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齋藤総受け、複数攻め
阿賀松の御戯れに巻き込まれる齋藤と阿佐美【ほのぼの】
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「詩織ちゃん、益々俺に似て来たなぁ。顔隠すなよ、勿体ない」
「ナチュラルにナルシスト発言したね、あっちゃん」
「だって事実だろ」
「そう言うこと言うから……って、ちょっと、髪さわらないでよっ」
「ほら、そっくり」
「うう」
「あ、いいこと考えた」
「え?」
「おい、詩織。ちょっと耳貸せよ」
◆ ◆ ◆
阿佐美の様子が可笑しい。
常に情緒不安定でどこか挙動が怪しいやつだったが、今日はいつもに増して際立っていた。
「詩織……なにしてんの?」
「え?掃除だけど」
自室内。
CDや雑誌でごちゃごちゃになった棚を空にし、整理整頓をしている阿佐美はそうあっけらかんとした調子で答える。
あのずぼらで面倒くさがりな阿佐美が自主的に掃除。それだけでもおかしい。川で鯨が連れるくらいおかしい。なのに阿佐美の異変はこれだけでは止まらなかった。
「掃除って、あの、なんか今日あるの?誰か来るとか……」
「へえ、誰か来ないと掃除しちゃダメなわけ?」
「え?や、別にそういうわけじゃないけど……」
「ならどうでもいいじゃん。それよりゆうき君、喉渇いたんだけど」
「あっ、うん、わかった」
しかもナチュラルにパシられた。
まあこれくらいなら寧ろ進んでやることなので特に不快には感じなかったが、やはりなんかこう、違和感を覚えずにはいられない。
お茶を注ぎ、ソファーに座り一息ついていた阿佐美の元にそれを届ける。
「はい」
「ありがとう、ゆうき君」
「いいよ、これくらい。別に」
いつもと変わらない笑みを浮かべる阿佐美に俺は益々わからなくなった。
別になにかがあるわけでもないし、どういう風の吹き回しなのだろうか。
訝しげに阿佐美を一瞥した俺はそのまま向かい側に腰を下ろす。
「ゆうき君」
自分用に用意したお茶をちびちび飲んでたら不意に名前を呼ばれる。
「なに?」
「なんでそっち座るの?」
一瞬言葉の意味がわからず「え?」と聞き返せば、阿佐美はつまらなさそうに唇を尖らせた。そして、ばふんと空いた隣のクッションを叩く。
「とーなーり。もっとこっち来なよ」
「え、でも……」
「いいから、早く」
有無を言わせない雰囲気を纏う阿佐美に気圧され、渋々立ち上がった俺はやつの隣に移動する。
やっぱり、変だ。なにかがおかしい。
しかし見た目、声、どれも阿佐美張本人に間違いない。
思いながら、こそっと隣の長身を見上げようとしたときだった。ぐ、と肩を掴まれる。
「あの、詩織……?」
大きな手に握り潰されそうになる肩と目の前の長い前髪で半分隠れた阿佐美の顔を交互に見た。
なにも言わずにそのまま顔を近付けてくる阿佐美に思わず後退りすれば、不意にふわりと甘い薫りが鼻腔を擽った。
……香水?いや、でも阿佐美は香水なんてつけなかったはずだ。
そこまで考えていると、気付いたら阿佐美の鼻先が数センチ先にまで近付いていた。
しかもなんか、押し倒されてるような体勢になってて、デジャヴに青ざめた俺は慌てて目の前の阿佐美の胸を押し返す。しかしビクともしない。
「ちょ、待って、なに……」
段々不安になって、泣きそうになったときだった。
「あっちゃん!!」
バン、と勢いよくリビングの扉が開いたと思ったと同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
何事かと扉に目を向けた俺はそのまま硬直する。
「ぁ……あぁ……っ」
「やっと見付けたよ、あっちゃん!いきなり人を閉じ込めてどういうつも……ゆ、ゆうき君!」
赤い髪を振り乱し、眉を寄せる闖入者もとい阿賀松伊織は青ざめる俺に気づいたのか呆れたような顔をする。
いつもは見せないような困惑した顔をし情けない声を上げる阿賀松にこちらまで困惑せずにいられなくて。
しかも、それに、あっちゃんって。
いつも阿佐美が阿賀松を呼ぶときの愛称を口にしそれを阿佐美に向かって使う阿賀松。
矛盾したそれらが勢いよく頭の中で論理付かれていく。そして、一つの可能性に俺は目を見開き目の前の阿佐美『のフリをしたそいつ』を見た。
「あが、まつ……せんぱい……?」
「せいかーい」
そうだらしなく唇の両端を持ち上げ三日月型の特徴的な笑みを浮かべた阿佐美、もとい阿佐美のコスプレをした阿賀松伊織本人はべえと舌を出す。
その肉に埋め込まれた銀色の球体には死にそうな顔をした自分がこちらを見ていた。
◆ ◆ ◆
「ごめんね、ゆうき君。あっちゃんがあんな悪戯するとは思わなかったから……」
「いや、いいよ。……気付かなかった俺も俺だし」
後日。
阿佐美から事情を聞いたが、やはり今思い出してもドキドキする。
それと同時に阿佐美じゃないと確信することができなかった自分が恥ずかしくて堪らない。そして、今目の前にいる阿佐美も偽物ではないのかと疑う自分自身も。
「無理ないよ、あっちゃん、ああいうのには無駄に気合い入れてるから」
傍迷惑なやつだな、というのは口に出さず「そうなんだ」と適当に答える。
本当、阿賀松のやつ、余計なことをしてくれた。これから毎日阿佐美が本物かどうかをビクビクしながら過ごさなきゃいけないなんて……。
そのときだった。カチャリと音を立てリビングの扉が開く。
あれ?鍵閉めてたよな、なんて思いながら目を向けた俺はそのまま青ざめた。
「あ、あれ?ゆうき君……?って、なんで、俺が……」
そこには阿佐美がいた。
そして俺の隣にも阿佐美がいて、隣の阿佐美はいきなり現れた阿佐美――ややこしいので阿佐美Bと呼ぼう――阿佐美Bに絶句する。
「ちょっと、また、あっちゃん!それ捨ててって言ったじゃん!ゆうき君、違うよ、違うからね。俺が本物だから、ちょっとなんで逃げ……もー!あっちゃんいい加減にしてよ!」
おしまい
「ナチュラルにナルシスト発言したね、あっちゃん」
「だって事実だろ」
「そう言うこと言うから……って、ちょっと、髪さわらないでよっ」
「ほら、そっくり」
「うう」
「あ、いいこと考えた」
「え?」
「おい、詩織。ちょっと耳貸せよ」
◆ ◆ ◆
阿佐美の様子が可笑しい。
常に情緒不安定でどこか挙動が怪しいやつだったが、今日はいつもに増して際立っていた。
「詩織……なにしてんの?」
「え?掃除だけど」
自室内。
CDや雑誌でごちゃごちゃになった棚を空にし、整理整頓をしている阿佐美はそうあっけらかんとした調子で答える。
あのずぼらで面倒くさがりな阿佐美が自主的に掃除。それだけでもおかしい。川で鯨が連れるくらいおかしい。なのに阿佐美の異変はこれだけでは止まらなかった。
「掃除って、あの、なんか今日あるの?誰か来るとか……」
「へえ、誰か来ないと掃除しちゃダメなわけ?」
「え?や、別にそういうわけじゃないけど……」
「ならどうでもいいじゃん。それよりゆうき君、喉渇いたんだけど」
「あっ、うん、わかった」
しかもナチュラルにパシられた。
まあこれくらいなら寧ろ進んでやることなので特に不快には感じなかったが、やはりなんかこう、違和感を覚えずにはいられない。
お茶を注ぎ、ソファーに座り一息ついていた阿佐美の元にそれを届ける。
「はい」
「ありがとう、ゆうき君」
「いいよ、これくらい。別に」
いつもと変わらない笑みを浮かべる阿佐美に俺は益々わからなくなった。
別になにかがあるわけでもないし、どういう風の吹き回しなのだろうか。
訝しげに阿佐美を一瞥した俺はそのまま向かい側に腰を下ろす。
「ゆうき君」
自分用に用意したお茶をちびちび飲んでたら不意に名前を呼ばれる。
「なに?」
「なんでそっち座るの?」
一瞬言葉の意味がわからず「え?」と聞き返せば、阿佐美はつまらなさそうに唇を尖らせた。そして、ばふんと空いた隣のクッションを叩く。
「とーなーり。もっとこっち来なよ」
「え、でも……」
「いいから、早く」
有無を言わせない雰囲気を纏う阿佐美に気圧され、渋々立ち上がった俺はやつの隣に移動する。
やっぱり、変だ。なにかがおかしい。
しかし見た目、声、どれも阿佐美張本人に間違いない。
思いながら、こそっと隣の長身を見上げようとしたときだった。ぐ、と肩を掴まれる。
「あの、詩織……?」
大きな手に握り潰されそうになる肩と目の前の長い前髪で半分隠れた阿佐美の顔を交互に見た。
なにも言わずにそのまま顔を近付けてくる阿佐美に思わず後退りすれば、不意にふわりと甘い薫りが鼻腔を擽った。
……香水?いや、でも阿佐美は香水なんてつけなかったはずだ。
そこまで考えていると、気付いたら阿佐美の鼻先が数センチ先にまで近付いていた。
しかもなんか、押し倒されてるような体勢になってて、デジャヴに青ざめた俺は慌てて目の前の阿佐美の胸を押し返す。しかしビクともしない。
「ちょ、待って、なに……」
段々不安になって、泣きそうになったときだった。
「あっちゃん!!」
バン、と勢いよくリビングの扉が開いたと思ったと同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
何事かと扉に目を向けた俺はそのまま硬直する。
「ぁ……あぁ……っ」
「やっと見付けたよ、あっちゃん!いきなり人を閉じ込めてどういうつも……ゆ、ゆうき君!」
赤い髪を振り乱し、眉を寄せる闖入者もとい阿賀松伊織は青ざめる俺に気づいたのか呆れたような顔をする。
いつもは見せないような困惑した顔をし情けない声を上げる阿賀松にこちらまで困惑せずにいられなくて。
しかも、それに、あっちゃんって。
いつも阿佐美が阿賀松を呼ぶときの愛称を口にしそれを阿佐美に向かって使う阿賀松。
矛盾したそれらが勢いよく頭の中で論理付かれていく。そして、一つの可能性に俺は目を見開き目の前の阿佐美『のフリをしたそいつ』を見た。
「あが、まつ……せんぱい……?」
「せいかーい」
そうだらしなく唇の両端を持ち上げ三日月型の特徴的な笑みを浮かべた阿佐美、もとい阿佐美のコスプレをした阿賀松伊織本人はべえと舌を出す。
その肉に埋め込まれた銀色の球体には死にそうな顔をした自分がこちらを見ていた。
◆ ◆ ◆
「ごめんね、ゆうき君。あっちゃんがあんな悪戯するとは思わなかったから……」
「いや、いいよ。……気付かなかった俺も俺だし」
後日。
阿佐美から事情を聞いたが、やはり今思い出してもドキドキする。
それと同時に阿佐美じゃないと確信することができなかった自分が恥ずかしくて堪らない。そして、今目の前にいる阿佐美も偽物ではないのかと疑う自分自身も。
「無理ないよ、あっちゃん、ああいうのには無駄に気合い入れてるから」
傍迷惑なやつだな、というのは口に出さず「そうなんだ」と適当に答える。
本当、阿賀松のやつ、余計なことをしてくれた。これから毎日阿佐美が本物かどうかをビクビクしながら過ごさなきゃいけないなんて……。
そのときだった。カチャリと音を立てリビングの扉が開く。
あれ?鍵閉めてたよな、なんて思いながら目を向けた俺はそのまま青ざめた。
「あ、あれ?ゆうき君……?って、なんで、俺が……」
そこには阿佐美がいた。
そして俺の隣にも阿佐美がいて、隣の阿佐美はいきなり現れた阿佐美――ややこしいので阿佐美Bと呼ぼう――阿佐美Bに絶句する。
「ちょっと、また、あっちゃん!それ捨ててって言ったじゃん!ゆうき君、違うよ、違うからね。俺が本物だから、ちょっとなんで逃げ……もー!あっちゃんいい加減にしてよ!」
おしまい
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