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 楽しい楽しいスキー旅行のはずだったのに、何故目の前に野郎の死体が転がってるというのか。

 建物に叩きつけるような猛吹雪の中、宿泊予定だったペンションのラウンジでそいつの死体は見つかった。

 深夜一時。
 予め持ち込んでいた酒もなくなり、仕方ねえからラウンジの自販機で缶でも買うかと降りてきたら床の上でうつ伏せになって倒れてる男がいた。
 名前は高野というらしい。酔っ払ってんのかと思って声かけたら血でべっとりと汚れてたから連れの久古くごを叩き起こした。 
 久古が他の宿泊してた人間にも声をかければ、そこで騒ぎは更にでかくなる。

「お前が殺したんだろ」

 そして、これだ。

「ちげえよ、しつけえなおにーさんも。俺は一晩中久古といたっての。なあ、久古」
「そーそー」
「共犯ならいくらも口裏合わせられるだろ!」
「ああ?」

 食ってかかってくる、いかにも冴えない男は馬場というらしい。
 どうやらそこに転がっている死体の友人のようだ。

「それに、そこの金髪のお前。お前、昼間高野と揉めてたよな」
「あー……知らねえよ、覚えてねえ」

 朝から吹雪で肝心のスキーができず、イライラして昼間から酒飲んでいたのだけは覚えてる。
 確か、ラウンジで久古と騒いでたら注意してきたやつはいたが……もしかしてそいつが高野だったってことか?
 言われてみればそんな気がしたが、この馬場とかいう男に犯人扱いされるのは癪だった。

「覚えてねえってなんだ、とぼけてんじゃねえぞ人殺し!」
「ま、まあまあ馬場さんも落ち着いてください……それに、我々以外の人間の犯行の可能性だってあるかもしれないんですから」

 ペンションの管理人は婆さんと爺さんの夫婦だけで、ペンションというよりも古民家に近いこの建物は確かにセキュリティなんてものは宛にならなさそうだ。
 宿泊客の一人に宥められる馬場だったが、まだ言い足りないとでもいうかのようにこちらを睨んでくる。腹立つ顔だ。
 面白くなくて、俺は隣にいた小町の腕を掴んだ。

「……くそ、やってられるか。帰るぞ久古」
或馬あるま?」
「待て、まだ話は終わってないだろ!」
「終わってんだよ。次に死体出てから言えよ」

 あー、クソだりい。ただでさえこっちはネットも繋がんねえボロ宿から出られなくてイライラしてんのに。
 馬場に中指を立て、そのまま俺は久古の肩を抱いたままラウンジをあとにした。
 久古は律儀にラウンジに残った連中に頭を下げていたが、俺は無視した。

 人を人殺し扱いするようなやつらに礼儀なんていらねーよ。糞。




「或馬、あんな言い方は可哀想だろ? あの人も友達亡くしたばっかなんだし」

 自室まで帰ってきた俺たちだったが、扉を閉めるなり久古はそんなことを言ってくるのだ。
 普段は俺に優しくしてくれるのに、今ばかりは少し怒った顔をする久古に内心うろたえる。

「なんだよ久古、お前もあいつの味方かよ」
「そんなんじゃねーけど。つか、お前が犯人じゃないのなんてわかってるし」

 不安になって久古に駆け寄れば、久古はそう言いながら俺の頬を撫でるのだ。そのまま横髪を耳にかけるように撫でられ、こそばゆさに目を細める。

「ん……まあな」
「けど、まじで心配なんだよな。お前までなにかあったらって思ったら」
「んだよ、いきなり……俺があそこにいた連中の誰かにやられると思ってんのか?」

 少なくとも腕っぷしには自信があったし、他の宿泊客もペンションの管理人も襲われたら返り討ちにするくらいの自信はあった。
 そう安心させようと久古に笑いかけるが、久古の表情は浮かないままだ。

「久古?」
「……けど、さっき或馬に絡んでた馬場さん……だっけ? あの人、服の上から見た感じでも結構鍛えてるみたいだったし」
「は? やめろよ、あんなオタクみてーな野郎に俺が負けるわけねえだろ。いくら久古でも怒んぞ」
「……わかった、悪かったよ。怒んなよ、或馬」

 そう久古は頭を撫で、そのまま抱き締めてくる。

 体格云々っていうなら、久古だってそうだ。
 初めて野郎相手に負けたのも、男に好きだって言われたのも久古が初めてだ。
 久古の熱と香水に包まれ、苛立っていた神経が落ち着き始めていた。

「……っ、久古?」

 そんなときだった。そのまま抱かれたまま、ベッドまで連れて行かれる。
 そして俺をベッドに押し倒した久古は、そのまま上から覆いかぶさってくるのだ。

「ぉ、おい……」
「或馬は? ……もし次、俺が殺されたらどうする?」

 ――流石に、今は死体見た直後でそんな気分ではない。
 そう久古の胸を押し返そうとしたときだった。小町の言葉に思わず息を飲んだ。

「やめろよ、んな馬鹿なこというのは……っ」
「はは、一応は悲しんでくれるんだ?」
「っるせ、当り前だろうが」
「ん……ふふ、可愛いなあ或馬は。なあ、キスしていいか?」
「は? ん、おい……っ」

 なに発情してんだ、と久古を睨みつけたが、それは抵抗にならなかった。嬉しそうにはにかんだ久古に唇を舐められれば、それを拒むことはできない。
 薄く唇を開き、久古の舌を招き入れる。
 舌の先から根本までたっぷりと唾液を塗り込むように舌を絡め合わせ、先っぽを吸われればそれだけで下半身がじんわりと熱くなった。

「っ、は、久古……っ、ん……」

 どさくさに紛れて服の下に入ってきた久古の手がそのまま腹筋の凹凸をなぞるように這わされる。そのまま久古の指は胸まで上がってき、柔らかく胸筋の膨らみを掌全体で包み込むように揉まれれば呼吸が上がっていくようだった。

「は、ぁ……っ、んん……っ」
「或馬は本当に胸、大きくなったな」
「ぉ、お前が……触るから……っ、ん」
「まあね」

 それに、お前が好きだっていうから。大きい方が。
 だからこっそり筋トレの量を増やしたなんて口が裂けても言えない。
 顔が熱くなり、久古のにやついた視線から逃げるように顔を反らせば、そのままきゅっと胸の突起を摘まれ堪らず仰け反った。

「っ、く、ご……っ」

 まさか本当にやるつもりなのか。
 そう久古を尻目にみれば、そのまま顎を掴まれて深く唇を重ねられる。
 胸を揉まれながら乳首を転がされれば下半身はあっという間に硬くなった。

「は、っ、ぁ……んむ……っ」
「カリカリするのも分かるよ、或馬。けど、こういうときだからこそ落ち着かないと」
「ん、ゃ、乳首弄りながら、せっきょ、すんな……っ」
「こら、や、じゃないだろ?」
「ん、ぅ……っ!」

 指の腹で乳首の側面をシコられ、乳輪ごと柔らかく引っ張るように愛撫されれば頭の中がじんじんと熱くなっていく。酒を飲んだみたいにふわふわして、久古のことしか感じられなくなっていくのだ。
 それなのに現実に引き戻すようなことを言うのが嫌で、ベッドの上から抜け出そうと藻掻けば更に久古に抱き竦められ、そのまま両胸の乳首を愛撫された。

「っ、く、ひ、……っ!」
「或馬、ほらこれ好きだろ? お前が満足するまでいっぱい弄ってやるから機嫌直せよ」
「っ、は……っ、んう、っ」

 耳元で囁かれながら抱き締められるように乳首を刺激される。
 ただでさえ散々久古に弄られ続けたそこは爪の先が引っかかるだけでも恐ろしく感じてしまいそうになるほどなのに、そこを絶え間なく責立てられてみろ。軽い拷問だ。
 チンコが痛くなって手を伸ばすが、久古に止められた。更に丸まった背筋をぴんと伸ばし、胸を突き出すような形で羽交い締めにされれば目の前が赤くなっていく。

「っ、ぁ、くご……っ」
「こっちも、或馬に似て素直で正直者だな」
「ぃ、ひ……ッ! ぅ、あ、やめ、……っ! カリカリ、いやだ……っ!」
「イイ、の間違いだろ」
「は、ぁ……っ! ひ、ぅぐ……っ!」

 乳輪に埋まるくらい指で乳頭を穿られたと思えば、そのまま内側をぐるぐる円を描くように刺激される。それだけでも辛いのに、それをやめたと思えばすぐにツンと尖り頭を出す乳首を柔らかく揉まれるのだ。
 痛いのよりも根本から芯を解すように優しく揉まれるのが好きだった。
 あいつらのことはムカつくのに、すぐに気持ちいいで全部塗り替えられてしまうのだ。

「は、ぁ……っ、ぁ、も、そこばっか……っ」
「今度他の人たちと会った時は喧嘩腰にならないように約束できるか?」
「す、る……っ、する、するから……ぁ……っ!」
「本当に?」

 ぴちゃ、と耳を舐められ、腰が震える。先走りで既にぬるぬるになった下着の中が気持ち悪くて、早く楽になりたくて、俺は考えるよりも先に何度も頷き返した。「する」と久古に許しを乞うようにその唇にちろちろと舌を伸ばせば、興奮したように笑った久古はそのまま俺の唇にしゃぶりついたのだ。

「……っ、ふーっ、ぅ……」

 この宿から一歩も出られないと分かって朝からずっとこんな調子だ。尻の割れ目に押し付けられる久古のものの重みを感じながら、俺は久古に自分の尻を押し付ける。

「は、それ、かわいすぎだろ……っ」

 スウェットのウエストを掴んだ久古に下着ごとずり下げられながら、俺は喜びに胸を震わせた。

 人が死んでようが俺たちには関係ない。
 そう思いたかったのか、それともただ単に性欲の前ではなんの意味もねえということかわかんねーけど、これが俺たちの日常だ。
 俺と久古の日常なのだ。




 数時間後。
 どれほど久古と繋がっていたのかもわからない。抜かれたあとだというのにまだケツに性器が挟まったようなむず痒さともの寂しさを感じながらも、ベッドに横になったまま一服してたとしだ。

「最低なこと言っていい?」

 俺の身体を抱きしめたまま、久古はそんなことを言い出すのだ。

「いつも言ってんだろ」とじとりとみれば、「まあまあ」と久古は笑う。そしてそのまま頬杖をついたまま、起き上がる俺を見上げるのだ。

「もし俺が死んだらさ、或馬が一人ぼっちになっちゃうじゃん?」
「……何言ってんだよ」
「だから、ちゃんと今からでも他の人と仲良くできるようにならないとな。……って話、ん、ほら、ちゃんと聞いて」

 本当に最低なこと言いやがって、こいつ。
 むかついて思わずタバコを揉み消し、俺は久古にしがみついた。そのまま久古の胸に顔を埋めれば、「或馬」と頭の上から久古の声が落ちてくる。心なしかいつもよりも柔らかい声だ。

「余計なお世話だっての、それに……俺にはお前だけいりゃいいんだよ。……他なんかどうでもいー……」

 すり、とその胸に頬を寄せ、久古を見上げる。
 なんとも言えない顔をしたまま久古は「或馬」と俺を優しく呼ぶのだ。そして、何度目かのキスをされる。

「……っ、久古」
「大好きだよ」
「……俺も」

 好きだ、というのはまだ少し照れくさかった。
 それでも今となっては俺にとって久古はもうすでに生活の一部だった。
 言葉の代わりにもう一度、今度は俺から久古に唇を寄せた。


 ムカつくことも色々あったが、久古がこういうのだから少しは機嫌を直してやろう。
 ――そう思ったのに。


 明け方、肌寒さに目を覚ます。
 眠る前まで隣にいたはずの久古の姿がないことに気付き、俺はまだだるい身体を起こして久古を探した。
 風呂にでも入ってんのだろうか。
 このペンションでは各個室にシャワーがある他、一階に大浴場がある。昨日も朝風呂に入ってたみたいだしそうなのだろう。
 声くらいかけてくりゃいいものを。

 そう思いながら、一先ずシャワーでも浴びろうかとベッドを降り、シャワー室へと向かおうとしたときだった。どこからか風が吹き込む音が聞こえてきた。

 外は吹雪だ。どこの窓が空いてるのだ。
 そう舌打ちをしたとき、シャワー室の扉が不自然に開いていることに気付く。

「……?」

 そしてその奥、点きっぱなしになった明かりに気付き、俺はシャワー室の扉を開いた。

 まず、鼻についたのが異臭だった。生臭さにもよく似たその錆びた鉄のような匂い。それを辿るように視線を個室の奥へと向ける。
 ――そして空の浴槽の中、そこには胎児のように身体を丸めて目を瞑る久古がいた。
 浴槽の底、湯の代わりに溜まっていた血液の量に俺は文字通りなにも考えることができなかった。
 

 誰かの悲鳴が聞こえてきた。その声が自分の口から発せられたものだと気付くのに時間がかかった。

 俺の声に気付いたらしい他の連中が部屋までやってきて、それから騒ぎは大きくなる。
 俺はまだ自分が悪い夢を見ているようだった。俺はまだ夢の中で、今度こそ目を覚ましたらまた久古が隣で眠ってるのではないかって思ったのだ。

 けれど、その夢は覚めることはなかった。
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