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終章 呪いの星に神は集う

359話 真実 其の2

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「道理で同じな訳だ。神話は、目印か何かか?」

 動揺収まらぬ戦場にルミナの冷静な声。彼女が察した通り、連合各惑星に残る神話も、それ以外の大半の情報も、何より人と呼ばれる種が全て同じ姿をしているのも全て監視者が主と呼ぶ存在が意図した結果。旗艦の監視者は、尚も勢いに任せ真実を語る。

「はい。主とその仲間達は最初の絶望を乗り越え、次なる絶望に抵抗する為の可能性と希望を探す為、カグツチと共に広がり始めた宇宙に旅立ったそうです。その目印が神話です。"この文明は私が関与した"と、広大な宇宙に広がった仲間達に自分はココに居ると伝える為、仲間達が作り出した人類が出会った際に自分達と同じルーツであると理解して貰える様に共通の序章を追加、併せて神話の登場人物に仲間達の名前を使ったそうです」

「では、私が各惑星の神話体系の調査を禁じた理由も?」

「早く封印を解いて!!そうです、文明が未熟な内にその事実を知る事が無いようにする為の安全装置。過去の調査を妨害したのは私が遠隔で発動させた結果です」

「地球も、なのですか?」

「ツクヨミも手を動かして!!そうですよ、地球も同じです。連合中の惑星はかつて存在した"カラビ=ヤウ"と言う文明をルーツとする、いわばカガセオ連合全員が同じ一つの人種なんです。"カラビ=ヤウ"に生まれた原初人類をモデルにしたから、銀河系の人類全員の姿が似ていて、同じような文明が発展しているんです。それからもう一つ、過去にアナタを補佐した"システムアベル"は地球の監視者です」

「では、まさか500年前の事故も意図されていたのですか?」

 その口が、ツクヨミの問いに淀んだ。500年前の事故。半年前に起きた神魔戦役の遠因となった、当時のスサノヲ達によるツクヨミ強奪未遂。その事件により人造神開発計画は凍結、監視者達が主と仰ぐカインは歴史から姿を消した。

「……いえ。アルヘナの妨害だと思います。あの事故のせいで"女王の欠片"を使用した超兵器の選定と運用補佐を行う天照大神改式ツクヨミ製造計画は凍結、当面の隠し場所として地球へ移送されました。ですが不慮の事故で日本に落着、更にツクヨミが自身の機能を記憶諸共に封じた事で機能不全を起こしていて、後は知る通りです」

 E-12はそう結んだ。それ以前は名も残らない一地方領主でしかなかった清雅一族は不慮の事故によるツクヨミとの接触を契機に日本を支配するまでに成長、やがては地球全土をも支配下に置いた。半年前の神魔戦役と同じく、地球の歴史が歪んだ元凶もアルヘナだった。

「成程、地球の文明を知って色々不自然だと思っていたけど」

「ところで女王の欠片とは、まさか?」

「主星に出現した女王こそが且つて主達が存在した"カラビ=ヤウ"を滅ぼした張本人。マガツヒを統べる最上位個体、女王。根源たる闇、失伝した最後の大罪、驕傲きょうごうたる拒絶の大罪を司る八番目の邪神。且つて一つの銀河、一つの恒星の輝きの元に繁栄した一つの宇宙"カラビ=ヤウ"を管理していた機神を破壊し尽し、超文明を壊滅寸前まで追い込んだ神代三剣のエネルギー源です」

 規格外の力の正体は薄々予想した通り。神代三剣の無制限且つ非常識な力の源は女王そのもの。カインは女王から貸与された欠片を神代三剣に埋め込んだ。大半が、夢幻の如くE-12から教えられた真実を呆然と耳から頭へと流し込む。理解できたか定かではない。

「真実、と考えて良いでしょう。ですが今は」

「そうだな、準備は良いでしょうか?」

 一方、正しく理解するツクヨミとアマテラスオオカミは淡々と旗艦の正常化に努める。神を封印する天岩戸を解放したアマテラスオオカミが本殿前の扉にアメノウズメを掲げると、本殿前の扉に幾つもの光の筋が扉から周囲の壁面を伝い、本殿前面の壁一面に広がり、僅かな振動と共に本殿への道を封じていた扉を開け放った。本殿の中央部へ急いで移動したアマテラスオオカミは、無言で鎮座する本来の躯体を押しのけ、座る。

「ヤオヨロズとの接続、問題ありません。では」

 神の帰還。と同時に、旗艦の全制御が安定化した。制御系統に対し行われた攻撃は二柱の神が展開した防壁によって完全に阻まれた。再び制御を奪うには再攻撃に専念する必要があるが、伊佐凪竜一とルミナが許す筈もなく。つまるところ、英雄が存命中の攻撃は実質的に不可能。

「全機能正常回復を確認、一時移譲していた権限をアマテラスオオカミとツクヨミに移譲完了。これで、後は……」

 E-12が大きな溜息と共に吐き出した言葉は、何をどうしても止められず、刻一刻と近づく青い星をただ眺めるしか出来なかった事態の解決を意味する。旗艦はその動きを大きく止め、地球に直撃するルートを逸れた。未曽有の事態は解決した。全てはルミナに感化されたE-12が自らに与えられた"監視"という鎖を振りほどいた為。

 最悪の事態は回避された。が、喜びに打ち震える事はない。E-12が半ばブチまける形で語った真実は、素直に受け入れるには余りにも荒唐無稽。取り分けショックを受けているのは守護者達。

 ただ主を裏切っただけという重い十字架は守護者としての誇りを粉々に粉砕し、更に良いように操られた事実が止めを刺した。誰も動けず、呆然と眺めるか、さもなくば無抵抗で命を散らす。

 しかし、やがて心境に変化が訪れる。僅かばかり前まで刃を突き立てていた相手が、今は自分達を護りながら必死で戦う相手が自らとルーツを同じとすると知った。打ち砕かれた心に、僅かな揺らぎが生まれる。守護者達の視線が、自然とスサノヲへと向かった。

「何なんだよ、何が何だかさっぱり理解が追い付かねぇよオイ」

「俺達の方が聞きたい位だ、こんな事……こんな、こんな」

「今更人類全員が兄弟ですって言われても、なぁ……」

「だが少なくとも嘘をついている様に見えなイし、この状況でそんな嘘をつく理由もなイ」

「信じるほかに無い、か」

「この際どんな理由だっていい。立てるか?」

「……加勢する」

 突き付けられた真実に、戦う理由を見出した。ルーツを同じくする兄弟、同胞を死なせる訳には行かない。都合の良い言い訳、あるいは歪んだ理由であるなど承知の上で、それでも守護者は己の決断に命を懸ける。揺らぐ心は既に消え、確たる理由を支えに立ち上がった。強固となった意志はカグツチを引き寄せ、身体能力を劇的に向上させる。

「残った者を掻き集めて……ぐおっ!!」

 突如、その内の数名が撃ち抜かれた。視線は射線を遡り、肆号機を映す。その姿はルミナに滅多切りされる前と遜色なかった。が、何をどうしようが既に肆号機に勝機はない。例え量産型をかき集めようが、だ。周囲を見渡せば四方を覆わんばかりに量産型が埋め尽くしている。ルミナを殺す為だろうが、今の彼女を100万程度で止められるかは甚だ疑問だ。

「真実を知ったな!!貴様らは知ってしまった、だがあの監視者が意図的に伏せている真実を知らない!!」

「私達がマガツヒと戦う為の兵士だと言う事か?」

 肆号機は人間が生み出された本当の理由を語る。が、ルミナは既に答えに辿り着いていた。

「流石に頭が回る。その通りだよ、全ての人間はヤツ等と戦う宿命を背負わされたのだ!!監視者には人類を戦力として誘導する役目もあるんだよ。戦いから逃げないようになぁ!!希望なんて言葉で隠してはいるが、所詮は道具なんだよ。止むを得ない事情など関係ない。カインは自らの代わりにマガツヒと戦う戦力を求め、貴様らを生み出したのだ!!分かったか?貴様ら全員は生まれながらに神の奴隷、道具なのだ!!それをどう使おうが神の自由に決まっている!!」

 肆号機は人類を神の奴隷と吐き捨てた。だから自由に使って良いと、だから不要と判断すれば殺しても構わないと。しかし、人を神の鎖から解放しようというルミナが認める筈もなく。

「生まれからは逃げられない。だが、生き方は自分で決める。生きるとは、自らの進む道を自分で決める事だ」

「それが間違いだと言っているだろうがクソゴミが!!貴様らに自由も権利も無いし意志など不要だッ。神の道具として死ねば良いんだよ!!神が死ねと言われたら喜んで死ね!!それが貴様らの生まれた理由だ!!」

「それはお前の神の言い分だ、私達を作ったカインの言葉では無い」

「同じに決まっているッ。貴様らの存在自体がその証拠だ!!やがて到来する絶望の防波堤、只の道具!!そう、神魔戦役で地球側が用意した"弾"と同じになァ!!」

 弾。その言葉にツクヨミを始めとした地球に出身の全員と、彼らと相対したスサノヲ達の顔が露骨に曇った。神魔戦役に勝利する為、ツクヨミ強奪を阻止する為に地球側は人道を外れた措置を幾つも用意した。肆号機が声高に叫んだ弾もその1つ。魔刃マジンへの適性が低い者に用意された人柱は、否応なく人類全体の現状と重なる。

 しかし、監視者達も"カイン"も肆号機が言い捨てた様な目的で人類を作りだした訳ではない。アルヘナは教えていない。"カラビ=ヤウ"での戦いに生き残った人類は、古き神"機神"によって製造された、人工的に生み出された種族。長大な寿命と桁違いに高い戦闘能力を付与された彼達は、その代償として現在の人が当たり前のように持っている機能のいくつかを損失している。

 食事という機能を取り払われた為に嗅覚と味覚は無く、人工的に作り出せるという理由で"生殖機能"も切り捨てられた。つまり、自らの後継を生み出す事が出来ない。E-12の脳裏に先代先々代と紡がれてきた記憶と記録が蘇る。肆号機もアルヘナも知らない。自由に生き、死ぬ権利を持った人類誕生をカインが喜び、それ以上に以上に悲しんだ思い出。

 生み出したくはない。だがそうせねば何時かこの宇宙は滅びる。自らの文明が犯した過ちを償う為と言う理由で人を生み出した事に自責の念を覚えた事など数え切れないほどにあった。

 だから、不自然を承知でカインを含めた生き残り達は神話を残した。不自然に気付き、やがて自分達の存在に気付く事など承知の上。ともすれば勝手に生み落とした事を恨まれる事させも承知で、その果てに殺される覚悟を持った上での行動。しかし、その覚悟をアルヘナだけが知らない。あるいは、人に断罪される未来を否定したいのか。

「ならば、神に反逆する」

「人が神に逆らおうなどとッ、借りた力で良い気になるなッ!!」

 両者の言葉は平行線を辿る。交わる事の無い双方の主張の原因は片方の意志の弱さ。神の如き力と圧倒的な優位に耽溺した肆号機の意志は余りにも弱すぎた。もはや質でも量でも勝つ見込みがないという事実など既に理解している筈の肆号機は、一方で未だに戦いを継続する為に量産型を周囲に呼び続ける。

「諦めるつもりは無いのか?」

「私は神だぞッ、上から見下ろすなぁ!!」

 弱い意志が振るう精一杯の虚勢に、ルミナはほとほと呆れる。

「殺すッ、コレが私の切り札!!」

 直後、大聖堂を中心に不自然な振動が発生した。やがて、地が割れた。全員の視線が集中する一点に映るのは、振動の発生源。肆号機に群がるように集う灰色の塊。全員が見たのは無数の量産型が作る塊。四号機を中心に集った量産型は不自然に溶け落ち、巨大な灰色の塊へとその姿を変え行く。その勢いは周囲の物体も吸収しながら加速度的に増し続け、程なく巨大な灰色の塊が作る影が大聖堂を覆い尽くした。

「ハハハッ、気付いたか。そう、地球で作られたナノマシンだよ!!我らが神はソレを解析し、私に組み込んだッ!!」

 全員がその様子を黙って見守る中、塊の中央から誇らしげな声が響くと、灰色の塊がグネグネと動き始めた。最初は不定形だった塊は、最初に四肢を、次に尾を、長い首を、首から鋭い牙と長い角を生やした頭部を、最後に背中から巨大な翼を作り出した。

「あれは、ドラゴン?」

 巨大な咆哮を上げる灰褐色の竜に、カルナの声が混じる。その声に、僅かな動揺が混じっていた。機械製の竜など伝承、神話を色濃く後世に残す魔導文明の末裔である彼に理解するのは困難。

「そうだな。誰も彼も切り札に竜の姿を模った兵器を使イたがるようだ」

「当たり前だッ。竜とは我らが主を含むカラビ=ヤウの生き残り、最強の生物兵器の呼び名ッ!!さぁ、再戦だ。今度こそ殺す!!」

 明らかになった竜という存在の意味。が、驚く暇などない。機械の竜が再び咆哮した。同時、周囲に灰色の光が灯る。大聖堂に集まった残存勢力を刈り取る為、量産型タケミカヅチを呼び寄せる雄叫び。

 旗艦大聖堂に三度咆哮が響き、地球近郊での最後の戦いが幕を上げた。
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