者であるセリアの幸せは祝福するべきだということを頭では良く理解していた。
――それでも、セリアが最後に見せたあの幸せそうな笑顔を思い返すと、アランの胸は苦しくなった。
自分と一緒にいる時、セリアがあんな表情をしたことは1度としてなかった。初対面である公爵に、何年もセリアと婚約していた自分が負けたように思えた。それが悔しくて、何故だか認められなかった。
アラン自身が気付いているかどうかは定かではないが、少なからずセリアに未練はあったのだろう。だから、ぽっと出の見知らぬ公爵にセリアを取られたように感じ、彼の心は晴れないでいたのだ。
もっとも、セリアが最後にみせたのはセリアのとびっきりの演技――作り物の笑顔だったのだが、アランがそれを知ることはこの先もずっと無いだろう。
アランはセリアへの複雑な思いを抱えたままきっとこの先、サラと幸せになろうとするだろう。それが彼にとって幸せな道となるかどうかはまだ誰にもわからない――
「ん……? あぁ。悪い、ぼーっとしていたよ」
セリアがアベルと結婚したあのパーティーの日から数日経ったとある日の昼下がり、子爵家の令息――アランと、同じく子爵家の令嬢――サラは、2人で並んで茶を嗜んでいた。
彼らの婚約はつい先日成立したばかりであり、彼らは今までとは違い、表立って人目をしのぶことなく会うことが出来た。本来なら大いに喜んでいただろう。けれども、2人の表情は晴れない。
サラは、唯一の姉であるセリアがアベルのもとに嫁いでしまったことを寂しく思っていた。願わくば、もう一度セリアに会って彼女に謝らせてほしい、と思っていたのだ。自分の過ちを悔いることが出来る程度には、サラも大人だった。
そして、表情が晴れないのはアランも同じだった。セリアとの婚約を解消して、サラと婚約したのは果たして正しかったのか、と考えていたのだ。
アランは別にサラのことを不満に思っている訳では無い。わがまま放題の令嬢、ということならきっとアランも困り果てていただろうが、サラには人並みには常識も良識も備わっていた。
それがセリアに対しては正常に働かなかった訳だが、アランにとっては大きな問題ではなかった。
彼が思い詰めているのは、セリアがアベルと結婚したことが原因だった。もしアランがあの場で婚約を破棄しなければ、セリアとアベルが結婚することはなかっただろう。
その事を考えると、アランは複雑な気持ちに囚われた。別に、セリアがアベルと結婚したことが不満な訳では無い。アランはセリアのことを嫌っていたわけでも無かった。
むしろ、元婚約者であるセリアの幸せは祝福するべきだということを頭では良く理解していた。
――それでも、セリアが最後に見せたあの幸せそうな笑顔を思い返すと、アランの胸は苦しくなった。
自分と一緒にいる時、セリアがあんな表情をしたことは1度としてなかった。初対面である公爵に、何年もセリアと婚約していた自分が負けたように思えた。それが悔しくて、何故だか認められなかった。
アラン自身が気付いているかどうかは定かではないが、少なからずセリアに未練はあったのだろう。だから、ぽっと出の見知らぬ公爵にセリアを取られたように感じ、彼の心は晴れないでいたのだ。
もっとも、セリアが最後にみせたのはセリアのとびっきりの演技――作り物の笑顔だったのだが、アランがそれを知ることはこの先もずっと無いだろう。
アランはセリアへの複雑な思いを抱えたままきっとこの先、サラと幸せになろうとするだろう。それが彼にとって幸せな道となるかどうかはまだ誰にもわからない――
2
お気に入りに追加
1,001
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説

【本編完結】婚約破棄されて嫁いだ先の旦那様は、結婚翌日に私が妻だと気づいたようです
八重
恋愛
社交界で『稀代の歌姫』の名で知られ、王太子の婚約者でもあったエリーヌ・ブランシェ。
皆の憧れの的だった彼女はある夜会の日、親友で同じ歌手だったロラに嫉妬され、彼女の陰謀で歌声を失った──
ロラに婚約者も奪われ、歌声も失い、さらに冤罪をかけられて牢屋に入れられる。
そして王太子の命によりエリーヌは、『毒公爵』と悪名高いアンリ・エマニュエル公爵のもとへと嫁ぐことになる。
仕事を理由に初日の挨拶もすっぽかされるエリーヌ。
婚約者を失ったばかりだったため、そっと夫を支えていけばいい、愛されなくてもそれで構わない。
エリーヌはそう思っていたのに……。
翌日廊下で会った後にアンリの態度が急変!!
「この娘は誰だ?」
「アンリ様の奥様、エリーヌ様でございます」
「僕は、結婚したのか?」
側近の言葉も仕事に夢中で聞き流してしまっていたアンリは、自分が結婚したことに気づいていなかった。
自分にこんなにも魅力的で可愛い奥さんが出来たことを知り、アンリの溺愛と好き好き攻撃が止まらなくなり──?!
■恋愛に初々しい夫婦の溺愛甘々シンデレラストーリー。
親友に騙されて恋人を奪われたエリーヌが、政略結婚をきっかけにベタ甘に溺愛されて幸せになるお話。
※他サイトでも投稿中で、『小説家になろう』先行公開です

【完結保証】嘘で繋がった婚約なら、今すぐ解消いたしましょう
ネコ
恋愛
小侯爵家の娘リュディアーヌは、昔から体が弱い。しかし婚約者の侯爵テオドールは「君を守る」と誓ってくれた……と信じていた。ところが、実際は健康体の女性との縁談が来るまでの“仮婚約”だったと知り、リュディアーヌは意を決して自ら婚約破棄を申し出る。その後、リュディアーヌの病弱は実は特異な魔力によるものと判明。身体を克服する術を見つけ、自由に動けるようになると、彼女の周りには真の味方が増えていく。偽りの縁に縛られる理由など、もうどこにもない。

婚約者は私を愛していると言いますが、別の女のところに足しげく通うので、私は本当の愛を探します
早乙女 純
恋愛
私の婚約者であるアルベルトは、私に愛しているといつも言いますが、私以外の女の元に足しげく通います。そんな男なんて信用出来るはずもないので婚約を破棄して、私は新しいヒトを探します。

嫌われ令嬢は戦地に赴く
りまり
恋愛
家族から疎まれて育ったレイラは家令やメイドにより淑女としてのマナーや一人立ちできるように剣術をならった。
あえて平民として騎士学校に通うようレイラはこの国の王子さまと仲良くなったのだが彼は姉の婚約者だったのだ。

傷物にされた私は幸せを掴む
コトミ
恋愛
エミリア・フィナリーは子爵家の二人姉妹の姉で、妹のために我慢していた。両親は真面目でおとなしいエミリアよりも、明るくて可愛い双子の妹である次女のミアを溺愛していた。そんな中でもエミリアは長女のために子爵家の婿取りをしなくてはいけなかったために、同じく子爵家の次男との婚約が決まっていた。その子爵家の次男はルイと言い、エミリアにはとても優しくしていた。顔も良くて、エミリアは少し自慢に思っていた。エミリアが十七になり、結婚も近くなってきた冬の日に事件が起き、大きな傷を負う事になる。
(ここまで読んでいただきありがとうございます。妹ざまあ、展開です。本編も読んでいただけると嬉しいです)

国王陛下に激怒されたから、戻って来てくれと言われても困ります
ルイス
恋愛
伯爵令嬢のアンナ・イグマリオはルード・フィクス公爵から婚約破棄をされる。
理由は婚約状態で身体を差し出さないなら必要ないという身勝手極まりないもの。
アンナは彼の屋敷から追放されてしまうが、その後はとんでもないことが起きるのだった。
アンナに片想いをしていた、若き国王陛下はルードに激怒した。ルードは恐怖し、少しでも国王陛下からの怒りを抑える為に、アンナに謝罪しながら戻って来て欲しいと言うが……。
運命の歯車はこの辺りから正常に動作しなくなっていく。

邪魔者はどちらでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
レモンズ侯爵家の長女である私は、幼い頃に母が私を捨てて駆け落ちしたということで、父や継母、連れ子の弟と腹違いの妹に使用人扱いされていた。
私の境遇に同情してくれる使用人が多く、メゲずに私なりに楽しい日々を過ごしていた。
ある日、そんな私に婚約者ができる。
相手は遊び人で有名な侯爵家の次男だった。
初顔合わせの日、婚約者になったボルバー・ズラン侯爵令息は、彼の恋人だという隣国の公爵夫人を連れてきた。
そこで、私は第二王子のセナ殿下と出会う。
その日から、私の生活は一変して――
※過去作の改稿版になります。
※ラブコメパートとシリアスパートが混在します。
※独特の異世界の世界観で、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

【完結保証】「不貞を黙認せよ」ですって? いいえ、それなら婚約を破棄させていただきますわ
ネコ
恋愛
バニラ王国の侯爵令嬢アロマは、政略結婚で王弟殿下・マルスロッドと婚約した。
だが、マルスロッドには、アロマの親友・ナンシーと不貞行為をしているとの噂がたびたび……。
そのことをアロマが尋ねると、マルスロッドは逆上して「黙っていろ」と圧力をかける。
表面上は夫婦円満を装うものの、内心では深く傷つくアロマ。
そんな折、アロマはナンシーから「彼は本気で私を愛している」と告げられる。
ついに堪忍袋の緒が切れたアロマは、マルスロッドに婚約破棄を申し出る。
するとマルスロッドは「お前が不貞行為をしたことにするならいい」と言う。
アロマは不名誉な思いをしてでも、今の環境よりはマシと思ってそれを承諾する。
こうして、表向きにはアロマが悪いという形で婚約破棄が成立。
しかし、アロマは王弟相手に不貞行為をしたということで、侯爵家にいられなくなる。
仕方なくアロマが向かった先は、バニラ王国の宗主国たるエスターローゼン帝国。
侯爵令嬢という地位ですらなくなったアロマは一般人として帝国で暮らすことになる。
……はずだったのだが、帝国へ向かう途中に皇太子のライトと出会ったことで状況は一変してしまう。
これは、アロマが隣国で報われ、マルスロッドとナンシーが破滅する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
感想ありがとうございます!
シューリース家の人達は少しズレてただけで根が悪い人って訳じゃなかったんです(*´艸`)
これから悔い改めた姿を見せてくれるのか……
後日譚はもう少しだけ続きます……
嬉しい感想ありがとうございました!
感想ご指摘ありがとうございます!
完全に誤字です!序盤グダグダだったので……修正しときます!
嬉しい感想ありがとうございました!