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「馬鹿……っ! 返してこい!」
「大丈夫ですよ、一番効き目がありそうなのはちゃーんと爽先輩の額に貼ってきたので」
「そういう問題じゃなくて――」
「そういえば準一さんってこれ、効くんですか? 一回全部試して効き目があるやつだけ持っていきたいんですけどいいですかぁ?」
そうニコニコと笑いながらファイルごと近付けてくる佑太に俺は咄嗟に後退りをする。背後にあった木に背中がぶつかった――行き止まりである。
「ふざけんな、それを近付けるな……っ!」
「あれぇ? やっぱり幽霊だとこういうの怖いんですか? もしかして震えてます?」
目の前までやってきた佑太に追い詰められるような形になる。開いたファイルから御札が視界に入る度、強烈な眩しさのような眼球に刺すような痛みを覚えた。
ぎゅっと目を瞑り、顔を逸らして慌てて俺は声をあげる。
「い、嫌だ……無性に……嫌なんだ……」
「へえ~なんだ、ちゃんと効くんですね」
先程までゆるい男だと思っていた佑太が悪魔かなにかのように見えた。
ファイルをぱたりと閉じた佑太は、そのままそのファイルの角で俺の顎の下を撫でる。
瞬間、首筋にナイフでも押し当てられたような恐怖が全身を支配した。
「僕を幽霊屋敷まで案内してください、準一さん」
そう俺を覗き込み、佑太は目を開いた。さっきからへらへらと笑ってるように見えたのは垂れ目がちなその目の形のせいだろう、その開かれたその目に笑みはなかった。
「……っ、お、お前、脅すつもりか?」
「幽霊を脅してはいけませんなんて法律では定められてませんからね。それに、これは相談です」
「ご協力お願いします、準一さん」断りでもしたら、本気で御札コレクションの一枚一枚の効力を俺で試すつもりなのだろう。咄嗟に俺は幸喜の姿を探す、さっきまでちゃんとついてきていたはずだ。
「……幸喜……っ」
そう辺りに視線を向けたとき、見つけた。呑気に岩に腰をかけ胡座を掻いていた幸喜は、目が合うとにっこりと笑う。
「なんだよ、モテモテじゃん準一~」
言ってる場合か、と突っ込みたくなったが、そうだ。こいつはこういうやつだった。
でも俺にも効くということは幸喜にも少なからずダメージはあるはずで、こいつを好き勝手させるのは幸喜だって本意ではないはず――で、あってくれ。
「こいつを止めてくれ」
「殺しちゃっていいの?」
「だ、駄目だ」
「じゃあ無理」
「はぁ……?!」
なんなんだこいつは。
思わず声が裏返ってしまいそうになる俺に、岩に腰をかけたままにやにやと傍観する幸喜は思いついたように手を叩いた。
「丁度いいじゃん。餌志願だろ、こいつ。屋敷まで連れて行ってやろうぜ。それに――その御札コレクション、使えそうだしな」
「俺は触りたくねえけど」そう続ける幸喜。
確かにと納得しそうになるが、素直に『そうだな』と頷けなかった。
ていうかお前、この状況楽しんでるだろ。
「……っ、クソ……」
ぢりぢりとファイルの触れた皮膚が焼けるような感覚を覚えながら、必死に俺は顔を仰け反らせたまま眼球だけで佑太を睨みつける。
「……っ、わかった、わかったから……それ、離してくれ」
なあ仲吉、どんな教育したらこんな後輩になんだよ。
この場にはいない友人に思わず詰め寄りたくなったが、そんな言葉も今は届くわけもなかった。
サディスト二人に挟まれるという最悪な状況で俺に何ができるのかわからないが、ここまで来たら佑太を満足させて帰らせるしかない。
渋々折れる俺に、佑太は「そうこなくっちゃ」と楽しげに笑う。
「では、ガイドさんお願いしますね~」
「っ、お、おい、離せって……」
「だって準一さん、これなかったらすぐ逃げそうだし。それに、一応本物も混ざってるようなので護身用ってことで」
「……っ」
面と面向かって『お前のことは信用していない』と言われるのって多分こんな感覚なんだろうな。
胸の奥で嫌なものがモヤモヤするのを感じながら、俺は口の中で舌打ちをした。
「大丈夫ですよ、一番効き目がありそうなのはちゃーんと爽先輩の額に貼ってきたので」
「そういう問題じゃなくて――」
「そういえば準一さんってこれ、効くんですか? 一回全部試して効き目があるやつだけ持っていきたいんですけどいいですかぁ?」
そうニコニコと笑いながらファイルごと近付けてくる佑太に俺は咄嗟に後退りをする。背後にあった木に背中がぶつかった――行き止まりである。
「ふざけんな、それを近付けるな……っ!」
「あれぇ? やっぱり幽霊だとこういうの怖いんですか? もしかして震えてます?」
目の前までやってきた佑太に追い詰められるような形になる。開いたファイルから御札が視界に入る度、強烈な眩しさのような眼球に刺すような痛みを覚えた。
ぎゅっと目を瞑り、顔を逸らして慌てて俺は声をあげる。
「い、嫌だ……無性に……嫌なんだ……」
「へえ~なんだ、ちゃんと効くんですね」
先程までゆるい男だと思っていた佑太が悪魔かなにかのように見えた。
ファイルをぱたりと閉じた佑太は、そのままそのファイルの角で俺の顎の下を撫でる。
瞬間、首筋にナイフでも押し当てられたような恐怖が全身を支配した。
「僕を幽霊屋敷まで案内してください、準一さん」
そう俺を覗き込み、佑太は目を開いた。さっきからへらへらと笑ってるように見えたのは垂れ目がちなその目の形のせいだろう、その開かれたその目に笑みはなかった。
「……っ、お、お前、脅すつもりか?」
「幽霊を脅してはいけませんなんて法律では定められてませんからね。それに、これは相談です」
「ご協力お願いします、準一さん」断りでもしたら、本気で御札コレクションの一枚一枚の効力を俺で試すつもりなのだろう。咄嗟に俺は幸喜の姿を探す、さっきまでちゃんとついてきていたはずだ。
「……幸喜……っ」
そう辺りに視線を向けたとき、見つけた。呑気に岩に腰をかけ胡座を掻いていた幸喜は、目が合うとにっこりと笑う。
「なんだよ、モテモテじゃん準一~」
言ってる場合か、と突っ込みたくなったが、そうだ。こいつはこういうやつだった。
でも俺にも効くということは幸喜にも少なからずダメージはあるはずで、こいつを好き勝手させるのは幸喜だって本意ではないはず――で、あってくれ。
「こいつを止めてくれ」
「殺しちゃっていいの?」
「だ、駄目だ」
「じゃあ無理」
「はぁ……?!」
なんなんだこいつは。
思わず声が裏返ってしまいそうになる俺に、岩に腰をかけたままにやにやと傍観する幸喜は思いついたように手を叩いた。
「丁度いいじゃん。餌志願だろ、こいつ。屋敷まで連れて行ってやろうぜ。それに――その御札コレクション、使えそうだしな」
「俺は触りたくねえけど」そう続ける幸喜。
確かにと納得しそうになるが、素直に『そうだな』と頷けなかった。
ていうかお前、この状況楽しんでるだろ。
「……っ、クソ……」
ぢりぢりとファイルの触れた皮膚が焼けるような感覚を覚えながら、必死に俺は顔を仰け反らせたまま眼球だけで佑太を睨みつける。
「……っ、わかった、わかったから……それ、離してくれ」
なあ仲吉、どんな教育したらこんな後輩になんだよ。
この場にはいない友人に思わず詰め寄りたくなったが、そんな言葉も今は届くわけもなかった。
サディスト二人に挟まれるという最悪な状況で俺に何ができるのかわからないが、ここまで来たら佑太を満足させて帰らせるしかない。
渋々折れる俺に、佑太は「そうこなくっちゃ」と楽しげに笑う。
「では、ガイドさんお願いしますね~」
「っ、お、おい、離せって……」
「だって準一さん、これなかったらすぐ逃げそうだし。それに、一応本物も混ざってるようなので護身用ってことで」
「……っ」
面と面向かって『お前のことは信用していない』と言われるのって多分こんな感覚なんだろうな。
胸の奥で嫌なものがモヤモヤするのを感じながら、俺は口の中で舌打ちをした。
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