【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

文字の大きさ
221 / 432
第6章 運命の時は近い

207話 不協和音

しおりを挟む
 追手の意識を己に釘付けにする為、彼を逃がす為、囮となった白川水希とアックスが搭乗する車は猛スピードで伊佐凪竜一から離れる。

 自動運転車では出せない速度での走行を実現させたのは彼女の同僚、元清雅社員達の努力の賜物。戦闘により転移装置が使用不可となった場合を想定した半自動運転車は、マニュアル操作時限定で最大約300キロ程度での走行を可能とする。安全性と引き換えに実現した最高速度を最大限に稼働して逃げ回る彼女達の存在は周囲と比較すれば余りにも目立つのだが、ソコは囮なので問題ない。

 また、その副産物も囮の後押しをする。彼女達が道中に残す無数の置き土産。自動運転の限界を遥かに超える速度を感知、急停車した車の数々はさながら足跡の如く囮の進行方向を雄弁に語る。

 一方、遥か上空――

 猛烈な勢いと轟音を伴い、空を切り裂きながら車を追いかけるセラフ。と、不意に機械仕掛けの天使達の頭上に巨大な影が踊った。守護者の専用兵装、黒雷だ。ココまでの情報を総合すれば守護者とセラフを擁するザルヴァートル財団が手を結んでいるなど想像するに容易い。最悪の事態ではあるが、幸いにも双方共に車から荷物が一つ減った事実に気付かないまま追跡を続ける。

 想定とは違う状況に想定とは違う運用、更には急造の半自動運転車という三重の不測が重なってしまったが、それでも白川水希達は見事に伊佐凪竜一を逃がす事に成功した。

 が、ソレだけだ。改造された車は現場への急行を想定しており、まさかセラフや黒雷から逃げる事など想定していない。攻撃防御は言うに及ばず、各種センサー類への被探知性などまるで考慮していない。

 追手を振り切るのは不可能。セラフを相手に行動を起こすにはは余りにも遅すぎた。詰まり、伊佐凪竜一を逃がす代償を白川水希とアックス=G・ノーストは支払わなければならないという事だ。良くて半死、最悪は死亡という極めて重い運命ペナルティが2人の背後から迫る。

 車内の様子は先程までとは明らかに違う空気へと変容した。白川水希とアックスの戦闘能力は無いに等しい。少々腕が立つ輩が相手ならば勝てる見込みもあっただろうが、スサノヲさえ苦戦を免れないセラフだけでも絶望的だと言うのに黒雷まで合流しているのだからもはや手に負える状況ではない。

「てっきりアナタも逃げると思っていました」

 想定外の追手、セラフの気配を背中に感じ取る位置にまで接近を許した車内に白川水希の声が木霊した。

「冗談は止せ。女を囮に逃げるなんて俺の矜持きょうじに反する」

「それが理由で死んでも?」

「人の命は高くない、ただ短いだけってね。だが、短かろうが俺の正義に反する真似は出来ねぇ。今、アンタを見捨てて生き延びたって俺ァ俺の生き方を誇れねぇ。俺の魂のど真ん中を貫く俺の正義がそれを許さないんだよ」

「そうですか、では可能な限り時間を稼いで……一緒に死にましょうか」

「オイオイ、オレは死ぬ覚悟は出来たがココで死ぬつもりは無いぜ!!」

 弱気な彼女を鼓舞するかの如くアックスは叫ぶと胸元から2枚のプレートを取り出し、実体化させた。旗艦では一式に分類される標準的な自動式拳銃。

 N-10なかまより提供された情報によれば彼リボルバータイプを好んで使用するそうだが、ゴツくて黒い見た目の地球製の銃は残念ながら彼の好みとは合致しないようで何度も何度も手触りを確認するようにグリップを握り直し、やがて納得がいったのか一際強く握り込む。

 直後、グリップから幾つもの光の筋が銃身に向け走った。カグツチの光。一式の銃に並々と充填された未知の粒子がアックスの意志に反応、僅かに輝きを見せた。

 ソレは最低限度の戦闘力を持つ証左。が、一夜漬けでどれ程の成果があるのか、そもそもアックスにどの程度の適性があるのかは未知数。幾ら銃の腕前が人並み外れていようが、カグツチを十全に扱えなければここから先の戦いに付いて行けず、どれだけ意気込もうが死以外の末路は無い。

「アナタ、勝てると思っているの?」

 どうやら白川水希の方が状況をよく理解しているようで、情報に疎いアックスを窘めるような口調で問いただす。

「アンタこそどうしてそんな死にたがる!!」

「相手を知らない訳では無いでしょう?作戦説明の時に教わった"戦いを絶対に避ける相手"、そのリストに載っていた相手ですよ?」

「だからどうした!!いいか良く聞けよ、この世で自分を殺せるのはこの世で只一人、自分だけだ!!諦めたらッ……」

「私の過去を知らないからそう言えるッ!!」

 共通の話題である伊佐凪竜一が消えた影響か、それとも不安に押し潰されたのか、険悪となった車内の雰囲気は限界を突破、遂には言い争いへと発展した。

 そのやり取りに私は一つの情報を思い出した。地球と旗艦を巻き込んだ戦いが起こる前に起きた出来事、数千年の文明差を引っ繰り返す力を発揮した"ハバキリ"と混合させた地球製ナノマシン、"マジン"の完成度を上げるべく行われた悍ましい研究の数々を。要は人体実験だ。その"材料"は言わずもがなであり、ツクヨミ清雅の暗部に拉致された人間はかなりの数に上るそうだ。

 今でもはっきりと思い出せる。その時の事を、そのデータを見た時の私を、目の前にいたA-24なかまを激しく糾弾したあの日を、まるで昨日のように。全てはツクヨミの情報を元に清雅源蔵が主導したとは言え、それを黙認した彼の罪は決して軽くは無いし、何より人を道具と見做すその行為は確実に主の意向と真逆だ。

 その人体実験を指揮したのが清雅源蔵とその腹心であった白川水希。研究データは残念ながら終戦と同時に地球側に接収されてしまい詳細を確認する事は出来なかったが、彼女の態度と少し前に地球に降りた関宗太郎の秘書が語った内容から考えれば、研究所なり施設なりで行われた所業が如何に凄惨であったか想像するに容易い。

 数千年先を行く文明を相手にする為ならば手段など選んでいられない。となれば十分以上に非道、非人道的な実験が行われた筈。彼女は人命を軽んじ過ぎた。そうしなければ地球が壊滅する、桁違いの犠牲者を出すという運命が差し迫っていたとは言え、彼女が自らの意志で外道への道を進んだ事実に変わりはなく。

 贖罪と、彼女はそう口にした。が、余りにも多くの命を奪った過去が現在の意志を押し潰し、生きる意志さえ奪う。特に日本という地域には死んで償うと言う考え方が強く根付いているそうだ。流石に今現在ではそんな過激な文化は衰退しているようだが、一昔前には腹を切って詫びると言う独特の処刑ないし自殺方法もあったと耳にした。

 死が贖罪と同義という文化で育った人間ならば、罪の重さに耐え兼ねた末に贖罪を兼ねる選択を選んだとしても何ら不思議ではない。文化に殺される。私の目から見ればそうとしか思えない状況なのだが、一方で白川水希はその道が正しいと信じている節がある。

 しかし私には彼女が自らの意志でそこへ進んでいると思えなかった。責任を取って死ぬというその文化は、その実死という形の責任を強要している様に見えた。

 確かに彼女の死を望む者は多い。その高い能力を贖罪という形で酷使する、ストレートに言えば生きて償わせた方が利があると誰もが理解していても、日本で育った多くの人間、何よりツクヨミ清雅の犠牲となった人間の血縁が望む結末は漏れなく彼女の死だ。日本と言う極めて特殊な死への信仰、死んで償うという土着信仰が今も尚根強く残る日本という地域で育ったが故に、彼女は死への道を突き進む。

「何だよそりゃあ!?」

 アックスのがなる声が車内を揺さぶる。我慢ならない。文化的な土壌に抗いがたい過去という至極真っ当な理由があろうとも、自ら死ぬという選択に我慢がならない心情が滾った声だ。彼は軽蔑の色を帯びた目で白川水希を睨む。車内の空気は酷く冷め、重く、苦しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...