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幸喜とともに長い通路を歩いていると、ふとところどころ先程までなかった襖や行灯が現れていることに気付く。先程、俺だけにしか見えなかった凛太郎の部屋へと続く襖と同じような雰囲気の襖だ。
どうやら流石の幸喜も気付いたようだ。「ん?」と襖の前で立ち止まる幸喜につられて俺も立ち止まった。
「なあ準一。こんなところに襖とかあったっけ?」
「いや、なかっただろ。……っておい! 普通に開けるなよ!」
言うや否や目の前の襖を開ける幸喜にぎょっとするのも束の間。人の静止も無視して幸喜はその中を覗き込む。
「おい……大丈夫か」
「なあなあ、準一これ見てよ」
「お、おい、引っ張るなよ……っ」
「って、これ……」幸喜に半ば無理やり引っ張られて連れて来られた襖のその向こう。その先に同じような長い廊下が続いているではないか。
薄ぼんやりと照らされたその奥、構造そのものは今俺たちが来た通路と変わらない。けど、なんだこの感じは。
そう思わず通路を凝視したときだった。通路の奥に置かれた行灯、その照らす先の影がふわりと動いたような気がした。
「……あれ、準一。今なんか通らなかった?」
幸喜に尋ねられ、今の影の動きが自分の眼の錯覚ではないと気付く。
だとしたら、なんだというのか。花鶏が現れたようには見えない。
……誘われている?
思わず行灯を凝視するが、先程のように影が動くことはなかった。
「幸喜……なんか、まずい気がする」
「まずいってなにが?」
「わ、わかんねえ……けど」
頭が痛い、というよりも脳みそを締め付けられているようなそんな感覚だった。
――あのときと同じだ。こいつに地下の扉を見せられたとき感じた強いなにか。
漠然とした恐怖や不安が襲いかかってくる。咄嗟に幸喜の腕を掴んだとき、こちらを振り返った幸喜の目はそのまま丸くなる。
「……準一? お前、それどうした?」
そして、こちらを見たままそんなことを聞いてくる幸喜に「は?」と聞き返そうとしたときだった。
たらりと頭からなにかが垂れる。もしかして汗でも出たのかと思って触れた瞬間、指先にぬるりとした感触が触れた。
「……っ、な……」
もしかして幸喜に反応したのかと思い、咄嗟に幸喜から手を離す。が、今までずっと平気だったのにどうして今更と困惑した。
「なんだ、これ……なあ、俺、今どうなってる……?」
「どうって、すげー血だらけ! なに? 俺のせい?」
「わ、かんねえ……なんだこれ……」
以前、出会ったばかりの頃も確かにこんなことはあった。あのときは精神的外傷が無意識に影響与えていると花鶏はいっていた。
けれど、今回のはそれと同じように思えなかった。
「血、止まんね……」
「痛いの?」
「いや、痛くは……」
ない、と言いかけたとき。そのままこちらを覗き込んできた幸喜は背伸びをするように顔を寄せる。
そして次の瞬間、やつの顔が近付いて視界が翳った。
「な……」
暗くなった視界の中、ぬるりと濡れたなにかが頬から瞼に触れる。思わず目を瞑ってしまい、ぎょっと顔をあげたとき。目の前で舌を出した幸喜はそのまま「ん~」と言いながら舌なめずりをする。
「お、お前、今、舐め……っ!」
「なーんだ。俺が舐めたらショックで溶け出すんじゃないかと思ったけど全然じゃん」
「わざとやったのかよ……っ!」
「さっきも普通に俺に触れてたし、それ、もしかしてこの通路の先のせい?」
幸喜に指摘され、思わず口を紡ぐ。
試すならせめて一言くらい言ってくれとか、言いたいことは色々あった。けれど、幸喜の言葉には確かに一理あった。
「わかんねえ……」
「んだよ、わかんねーことばっかじゃん準一」
「けど、確かに……この先からなんか、すげー嫌な感じがする」
「それ、ここに来るときも言ってたよな」
「幸喜は、お前は平気なのか?」
「わかんねえ」
お前もわかんねえのかよ、と思わずツッコミそうになった。
感受性の問題、ということなのか。
しかし、元より精神力もギリギリだった幸喜のことが気にならないといえば嘘になる。無茶をしているようには見えないが、と幸喜を見下ろしたときだった。
ぽむ!といきなり目の前にいた幸喜が爆発した。
「え」
一瞬なにが起きたのかわからなかった。
けれど、辺りに充満した幸喜から発せられた煙が消えたとき、そこにいたはずの幸喜の姿はなく、ぬいぐるみと化した幸喜がそこにころんと転がっている。
「こ、幸喜……?!」
『やべー、準一俺動けないかも! 抱っこ!』
「ってお前、喋れるのかよ……っ!」
『そりゃそうだろ、俺だもん』
相当体力の限界だったのかと心配になったが、言いながらくたりと寝返りを打つぬいぐるみ幸喜を見ていると大丈夫そうだ。
ひとまずは安心したが、恐らくそれも時間の問題だろう。
――俺だけではなく、幸喜もまたその場所に何かしらの影響を受けているということなのだろう。
その状況自体が、今俺たちにとっては芳しくないことには変わりない。
どうやら流石の幸喜も気付いたようだ。「ん?」と襖の前で立ち止まる幸喜につられて俺も立ち止まった。
「なあ準一。こんなところに襖とかあったっけ?」
「いや、なかっただろ。……っておい! 普通に開けるなよ!」
言うや否や目の前の襖を開ける幸喜にぎょっとするのも束の間。人の静止も無視して幸喜はその中を覗き込む。
「おい……大丈夫か」
「なあなあ、準一これ見てよ」
「お、おい、引っ張るなよ……っ」
「って、これ……」幸喜に半ば無理やり引っ張られて連れて来られた襖のその向こう。その先に同じような長い廊下が続いているではないか。
薄ぼんやりと照らされたその奥、構造そのものは今俺たちが来た通路と変わらない。けど、なんだこの感じは。
そう思わず通路を凝視したときだった。通路の奥に置かれた行灯、その照らす先の影がふわりと動いたような気がした。
「……あれ、準一。今なんか通らなかった?」
幸喜に尋ねられ、今の影の動きが自分の眼の錯覚ではないと気付く。
だとしたら、なんだというのか。花鶏が現れたようには見えない。
……誘われている?
思わず行灯を凝視するが、先程のように影が動くことはなかった。
「幸喜……なんか、まずい気がする」
「まずいってなにが?」
「わ、わかんねえ……けど」
頭が痛い、というよりも脳みそを締め付けられているようなそんな感覚だった。
――あのときと同じだ。こいつに地下の扉を見せられたとき感じた強いなにか。
漠然とした恐怖や不安が襲いかかってくる。咄嗟に幸喜の腕を掴んだとき、こちらを振り返った幸喜の目はそのまま丸くなる。
「……準一? お前、それどうした?」
そして、こちらを見たままそんなことを聞いてくる幸喜に「は?」と聞き返そうとしたときだった。
たらりと頭からなにかが垂れる。もしかして汗でも出たのかと思って触れた瞬間、指先にぬるりとした感触が触れた。
「……っ、な……」
もしかして幸喜に反応したのかと思い、咄嗟に幸喜から手を離す。が、今までずっと平気だったのにどうして今更と困惑した。
「なんだ、これ……なあ、俺、今どうなってる……?」
「どうって、すげー血だらけ! なに? 俺のせい?」
「わ、かんねえ……なんだこれ……」
以前、出会ったばかりの頃も確かにこんなことはあった。あのときは精神的外傷が無意識に影響与えていると花鶏はいっていた。
けれど、今回のはそれと同じように思えなかった。
「血、止まんね……」
「痛いの?」
「いや、痛くは……」
ない、と言いかけたとき。そのままこちらを覗き込んできた幸喜は背伸びをするように顔を寄せる。
そして次の瞬間、やつの顔が近付いて視界が翳った。
「な……」
暗くなった視界の中、ぬるりと濡れたなにかが頬から瞼に触れる。思わず目を瞑ってしまい、ぎょっと顔をあげたとき。目の前で舌を出した幸喜はそのまま「ん~」と言いながら舌なめずりをする。
「お、お前、今、舐め……っ!」
「なーんだ。俺が舐めたらショックで溶け出すんじゃないかと思ったけど全然じゃん」
「わざとやったのかよ……っ!」
「さっきも普通に俺に触れてたし、それ、もしかしてこの通路の先のせい?」
幸喜に指摘され、思わず口を紡ぐ。
試すならせめて一言くらい言ってくれとか、言いたいことは色々あった。けれど、幸喜の言葉には確かに一理あった。
「わかんねえ……」
「んだよ、わかんねーことばっかじゃん準一」
「けど、確かに……この先からなんか、すげー嫌な感じがする」
「それ、ここに来るときも言ってたよな」
「幸喜は、お前は平気なのか?」
「わかんねえ」
お前もわかんねえのかよ、と思わずツッコミそうになった。
感受性の問題、ということなのか。
しかし、元より精神力もギリギリだった幸喜のことが気にならないといえば嘘になる。無茶をしているようには見えないが、と幸喜を見下ろしたときだった。
ぽむ!といきなり目の前にいた幸喜が爆発した。
「え」
一瞬なにが起きたのかわからなかった。
けれど、辺りに充満した幸喜から発せられた煙が消えたとき、そこにいたはずの幸喜の姿はなく、ぬいぐるみと化した幸喜がそこにころんと転がっている。
「こ、幸喜……?!」
『やべー、準一俺動けないかも! 抱っこ!』
「ってお前、喋れるのかよ……っ!」
『そりゃそうだろ、俺だもん』
相当体力の限界だったのかと心配になったが、言いながらくたりと寝返りを打つぬいぐるみ幸喜を見ていると大丈夫そうだ。
ひとまずは安心したが、恐らくそれも時間の問題だろう。
――俺だけではなく、幸喜もまたその場所に何かしらの影響を受けているということなのだろう。
その状況自体が、今俺たちにとっては芳しくないことには変わりない。
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