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第0章 ある刑事の記録映像

3話 20XX/12/22 清雅市最終決戦_3 英雄覚醒

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 ソコから先の戦いはさらに出鱈目だった。宇宙人達は必至で真っ青に輝くヤマタノオロチを止めようと試みているが、だがどんな攻撃も実を結ばなかった。あの連中の武器の攻撃力は地球よりも高い筈なのに、ヤマタノオロチは化け物染みた回復能力でその傷を瞬く間に修復する。

 勝てない。誰の目を見ても絶望が浮かんでいるが、そこに……銀色の流星が落ちてきた。あの美人のねーちゃんだ。だがマズイぞ。あの青い兵器が何もかもを取り込んでいるのを見ていなかったのか?死んじまう。誰もがそんな思いを叫んで、だから俺も同じく気が付けば叫んでいた。"オイ、死んじまうぞ"って。

 だが、あのねーちゃんは死ななかった。周辺に飛び散った青い竜の残骸が周辺の物質を取り込みながら自身を再構成しているそのど真ん中に居るのに、あのねーちゃんだけはその影響をまるで受けていない。何なんだコレは?それとも取り込むのに何か条件があるのか?俺には分からない何かが守っているのか?分からない。さっぱり分からないが、だがあのねーちゃんがヤマタノオロチの影響を全く受けず、更に8つの頭の1つを容易く吹き飛ばしたことだけは確かだ。

 希望が生まれた。何が何だか理屈はさっぱり分からないが、あの兵器に勝てる。俺は携帯のカメラを最大望遠にしてヤマタノオロチと戦う2人を追いかける。が、直後に携帯の映像が酷く揺れ動いた。何が起こった?倒れないように必死になって耐えていた俺が見たのは……あ、ヤベェ。俺、死んだわ。

 青い竜が来ていた。恐らく何かの標的の通り道になっていたのだろう。目の前の光景は大口を開けた竜の首、屋上に逃げ場はない。参った。今日が命日になるって知ってたら最後に娘に遺言を残しておいたのになぁ、とそんな事を呟きながら呆然と竜を見つめていたその時……派手に竜が吹き飛んだ。

 最初は何が起こったのか分からなかったが、直ぐに視界に映った光景を見て全てを察した。伊佐凪竜一だ。アイツが、途轍もなく巨大で危険なヤマタノオロチの頭部を殴り飛ばしていた。あの細腕の何処にそんな力があるんだと、呆然と見ていたらアイツと一瞬だけ目が合った。俺に気づいた伊佐凪竜一は驚き目を丸くしたが、直ぐに竜の眼前へと躍り出て……そのまま喰われちまった。

 なんてこった。何やってるんだって、俺はそう叫んだ。自分の命と行動に責任を取るのが大人ってもんで、だから俺はそのルールに従おうとしたのに、アイツは反射的に俺を助けて竜にのまれ……そうやって懺悔している最中、伊佐凪竜一を飲み込んだ竜の動きがおかしくなった。まるで勝利の雄叫びとばかりに大きく咆哮した竜が奇妙に不規則にうねったかと思ったら、その次には派手に吹き飛んだ。

 俺は何を見ているんだ。なんでアイツも取り込まれていないんだ?もはや疑問に思う事さえ陳腐に思える現実に呆然する最中、竜を吹き飛ばした伊佐凪竜一は地面に着地すると同時に拳をひときわ強く握りしめ、その場で真っすぐに拳を振りぬいた。何をしている?ソコには何もないぞ?それとも俺には理解できない何かが……と考えていたらまたしても異常な光景が目に映った。

 今度は、伊佐凪竜一が降りぬいた拳の直線状にいた竜の首がいきなり吹っ飛び、更にその背後に建っていた複数の建造物を薙ぎ倒しながら竜を消滅させた。何だアレ?一体何をしたんだ。なんで目の前の空間を殴ったら数十メートルも向こうの竜が吹き飛ぶんだ?その光景の意味するところを俺は何一つ理解できなかったが……

「なっ、なんだアレ!!」
 
「遠当てか?だが幾ら何でも出鱈目すぎる!!」
 
「しかも地球人だぞオイ!!どうなってんだ、戦力評価は連合で最低レベルの筈だ!!」
 
「それともこれが地球人の特質なのか?いずれにしても常識を逸脱している」
 
 携帯越しに聞こえてきた誰かの声のお陰で少しだけ状況が理解できた。どうやら合気道の遠当てという技術らしいが、馬鹿言っちゃいけねぇ。合気道に建物粉々に砕く技術があってたまるか。だが"常軌を逸している"って部分には同意だ。あんな出鱈目な力、何をどうすれば出せるというんだ。いや、それよりも俺の懸念は一つだけ。さっきと比較すれば随分と落ち着いているけど、まだ身体が痛むんじゃないのかお前さんは。だが、だけどもうアンタと相棒の美人のねーちゃんしかこの事態を止められない。だから……

「オイ。坊主ッ、俺との約束は絶対に守れよ!!」

 だから俺は、ありったけの声で叫んだ。直後、アイツは俺の方向を見ると少しだけ微笑んだ。頼むぞ、この事態が何とかなってもそこにお前さんもいなきゃあ意味が無いんだ。
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