【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

文字の大きさ
243 / 432
第6章 運命の時は近い

229話 闇に浮かぶ敵の輪郭

しおりを挟む
 勾配を昇降し、角を何度も曲がり、手入れとは程遠い獣道を抜けた先に建つ次の隠れ家に到着したのは人工の太陽が尚も沈み込み、赤と黒が半々に空を染め上げた頃だった。

「暗い、湿っぽい」

「贅沢言わないで」

 屋外までの道のり、施設の外観とは違い内部は整然としていたが、アックスが愚痴る通り内部は快適とは言い難い。一行を出迎えたのは外の黄昏よりも一層濃い闇。窓から射す夕陽は薄暗い隠れ家を照らすには余りにも弱く、か細い。また手入れも行き届いておらず、空気は淀み、所々には埃が積もり、足を踏み込むたびに舞い上がったソレが夕闇の中にキラキラと反射する。

 そんな仄暗いというよりも陰鬱とした部屋を照らすのはアックスが持つ年季の入ったライターの炎と白川水希が持つ携帯端末のライト、ルミナの眼前に展開された幾つものディスプレイが放つ淡い光源。

「待たせた」

 廊下の奥から男の声が響くと同時、薄暗い部屋に煌々とした照明が灯り、更に部南側の壁に巨大なディスプレイがボウッと浮かび上がる。上空からは換気を行うエアコンの音がゴウゴウと響き始め、音と光が陰鬱な雰囲気を吹き飛ばし始める。

「君は何時も気が利くな」

 そんな感謝に"当然だ"と返すのはタケル。先行して施設へと入った彼はイスルギからの指示に従い施設を稼働させ、更に施設全体を覆い隠すように防壁を展開してきた。彼の防壁は他とは違い、調整次第であらゆる情報を遮断できる特性を付与されている。だからココに逃げ込んだのだ。閑散とした場所に1つだけ稼働している施設があれば不審極まりないが、彼ならば完璧に覆い隠せる。

「そもそも滅多に使用されなイようで、普段は電源が落ちているそうだ」

 そう重ねたタケルは質素なテーブルの上に何かを置いた。

「そうか……それは?」

 固い物がテーブルに触れる音にルミナは一旦報告書から目を離し、次にタケルへと視線を移し、最後にテーブルへと視線を滑らせる。ソコには木製のトレイに並んだ3人分の白い皿と、銀色のナイフとフォークが載っていた。湯気が立ち昇る皿へと目を移せば小麦色のパンと何かのソースが掛かった肉料理、そして色とりどりの野菜。

「食事も持ってきた。と言っても日持ちする非常食を温めた程度だから味の保証は出来なイが」

「おっ、気が利くネェ」

「ありがとうございます」

「気にするな。君達は俺と違って定期的にエネルギー供給しなければならなイ。それに栄養補給を怠れば明日に影響も出る」

「そうだなぁ。ま、これが最後の食事にならない様に頑張りますかね」

「アナタ、縁起の悪い事言わないでよ」

 アックスの言葉に逐一機嫌を揺さぶられる白川水希と、これまた逐一言動を咎められるアックスはタケルの好意に感謝すると早速食事に手を付け始めた。そんな素振りは一切見せていなかったが、慣れない環境での戦闘と逃走により肉体と精神を相当以上に摩耗させたであろう事は想像に易い。程なく、ナイフと皿がぶつかるカチャカチャと言う音が静かに何度も響き始めた。

「ルミナ、君も……どうした?」

 タケルは堪らず声を掛けた。只一人、ルミナだけは食事に一切手を付けないまま報告書を睨み続けていた。良かれと思い持ってきた皿は微動だにせず、食事は寂し気に湯気を上げ、一切手が付けられないまま徐々に熱を失う。施設を稼働させたとは言え、直ぐに部屋が温まる訳ではない。

 冷めた料理は不味いというのは宇宙共通の真理。しかし、彼女がタケルの好意を無下にしてまで、貴重な栄養の補給を無視してまで見つめるのはタガミから送られてきた報告書の山。夥しい量の文字、データ、画像に目を通す様子は真剣を通り越し鬼気迫っており、一種の威圧感さえ感じる。故にタケルもそれ以上の何も語れず、ただ黙って彼女の横に立った。

「ン?あぁ」

 漸く隣に立つタケルに反応したかと思えば何とも素っ気なく……

「イスルギに取り次いでほしい」

 ソレは指示を出す時も一切変わらず。今は1秒でも時間が惜しい、視線を資料から絶対に外さず淡々と処理し続ける端正な横顔はそう語る。

「無理だ。急遽予定を変更、タガミと合流する為に移動中で連絡がつかなイ」

「ならイクシィでもいい」

「承知した。が、出来れば食事も取ってくれ」

 彼はそう言うと端末を操作、ルミナに手渡し……

「あぁ……済まない」

 懇願に近いタケルの言葉にルミナの意識はテーブルに置かれた料理へと向かう。しかしそれも一瞬の間、連絡が繋がると同時に彼女の意識から料理は再び消失した。

『お疲れ様です。ソチラの様子はある程度モニターしていましたが、何か問題でも?』

「そんな事、出来るのか?」

『そう言う仕事をしていますので。とは言え、現状ではさしてお役に立てませんが』

「オイオイ、ならナギの居場所」

 アックスがそう突っかかる。無茶を言うなと嘆く視線と、彼に同意する視線が交差する。が、間髪入れず"知っているなら既に共有されている"とルミナが語る。冷静な彼女らしい、理知的な返答だ。

『はい、お役に立てず。それで何用でしょうか?』

「イスルギの働く店で流れた噂話は知っているか?」

『上司が突然豹変してデモ参加を呼び掛けるようになった件ですよね?私もある程度は』

「ソレに関するどんな些細な情報でもいいから知りたい、出来れば本人から直接。頼めるか?」

 漸く振りに資料から目を離した彼女の目は酷く真っ直ぐで、だから誰もが無意味な行動ではないと察するのだが、一方で私やタケル達は藪から棒な依頼に困惑するばかり。裏切者の調査と場末の店の噂話に何の繋がりがあるのか。何が聞きたいのか、何を知りたいのか全く見えない。

『ハァ、お待たせぇ』

 やがてルミナの元にその答えを携えた女から連絡が入る。映像には派手な色合いとやや濃いめの化粧をした妙齢の女性が先ず映り、程なく隣に線の細い神経質そうな用心棒が現れた。2人揃って軽く肩で息をしている様子を見るに、どうやら仕事の途中か準備中だったようだ。

『えーと、私がコイツに愚痴った話が聴きたいって事でいいよね?そーねぇ、でも思い出しても凄い大企業に勤めてるって位よ?えーとね、何処だったかな』

OOITオオイチ総合食品』

 女がド忘れした企業名を隣の用心棒がスラスラと回答した。超がつく一流企業だ。超広大な旗艦内で自給自足を完結させるため、食料関連については他とは段違いの優遇措置を取っている。人が生きるに必要な栄養、水分を提供する企業に質の低い人材を流さない為、より優れた人材を集中させる為の措置だ。結果、旗艦は極めて高い自給率を維持するに至る。

『あぁ、そうそう。アンタよく覚えてるわね。で、半年前の件が重なった。今でも他が戦争の影響で軒並み売り上げを落とす中で安定して稼いでいるって、儲かってるって自慢してたわ。特にセイガって連中がツクヨミって神様だかセイガゲンゾウ?って人の指示を忠実に守って、食糧関係の施設には全く手を付けなかったって影響が一番大きかったってさ。だから安定してるって』

「他には何かないか?何でもいい、些細な事でも構わない」

 仲の良い姉弟のやり取りにルミナの眉はピクリとも動かない。どうやら知りたい情報は今の話にはなかったらしい。

『そうねぇ。あ、そう言えばもう一つ愚痴ってたわ。ホラ、大分前に旗艦で暴動騒ぎ合ったじゃない?あの時に怪我したらしくてさ、その上司。で、結構頻繁に検査行って仕事に穴開けるから凄い怒ってたわ。勿論、上司じゃなく』

「掛かりつけの医療機関が何処か分かるか?」

 が、突然の変化。映像の女性の語尾に重ねるようにルミナは問い質した。その口調と態度はともすれば強硬的に見え、急な変化に誰もが戸惑うのだが、その一方で察した。彼女が知りたい情報があるようだ、と。

『え、えぇと……流石にそこまでは話してはくれなかったわ』

『超がつく大企業、しかも重役ともなれば復元医療施設が併設された"サクヤ"しかありません。設備サービス諸々が他とは段違いですから。勿論、値段も』

『成程ぉ』

 "サクヤ"と、そう聞いたルミナの視線が不意に泳ぐ。同時、唇に手を当て何かを考え始めた。

『あの、もういいかな?』

「あぁ。ありがとう。役に立つかはそう遠くない内に分かると思う」

『そう?よく分かんなけど頑張ってね。ソレから、私達はどんな報道がされても、私達以外がどれだけ否定してもアンタ達を信じているからさ』

『我々も同じです。ご武運をお祈りしております』

「ありがとう」

 ルミナが感謝の言葉を伝えると、映像の向こうの女性は軽く投げキス、男は一礼と共に通信を切断した。映像で仲良く話す姉弟との会話の中に彼女が知りたかった情報が含まれていたようだ。が、相も変わらずタケル達は怪訝そうな表情を浮かべる。

「まさか、分かったのか?」

 誰かの声が部屋に木霊した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...