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第7章 平穏は遥か遠く
255話 乱戦 其の3
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「なっ!?」
僅か前とは全く違う結果に偽ルミナは驚く。渾身の蹴りは凄まじい衝撃を生みながら、しかし彼を微動だに動かせず、逆に振り抜いた拳を真面に喰らうと翼廊の最奥まで吹き飛ばされた。時を同じく……
「単機ならこの程度でしょ。全く、何考えてんのよ」
もう1つの戦いの決着も呆気なく終幕した。背後からの言葉に伊佐凪竜一が振り向けば、床に伏すガブリエルを見下ろすクシナダの姿。
「流石に早いな」
「んー、あぁ通信系統壊しただけだよ。セラフとか式守って基本頭部に有るからさ。上手く行けば神託の枷、外れるんじゃないかな」
「そうか。なら後は」
「アンタだけよ」
2人の視線と言葉が重なる。が、睨む先に立つリコリスは瞬く間に劣勢へと陥ったと言うのに微塵も動じていない。戦闘が始まったかと思えば戦うでもなく指示を出すでもなくボケっと静観していたかと思えば、今は椅子に座り、やはり何をするでもなく2人を泰然と見つめるに終始する。
「随分と」
「余裕そうね?なーんかムカつくんだけど」
「フフッ。そう思う?ならそうなんでしょうね」
余裕と、暗に語った女の唇が妖しく歪む。
「まだ何か隠してるのか!?」
「そう言う事」
「じゃぁ今ココで全部見せなさいよ!!」
「そう?じゃあ1つだけ……」
女はクシナダの言葉への返答代わりに指を鳴らした。直後、聖堂外部を震源とする激しい振動が発生、更に断続的に発生する小さな揺れが目に映る全てを揺らし続ける。
「何だ?」
「外に、何かいるッ!!」
「ご名答。ウフフフフ、アハハハハッ」
パンパンと、子気味良い音が振動に混じる。動揺とは無縁の女がまるで小馬鹿にするかの如く手を叩くと振動は激しさを増し、遂には聖堂の壁を破壊するまでに至る。原因は明確な破壊行為の結果、崩落した壁の向こうに映る3機の黒雷の仕業だ。小さな揺れの正体は黒雷が地面を踏みしめる時に発生していたものだった。
ソレ等は丁度教会の中央部に居る伊佐凪竜一とクシナダを取り囲むように聖堂の壁を破壊、邪魔になる全てを破壊しながらにじり寄る。既に逃げ出し信者不在となった伽藍洞の聖堂に、心底から現状を嘲笑うリコリスの渇いた笑い声が虚しく反響する。
「まだ……終わっていない」
状況は更に悪化する。瓦礫を吹き飛ばしながら偽ルミナが戦線へと復帰した。力無くそう呟く偽物は痛々しいまでにボロボロで、且つて本物が忌み嫌った機械部分が其処彼処から露出する姿に伊佐凪竜一の顔が悲壮に満ちる。
「何故、悲しむの?私が作った偽物よ?」
「偽物でも……その考えを完全にコピーしたなら俺を助けてくれた彼女に変わりは無い」
「ハ?ナニいってるの?」
彼の覚悟を聞いた刹那、リコリスが感情を剥き出しにした。突き刺すような口調は、それまでの妖艶で蠱惑する様な言動を完全に忘失しており、露わにした怒りの中に確かな殺意が蠢く。が、そこまで怒るような台詞だったろうか?この場合は疑問に思うのが正しい反応の筈。何せ自分を陥れる為に作られた偽物を助ける理由など何処にもないのだから。
似た者同士、そんな感想が頭を掠めた。リコリスが利を投げ捨て情報を渡した様に、伊佐凪竜一も利を投げ捨て偽物を助けようとする。しかし、この女はその行動が堪らなく憎いらしい。
「異常と思うならばそう思っていい。だけど、それでも俺には彼女が抱える苦悩が分かる」
「なら抱きしめてあげなさいよ。彼女と一緒に逃げてあげなさいよ。ソレが彼女の望みだと知ったでしょう?」
「ソレは出来ない」
「ならどうするの?」
「止める」
リコリスの問答はその決意を毛ほども傷つけられず。彼は己が決意を言葉で示すとゆっくりと歩き始めた。途中でリコリスが何度も言葉を投げかけたが、彼はその言葉に一切耳を傾けず、偽ルミナの目の前までやって来た。
「逃げて……くれるのか?」
「半年前。地球を逃げ回っていた時、俺に自分の過去を話してくれた時に俺が言った言葉を覚えているか?」
「いや……」
「信じる。俺はそう言った」
「何をだ?」
「君を信じると、そう言った。俺が信じる君は最後まで足掻こうとする。逃げたいと願うのは君の本心か?」
「そうだよ……私は本物の思考を限りなく模倣した。だから本物と同じ思考、結論。もう疲れた、楽になりたい……そして君と逃げたい。全て偽りない私の本心」
「だけど彼女は逃げない」
「どうしてそう言い切れる?まさか信じているからだとでも言うつもりなのか?」
「そうだ」
「そんな非合理的な理由で……」
「だから君も、本当は同じ事を考えているんじゃないかと考えている。逃げたくないって」
「「そんな筈は無いッ!!」」
伊佐凪竜一が自らの心中を暴露した後、2つの叫び声が見る影もなく崩れた聖堂を震わせた。1人は偽ルミナ。もう1人は……
「アンタ、一体何なのよッ!!」
『ど、どうなされたのです?』
『リコリス司教、早くご命令を!!』
クシナダと黒雷が驚き見つめる先には絶対に崩さないという確信を砕く光景。動揺し、息を荒げるリコリスの姿。沸々と、疑問が湧き上がる。これまでにも言動の一端から感情を漏らす事はあったが、しかし此処まで露骨に見せる事は無かった。そのきっかけが確実に伊佐凪竜一の言葉である事はこの場の誰もが理解出来るのだが、しかしその理由が分からない。そもそもからして、どうして彼と話をしたいと言い出したのか。
ルミナも同じ経験をしている。ステロペースと名乗った男は|(恐らく)自身の過去と共に財団の保護下へ入るよう促した。しかしこの女はその時とは明らかに違う。常に平静で、人を惑わし、たぶらかし、嘲笑ったかと思えば無意味に有益な情報を暴露し、挙句には彼の言動に心を搔き乱され、心中の怒りを晒す。端的に訳が分からない。
「何で……何でなのッ!!もういい、始めなさい!!」
『畏まりました』
「全く何なのよ、ヒス起こすなら誰も居ないところで好きなだけやってろっての!!」
『1人で来たことを後悔しろスサノヲの女!!』
「ハァ?たった3機で私を止めるって?冗談ッ!!」
リコリスの指示を受けた黒雷が灰色の輝きの向こうから武器を引き摺り出すと、クシナダも刀を構える。激戦。崩落は免れない程に激しい戦いが再び始まる。
僅か前とは全く違う結果に偽ルミナは驚く。渾身の蹴りは凄まじい衝撃を生みながら、しかし彼を微動だに動かせず、逆に振り抜いた拳を真面に喰らうと翼廊の最奥まで吹き飛ばされた。時を同じく……
「単機ならこの程度でしょ。全く、何考えてんのよ」
もう1つの戦いの決着も呆気なく終幕した。背後からの言葉に伊佐凪竜一が振り向けば、床に伏すガブリエルを見下ろすクシナダの姿。
「流石に早いな」
「んー、あぁ通信系統壊しただけだよ。セラフとか式守って基本頭部に有るからさ。上手く行けば神託の枷、外れるんじゃないかな」
「そうか。なら後は」
「アンタだけよ」
2人の視線と言葉が重なる。が、睨む先に立つリコリスは瞬く間に劣勢へと陥ったと言うのに微塵も動じていない。戦闘が始まったかと思えば戦うでもなく指示を出すでもなくボケっと静観していたかと思えば、今は椅子に座り、やはり何をするでもなく2人を泰然と見つめるに終始する。
「随分と」
「余裕そうね?なーんかムカつくんだけど」
「フフッ。そう思う?ならそうなんでしょうね」
余裕と、暗に語った女の唇が妖しく歪む。
「まだ何か隠してるのか!?」
「そう言う事」
「じゃぁ今ココで全部見せなさいよ!!」
「そう?じゃあ1つだけ……」
女はクシナダの言葉への返答代わりに指を鳴らした。直後、聖堂外部を震源とする激しい振動が発生、更に断続的に発生する小さな揺れが目に映る全てを揺らし続ける。
「何だ?」
「外に、何かいるッ!!」
「ご名答。ウフフフフ、アハハハハッ」
パンパンと、子気味良い音が振動に混じる。動揺とは無縁の女がまるで小馬鹿にするかの如く手を叩くと振動は激しさを増し、遂には聖堂の壁を破壊するまでに至る。原因は明確な破壊行為の結果、崩落した壁の向こうに映る3機の黒雷の仕業だ。小さな揺れの正体は黒雷が地面を踏みしめる時に発生していたものだった。
ソレ等は丁度教会の中央部に居る伊佐凪竜一とクシナダを取り囲むように聖堂の壁を破壊、邪魔になる全てを破壊しながらにじり寄る。既に逃げ出し信者不在となった伽藍洞の聖堂に、心底から現状を嘲笑うリコリスの渇いた笑い声が虚しく反響する。
「まだ……終わっていない」
状況は更に悪化する。瓦礫を吹き飛ばしながら偽ルミナが戦線へと復帰した。力無くそう呟く偽物は痛々しいまでにボロボロで、且つて本物が忌み嫌った機械部分が其処彼処から露出する姿に伊佐凪竜一の顔が悲壮に満ちる。
「何故、悲しむの?私が作った偽物よ?」
「偽物でも……その考えを完全にコピーしたなら俺を助けてくれた彼女に変わりは無い」
「ハ?ナニいってるの?」
彼の覚悟を聞いた刹那、リコリスが感情を剥き出しにした。突き刺すような口調は、それまでの妖艶で蠱惑する様な言動を完全に忘失しており、露わにした怒りの中に確かな殺意が蠢く。が、そこまで怒るような台詞だったろうか?この場合は疑問に思うのが正しい反応の筈。何せ自分を陥れる為に作られた偽物を助ける理由など何処にもないのだから。
似た者同士、そんな感想が頭を掠めた。リコリスが利を投げ捨て情報を渡した様に、伊佐凪竜一も利を投げ捨て偽物を助けようとする。しかし、この女はその行動が堪らなく憎いらしい。
「異常と思うならばそう思っていい。だけど、それでも俺には彼女が抱える苦悩が分かる」
「なら抱きしめてあげなさいよ。彼女と一緒に逃げてあげなさいよ。ソレが彼女の望みだと知ったでしょう?」
「ソレは出来ない」
「ならどうするの?」
「止める」
リコリスの問答はその決意を毛ほども傷つけられず。彼は己が決意を言葉で示すとゆっくりと歩き始めた。途中でリコリスが何度も言葉を投げかけたが、彼はその言葉に一切耳を傾けず、偽ルミナの目の前までやって来た。
「逃げて……くれるのか?」
「半年前。地球を逃げ回っていた時、俺に自分の過去を話してくれた時に俺が言った言葉を覚えているか?」
「いや……」
「信じる。俺はそう言った」
「何をだ?」
「君を信じると、そう言った。俺が信じる君は最後まで足掻こうとする。逃げたいと願うのは君の本心か?」
「そうだよ……私は本物の思考を限りなく模倣した。だから本物と同じ思考、結論。もう疲れた、楽になりたい……そして君と逃げたい。全て偽りない私の本心」
「だけど彼女は逃げない」
「どうしてそう言い切れる?まさか信じているからだとでも言うつもりなのか?」
「そうだ」
「そんな非合理的な理由で……」
「だから君も、本当は同じ事を考えているんじゃないかと考えている。逃げたくないって」
「「そんな筈は無いッ!!」」
伊佐凪竜一が自らの心中を暴露した後、2つの叫び声が見る影もなく崩れた聖堂を震わせた。1人は偽ルミナ。もう1人は……
「アンタ、一体何なのよッ!!」
『ど、どうなされたのです?』
『リコリス司教、早くご命令を!!』
クシナダと黒雷が驚き見つめる先には絶対に崩さないという確信を砕く光景。動揺し、息を荒げるリコリスの姿。沸々と、疑問が湧き上がる。これまでにも言動の一端から感情を漏らす事はあったが、しかし此処まで露骨に見せる事は無かった。そのきっかけが確実に伊佐凪竜一の言葉である事はこの場の誰もが理解出来るのだが、しかしその理由が分からない。そもそもからして、どうして彼と話をしたいと言い出したのか。
ルミナも同じ経験をしている。ステロペースと名乗った男は|(恐らく)自身の過去と共に財団の保護下へ入るよう促した。しかしこの女はその時とは明らかに違う。常に平静で、人を惑わし、たぶらかし、嘲笑ったかと思えば無意味に有益な情報を暴露し、挙句には彼の言動に心を搔き乱され、心中の怒りを晒す。端的に訳が分からない。
「何で……何でなのッ!!もういい、始めなさい!!」
『畏まりました』
「全く何なのよ、ヒス起こすなら誰も居ないところで好きなだけやってろっての!!」
『1人で来たことを後悔しろスサノヲの女!!』
「ハァ?たった3機で私を止めるって?冗談ッ!!」
リコリスの指示を受けた黒雷が灰色の輝きの向こうから武器を引き摺り出すと、クシナダも刀を構える。激戦。崩落は免れない程に激しい戦いが再び始まる。
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