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後日譚
子爵令嬢サラのその後
しおりを挟むわたし――サラは1人でケーキを食べながら、物思いに耽っていた。
皿に乗った1人分のケーキを食べ進めるうちに、寂しさが心の器から零れ落ちてくる。
「お姉さま……」
あの日、あのパーティーでわたしは初めてお姉さまから明確に拒絶された。あんなに優しかったお姉さまが、私に何でも譲ってくれたお姉さまが――
お姉さまがわたしを拒絶した理由はよくわからない。アベル公爵を譲るのがそれほどまでに嫌だったのだろうか。それともアランをわたしに取られたと思って気が立っていたのだろうか。
それでも、理由はわたしにとっては些細な問題で、お姉さまに初めて冷たくされたことがただただショックだった。
お姉さまは優しい人だった。私が求めれば何だって譲ってくれた。私が望めばいつでも助けてくれた。わたしはそんなお姉さまが――大好きだった。
本当はずっと一緒に居たかった。また私に微笑んで欲しかった。アベル公爵の元へ行って欲しくなかった。お姉さまのものの方が素敵に見える、という言葉に偽りは無いが、それ以上にあの時はお姉さまがアベル公爵の元へ行って欲しくない、という思いがあったのだ。
「あ……」
ケーキが無くなった。一切れのケーキはわたしを満足させるには小さく、もう一切れ欲しくなってしまう。けれども、ケーキを譲ってくれるお姉さまはもうここには居らず、ただ侍女が私の様子を伺っているだけだった。
「ねぇ」
「いかが致しましたか?」
「ケーキ、もう一切れちょうだい?」
「畏まりました」
そう言って侍女が厨房の方へ行ってしまった。わたしは1人でケーキの準備が出来るのを待つ。話し相手になってくれる相手は居ない。ただ1人で、居なくなってしまったお姉さまのことを考えて待っていた。
「サラお嬢様。ケーキの準備が出来ました」
「ありがと」
わたしはフォークを掴むと白いショートケーキにフォークを通した。生クリームと苺とスポンジが乗ったフォークを口に運ぶと甘ったるさが口いっぱいに広がった。
いつもと同じ甘ったるさ。わたしはこの甘さが好きだった。好きだった――のに、なぜだか今日のケーキは美味しく感じられない。一口、また一口とケーキを口に運ぶ。
けれども、何度ケーキを口に運ぼうと口に広がるのはクリームの甘さだけで、それ以上に何も感じない。
「そっか……」
きっとわたしは、お姉さまのケーキが好きだったんだ。お姉さまのものだから美味しそうに見えて、お姉さまが笑って、わたしが食べているところを見てくれるのが嬉しかったんだ。
その事に気付いた時、わたしは自分が大きな過ちを犯したのではないかと思った。お姉さまが最後にわたしを拒絶したのは、わたしがお姉さまを傷つけていたからだ。
いつの日かまた会えるのなら、お姉さまに謝ろう。そして、お姉さまとケーキを分け合って食べよう。そんなことを考えながら、わたしは最後の一口を食べ終えた。
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