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第8章 運命の時 呪いの儀式
319話 胎動
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連合標準時刻 火の節89日 午前10:48
地球近郊に停泊する旗艦内に建造された大聖堂のオリジナル、主星のオリンピア大聖堂でも戦闘が始まった。
誰が、どの様な目的で届けているのか分からない映像が、銀河を挟んだ反対側に、戦場その他の区別なしに遍く行き届く。驚愕。堕ちた英雄、連合を混沌に貶める英雄は既に主星の大聖堂にまで辿り着いているという事実。
が、それ以上の光景に驚愕する。伊佐凪竜一と相対する改式の中身。肉体を捨て脳髄だけとなった男が白日の下に晒されると、誰もが伊佐凪竜一と同じか、あるいはそれ以上に混乱する。
「何よアレ……なんで、どうして!?」
一番混乱した声が、戦場の端から上がった。山県大地を良く知る白川水希。且つて同じ目的の為に轡を並べた彼女の狼狽え振りは酷い。
「オイオイオイ、じゃあまさかお前等も……」
タガミも狼狽した。山県大地の在り様への強い拒否感に満ちた露骨な嫌悪溢れる表情は、やがて相対する改式へと向かう。
『残念だが、俺は生身のままだ』
『勿論、私も同じですよ。彼は生き延びたい、戦いたいと言う目的の為にああしただけです。自らの意志でね』
もしや山県大地と同じく脳髄だけとなっていないか、とそう考えても不思議ではない。しかし予想に反し、両者は否定した。ヤレヤレと呆れ気味な口調はタガミへの嘲笑に満ちる一方、偽りではないと物語る。どこか安堵するタガミ。
「山県令子、お前はどうなんだ?」
間髪入れず、ルミナが疑問を重ねた。神妙な顔色に、極めて冷静に問う声色に誰もが声の先、改式へと視線を移す。
「答える義務、ある?」
何ともそっけない。少女はたった一言ぶっきらぼうに返答すると口をつぐんだ。
「まさか……アナタッ!!」
憤慨する白川水希。が、当人は"保護者面するな鬱陶しい"とにべもない。恐らく、彼女は察したのかも知れない。山県大地の後を追う形で自らも肉体を捨てた、と。
「男の事情は分かった。君は……戦う為か?だが、どんな理由にせよ失った肉体を現在の技術で戻すのは極めて困難だ。分かっていての決断か?」
別の誰かが少女に問う。イヅナだ。白川水希と同じく、彼も山県令子が肉体を捨て去った可能性を頭に描いた。戦う為、つまり山県令子の改式操縦適性。それなりに簡略化されているとは言え、それまで触れた経験の無い未知のインターフェイスを使用しての戦闘は、柔軟性の高い10代の頭脳とは言え困難を極める。
その解決方法が山県大地と同じ処置。改式を自らの肉体としてしまえば問題が解決するのではと、彼はそう考えた。そもそも少女の能力の要だったハバキリは既に無く、精神操作を行うナノマシンの生成はもうできない。利用価値を失った少女が、己を戦力とする為に縋ったとしても不思議ではない。
『ウルサイ、ウルサイッ!!』
図星。否定もせず、ただ喚く態度が少女の心中を証明した。間違いなく、この少女も肉体を捨てている。
「フフッ、生身に決まってるでしょ。オカシな人達」
誰かの否定する声。タナトスだ。そんな事をする理由は何処にもないと、気が付けば大聖堂付近にまで歩み寄ったタナトスがしたり顔で語る。ルミナとカルナの攻撃を交わしながら何をするかと思えば、イヅナと白川水希の疑問に答える為とはいかにもこの女らしい。
が、本心だ。少なくとも、そう思わせるには十分な態度。だとするならば何方かが偽っていることになるが、そんな意味不明な嘘をつく理由がどこにあるのか。
困惑が、ジワリと広がる。極論すればこんなやり取りに意味はない。しかし、誰もが山県令子の声が聞こえる改式の中身に意識を向けざるを得ない状況になっていた。これもタナトスの思惑通りなのか、それとも……
ドォン――
轟音が、轟く。タナトスが小馬鹿にした矢先、声を阻む衝撃と音が木霊した。やはりルミナ。タナトスの言葉など信用に値しないという感情の表出。彼女は片手で持つには余りにも巨大な銃を実体化、軽々操ると銃口を改式に向け、躊躇いなく引き金を引いた。
撃ち出された弾丸は白い粒子を後方に残しながら凄まじい勢いで改式に着弾、操縦席がある胸部周辺を容易く抉り取った。装甲が破壊され、無数の機器と配線が剥き出しになり、その奥に隠されていた操縦席が白日に晒される。
『は?』
『そんな……』
その光景に、全員が絶句した。タナトスやステロペースを含めた全員が、だ。何故と、疑問が頭を過る。ルミナ達の推測を否定したあの態度には、過剰な自信が溢れていた。だというのに現状は真逆。少女がどの様な状態であったか、タナトスですら知らなかったなどあり得ない。しかし、嘘は語っていない。タナトスが、露骨なまでに動揺している。あんな顔、する事があるのか。そんな、初めて見せる顔に演技の色は僅かも滲んでいない。
「う、嘘でしょ。アナタ……ソレ……」
最悪の結論に白川水希は絶句、彼女は呆然自失で操縦席に内部のソレを見つめる。ほんのりと涙が浮かぶその目には、取り返しのつかない選択をした少女を止められなかった不甲斐なさへの後悔が満ちる。
「タナトスッ!!」
絶叫。動揺する女の名を、ルミナが叫んだ。偽りを教えたという単純な理由とは明らかに違う、山県令子を騙した怒りが彼女を滾らせ、冷静さを奪う。怒りに震える彼女は、タナトスが見せた動揺など目に入らない。
『何故だ、どうして君まで!!』
『これは、これはどういう事でしょうか、タナトス?』
「オイオイオイ、サルタヒコ!!道踏み外してんじゃねぇぞテメェ!!」
『俺達も知らん!!何だそれは……タナトス!!』
「わ、私もそんな……あの男か……クッ、何処までも私を、人を何だと……」
少女を良く知る誰もが混乱の渦に呑まれる。操縦席に広がる惨状、それは映像の向こう、銀河の反対側で戦う山県大地と何一つ変わらなかった。夥しい機器に囲まれた透明な容器に浮かぶ脳。操縦席に存在したのは、且つて久那麗華と呼ばれた地球人の美しい少女ではなく、旗艦を恐怖に突き落とした山県令子と名乗った少女でもなかった。
ソコに、人はいなかった。意志を生み出す器官だけがポツンと、透明の容器に浮かんでいた。まるで少女の現状を現している様な、そんな気がした。
『だからどうしたッ、コレが私の覚悟だ!!戦えなくなった私に、満足に機体の操縦すら出来ない私が彼の傍に寄り添おうと思ったらもうこうするしかないって、そう言われたんだ!!だからッ!!』
悍ましい覚悟を、少女が語る。反応は両極端。何も知らぬ数合わせの守護者達と数多の市民は感銘を覚える一方、それ以外の全員が唾棄した。この状況に心を痛めるのは憎むべき敵だけという皮肉。
少女は男の為に自らの身体すら捨てたと、そう言ってのけた。眩暈がする。が、その最後に吐き捨てた、誰かに唆された事を示唆する台詞にに正気を取り戻す。誰もが、不快感に顔をしかめる。
勝利の為に此処までするのか、その勝利に意味はあるのか、未来を捨ててまで傍に寄りそうと誓った男はこの惨状を知っているのか、少女の人となりを知る全員の中に幾つもの疑問が湧き上がり、抑えきれず、声として噴出する。だがもう遅い。もう、賽は投げられてしまった。イヅナの言葉通り、少女は元の姿を取り戻せない。
「覚悟しろ」
声が、静かに響いた。まるで揺らめく波の様に広がるその言葉が、戦場を通り越し、映像を見つめる旗艦アマテラスの全域にまで響き渡る。
誰もが一様に口を閉ざし、声の方を見つめた。言葉が、まるで耳元で囁かれている様に間近で聞こえたから。だが何より、声ではない、もっと根源的に感情を揺さぶる何かを感じ取ったからだ。誰もがその女を見る。美しい、銀色の髪を棚引かせた女。堕ちた英雄と蔑まれる女、ルミナ。
刹那、守護者達の一部が混乱し始めた。言葉が原因ではない。彼女の目を見てしまった。ルミナの目が僅かな時間、さながらマガツヒの如く真っ赤に染まる瞬間を目撃してしまった。
人の意志を滅する赤い眼光と目線が合っていたならば、ソレは問答無用で意志を削り取る。彼女の目を見た守護者達の一部は全員が区別なく混乱し、やがてヘビににらまれた蛙の様に萎縮し始めた。全体から見ればごく僅か。しかし、混乱はまるで波の様に戦場全体へと波及する。
覚醒しつつある。ハバキリの元となった"欠片"が、ルミナの意志を糧に目覚めつつある。ハバキリが求める存在へと変わりつつある、あの目はそれを告げる胎動だ。
地球近郊に停泊する旗艦内に建造された大聖堂のオリジナル、主星のオリンピア大聖堂でも戦闘が始まった。
誰が、どの様な目的で届けているのか分からない映像が、銀河を挟んだ反対側に、戦場その他の区別なしに遍く行き届く。驚愕。堕ちた英雄、連合を混沌に貶める英雄は既に主星の大聖堂にまで辿り着いているという事実。
が、それ以上の光景に驚愕する。伊佐凪竜一と相対する改式の中身。肉体を捨て脳髄だけとなった男が白日の下に晒されると、誰もが伊佐凪竜一と同じか、あるいはそれ以上に混乱する。
「何よアレ……なんで、どうして!?」
一番混乱した声が、戦場の端から上がった。山県大地を良く知る白川水希。且つて同じ目的の為に轡を並べた彼女の狼狽え振りは酷い。
「オイオイオイ、じゃあまさかお前等も……」
タガミも狼狽した。山県大地の在り様への強い拒否感に満ちた露骨な嫌悪溢れる表情は、やがて相対する改式へと向かう。
『残念だが、俺は生身のままだ』
『勿論、私も同じですよ。彼は生き延びたい、戦いたいと言う目的の為にああしただけです。自らの意志でね』
もしや山県大地と同じく脳髄だけとなっていないか、とそう考えても不思議ではない。しかし予想に反し、両者は否定した。ヤレヤレと呆れ気味な口調はタガミへの嘲笑に満ちる一方、偽りではないと物語る。どこか安堵するタガミ。
「山県令子、お前はどうなんだ?」
間髪入れず、ルミナが疑問を重ねた。神妙な顔色に、極めて冷静に問う声色に誰もが声の先、改式へと視線を移す。
「答える義務、ある?」
何ともそっけない。少女はたった一言ぶっきらぼうに返答すると口をつぐんだ。
「まさか……アナタッ!!」
憤慨する白川水希。が、当人は"保護者面するな鬱陶しい"とにべもない。恐らく、彼女は察したのかも知れない。山県大地の後を追う形で自らも肉体を捨てた、と。
「男の事情は分かった。君は……戦う為か?だが、どんな理由にせよ失った肉体を現在の技術で戻すのは極めて困難だ。分かっていての決断か?」
別の誰かが少女に問う。イヅナだ。白川水希と同じく、彼も山県令子が肉体を捨て去った可能性を頭に描いた。戦う為、つまり山県令子の改式操縦適性。それなりに簡略化されているとは言え、それまで触れた経験の無い未知のインターフェイスを使用しての戦闘は、柔軟性の高い10代の頭脳とは言え困難を極める。
その解決方法が山県大地と同じ処置。改式を自らの肉体としてしまえば問題が解決するのではと、彼はそう考えた。そもそも少女の能力の要だったハバキリは既に無く、精神操作を行うナノマシンの生成はもうできない。利用価値を失った少女が、己を戦力とする為に縋ったとしても不思議ではない。
『ウルサイ、ウルサイッ!!』
図星。否定もせず、ただ喚く態度が少女の心中を証明した。間違いなく、この少女も肉体を捨てている。
「フフッ、生身に決まってるでしょ。オカシな人達」
誰かの否定する声。タナトスだ。そんな事をする理由は何処にもないと、気が付けば大聖堂付近にまで歩み寄ったタナトスがしたり顔で語る。ルミナとカルナの攻撃を交わしながら何をするかと思えば、イヅナと白川水希の疑問に答える為とはいかにもこの女らしい。
が、本心だ。少なくとも、そう思わせるには十分な態度。だとするならば何方かが偽っていることになるが、そんな意味不明な嘘をつく理由がどこにあるのか。
困惑が、ジワリと広がる。極論すればこんなやり取りに意味はない。しかし、誰もが山県令子の声が聞こえる改式の中身に意識を向けざるを得ない状況になっていた。これもタナトスの思惑通りなのか、それとも……
ドォン――
轟音が、轟く。タナトスが小馬鹿にした矢先、声を阻む衝撃と音が木霊した。やはりルミナ。タナトスの言葉など信用に値しないという感情の表出。彼女は片手で持つには余りにも巨大な銃を実体化、軽々操ると銃口を改式に向け、躊躇いなく引き金を引いた。
撃ち出された弾丸は白い粒子を後方に残しながら凄まじい勢いで改式に着弾、操縦席がある胸部周辺を容易く抉り取った。装甲が破壊され、無数の機器と配線が剥き出しになり、その奥に隠されていた操縦席が白日に晒される。
『は?』
『そんな……』
その光景に、全員が絶句した。タナトスやステロペースを含めた全員が、だ。何故と、疑問が頭を過る。ルミナ達の推測を否定したあの態度には、過剰な自信が溢れていた。だというのに現状は真逆。少女がどの様な状態であったか、タナトスですら知らなかったなどあり得ない。しかし、嘘は語っていない。タナトスが、露骨なまでに動揺している。あんな顔、する事があるのか。そんな、初めて見せる顔に演技の色は僅かも滲んでいない。
「う、嘘でしょ。アナタ……ソレ……」
最悪の結論に白川水希は絶句、彼女は呆然自失で操縦席に内部のソレを見つめる。ほんのりと涙が浮かぶその目には、取り返しのつかない選択をした少女を止められなかった不甲斐なさへの後悔が満ちる。
「タナトスッ!!」
絶叫。動揺する女の名を、ルミナが叫んだ。偽りを教えたという単純な理由とは明らかに違う、山県令子を騙した怒りが彼女を滾らせ、冷静さを奪う。怒りに震える彼女は、タナトスが見せた動揺など目に入らない。
『何故だ、どうして君まで!!』
『これは、これはどういう事でしょうか、タナトス?』
「オイオイオイ、サルタヒコ!!道踏み外してんじゃねぇぞテメェ!!」
『俺達も知らん!!何だそれは……タナトス!!』
「わ、私もそんな……あの男か……クッ、何処までも私を、人を何だと……」
少女を良く知る誰もが混乱の渦に呑まれる。操縦席に広がる惨状、それは映像の向こう、銀河の反対側で戦う山県大地と何一つ変わらなかった。夥しい機器に囲まれた透明な容器に浮かぶ脳。操縦席に存在したのは、且つて久那麗華と呼ばれた地球人の美しい少女ではなく、旗艦を恐怖に突き落とした山県令子と名乗った少女でもなかった。
ソコに、人はいなかった。意志を生み出す器官だけがポツンと、透明の容器に浮かんでいた。まるで少女の現状を現している様な、そんな気がした。
『だからどうしたッ、コレが私の覚悟だ!!戦えなくなった私に、満足に機体の操縦すら出来ない私が彼の傍に寄り添おうと思ったらもうこうするしかないって、そう言われたんだ!!だからッ!!』
悍ましい覚悟を、少女が語る。反応は両極端。何も知らぬ数合わせの守護者達と数多の市民は感銘を覚える一方、それ以外の全員が唾棄した。この状況に心を痛めるのは憎むべき敵だけという皮肉。
少女は男の為に自らの身体すら捨てたと、そう言ってのけた。眩暈がする。が、その最後に吐き捨てた、誰かに唆された事を示唆する台詞にに正気を取り戻す。誰もが、不快感に顔をしかめる。
勝利の為に此処までするのか、その勝利に意味はあるのか、未来を捨ててまで傍に寄りそうと誓った男はこの惨状を知っているのか、少女の人となりを知る全員の中に幾つもの疑問が湧き上がり、抑えきれず、声として噴出する。だがもう遅い。もう、賽は投げられてしまった。イヅナの言葉通り、少女は元の姿を取り戻せない。
「覚悟しろ」
声が、静かに響いた。まるで揺らめく波の様に広がるその言葉が、戦場を通り越し、映像を見つめる旗艦アマテラスの全域にまで響き渡る。
誰もが一様に口を閉ざし、声の方を見つめた。言葉が、まるで耳元で囁かれている様に間近で聞こえたから。だが何より、声ではない、もっと根源的に感情を揺さぶる何かを感じ取ったからだ。誰もがその女を見る。美しい、銀色の髪を棚引かせた女。堕ちた英雄と蔑まれる女、ルミナ。
刹那、守護者達の一部が混乱し始めた。言葉が原因ではない。彼女の目を見てしまった。ルミナの目が僅かな時間、さながらマガツヒの如く真っ赤に染まる瞬間を目撃してしまった。
人の意志を滅する赤い眼光と目線が合っていたならば、ソレは問答無用で意志を削り取る。彼女の目を見た守護者達の一部は全員が区別なく混乱し、やがてヘビににらまれた蛙の様に萎縮し始めた。全体から見ればごく僅か。しかし、混乱はまるで波の様に戦場全体へと波及する。
覚醒しつつある。ハバキリの元となった"欠片"が、ルミナの意志を糧に目覚めつつある。ハバキリが求める存在へと変わりつつある、あの目はそれを告げる胎動だ。
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