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アインワース大陸編
揺(うごく) 其の3
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――上位区画
『急ぎましょう。』
あぁ。もう大丈夫なのか?
『はい。ご迷惑を……その、おっかかけけっけ……』
しどろもどろだがエンジェラは大丈夫みたいだ。と言うかこの作戦、半分は君に掛かっているのだけど。と、要所に配備された鉄騎兵をぶっ飛ばしつつ俺達はリブラ城へと向かう。
陽動作戦は見事に成功。広場に現れた俺を見た3兄弟は鉄騎兵と近衛に命令、全員が一丸となり俺を殺そうと向かってきたが、直後にエンジェラが俺の背後から出現。想定していなかった3兄弟を含む大群は一瞬だけ思考停止し、その隙をついてさらに背後から現れたルチルが俺とエンジェラを上位区画に転移させた。
呆気にとられる中、ルチルに続く形でジルコン、アゾゼオ、ローズが合流、上位区域への追撃を防ぎつつ三兄弟を制止しているというのが現在の状況。
この面子、本来ならば三兄弟など軽く捻る程度の実力があるのだが、殺してしまえばそれこそ敵の思惑通りになってしまうから全力を出せない。操られていたとは言え皇子殺害を独立種が行ったとなれば、その事実は虚構を交えながら瞬く間に世界中に広まる。しかもローズは操られた鉄騎兵達の解除、エリーナは魔法陣を制御する魔術師を止めに向かい……
『援軍喚んで来る、死ぬなよ。』
ルチルはそう言うと一旦どこかに雲隠れした。つまり、出鱈目に強い3兄弟の足止めは実質的にジルコンとアゾゼオの2人だけ。オブシディアン達や想定外のコカトライズと言う戦力はいるが、辛うじてコカトライズが食らいつける程度で3兄弟を足止めするには余りにも力不足。
陽動は確かに成功した。が、綱渡り状態に変わりはない。彼等が敵を引き付けている間に黒幕特定の決定打となる証拠を探し出さなければジワジワと追い詰められ、最終的には負ける。
『父上の部屋だ。一直線に向かうぞ!!』
誰がこの事態を引き起こしたのか。何を探すべきか。しかし迷う俺に対しエンジェラははっきりと明言した。俺と皇帝陛下がこっそり会ったあの部屋だと。
彼女が意識を取り戻した時、色々な情報を教えてもらった。皇帝陛下は死んでおらず、寧ろ健在だったがその強硬な言動に違和感を覚えていた、今にして思えば記憶を改ざんされていたのだろうと、そう言っていた。
そしてその命令を受け帝国のほぼ全戦力が1か所に集められた直後、足元に青白く光る魔法陣が浮かび上がったそうだ。つまり、兄弟以外にも父親である皇帝陛下も記憶改竄を受けていた。一斉に操る為には全員を一か所に集める必要があったが、ソレをどうやって行ったのかと言う疑問はあっさりと氷解した。なるほど、皇帝陛下の命令ならば確かに全員を一か所に集められる
『父上の警備は極めて厳重。しかし、唯一その手が及ばない場所がある。』
護衛を片付けながら彼女は叫び、そして1か所をジッと睨みつける。荘厳なリブラ城の最上部。皇帝陛下の私室。が、眼前には大量の鉄騎兵。一々倒すには数も多ければ実力も高く、真面にぶつかれば無駄に時間を使わされる。
『は?へ?へ?ふわぁ!?』
ゴメン。コッチの方が多分速いからと、そう言い訳と謝罪を重ねた俺はエンジェラを抱きかかえ、目一杯足に力を籠めて地面を蹴った。無数の鉄騎兵は瞬く間に視界の横を通り過ぎ背後へと流れ消えていく……なんか俺、事あるごとに誰か抱きかかえて走ってるような気がする。なんだろう、こういう運命なのかな。
※※※
――リブラ城最上階
皇帝の私室へと辿り着いた俺達が目にしたのは呆然自失とする皇帝陛下。実の娘を前にしてもまともな反応を返さない辺り記憶を弄られているのは疑いようないが……犯人が3兄弟の誰かだとするならば理性が残っていると評価すれば良いのか冷酷だと断ずればよいのか。
『父上!!』
甘かった。エンジェラが声を掛けるや皇帝は何かに取り付かれた様にゆらりと立ち上がると、それまで虚ろだった目を吊り上げ鬼のような形相へと変えた。
『黙れ逆賊!!我が娘を騙るとは良い度胸だ!!』
エンジェラが説得を試みるが、やはり無駄だった。用意周到。証拠を守るのは他ならぬ皇帝。殺すなど俺もエンジェラも、それ以外の誰一人として出来やしない。殺せば疑いようなく反逆罪で処刑されるし、何よりこの大陸を纏める人間がいなくなってしまう。かといって殺意に染まった人間を無傷で止めるのは困難を極める。
剣を鞘から抜く音、抑えきれない興奮が滲む呼吸音、そして……直後に剣と剣がぶつかる激しく甲高い音。
目も当てられない状態。呆然とする俺を他所に親子が剣を交えた。古臭いながらも親子愛に満ちた部屋に何度も何度も金属音が響く。壺が揺れ、本棚がカタカタと揺れる。
『貴様ッ!!』
『目を覚ましてください!!』
『とうに冷めているぞ逆賊!!』
やはり娘の説得など聞く耳持たない。いや、娘だと気付いていない。その認識を頭から消されているのだろう。余程強固に、且つ念入りに記憶の改竄が行われているのは疑いようない。調査の為には皇帝をどうにかして無力化しなければならないのだけど、エンジェラ達を見ていれば分かるが、親である皇帝陛下も大概に人間から外れている。
公務の為に身体を鍛える事など出来ない筈なのに、一度剣を振るえば空気を切り裂き震わせる。エンジェラも必死で反撃するが、敬愛する父親と戦う事態に対する覚悟が無かったみたいだ。なら……
『貴様ッ。そうだ、貴様がァ!!』
ほんの一瞬だけ両者の動きが止まった隙を狙いエンジェラを突き飛ばし、皇帝の前に立ちはだかった。彼女に戦わせるべきではないし、何より時間が無い。直後、声にならない叫び声と重なる様に鋭い音と視認できない何かが目の前を通り過ぎた。剣を振るったと頭が理解するのにそう時間は掛からなかった。圧倒的、年齢による衰えなど微塵も感じさせない攻撃だった。この子にしてこの親あり、なんて評価が頭を過る。考えが甘かっただろうか、コレを無傷で止めるには……前に出て身体で攻撃を受け止める。
『がぁあああッ!!』
『何てことを!!』
肉は斬らせても骨は断たせない。振りかぶった直後に前に飛び出し、勢いが乗る前に左腕で受け止める。痛い、噴き出した血が零れ落ちると身体からほんの少しずつ熱が奪われる感覚に襲われ、肉と骨を伝う激痛に頭が痺れる。
が、これで良い。そのまま無傷の片腕で皇帝を抱え上げ、背後に向けて"探せ"と叫びながらそのまま部屋の出口へと走った。これで良い、後は彼女が何とか手掛かりを探してくれる。
『貴様ァ!!』
鼓膜を破りかねない位の絶叫が耳から脳を揺さぶった。直後、腹部への強烈な打撃。堪らず腕の力を抜けば、即座にブォンという音が身体を掠める。何度も、何度も。一度直撃したからよく理解できる、まともに喰らえばひとたまりもない。
そうやって紙一重で大ぶりの攻撃を避ける度に血が赤い絨毯零れ落ち、壁に飛散して染みを作る。もうどれ位避けただろうか。彼女はまだ手掛かりを見つけていないのか、それともそんなモノは初めから無かったのか。
時間が経過するごとに血が零れ、息が上がる。だけどそれは向こうも同じ。どうやら記憶を弄って無理やり戦わせているようで、俺よりもさらに息が上がっている。なのに……戦いの手を止めるつもりは更々ないらしい。
息も絶え絶えと言った様子に反して目だけが異様にギラついている。殺意、怒気、憎悪etc……色々な感情で煮えくり返っている。言葉は通らない、諦めるつもりもない。
だけど殺してしまえば言い逃れしようがない程に立場が悪化する。ましてやこの人は暗君ならばまだしも稀代の名君とさえ言われている。殺せないし間違って殺してしまえば余所者の言い訳なんてこの都市の誰も許さないだろうし、下手をすれば人類統一連合に利用される可能性だってあるし、寧ろその為に生かしておいたとさえ思える。
『眠りの神よ、かの者を深き眠りに誘え。』
懐かしい、聞き慣れた声が耳に入った。同時、まるで糸が切れた人形の様に皇帝が崩れ落ちた。
『よっ、生きてるか?』
また聞こえた。声の方向を見れば、何時の間にやらぶち破られた廊下の窓から男の顔がひょっこりと覗いていた。その男は"待たせたな"と、また気さくに声を掛けるとそのまま窓から廊下へと着地した。アイオライトだ。
『おう、久しぶり。なんか城の上の方から暴れまわる音が聞こえたからもしかして、と思ってちょいと寄り道したんだが、来て正解だったよ。』
随分と久しぶりに会った彼は俺の顔を見て安堵したのか、背中をバシバシと叩きながら再会を喜んだ。相も変わらずだ、と思うけどちょっと痛い、傷に響く。
『おっと、済まねぇ。とりあえず傷薬、よく効くヤツだから直ぐに効果出るぞ。で、お前なんでこんなところで陛下と戦ってるんだ?ってそもそもこれ本人?偽物だよな?』
本物です。操られてるんです。そう伝えるとアイオライトの表情がみるみる曇っていく。
『そうか。物は使いようというけど、こりゃあ厄介だな。俺は別件があるからここを離れなきゃならないから、陛下にはもう少し強めに魔法掛けておくよ。じゃあ、終わったらまた酒でも飲もう。』
アイオライトは先ほどまでの暴れっぷりから一転、寝息を立てる皇帝を念入りに眠らせると壊れた窓の枠に手を掛け……直後、何処からともなく聞こえたガシャンという大きな音に動きを止めた。皇帝の部屋からだ。多分、いやきっと何かを見つけたのだろう。
急いで部屋へと戻った俺が見たのは彼方此方がひっくり返され見るも無残となった部屋。壺はひっくり返され、本棚からは本が無造作に投げ捨てられ、絨毯はめくられ切り裂かれ、入口側から見て一番奥にある窓は粉々に破壊されていた。
周辺に破片が落ちていない状況から見れば内部から破壊されたのは明白で、実際に部屋の中にいた筈のエンジェラの姿は何処にも無かった。何か犯人を特定するヒントを見つけたと、そう信じた俺は彼女に続くように壊れた窓から外へと飛び出した。
『急ぎましょう。』
あぁ。もう大丈夫なのか?
『はい。ご迷惑を……その、おっかかけけっけ……』
しどろもどろだがエンジェラは大丈夫みたいだ。と言うかこの作戦、半分は君に掛かっているのだけど。と、要所に配備された鉄騎兵をぶっ飛ばしつつ俺達はリブラ城へと向かう。
陽動作戦は見事に成功。広場に現れた俺を見た3兄弟は鉄騎兵と近衛に命令、全員が一丸となり俺を殺そうと向かってきたが、直後にエンジェラが俺の背後から出現。想定していなかった3兄弟を含む大群は一瞬だけ思考停止し、その隙をついてさらに背後から現れたルチルが俺とエンジェラを上位区画に転移させた。
呆気にとられる中、ルチルに続く形でジルコン、アゾゼオ、ローズが合流、上位区域への追撃を防ぎつつ三兄弟を制止しているというのが現在の状況。
この面子、本来ならば三兄弟など軽く捻る程度の実力があるのだが、殺してしまえばそれこそ敵の思惑通りになってしまうから全力を出せない。操られていたとは言え皇子殺害を独立種が行ったとなれば、その事実は虚構を交えながら瞬く間に世界中に広まる。しかもローズは操られた鉄騎兵達の解除、エリーナは魔法陣を制御する魔術師を止めに向かい……
『援軍喚んで来る、死ぬなよ。』
ルチルはそう言うと一旦どこかに雲隠れした。つまり、出鱈目に強い3兄弟の足止めは実質的にジルコンとアゾゼオの2人だけ。オブシディアン達や想定外のコカトライズと言う戦力はいるが、辛うじてコカトライズが食らいつける程度で3兄弟を足止めするには余りにも力不足。
陽動は確かに成功した。が、綱渡り状態に変わりはない。彼等が敵を引き付けている間に黒幕特定の決定打となる証拠を探し出さなければジワジワと追い詰められ、最終的には負ける。
『父上の部屋だ。一直線に向かうぞ!!』
誰がこの事態を引き起こしたのか。何を探すべきか。しかし迷う俺に対しエンジェラははっきりと明言した。俺と皇帝陛下がこっそり会ったあの部屋だと。
彼女が意識を取り戻した時、色々な情報を教えてもらった。皇帝陛下は死んでおらず、寧ろ健在だったがその強硬な言動に違和感を覚えていた、今にして思えば記憶を改ざんされていたのだろうと、そう言っていた。
そしてその命令を受け帝国のほぼ全戦力が1か所に集められた直後、足元に青白く光る魔法陣が浮かび上がったそうだ。つまり、兄弟以外にも父親である皇帝陛下も記憶改竄を受けていた。一斉に操る為には全員を一か所に集める必要があったが、ソレをどうやって行ったのかと言う疑問はあっさりと氷解した。なるほど、皇帝陛下の命令ならば確かに全員を一か所に集められる
『父上の警備は極めて厳重。しかし、唯一その手が及ばない場所がある。』
護衛を片付けながら彼女は叫び、そして1か所をジッと睨みつける。荘厳なリブラ城の最上部。皇帝陛下の私室。が、眼前には大量の鉄騎兵。一々倒すには数も多ければ実力も高く、真面にぶつかれば無駄に時間を使わされる。
『は?へ?へ?ふわぁ!?』
ゴメン。コッチの方が多分速いからと、そう言い訳と謝罪を重ねた俺はエンジェラを抱きかかえ、目一杯足に力を籠めて地面を蹴った。無数の鉄騎兵は瞬く間に視界の横を通り過ぎ背後へと流れ消えていく……なんか俺、事あるごとに誰か抱きかかえて走ってるような気がする。なんだろう、こういう運命なのかな。
※※※
――リブラ城最上階
皇帝の私室へと辿り着いた俺達が目にしたのは呆然自失とする皇帝陛下。実の娘を前にしてもまともな反応を返さない辺り記憶を弄られているのは疑いようないが……犯人が3兄弟の誰かだとするならば理性が残っていると評価すれば良いのか冷酷だと断ずればよいのか。
『父上!!』
甘かった。エンジェラが声を掛けるや皇帝は何かに取り付かれた様にゆらりと立ち上がると、それまで虚ろだった目を吊り上げ鬼のような形相へと変えた。
『黙れ逆賊!!我が娘を騙るとは良い度胸だ!!』
エンジェラが説得を試みるが、やはり無駄だった。用意周到。証拠を守るのは他ならぬ皇帝。殺すなど俺もエンジェラも、それ以外の誰一人として出来やしない。殺せば疑いようなく反逆罪で処刑されるし、何よりこの大陸を纏める人間がいなくなってしまう。かといって殺意に染まった人間を無傷で止めるのは困難を極める。
剣を鞘から抜く音、抑えきれない興奮が滲む呼吸音、そして……直後に剣と剣がぶつかる激しく甲高い音。
目も当てられない状態。呆然とする俺を他所に親子が剣を交えた。古臭いながらも親子愛に満ちた部屋に何度も何度も金属音が響く。壺が揺れ、本棚がカタカタと揺れる。
『貴様ッ!!』
『目を覚ましてください!!』
『とうに冷めているぞ逆賊!!』
やはり娘の説得など聞く耳持たない。いや、娘だと気付いていない。その認識を頭から消されているのだろう。余程強固に、且つ念入りに記憶の改竄が行われているのは疑いようない。調査の為には皇帝をどうにかして無力化しなければならないのだけど、エンジェラ達を見ていれば分かるが、親である皇帝陛下も大概に人間から外れている。
公務の為に身体を鍛える事など出来ない筈なのに、一度剣を振るえば空気を切り裂き震わせる。エンジェラも必死で反撃するが、敬愛する父親と戦う事態に対する覚悟が無かったみたいだ。なら……
『貴様ッ。そうだ、貴様がァ!!』
ほんの一瞬だけ両者の動きが止まった隙を狙いエンジェラを突き飛ばし、皇帝の前に立ちはだかった。彼女に戦わせるべきではないし、何より時間が無い。直後、声にならない叫び声と重なる様に鋭い音と視認できない何かが目の前を通り過ぎた。剣を振るったと頭が理解するのにそう時間は掛からなかった。圧倒的、年齢による衰えなど微塵も感じさせない攻撃だった。この子にしてこの親あり、なんて評価が頭を過る。考えが甘かっただろうか、コレを無傷で止めるには……前に出て身体で攻撃を受け止める。
『がぁあああッ!!』
『何てことを!!』
肉は斬らせても骨は断たせない。振りかぶった直後に前に飛び出し、勢いが乗る前に左腕で受け止める。痛い、噴き出した血が零れ落ちると身体からほんの少しずつ熱が奪われる感覚に襲われ、肉と骨を伝う激痛に頭が痺れる。
が、これで良い。そのまま無傷の片腕で皇帝を抱え上げ、背後に向けて"探せ"と叫びながらそのまま部屋の出口へと走った。これで良い、後は彼女が何とか手掛かりを探してくれる。
『貴様ァ!!』
鼓膜を破りかねない位の絶叫が耳から脳を揺さぶった。直後、腹部への強烈な打撃。堪らず腕の力を抜けば、即座にブォンという音が身体を掠める。何度も、何度も。一度直撃したからよく理解できる、まともに喰らえばひとたまりもない。
そうやって紙一重で大ぶりの攻撃を避ける度に血が赤い絨毯零れ落ち、壁に飛散して染みを作る。もうどれ位避けただろうか。彼女はまだ手掛かりを見つけていないのか、それともそんなモノは初めから無かったのか。
時間が経過するごとに血が零れ、息が上がる。だけどそれは向こうも同じ。どうやら記憶を弄って無理やり戦わせているようで、俺よりもさらに息が上がっている。なのに……戦いの手を止めるつもりは更々ないらしい。
息も絶え絶えと言った様子に反して目だけが異様にギラついている。殺意、怒気、憎悪etc……色々な感情で煮えくり返っている。言葉は通らない、諦めるつもりもない。
だけど殺してしまえば言い逃れしようがない程に立場が悪化する。ましてやこの人は暗君ならばまだしも稀代の名君とさえ言われている。殺せないし間違って殺してしまえば余所者の言い訳なんてこの都市の誰も許さないだろうし、下手をすれば人類統一連合に利用される可能性だってあるし、寧ろその為に生かしておいたとさえ思える。
『眠りの神よ、かの者を深き眠りに誘え。』
懐かしい、聞き慣れた声が耳に入った。同時、まるで糸が切れた人形の様に皇帝が崩れ落ちた。
『よっ、生きてるか?』
また聞こえた。声の方向を見れば、何時の間にやらぶち破られた廊下の窓から男の顔がひょっこりと覗いていた。その男は"待たせたな"と、また気さくに声を掛けるとそのまま窓から廊下へと着地した。アイオライトだ。
『おう、久しぶり。なんか城の上の方から暴れまわる音が聞こえたからもしかして、と思ってちょいと寄り道したんだが、来て正解だったよ。』
随分と久しぶりに会った彼は俺の顔を見て安堵したのか、背中をバシバシと叩きながら再会を喜んだ。相も変わらずだ、と思うけどちょっと痛い、傷に響く。
『おっと、済まねぇ。とりあえず傷薬、よく効くヤツだから直ぐに効果出るぞ。で、お前なんでこんなところで陛下と戦ってるんだ?ってそもそもこれ本人?偽物だよな?』
本物です。操られてるんです。そう伝えるとアイオライトの表情がみるみる曇っていく。
『そうか。物は使いようというけど、こりゃあ厄介だな。俺は別件があるからここを離れなきゃならないから、陛下にはもう少し強めに魔法掛けておくよ。じゃあ、終わったらまた酒でも飲もう。』
アイオライトは先ほどまでの暴れっぷりから一転、寝息を立てる皇帝を念入りに眠らせると壊れた窓の枠に手を掛け……直後、何処からともなく聞こえたガシャンという大きな音に動きを止めた。皇帝の部屋からだ。多分、いやきっと何かを見つけたのだろう。
急いで部屋へと戻った俺が見たのは彼方此方がひっくり返され見るも無残となった部屋。壺はひっくり返され、本棚からは本が無造作に投げ捨てられ、絨毯はめくられ切り裂かれ、入口側から見て一番奥にある窓は粉々に破壊されていた。
周辺に破片が落ちていない状況から見れば内部から破壊されたのは明白で、実際に部屋の中にいた筈のエンジェラの姿は何処にも無かった。何か犯人を特定するヒントを見つけたと、そう信じた俺は彼女に続くように壊れた窓から外へと飛び出した。
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