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閑話編②
閑話④ 氷の公爵アーサーの幸福
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時はイザベルがアーサーと幸せになることを決意した時に遡る。アーサーはレイジュを部屋から追い出すようにして、イザベルを抱きしめた――
そこまでは良かった。アーサーは2人きりでその空間に居られる幸福を存分に噛み締めていた。あわよくば彼女に自分がどれだけ彼女を愛していたかを囁き、口付けを交わそうかとも考えていた。
「あーさー?」
イザベルがアーサーの腕の中でアーサーを上目遣いで見つめる。どこか呂律が回っていないようで、その上彼女の青い瞳は閉じかかっていた。
「どうしたんだいイザベル?」
「ねむたい」
アーサーの問いかけにイザベルは答える。その答えは案の定、といったようでアーサーは少し気を落とした。
「イザベル」
アーサーの呼び掛けにイザベルは答えない。代わりに、イザベルの胸はアーサーの腕の中で規則正しく上下に揺れていた。既にイザベルは眠ってしまっていたのだ。
彼女のこの数日の事を考えれば、アーサーの腕に抱かれている安心感でイザベルが眠りに落ちてしまうことは何ら不思議なことではない。
ないのだが――すー、すー、というイザベルの規則正しい寝起きの音が逆にアーサーの心音を乱す。
「綺麗だな……」
アーサーは眠っているイザベルに向かって1人呟いた。部屋には2人きりで、イザベルが眠っていてもアーサーにとっては幸福な時間だった。
けれども、アーサーの心はそれだけでは満ち足りなかった。腕の中のイザベルを起こすという行為は、紳士として恥ずべき行為だろう。
アーサーの男としての意地か、はたまた公爵としてのプライドか、それとも起こしたことでイザベルの機嫌を損ねる事を恐れたのかは定かではないが、ともかく何らかの要因で彼は理性を留め、イザベルを彼女の新しい部屋まで運ぼうとした。
「ふふ。本当に綺麗だな」
アーサーはイザベルの頭と足を支えるようにして持ち上げた。起こしてしまうかも、と思ったが杞憂だったようだ。
イザベルは依然としてアーサーの腕の中で眠っていた。イザベルの桃色の唇がアーサーの目に映る。アーサーは見過ぎてはいけない、と自らを律して部屋まで運び入れた。
「おやすみ。イザベル」
「んむぅ……あーさー……」
「イザベル?」
アーサーはイザベルが返事をしたと思い問いかけるが返事はなかった。どうやら寝言だったらしい。
思わず綻ぶ顔を取り繕いながらアーサーはイザベルの部屋を出た。が、長年仕えてきた使用人たちの目は誤魔化せず、使用人達の間では
「フロスト公爵がイザベル様のお部屋からにやにやしながら出てきた」
なんて噂が経ったのだが、本人が知る前にレイジュによってもみ消されたのはまた別の話だ。
そこまでは良かった。アーサーは2人きりでその空間に居られる幸福を存分に噛み締めていた。あわよくば彼女に自分がどれだけ彼女を愛していたかを囁き、口付けを交わそうかとも考えていた。
「あーさー?」
イザベルがアーサーの腕の中でアーサーを上目遣いで見つめる。どこか呂律が回っていないようで、その上彼女の青い瞳は閉じかかっていた。
「どうしたんだいイザベル?」
「ねむたい」
アーサーの問いかけにイザベルは答える。その答えは案の定、といったようでアーサーは少し気を落とした。
「イザベル」
アーサーの呼び掛けにイザベルは答えない。代わりに、イザベルの胸はアーサーの腕の中で規則正しく上下に揺れていた。既にイザベルは眠ってしまっていたのだ。
彼女のこの数日の事を考えれば、アーサーの腕に抱かれている安心感でイザベルが眠りに落ちてしまうことは何ら不思議なことではない。
ないのだが――すー、すー、というイザベルの規則正しい寝起きの音が逆にアーサーの心音を乱す。
「綺麗だな……」
アーサーは眠っているイザベルに向かって1人呟いた。部屋には2人きりで、イザベルが眠っていてもアーサーにとっては幸福な時間だった。
けれども、アーサーの心はそれだけでは満ち足りなかった。腕の中のイザベルを起こすという行為は、紳士として恥ずべき行為だろう。
アーサーの男としての意地か、はたまた公爵としてのプライドか、それとも起こしたことでイザベルの機嫌を損ねる事を恐れたのかは定かではないが、ともかく何らかの要因で彼は理性を留め、イザベルを彼女の新しい部屋まで運ぼうとした。
「ふふ。本当に綺麗だな」
アーサーはイザベルの頭と足を支えるようにして持ち上げた。起こしてしまうかも、と思ったが杞憂だったようだ。
イザベルは依然としてアーサーの腕の中で眠っていた。イザベルの桃色の唇がアーサーの目に映る。アーサーは見過ぎてはいけない、と自らを律して部屋まで運び入れた。
「おやすみ。イザベル」
「んむぅ……あーさー……」
「イザベル?」
アーサーはイザベルが返事をしたと思い問いかけるが返事はなかった。どうやら寝言だったらしい。
思わず綻ぶ顔を取り繕いながらアーサーはイザベルの部屋を出た。が、長年仕えてきた使用人たちの目は誤魔化せず、使用人達の間では
「フロスト公爵がイザベル様のお部屋からにやにやしながら出てきた」
なんて噂が経ったのだが、本人が知る前にレイジュによってもみ消されたのはまた別の話だ。
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