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真欺君と叶え屋さん

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「あれ、鮮花君」

 天国荘のある区域までやってきたとき、ふと聞き覚えのある声が後方から聞こえてきた。
 そこには暗い夜にも目立つ派手なアロハシャツの男が立っていた。
 俺も、着いてきていた怪異もぴたりと動きを止める。

「奇遇だね、今帰り?」
「ええ、まあ」
「そっかあ。帰り道気をつけなよ。ここ最近、不審者が多いみたいだから」

 言いながら俺たちとは逆の方面へと歩き出す榊。通りすがり様、肩をぽんと叩かれた瞬間先程まで感じていた重荷が幾らか軽くなる。それは心因的なものではなく、もっと直接的な。

「……」

 思わず振り返った時には榊の姿は見えなくなっていた。
 それから着いてきていた怪異の姿も跡形もなく消えていた。
 偶然か。以前も今世の姿を見るなり隠れていたあの怪異のことを考えるとまた今回も隠れてるのかもしれない。
 少し気になったが、まあいい。榊も妙な体質を持ってるのかもしれない。そう結論付けて俺は天国荘へと帰った。



 その日は疲れていたのだろう。夜、布団に潜り込んだ直後ぐっすりと眠ってしまった。部屋の中に誰かの気配を感じたがそれを気に留める余裕もないくらいに。
 次に目をしました時、寝起き同様全身も軽くなっていた。
 それから。

「おはよう」

 居間の片隅、丸くなった影が声をかけてくる。丸く見えたのは細長い体躯を体育座りにしてるからそう見えただけのようだ。
 俺の友達になりたい。そう言い出したあの怪異がそこにいた。

 どうやって入ってきたのか。天国荘へ入れるほどの力はないと思っていたが。
 おはよう、とだけ返してそのまま怪異の前を素通りして顔を洗いに洗面台へと向かう。その後ろから怪異がついてきたようだ。鏡越しにじっと見つめてくる視線が鬱陶しくはあったが、邪魔してくる様子はないので放置。
 迷子の犬に懐かれたような気分だな。
 冷水で多少冴えてきた頭で考えながら、昨晩用意してた朝食をレンジで温めて食すことにした。

「美味しい?」
「普通だな」
「……」
「やらないぞ」

 先に釘を刺しておけば、怪異は再び黙って人が食事する様子を熱心に観察し始める。時折頭や肩にぽたぽたと何かが垂れてきて、それを拭えばどうやらやつの涎のようだ。「もう少し離れてろ」と振り返れば、やつはぎこちない動きで部屋の片隅へと移動した。丸くなった影を見つめながら朝食を済ませる。そのあと唾液をタオルで拭って、制服に着替えることにした。

「どうやってここに入ってきた」
「だめ?」
「俺は許可した覚えはない」
「きょ……か……」
「勝手に入るのはマナー違反だ」
「ま、な……?」
「……」

 会話が面倒になって、「駄目じゃない」とだけ返せば怪異の影が先ほどよりも濃くなるのが分かった。どこが顔で口かもわからない真っ黒な体、それでも感情がここまで分かり易いとなるとそれはそれで……少し困る。
 怪異は人間でも動物でもない、もっと無機質ものだと思っている。現在進行系だ。
 けど、この怪異はなんとなく他とは違う。生まれたばかりの子供を見てるような、そんな気分になるのだ。生まれたばかりの子供など見たことないというのにだ。

「だめ……じゃない、嬉しい。ありがとう。……真欺」

 最初に会った時よりも明確に成長している。知能が発達してるのか、それともトレースを得意としてるのか。いや、これはモノマネ得意の怪異に比べたら下手な部類だしな。
 そんなアンバランスさが怪異らしからなくて、放っておけないのかもしれない。

 まあ今のところ何もない部屋に黒い物体が増えたくらいだ。悪夢を見せられるよりも余程ましか。
 卵焼き一切れを頬張り、咀嚼する。砂糖の加減を間違えて甘すぎてしまったが、これはこれで悪くはない。

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