18 / 23
第二章 新しい日常編
第十三話 一緒なら
しおりを挟む
目が覚めると私は自室――フロスト邸で借りることになった部屋のベッドで眠っていた。どうやら私が眠っている間にアーサーが運んできてくれたようだ。
――チュンチュン
部屋の、否屋敷の外からは小鳥のさえずる声が聞こえるので、今は朝なのだろう。随分眠ってしまったらしい。気を引き締めなければいけないな、と私は自嘲した。
――コンコン、とノックの音が部屋に響いた。
「お目覚めですか?」
扉が開くと昨日と同じようにピン、と伸びた背筋のレイジュさんが私の様子を見に来たようだった。私はベッドから降りてレイジュさんのことを見つめた。
「はい。すみません、寝ちゃって」
「いえいえ。構いませんよ。あの後坊ちゃまが――おっと、この話はなしでお願いします。イザベル様は坊ちゃまの奥様になられるのですからそんなにわたくし達にお気を使う必要はございません。坊っちゃまをご覧下さい。どこでわたくし達に気を使ってらっしゃるでしょうか?」
「悪かったな」
タイミング良くアーサーが部屋に入ってくる。
「よく眠れたかい?」
「はい! 運ばせちゃったみたいでごめんなさい」
「気にしなくていいさ」
アーサーはそう言って微笑んだ。その優しい笑顔に暖かい気持ちにされる。
「貴女も色々あってかなり疲れが溜まっていたようだし、ゆっくり休んで貰えたようなら私も嬉しいよ」
アーサーはそう言いながら私の頭を撫でる。少しくすぐったいように感じるがそれでも幸せな気分になる。
「アーサー様。こちらにいらっしゃいましたか」
今度は扉からアーサーの執事さん――ブルックさんの顔がのぞく。
「朝食のご用意が出来ました。イザベル様もどうぞご一緒に」
「ああ。今行くよ。行こう、イザベル」
そう言ってアーサーは私の手を引いて食堂まで歩き出した。私はアーサーと並んで掛けた。
「イザベル様。お食事はお気に召しましたか?」
「はい! とっても!」
思えば、実家では私だけ他の家族と食事の時間が分けられていたな、と思い出す。お母様が作法を教える時間――という名のもとに食事中の私に当たって、満足に食事が出来なかった。
アーサーが隣にいて、使用人さん達も優しくて。自分には勿体ないくらいの新しい、幸せな生活。
これがきっとこれから続いていくのだろう、という確信めいた予感がある。
「ふふっ。私、意外と幸せなのかも」
「あ。イザベル今笑ったね」
アーサーに指摘されて気付く。ここに来てから少し表情が変化するようになってきた。
案外、普通に笑ったり泣いたり出来るようになるのもそう遠くないのかもしれない。
きっと、楽しいことだけでは無いだろうが、どんな事があっても、ここでなら幸せに暮らせる気がする。アーサーと一緒なら――
Fin
――チュンチュン
部屋の、否屋敷の外からは小鳥のさえずる声が聞こえるので、今は朝なのだろう。随分眠ってしまったらしい。気を引き締めなければいけないな、と私は自嘲した。
――コンコン、とノックの音が部屋に響いた。
「お目覚めですか?」
扉が開くと昨日と同じようにピン、と伸びた背筋のレイジュさんが私の様子を見に来たようだった。私はベッドから降りてレイジュさんのことを見つめた。
「はい。すみません、寝ちゃって」
「いえいえ。構いませんよ。あの後坊ちゃまが――おっと、この話はなしでお願いします。イザベル様は坊ちゃまの奥様になられるのですからそんなにわたくし達にお気を使う必要はございません。坊っちゃまをご覧下さい。どこでわたくし達に気を使ってらっしゃるでしょうか?」
「悪かったな」
タイミング良くアーサーが部屋に入ってくる。
「よく眠れたかい?」
「はい! 運ばせちゃったみたいでごめんなさい」
「気にしなくていいさ」
アーサーはそう言って微笑んだ。その優しい笑顔に暖かい気持ちにされる。
「貴女も色々あってかなり疲れが溜まっていたようだし、ゆっくり休んで貰えたようなら私も嬉しいよ」
アーサーはそう言いながら私の頭を撫でる。少しくすぐったいように感じるがそれでも幸せな気分になる。
「アーサー様。こちらにいらっしゃいましたか」
今度は扉からアーサーの執事さん――ブルックさんの顔がのぞく。
「朝食のご用意が出来ました。イザベル様もどうぞご一緒に」
「ああ。今行くよ。行こう、イザベル」
そう言ってアーサーは私の手を引いて食堂まで歩き出した。私はアーサーと並んで掛けた。
「イザベル様。お食事はお気に召しましたか?」
「はい! とっても!」
思えば、実家では私だけ他の家族と食事の時間が分けられていたな、と思い出す。お母様が作法を教える時間――という名のもとに食事中の私に当たって、満足に食事が出来なかった。
アーサーが隣にいて、使用人さん達も優しくて。自分には勿体ないくらいの新しい、幸せな生活。
これがきっとこれから続いていくのだろう、という確信めいた予感がある。
「ふふっ。私、意外と幸せなのかも」
「あ。イザベル今笑ったね」
アーサーに指摘されて気付く。ここに来てから少し表情が変化するようになってきた。
案外、普通に笑ったり泣いたり出来るようになるのもそう遠くないのかもしれない。
きっと、楽しいことだけでは無いだろうが、どんな事があっても、ここでなら幸せに暮らせる気がする。アーサーと一緒なら――
Fin
46
お気に入りに追加
1,695
あなたにおすすめの小説

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
window
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい
Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい
そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす
3/22 完結予定
3/18 ランキング1位 ありがとうございます
“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!
みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。
結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。
妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。
…初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる