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アインワース大陸編
リブラ ~ 三男ジェット 其の2
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――リブラ帝国上位区画内 要人宿泊施設内
昼の暴動から一夜明けた翌日の午前。学園ランクが上がればそう言った融通も通るのか、はたまた理事長の方針か、授業を免除されたトリオは俺達の宿泊するホテルに集まっていた。誰ともなく集合場所をココに選んだらしい。その3人が半日以上奔走した結果、幾つかの事実が分かった。
大都市リブラは主に上流階級層が住む上位区画とそれ以外の住む下位区画に分かれ、その間をユースティティア橋が繋ぐ。その橋の上位区画側には治安維持の為の大きな鉄門があり、常駐する鉄騎兵と共に人の出入りを制限する。橋を境に警備の厳重さは大きく変わり、言わずもがな上位区画の警備は厳重で下位区画は緩い。なのに、警備厳重な上位区画側からも行方不明者が出ていたというのだ。
『驚いたのなんのってねぇ。』
俺達に情報を持ってきたパールは開口一番に心情を吐露した。またオブシディアンとブルーの驚きようは無かった。彼等はこの都市出身であり、如何に上位区画の警備が厳重か知っているからだ。
『嘘だぁ……』
『ちょっと信じないの?陰険メガネ!!』
『誰が陰険メガネだクルァ!!』
『クァッ!!』
ブルーが反論すればその頭上のコカトライズの雛も同意する。つーか連れてきていいのか……
『まだ雛ですし、ソレにアイツを親って認識している以上、離れ離れにするのも問題ですからね。』
『まかり間違って雛が死んじゃえばアイツ暴れるだろうからって、だから特例でエンジェラ様が許可出しました。』
柔軟だな。普通は認めないと思うんだけど。
『雛の知能をエンジェラ様に確認してもらい、最終的に極秘且つ特例と言う形で許可して頂きました。勿論、何かあれば俺の首が飛びます。飛びます……』
ブルーはそう付け加えた。最後の方、かなり悲壮感に包まれていたけど大丈夫?
『そ、その辺は問題ないです。普段は兄さんが面倒見ついでに人間の常識を張り切って教え込んでますし、今のところ何も問題起こしてませんから。で、本題ですが、当然下位区域の方もそこそこ行方不明者が出てるみたいです。ただ……』
そこまで言い終えたブルーはオブシディアンを見つめた。
『なんというか。その言い辛いんですが、下位区域の被害は軽く見られる傾向があって、だから余り大事になっていないんです。例えば金が無くて夜逃げするヤツとかも別に珍しくない話ですから、だからそう言うのとごちゃ混ぜになって被害状況が把握しづらくて。』
『ソッチもそっちで大変ね。』
『そう言うパールはどうなんだ?ウチでこってり絞られたか?それとも……』
『あー、もうその話は無しッ!!』
話が移り変わるや唐突に不機嫌になったパールはムスッとした態度で椅子に腰を下ろすと、"あー嫌だ嫌だ"と何かを思い出しながらぶつくさ呟いている。
『こりゃあ、多分あの許嫁と鉢合わせたみたいすね。』
『えーと、確かピスケスの領主のバカ息子だっけか?』
オブシディアンがため息交じりに真実を突っつきグランディが思い出したかのように婚約者の人となりを語ると、やさぐれていたパールの機嫌が余計に悪くなった。どうやらその許嫁、余程アレな人材らしい。
『あぁ。女にだらしなくて腹もだらしなくて、性格は全て金で解決しようとする最低最悪で、生まれ以外に何も誇れるものが無いって専ら評判の?』
『だから言うなッつーの!!』
限界を超えたパールは手近にあったクッションをブルーに投げつけるが、ブルーはソレを魔術で叩き落とした。君達、もう少し仲良くしません?
『ソレよりも、被害の範囲の方が問題でしょ?有り得ないでしょ、上位区画で誘拐なんて!?』
『そうだな。因みに金持ちさん達はどうやって隠してたんだ?』
『確認した限り2人で、何方も妾の子供って理由で無視決め込んでるようです。大事にしないのは簡単、身代金とかの要求が一切ないから。勿論、裏から手をまわしてるみたいだけど……』
『思うほどうまくいってないって訳ね。』
『えぇ。』
『でもなんで誘拐された人間を調べてるんです?』
『そう言えばそうよね。伊佐凪竜一が暴漢の言葉理解できたのと何か関係あるのかな?』
『で、どうなんです?この件、もう僕達も無関係じゃない。そしてルチル殿が黙れと言った以上、この件は人類統一連合と何か関係があるんですよね?』
『クアッ?』
ブルーの言葉と共に全員の視線が俺に集まる。確かに無関係じゃないが、さりとて言っても信じて貰えるか……
『信じないかも、なーんて事考えてないでしょうね?それこそ今更よねぇ?』
『そうですよ。アナタの滅茶苦茶な経歴を知れば、これ以上我々を驚かすような情報なんて早々ないですよ。』
パールの言葉にオブシディアンが同調し、残り2人と1羽は無言で頷いた。確かに一理あるかもしれない。いや、もう仲間なんだから信用して打ち明けてもいいだろう。隠し立てする様な内容でもないしな。
『ま、言ってもいいんじゃないか?そいつ等の言う通り、もうアタシ達は一蓮托生だ。』
それまで黙っていたルチルが静かにそう呟いた。彼女も俺と同じ気持ちの様だ。
『とは言え本人が言い辛い……というか言っても信じて貰えない話だろうからこっちから言うけど……』
全員が固唾を呑む。
『コイツな。異世界から来たんだ。地球って言う星から強制的にコッチに転移してきた。理由はその星の全住民が何かに滅ぼされたから。』
『『『『フアアァァ!!』』』』
『クァーッ!!』
全員仲良くアッサリ限界超えやがった。やっぱり駄目じゃねぇか。
※※※
――リブラ帝国上位区画内 要人宿泊施設内
『まぁ、何処か不思議な感じはしてたんですけど。』
『いやぁ、でも信じろって無理だわ。どう考えたって私達と同じじゃん?まーだ独立種の方ですってのが納得いくよ。』
『あぁ、ソレで納得がいきましたよ。』
『クェッ!!』
トリオが一様に驚く中、一番早く落ち着きを取り戻したブルーは冷静沈着な口調でそう呟いた。
『そりゃあアレか?地球から転移してきたヤツって事か?
『いいえ。ソレは無いでしょう。ルチル殿が語った地球とかいう惑星の神の過保護ぶりから考えれば伊佐凪竜一殿以外の生存者が居るとは考えられません。』
『過保護かなぁ?』
『十分でしょう。恐らくですが、彼の番は他の惑星か、あるいはこの星にもいたんじゃないかと。ですがエルフの4姉妹を選んだという事は……』
『私が可愛かったからですね?』
『違ッが……いや失礼、とは言え半分は間違っていません。』
ブルーの言葉にアメジストは上機嫌だ。完全にだらしなく顔を崩しながらエヘエヘニヤニヤと笑っているが、ルチルがその緩み切った頬を軽く抓った。"いひゃいへふ"という情けない声が響く中、ブルーは淡々と話を続ける。
『エルフは抜きんでた美貌が特徴ですから、でももう1つ抜きんでた特徴がありますよね?』
『『寿命?』』
オブシディアンとグランディの言葉が重なった。
『えぇ。地球と言う惑星の神は地球人類の復興を成し遂げたかった。そう考えるならば寿命の長いエルフは相対的に有利です。しかも4姉妹全員が伊佐凪竜一の番となれば尚の事。』
『それが過保護だって?』
『彼の異能と合わせれば破格の待遇ですよ?その異能と4姉妹の存在は世界のパワーバランスなんて完全に崩壊させるレベルです。なのに許容されている。』
『まぁ、確かにそうよね。で、その過保護と言葉が通じたのとどう繋がるの?』
パールの追及にブルーは改めて全員を見た。
『地球の神は過保護であり、その理由は伊佐凪竜一以外の地球人は滅びているからという点に疑いようは無い。この前提に立った結論はこうです。暴漢の正体はココの人間、但し魂は違う。』
『『『は?』』』
『つまり、召喚の応用だ。恐らく地球には呪いとか滅ぼされたナニカへの憎悪とか恐怖で行き場を無くした魂が溢れている。そう予測した人類統一連合は地球人の魂だけを召喚、コッチの人間の身体の中に強制的に入れた。』
『はぁ?』
『いやいやいや。』
『出来るんですか?』
全員が彼の語る結論に驚いた。驚いていないのは当人とルチル。彼女も同じことを考えていたようだ。
『ちょっと荒唐無稽過ぎない?』
『ルチル殿から聞いたカスター大陸での件を総合すればコレが一番確実だ。』
『カスター大陸って、ゴーレムが暴れたってアレ?』
『そう。あの戦いで人類統一連合が呼び出したゴーストナイトは恐らく地球人の魂が使われていた筈です。』
『でもさ、なんでそんな情報……って、あ!?』
全員が何かに気づき俺を見つめた。何となく言いたい事は予想がつく。俺の記憶を読み取った人類統一連合が地球の存在と現状を知ったんだろう。
『間違いないでしょう。そう考えなければ辻褄が合わない。だけど問題はまだあります。』
『『『まだあるの!?』』』
『つまりぃ。破棄された預言書がまだ残ってる可能性が高いって事ですよねぇ?』
『『『フォオッ!!』』』
『クエッ!!』
3人は仲良く限界を超えようとしたが、何とか抑え込んだ。だけど流石にもうこれ以上は無理と言う位に混乱している。今現在もリブラ武術学園の生徒と言う立場でこの情報は流石に重すぎるか。
『は、はい。総裁のおっしゃる通りです。預言者より与えられた預言書は4冊全てが焼き払われたと歴史に記されています。が、幻の5冊目があったか、あるいは誰かが復元したか、何れかでなければ異世界からの召喚という高度な魔術は使用できません。恐らく、現時点でソレを使えるとなると……』
『私とぉ……』
『他の姉妹も全員使える。但し膨大な魔力以外にも条件が必要で今すぐやってみろと言われても不可能だ。』
『ですよねぇ。』
「そんな高度な技術なんだ?」
俺もトリオも驚きっぱなしだ。
『えぇ。具体的には召喚対象を正確にサーチする魔術に大量の魔力と相応の時間を消費します。通常レベルの転移ですら高位過ぎてごく一部しか使用できないと言えばその難易度が伝わるでしょう?ただ、今回の場合に限れば魂だけなのでサーチさえクリアできれば後の難易度はそこまで高くありません。転移と言うのは移動させる物体の質量に応じて消費魔力が増加するものですから、質量の無い魂を転移させるコストはほぼゼロです。』
『だが、何れにせよ召喚を使える誰かが協力しているのは確かだ。』
『少なくともヴィルゴで暴れたフォシルと同等かそれ以上。ですが……』
ブルーはそこで言葉を止めた。その表情は混乱と疑問がない交ぜになった複雑な表情。またそれはルチルと、後は珍しくアメジストもそうだった。2人はともかくアメジストまでがそんな表情をするという事は相当に異常な何かがあるのだろう。
『問題はそれ程の技術を誰から学んだのか、と言う点です。恐らくヴィルゴでも問題になったのでは?』
『ちょい待ちブルー君。本人に聞けば解決するだろ?』
『そ、そうよ……アレ?もしかして……』
『し、死んだんですか?』
辛うじて話についていくだけで精一杯のトリオが混乱する頭で質問するが、ルチルの反応を見て余計に混乱した。彼女の雰囲気から答えを察したようだ。
『あぁ。より正確には行方不明だ。仲間に助けられたのか、それとも口封じされたのかすら不明。ある日突然牢獄から完全に姿を消しちまった。』
『色々な噂が流れましたよねぇ。例えば死凶とか……』
その言葉にトリオとブルーが殊更に大きく驚いた。全員が据わっていた椅子を大きく揺らすと、アメジストへと視線を映した。でも死凶ってナンダ?四凶とは違うのか?
『そう言えばアナタは知らないんでしたねぇ。』
アナタは止めろ。
『そんなアナタの為に……』
話聞かねぇな。あぁ……でもこのやり取り懐かしいな。
『死凶。死を呼ぶ凶、都市を丸ごと崩壊させるレベルの超級災害、いや災厄の方が近いかな。スノーホワイト、レッドリーパー、ブルーエッグ、ブラックソーン。口さがない連中は死凶の名を騙った報いなんて噂したけど、結局は分からず仕舞い。』
ルチルはそう言うとお手上げのジェスチャーを行い、アメジストは恨めし気な目線で姉を見つめる。
『となると、現状ではあの暴漢から話を聞くしか方法がありませんね。』
「つまり、俺か。」
『そうで……』
話が決まりかけたその時。大勢が階段を駆け上がってくる靴音が響いた。人類統一連合か?部屋の中は一気に緊張感が高まり、気が付けば誰もが武器を手に握り締めていた。がッ!!
『私、怖い。』
只ならぬ雰囲気を感じ取ったアメジストはそう言うや俺にピトッとくっついた。こんな状況でソコに精神回せる、俺はそんなお前が一番怖いよ。
昼の暴動から一夜明けた翌日の午前。学園ランクが上がればそう言った融通も通るのか、はたまた理事長の方針か、授業を免除されたトリオは俺達の宿泊するホテルに集まっていた。誰ともなく集合場所をココに選んだらしい。その3人が半日以上奔走した結果、幾つかの事実が分かった。
大都市リブラは主に上流階級層が住む上位区画とそれ以外の住む下位区画に分かれ、その間をユースティティア橋が繋ぐ。その橋の上位区画側には治安維持の為の大きな鉄門があり、常駐する鉄騎兵と共に人の出入りを制限する。橋を境に警備の厳重さは大きく変わり、言わずもがな上位区画の警備は厳重で下位区画は緩い。なのに、警備厳重な上位区画側からも行方不明者が出ていたというのだ。
『驚いたのなんのってねぇ。』
俺達に情報を持ってきたパールは開口一番に心情を吐露した。またオブシディアンとブルーの驚きようは無かった。彼等はこの都市出身であり、如何に上位区画の警備が厳重か知っているからだ。
『嘘だぁ……』
『ちょっと信じないの?陰険メガネ!!』
『誰が陰険メガネだクルァ!!』
『クァッ!!』
ブルーが反論すればその頭上のコカトライズの雛も同意する。つーか連れてきていいのか……
『まだ雛ですし、ソレにアイツを親って認識している以上、離れ離れにするのも問題ですからね。』
『まかり間違って雛が死んじゃえばアイツ暴れるだろうからって、だから特例でエンジェラ様が許可出しました。』
柔軟だな。普通は認めないと思うんだけど。
『雛の知能をエンジェラ様に確認してもらい、最終的に極秘且つ特例と言う形で許可して頂きました。勿論、何かあれば俺の首が飛びます。飛びます……』
ブルーはそう付け加えた。最後の方、かなり悲壮感に包まれていたけど大丈夫?
『そ、その辺は問題ないです。普段は兄さんが面倒見ついでに人間の常識を張り切って教え込んでますし、今のところ何も問題起こしてませんから。で、本題ですが、当然下位区域の方もそこそこ行方不明者が出てるみたいです。ただ……』
そこまで言い終えたブルーはオブシディアンを見つめた。
『なんというか。その言い辛いんですが、下位区域の被害は軽く見られる傾向があって、だから余り大事になっていないんです。例えば金が無くて夜逃げするヤツとかも別に珍しくない話ですから、だからそう言うのとごちゃ混ぜになって被害状況が把握しづらくて。』
『ソッチもそっちで大変ね。』
『そう言うパールはどうなんだ?ウチでこってり絞られたか?それとも……』
『あー、もうその話は無しッ!!』
話が移り変わるや唐突に不機嫌になったパールはムスッとした態度で椅子に腰を下ろすと、"あー嫌だ嫌だ"と何かを思い出しながらぶつくさ呟いている。
『こりゃあ、多分あの許嫁と鉢合わせたみたいすね。』
『えーと、確かピスケスの領主のバカ息子だっけか?』
オブシディアンがため息交じりに真実を突っつきグランディが思い出したかのように婚約者の人となりを語ると、やさぐれていたパールの機嫌が余計に悪くなった。どうやらその許嫁、余程アレな人材らしい。
『あぁ。女にだらしなくて腹もだらしなくて、性格は全て金で解決しようとする最低最悪で、生まれ以外に何も誇れるものが無いって専ら評判の?』
『だから言うなッつーの!!』
限界を超えたパールは手近にあったクッションをブルーに投げつけるが、ブルーはソレを魔術で叩き落とした。君達、もう少し仲良くしません?
『ソレよりも、被害の範囲の方が問題でしょ?有り得ないでしょ、上位区画で誘拐なんて!?』
『そうだな。因みに金持ちさん達はどうやって隠してたんだ?』
『確認した限り2人で、何方も妾の子供って理由で無視決め込んでるようです。大事にしないのは簡単、身代金とかの要求が一切ないから。勿論、裏から手をまわしてるみたいだけど……』
『思うほどうまくいってないって訳ね。』
『えぇ。』
『でもなんで誘拐された人間を調べてるんです?』
『そう言えばそうよね。伊佐凪竜一が暴漢の言葉理解できたのと何か関係あるのかな?』
『で、どうなんです?この件、もう僕達も無関係じゃない。そしてルチル殿が黙れと言った以上、この件は人類統一連合と何か関係があるんですよね?』
『クアッ?』
ブルーの言葉と共に全員の視線が俺に集まる。確かに無関係じゃないが、さりとて言っても信じて貰えるか……
『信じないかも、なーんて事考えてないでしょうね?それこそ今更よねぇ?』
『そうですよ。アナタの滅茶苦茶な経歴を知れば、これ以上我々を驚かすような情報なんて早々ないですよ。』
パールの言葉にオブシディアンが同調し、残り2人と1羽は無言で頷いた。確かに一理あるかもしれない。いや、もう仲間なんだから信用して打ち明けてもいいだろう。隠し立てする様な内容でもないしな。
『ま、言ってもいいんじゃないか?そいつ等の言う通り、もうアタシ達は一蓮托生だ。』
それまで黙っていたルチルが静かにそう呟いた。彼女も俺と同じ気持ちの様だ。
『とは言え本人が言い辛い……というか言っても信じて貰えない話だろうからこっちから言うけど……』
全員が固唾を呑む。
『コイツな。異世界から来たんだ。地球って言う星から強制的にコッチに転移してきた。理由はその星の全住民が何かに滅ぼされたから。』
『『『『フアアァァ!!』』』』
『クァーッ!!』
全員仲良くアッサリ限界超えやがった。やっぱり駄目じゃねぇか。
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『まぁ、何処か不思議な感じはしてたんですけど。』
『いやぁ、でも信じろって無理だわ。どう考えたって私達と同じじゃん?まーだ独立種の方ですってのが納得いくよ。』
『あぁ、ソレで納得がいきましたよ。』
『クェッ!!』
トリオが一様に驚く中、一番早く落ち着きを取り戻したブルーは冷静沈着な口調でそう呟いた。
『そりゃあアレか?地球から転移してきたヤツって事か?
『いいえ。ソレは無いでしょう。ルチル殿が語った地球とかいう惑星の神の過保護ぶりから考えれば伊佐凪竜一殿以外の生存者が居るとは考えられません。』
『過保護かなぁ?』
『十分でしょう。恐らくですが、彼の番は他の惑星か、あるいはこの星にもいたんじゃないかと。ですがエルフの4姉妹を選んだという事は……』
『私が可愛かったからですね?』
『違ッが……いや失礼、とは言え半分は間違っていません。』
ブルーの言葉にアメジストは上機嫌だ。完全にだらしなく顔を崩しながらエヘエヘニヤニヤと笑っているが、ルチルがその緩み切った頬を軽く抓った。"いひゃいへふ"という情けない声が響く中、ブルーは淡々と話を続ける。
『エルフは抜きんでた美貌が特徴ですから、でももう1つ抜きんでた特徴がありますよね?』
『『寿命?』』
オブシディアンとグランディの言葉が重なった。
『えぇ。地球と言う惑星の神は地球人類の復興を成し遂げたかった。そう考えるならば寿命の長いエルフは相対的に有利です。しかも4姉妹全員が伊佐凪竜一の番となれば尚の事。』
『それが過保護だって?』
『彼の異能と合わせれば破格の待遇ですよ?その異能と4姉妹の存在は世界のパワーバランスなんて完全に崩壊させるレベルです。なのに許容されている。』
『まぁ、確かにそうよね。で、その過保護と言葉が通じたのとどう繋がるの?』
パールの追及にブルーは改めて全員を見た。
『地球の神は過保護であり、その理由は伊佐凪竜一以外の地球人は滅びているからという点に疑いようは無い。この前提に立った結論はこうです。暴漢の正体はココの人間、但し魂は違う。』
『『『は?』』』
『つまり、召喚の応用だ。恐らく地球には呪いとか滅ぼされたナニカへの憎悪とか恐怖で行き場を無くした魂が溢れている。そう予測した人類統一連合は地球人の魂だけを召喚、コッチの人間の身体の中に強制的に入れた。』
『はぁ?』
『いやいやいや。』
『出来るんですか?』
全員が彼の語る結論に驚いた。驚いていないのは当人とルチル。彼女も同じことを考えていたようだ。
『ちょっと荒唐無稽過ぎない?』
『ルチル殿から聞いたカスター大陸での件を総合すればコレが一番確実だ。』
『カスター大陸って、ゴーレムが暴れたってアレ?』
『そう。あの戦いで人類統一連合が呼び出したゴーストナイトは恐らく地球人の魂が使われていた筈です。』
『でもさ、なんでそんな情報……って、あ!?』
全員が何かに気づき俺を見つめた。何となく言いたい事は予想がつく。俺の記憶を読み取った人類統一連合が地球の存在と現状を知ったんだろう。
『間違いないでしょう。そう考えなければ辻褄が合わない。だけど問題はまだあります。』
『『『まだあるの!?』』』
『つまりぃ。破棄された預言書がまだ残ってる可能性が高いって事ですよねぇ?』
『『『フォオッ!!』』』
『クエッ!!』
3人は仲良く限界を超えようとしたが、何とか抑え込んだ。だけど流石にもうこれ以上は無理と言う位に混乱している。今現在もリブラ武術学園の生徒と言う立場でこの情報は流石に重すぎるか。
『は、はい。総裁のおっしゃる通りです。預言者より与えられた預言書は4冊全てが焼き払われたと歴史に記されています。が、幻の5冊目があったか、あるいは誰かが復元したか、何れかでなければ異世界からの召喚という高度な魔術は使用できません。恐らく、現時点でソレを使えるとなると……』
『私とぉ……』
『他の姉妹も全員使える。但し膨大な魔力以外にも条件が必要で今すぐやってみろと言われても不可能だ。』
『ですよねぇ。』
「そんな高度な技術なんだ?」
俺もトリオも驚きっぱなしだ。
『えぇ。具体的には召喚対象を正確にサーチする魔術に大量の魔力と相応の時間を消費します。通常レベルの転移ですら高位過ぎてごく一部しか使用できないと言えばその難易度が伝わるでしょう?ただ、今回の場合に限れば魂だけなのでサーチさえクリアできれば後の難易度はそこまで高くありません。転移と言うのは移動させる物体の質量に応じて消費魔力が増加するものですから、質量の無い魂を転移させるコストはほぼゼロです。』
『だが、何れにせよ召喚を使える誰かが協力しているのは確かだ。』
『少なくともヴィルゴで暴れたフォシルと同等かそれ以上。ですが……』
ブルーはそこで言葉を止めた。その表情は混乱と疑問がない交ぜになった複雑な表情。またそれはルチルと、後は珍しくアメジストもそうだった。2人はともかくアメジストまでがそんな表情をするという事は相当に異常な何かがあるのだろう。
『問題はそれ程の技術を誰から学んだのか、と言う点です。恐らくヴィルゴでも問題になったのでは?』
『ちょい待ちブルー君。本人に聞けば解決するだろ?』
『そ、そうよ……アレ?もしかして……』
『し、死んだんですか?』
辛うじて話についていくだけで精一杯のトリオが混乱する頭で質問するが、ルチルの反応を見て余計に混乱した。彼女の雰囲気から答えを察したようだ。
『あぁ。より正確には行方不明だ。仲間に助けられたのか、それとも口封じされたのかすら不明。ある日突然牢獄から完全に姿を消しちまった。』
『色々な噂が流れましたよねぇ。例えば死凶とか……』
その言葉にトリオとブルーが殊更に大きく驚いた。全員が据わっていた椅子を大きく揺らすと、アメジストへと視線を映した。でも死凶ってナンダ?四凶とは違うのか?
『そう言えばアナタは知らないんでしたねぇ。』
アナタは止めろ。
『そんなアナタの為に……』
話聞かねぇな。あぁ……でもこのやり取り懐かしいな。
『死凶。死を呼ぶ凶、都市を丸ごと崩壊させるレベルの超級災害、いや災厄の方が近いかな。スノーホワイト、レッドリーパー、ブルーエッグ、ブラックソーン。口さがない連中は死凶の名を騙った報いなんて噂したけど、結局は分からず仕舞い。』
ルチルはそう言うとお手上げのジェスチャーを行い、アメジストは恨めし気な目線で姉を見つめる。
『となると、現状ではあの暴漢から話を聞くしか方法がありませんね。』
「つまり、俺か。」
『そうで……』
話が決まりかけたその時。大勢が階段を駆け上がってくる靴音が響いた。人類統一連合か?部屋の中は一気に緊張感が高まり、気が付けば誰もが武器を手に握り締めていた。がッ!!
『私、怖い。』
只ならぬ雰囲気を感じ取ったアメジストはそう言うや俺にピトッとくっついた。こんな状況でソコに精神回せる、俺はそんなお前が一番怖いよ。
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目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
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