亡霊が思うには、

田原摩耶

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 それから、南波に声が聞こえないであろう程度離れたとこらまでやってきた俺たち。

「え、供物?!」
「しっ! こ、声が大きいですよ、準一さん」
「わ、悪い……つい……」

 そりゃ誰だって突拍子もない話を聞かれたら声もデカくなってしまう。きっと。
 牢の方にまで声が聞こえてないことを確認し、先ほどよりもさらに奈都は声のトーンを落とす。

「僕もチラッとだけ聞いただけなんですが、なんかこの山に暮らす神様へ差し出すのに丁度良いのではないかとこの辺の村の村長さんとこの間話してるのを聞いたって先輩の使用人が教えてくれて……」
「そ、それじゃあ危ないんじゃないか?! 南波さんが……」
「まあ、でも……南波さんなら大丈夫じゃないですか?」

 確かに、最悪の場合自力で抜け出しそうな生命力はあるが……って、いやいやいや。
 思わずノリツッコミも出てしまう。

「なあ、そもそもここは花鶏さんの精神世界でもあるんだろ? 現実じゃないんだ。もしかしたらその神様が本物になって現れる可能性も――」
「そのことだけど」

 あるだろ、と言いかけた次の瞬間。牢へと続く通路の奥から聞こえてきた声に俺たちは慌てて振り返る。

「その神様が花鶏さんじゃないかって可能性。……なくないでしょ」
「……っ、と、藤也……」
「元々俺たちがいたあっちにも張られていた結界の話、アンタも聞いたことあるでしょ」
「確か……化け物が出たから封じた? とかそんな感じの話なら」

 最早懐かしい記憶だ。
 それに、それを俺に話してくれたのも花鶏だった気がする。
 記憶を掘り返す俺に、藤也は「そ」と小さく顎を引くように頷いてみせた。

「少なくともその神様が関係してるのは間違いないし、南波さんを餌にしたらここを出る手がかりにもなるんじゃないかって話してたんだ。奈都と」

 ちらりと奈都を見れば、少しだけ照れ臭そうに奈都は微笑んだ。
 そうか、奈都と……。

「……因みに、南波さんにはなんて?」
「なんも言ってない」

 伝えてやれよ、それは。

「い、言ってねえのかよ……!!」
「言ったら暴れるし、面倒だったから」
「南波さんって演技とか苦手そうですし、このまま何も知らないふりしてこの家の人たち安心させた方がいいかなって結論に至ったんです」
「お、お前ら……」

 流石にドライすぎないか?と俺まで風邪を引きそうになったが、二人の言い分もまあ、納得出来る。
 そもそも伝えたとて南波さんが大人しく協力してくれるのか……少なくともこの二人と南波さんの交渉が上手くいく未来が見えない。

「というわけだから、準一さんも協力してもらうから」
「え、まさか……」
「南波さんにはもう少し供物らしく休んでもらおうってことで」
「お、鬼か……」
「とはいえ無論見殺しにするわけではないんです。ただ、もしこれが追体験だとすれば明らかな異物を投入することで変わるはずです、なにかが」
「なにかって……」

 この場合、南波の存在で大きな影響を受けそうなものがあるとすれば。
 ただの想像だ。よくあるホラー映画やミステリーやサスペンスである人身御供の儀式に対するあらゆる記憶や偏見が脳裏を過っていく。それから仲吉の余計な一言レビューも。
 それらを振り払い、俺は藤也を見つめた。

「……本来の供物になる予定だった人、ってことか?」

 恐る恐る口にすれば、藤也は「そういうこと」と小さく目を細めた。
 そこに藤也たちは目をつけているのか。

「お前らは知ってるのか、その人のこと」
「まあ、あくまで使用人たちの間での噂ですが」

 そう答えたのは奈都だった。思い出すように、地上へと続く通路の方に視線を送る。無論、そこには何もない。

「――花鶏凛太郎、彼が自ら名乗りを上げていたそうです」

 どこからともなくごお、と風の音が聞こえてきた。ような気がした。
 この土で覆われた場所に風が入る場所なんてないのにだ。
 冷たい風が足元から脹脛、腿裏から背筋、頸と撫でるように這い上がってくる感覚は一言で言い表すなら『なんかとにかく嫌な感じ』だろうか。
 点と点が繋がり線になり、見えてくるどころか余計に解れて玉になっていく。何故、という大きな二文字が脳裏を占めた。

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