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Five of those who cohabit
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……。
…………。
どれくらい眠っていたのだろうか。
「死んだ?」
「死んでる死んでる。余裕で死んでる。死にたてほやほや」
頭上から聞こえてくる賑やかな声。複数の土を踏む音。
人だ。それも若い男……下手したら少年の声にも聞こえる声だ。
どうやら俺は気を失っていたらしい。
やけに重い瞼を持ち上げ、起き上がろうとしたところで俺は自分が地面の上に転がっていることに気づいた。
「お、ほらみろ起きてきた。大成功」
なんで地面に寝てたんだ、俺。混濁した記憶の中、聞こえてきた声にゆっくりと視線を向け、息を飲む。
電灯ひとつない暗い森の中、高校生くらいだろうか。二人の少年は俺を見下ろしていた。
それだけでも混乱したが、おまけにその二人の少年の顔は鏡に移したように瓜二つで。
「や、おはよう。元気? 気分はどう? 目覚めは最高?」
双子の片割れ、ニコニコと笑う茶髪の少年は馴れ馴れしく俺の肩を叩いてくる。
「目覚めって……なんだよ、お前、つか……ここ……」
「あー、あれだ、記憶が混乱してんだろ? わかるわかる、俺も最初はそうだったし!なー藤也!」
そう、馴れ馴れしい茶髪の少年はもう片割れの黒髪の少年を呼ぶ。とうや、と呼ばれた少年は同じ顔ではあるが茶髪とは対照的に表情は乏しい。
「……覚えてない。っていうか、声うるさい、幸喜」
「なーに辛気臭いこと言ってんだよ、せっかく久しぶりのお友達なんだからこれがはしゃがなくていつはしゃぐんだっての! なあ、準一サン?」
「……っ、なんで、お前……俺の名前……」
「あっは、なんでだと思う? ヒントはーっ、うーん……これっ!」
そう、『これ』と差し出されたのはバキバキに割れた携帯端末だった。真っ暗になった画面に反射して映るのは暗闇。瞬間、気を失う直前の記憶が一気に蘇る。
確か、なにかに押されて崖から落ちて、それで……死んだはずだ。確実に、即死だったから痛みを感じずに済んだが……いや待て、なら俺はなんで生きてる?
思い出せば思い出すほど混乱する思考。
咄嗟にあたりを見渡す。月すら覆い隠すほどの深い樹海の中、そこは病院でもなければ天国でもなさそうだ。
「お前ら……なんなんだよ……俺、死んだんじゃなかったのかよ……っ!」
双子は顔を見合わせた後、口許を歪めて笑う。
「……本当は気付いてんだろ? わざわざ俺らの口から聞き出そうとするなんてお兄さんもなかなかいい趣味してるね」
「……幸喜」
「わかってる、わかってるって藤也。でもいいだろ? 久しぶりの新しいお友だちなんだからさ。コミニュケーションは大事だって、#花鶏____#さんも言ってただろ。一期一会を大切にしなきゃ」
「だって、せっかく俺らで作った出会いなんだし!」演技がかったな大振りな仕草に場違いなほど明るく饒舌な幸喜と呼ばれた少年の言葉を理解することはできなかった。
ただ、関わらないほうがいい。直感がそう告げる。
考えるよりも一歩後ずさったとき、靴になにかがぶつかる。固く、重いゴムのような感触に、つい、俺は視線を足元へと向けた。
そして、息を飲んだ。
月明かりもない曇り空の下、ぼんやりとだったがそれが何か俺はわかってしまった。
俺が着ているものと同じTシャツに、パンツ。ひしゃげた頭部は跡形もない、けれど靴も全部何もかも俺が今身に着けているものと同じだった。
「俺らはお兄さんと一緒だよ。所謂元ソレ。現在は二人で地縛霊やってまーす」
幸喜は俺の足元にあるそれを指差し、「よろしくね」と無邪気に微笑んだ。
目の前には地縛霊と名乗る双子。
足元には死んでいる俺がいて。
考えれば考えるほど理解できない。
そもそも死んだこと自体が夢じゃないかと思うのに、感触、匂い、なにもかもがあまりにも生々しかった。
「あ、なにそのリアクション、うっすいなあー。もっと『キャーッ! 幽霊だー!』みたいなリアクション求めてたんだけど。まあいいけどさ!」
「お……っ、俺は死んだのか……?」
「そうだよ、俺が突き落として死んだんだ」
冷たい汗が、空気が、纏わりつく。
まるで何でもないように幸喜は笑って答えた。邪気のない、まるで褒めてもらいたい子供みたいな顔で。
「綺麗に頭潰れて即死できてラッキーだよねー。運悪く足から落ちたら大抵死ねずに苦しむんだよ」
「っ、……」
「それに、こうして幽霊になって化けて出てきてくれたなんて! 未練ありそうだもんな、準一。お友達、見つかんなくて残念だったな」
背筋が凍りついた。
まさか、こいつら仲吉まで。咄嗟に幸喜の胸倉を掴めば、幸喜はあっさりと俺に捕まった。けれど、恐ろしいほどの手応えのなさ。
「お前、あいつに何かしたのか……ッ!」
「いや、してないよ。だってあいつ全然怖がんなくてつまんないし。……あ、もしかして怒ってる?あの仲吉とかいうやつ生かしたままだったの」
「なんなら、今からでも連れてこようか?」なんて、小首を傾げる幸喜に言葉を失った。
連れてくる?どこから。崖からか?
幸喜の言葉を頭で理解する前に、体が先に動いていた。
「……っ、やめろ……ッ! あいつには手を出すな!」
自分が死んだと聞いたときは怒りすら湧いてこなかった。なのに、何故だろうか。あいつの名前を出された瞬間、恐怖にも似た怒りが込み上げてきた。
怒鳴る俺に驚くどころか、幸喜はただ満足そうに笑う。
「安心してよ、あの仲吉ってやつには手を出さないから。……その代わり、準一が俺たちと来てくれるんならね」
「ま、嫌がっても来てもらうつもりだったけど」と、新しい玩具を見つけたようにうっとりと笑う幸喜は胸倉を掴む俺の手をぎゅっと握り締めた。
細い、骨っぽい手。けれど、その力は強い。
「案内するよ、俺達の家に」
家、その言葉がなにを指すか今の俺には理解することはできなかった。けれど、従わなければこいつらは本当に仲吉を殺し兼ねない。
それがわかったからこそ、従うことしかできなかった。
「返事は?」
「……っ、わかった。わかったから、手、離せ」
こんな貧弱な子供相手、殴れば勝てる相手だと思うのに、得体の知れない化物が相手だと分かってる今、下手に出ることは危険だ。
車が停まっているはずの崖上を確認する。ヘッドライトの明かりは確認できないが、仲吉が既に諦めて旅館に帰っていることを祈らずにはいられなかった。
幸喜に従う。そう口にすれば、幸喜は嬉しそうに笑って、そして俺を抱き締めた。
「流石準一! あんたならそう言ってくれると思ったよ」
明るい髪のせいか、無邪気な笑顔が一瞬仲吉と重なって思わず息を飲む。
「あ、そうだ、ちゃんと自己紹介してなかったな。俺は幸喜、んでそっちは弟の藤也」
「……双子だから兄も弟も関係ない」
「こういう可愛げないことばっか言うけど無視しといていいからな! ま、本当は寂しがり屋だから仲良くしてやってくれよ!」
「……」
藤也は幸喜とは顔のパーツ以外はなにもかもが似つかない。幸喜を睨んだ藤也は、何も言わないが文句を言いたげなのがよくわかった。
幸喜よりもこいつの方がまともそうだ。よろしく、なんて穏やかに挨拶するような状況ではない。
幸喜一人だけが楽しそうなその異様な空気の中、不意に、ひんやりとした風が吹く。
瞬間。
「なるほど、今夜は随分と騒がしいと騒がしいと思えば……お客様でしたか」
すぐ背後。幸喜とも藤也のものとも違う、柔らかい男の声が聞こえてきた瞬間、金縛りにあったみたいに体が凍り付いた。
なんだ、この感覚。背後になにかいる、それがわかっているのに、体が振り返ることを恐れていた。
前を歩いていた幸喜は俺の背後に目を向け、そして「あ」と嬉しそうに笑った。
「花鶏さん、いたんですか」
「ええ、貴方の楽しそうな声が聞こえてきたので様子を見に来たんですよ」
恐る恐る振り返れば、そこには一見女性と見紛うほどの中性的な和服の男がいた。その人物が男だとわかったのは女性にしては低すぎる声と、近くで見るとわかる着物の上からでも線のガッシリとしたシルエットのお陰だ。
俺と並んでそう変わらないほどの長身痩身の男は、睫毛に縁取られたその目を俺に向ける。
「……そうですか、貴方が準一さんですか」
「っ、ぁ……」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。私は花鶏。……気軽にあとりん、と呼んでくださいね。お察しの通り、私もそこの双子と同じ……まあ、地縛霊のようなものです」
よろしくお願いします、と柔和な笑みを浮かべた花鶏は右手を差し出してくる。掴みどころのない、ある意味幽霊らしい男だと思った。
よろしくお願いします、とつい流れでその手を握り返せば、恐ろしく冷たい手のひらの感触に全身に鳥肌が立つ。
どうやら、体温のなさも幽霊共通らしい。
目の前には三人の幽霊。
何人いるんだ、というか、俺はこれからどうなるんだ。
死んだ今、これ以上悲惨な目に遭わないとは思いたいが……なにもかもが未知の世界だった。
ひっそりとした闇の中、不意に空から小さな滴が落ちてくる。
「おや、とうとう降ってきましたか」
花鶏はそう顔を上げる。まるで予め予想でもしていたような口振りだ。つられて俺は足元に目を向ければ、湿った土の上にぽつぽつと雨が染み込んでいく。
仲吉は大丈夫なのだろうか。
不意に、崖の上にいるであろう友人のことを思い出す。
もしかしたら、雨でも構わずに例の廃墟を探しているのかもしれない。
念の為車に傘を置いていたが、あいつ気付いただろうか。そんなことを考え、自分のことよりも友人の傘の心配してる自分に笑いが出る。
「それでは、行きましょうか。これから帰るところだったのでしょう」
「……帰るって……」
「ふふ、そんなに怖がらなくて大丈夫ですよ。ただの雨宿りです」
「ボロ屋敷だけどな! ……あいてっ!」
花鶏にぺちんと頭を叩かれる幸喜。
痛いのか?幽霊なのに?とと持ったが、そうか……手を握られる感触があるってことは叩かれる刺激もあるのか……?
そんなことを考えながら、一先ず俺は三人について行くことにした。
…………。
どれくらい眠っていたのだろうか。
「死んだ?」
「死んでる死んでる。余裕で死んでる。死にたてほやほや」
頭上から聞こえてくる賑やかな声。複数の土を踏む音。
人だ。それも若い男……下手したら少年の声にも聞こえる声だ。
どうやら俺は気を失っていたらしい。
やけに重い瞼を持ち上げ、起き上がろうとしたところで俺は自分が地面の上に転がっていることに気づいた。
「お、ほらみろ起きてきた。大成功」
なんで地面に寝てたんだ、俺。混濁した記憶の中、聞こえてきた声にゆっくりと視線を向け、息を飲む。
電灯ひとつない暗い森の中、高校生くらいだろうか。二人の少年は俺を見下ろしていた。
それだけでも混乱したが、おまけにその二人の少年の顔は鏡に移したように瓜二つで。
「や、おはよう。元気? 気分はどう? 目覚めは最高?」
双子の片割れ、ニコニコと笑う茶髪の少年は馴れ馴れしく俺の肩を叩いてくる。
「目覚めって……なんだよ、お前、つか……ここ……」
「あー、あれだ、記憶が混乱してんだろ? わかるわかる、俺も最初はそうだったし!なー藤也!」
そう、馴れ馴れしい茶髪の少年はもう片割れの黒髪の少年を呼ぶ。とうや、と呼ばれた少年は同じ顔ではあるが茶髪とは対照的に表情は乏しい。
「……覚えてない。っていうか、声うるさい、幸喜」
「なーに辛気臭いこと言ってんだよ、せっかく久しぶりのお友達なんだからこれがはしゃがなくていつはしゃぐんだっての! なあ、準一サン?」
「……っ、なんで、お前……俺の名前……」
「あっは、なんでだと思う? ヒントはーっ、うーん……これっ!」
そう、『これ』と差し出されたのはバキバキに割れた携帯端末だった。真っ暗になった画面に反射して映るのは暗闇。瞬間、気を失う直前の記憶が一気に蘇る。
確か、なにかに押されて崖から落ちて、それで……死んだはずだ。確実に、即死だったから痛みを感じずに済んだが……いや待て、なら俺はなんで生きてる?
思い出せば思い出すほど混乱する思考。
咄嗟にあたりを見渡す。月すら覆い隠すほどの深い樹海の中、そこは病院でもなければ天国でもなさそうだ。
「お前ら……なんなんだよ……俺、死んだんじゃなかったのかよ……っ!」
双子は顔を見合わせた後、口許を歪めて笑う。
「……本当は気付いてんだろ? わざわざ俺らの口から聞き出そうとするなんてお兄さんもなかなかいい趣味してるね」
「……幸喜」
「わかってる、わかってるって藤也。でもいいだろ? 久しぶりの新しいお友だちなんだからさ。コミニュケーションは大事だって、#花鶏____#さんも言ってただろ。一期一会を大切にしなきゃ」
「だって、せっかく俺らで作った出会いなんだし!」演技がかったな大振りな仕草に場違いなほど明るく饒舌な幸喜と呼ばれた少年の言葉を理解することはできなかった。
ただ、関わらないほうがいい。直感がそう告げる。
考えるよりも一歩後ずさったとき、靴になにかがぶつかる。固く、重いゴムのような感触に、つい、俺は視線を足元へと向けた。
そして、息を飲んだ。
月明かりもない曇り空の下、ぼんやりとだったがそれが何か俺はわかってしまった。
俺が着ているものと同じTシャツに、パンツ。ひしゃげた頭部は跡形もない、けれど靴も全部何もかも俺が今身に着けているものと同じだった。
「俺らはお兄さんと一緒だよ。所謂元ソレ。現在は二人で地縛霊やってまーす」
幸喜は俺の足元にあるそれを指差し、「よろしくね」と無邪気に微笑んだ。
目の前には地縛霊と名乗る双子。
足元には死んでいる俺がいて。
考えれば考えるほど理解できない。
そもそも死んだこと自体が夢じゃないかと思うのに、感触、匂い、なにもかもがあまりにも生々しかった。
「あ、なにそのリアクション、うっすいなあー。もっと『キャーッ! 幽霊だー!』みたいなリアクション求めてたんだけど。まあいいけどさ!」
「お……っ、俺は死んだのか……?」
「そうだよ、俺が突き落として死んだんだ」
冷たい汗が、空気が、纏わりつく。
まるで何でもないように幸喜は笑って答えた。邪気のない、まるで褒めてもらいたい子供みたいな顔で。
「綺麗に頭潰れて即死できてラッキーだよねー。運悪く足から落ちたら大抵死ねずに苦しむんだよ」
「っ、……」
「それに、こうして幽霊になって化けて出てきてくれたなんて! 未練ありそうだもんな、準一。お友達、見つかんなくて残念だったな」
背筋が凍りついた。
まさか、こいつら仲吉まで。咄嗟に幸喜の胸倉を掴めば、幸喜はあっさりと俺に捕まった。けれど、恐ろしいほどの手応えのなさ。
「お前、あいつに何かしたのか……ッ!」
「いや、してないよ。だってあいつ全然怖がんなくてつまんないし。……あ、もしかして怒ってる?あの仲吉とかいうやつ生かしたままだったの」
「なんなら、今からでも連れてこようか?」なんて、小首を傾げる幸喜に言葉を失った。
連れてくる?どこから。崖からか?
幸喜の言葉を頭で理解する前に、体が先に動いていた。
「……っ、やめろ……ッ! あいつには手を出すな!」
自分が死んだと聞いたときは怒りすら湧いてこなかった。なのに、何故だろうか。あいつの名前を出された瞬間、恐怖にも似た怒りが込み上げてきた。
怒鳴る俺に驚くどころか、幸喜はただ満足そうに笑う。
「安心してよ、あの仲吉ってやつには手を出さないから。……その代わり、準一が俺たちと来てくれるんならね」
「ま、嫌がっても来てもらうつもりだったけど」と、新しい玩具を見つけたようにうっとりと笑う幸喜は胸倉を掴む俺の手をぎゅっと握り締めた。
細い、骨っぽい手。けれど、その力は強い。
「案内するよ、俺達の家に」
家、その言葉がなにを指すか今の俺には理解することはできなかった。けれど、従わなければこいつらは本当に仲吉を殺し兼ねない。
それがわかったからこそ、従うことしかできなかった。
「返事は?」
「……っ、わかった。わかったから、手、離せ」
こんな貧弱な子供相手、殴れば勝てる相手だと思うのに、得体の知れない化物が相手だと分かってる今、下手に出ることは危険だ。
車が停まっているはずの崖上を確認する。ヘッドライトの明かりは確認できないが、仲吉が既に諦めて旅館に帰っていることを祈らずにはいられなかった。
幸喜に従う。そう口にすれば、幸喜は嬉しそうに笑って、そして俺を抱き締めた。
「流石準一! あんたならそう言ってくれると思ったよ」
明るい髪のせいか、無邪気な笑顔が一瞬仲吉と重なって思わず息を飲む。
「あ、そうだ、ちゃんと自己紹介してなかったな。俺は幸喜、んでそっちは弟の藤也」
「……双子だから兄も弟も関係ない」
「こういう可愛げないことばっか言うけど無視しといていいからな! ま、本当は寂しがり屋だから仲良くしてやってくれよ!」
「……」
藤也は幸喜とは顔のパーツ以外はなにもかもが似つかない。幸喜を睨んだ藤也は、何も言わないが文句を言いたげなのがよくわかった。
幸喜よりもこいつの方がまともそうだ。よろしく、なんて穏やかに挨拶するような状況ではない。
幸喜一人だけが楽しそうなその異様な空気の中、不意に、ひんやりとした風が吹く。
瞬間。
「なるほど、今夜は随分と騒がしいと騒がしいと思えば……お客様でしたか」
すぐ背後。幸喜とも藤也のものとも違う、柔らかい男の声が聞こえてきた瞬間、金縛りにあったみたいに体が凍り付いた。
なんだ、この感覚。背後になにかいる、それがわかっているのに、体が振り返ることを恐れていた。
前を歩いていた幸喜は俺の背後に目を向け、そして「あ」と嬉しそうに笑った。
「花鶏さん、いたんですか」
「ええ、貴方の楽しそうな声が聞こえてきたので様子を見に来たんですよ」
恐る恐る振り返れば、そこには一見女性と見紛うほどの中性的な和服の男がいた。その人物が男だとわかったのは女性にしては低すぎる声と、近くで見るとわかる着物の上からでも線のガッシリとしたシルエットのお陰だ。
俺と並んでそう変わらないほどの長身痩身の男は、睫毛に縁取られたその目を俺に向ける。
「……そうですか、貴方が準一さんですか」
「っ、ぁ……」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。私は花鶏。……気軽にあとりん、と呼んでくださいね。お察しの通り、私もそこの双子と同じ……まあ、地縛霊のようなものです」
よろしくお願いします、と柔和な笑みを浮かべた花鶏は右手を差し出してくる。掴みどころのない、ある意味幽霊らしい男だと思った。
よろしくお願いします、とつい流れでその手を握り返せば、恐ろしく冷たい手のひらの感触に全身に鳥肌が立つ。
どうやら、体温のなさも幽霊共通らしい。
目の前には三人の幽霊。
何人いるんだ、というか、俺はこれからどうなるんだ。
死んだ今、これ以上悲惨な目に遭わないとは思いたいが……なにもかもが未知の世界だった。
ひっそりとした闇の中、不意に空から小さな滴が落ちてくる。
「おや、とうとう降ってきましたか」
花鶏はそう顔を上げる。まるで予め予想でもしていたような口振りだ。つられて俺は足元に目を向ければ、湿った土の上にぽつぽつと雨が染み込んでいく。
仲吉は大丈夫なのだろうか。
不意に、崖の上にいるであろう友人のことを思い出す。
もしかしたら、雨でも構わずに例の廃墟を探しているのかもしれない。
念の為車に傘を置いていたが、あいつ気付いただろうか。そんなことを考え、自分のことよりも友人の傘の心配してる自分に笑いが出る。
「それでは、行きましょうか。これから帰るところだったのでしょう」
「……帰るって……」
「ふふ、そんなに怖がらなくて大丈夫ですよ。ただの雨宿りです」
「ボロ屋敷だけどな! ……あいてっ!」
花鶏にぺちんと頭を叩かれる幸喜。
痛いのか?幽霊なのに?とと持ったが、そうか……手を握られる感触があるってことは叩かれる刺激もあるのか……?
そんなことを考えながら、一先ず俺は三人について行くことにした。
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