真欺君と普通じゃない人たち

田原摩耶

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真欺君と叶え屋さん

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 叶え屋さんなるものを知ることができたのは大きい。早速叶え屋さんに焦点を絞って話が通じそうな怪異に声をかけることにしてみた。

 これがなかなか骨が折れる作業で、公園にいた少年を模した怪異や学園の怪異と比べて街中を闊歩する怪異は千差万別だ。行き交う人が多い分あらゆる怪異と出くわすが、その分知能が低い怪異が多い。

 人の形に近ければ近い程より知能は人間に近く、より実態を持ってる程思念が強い。
 それ程気を付けなければならない怪異であるが、俺にとって危険度はあまり変わりない。話が通じる分まだ知能がある怪異のがましか。

 あれから何度か聞き込みをしたところ、ハッキリと意思疎通できる怪異はいなかったものの叶え屋さんの名前を反応するものは何体かいた。
 けど皆叶え屋さんがなんなのかを知らない。男という者もいれば女という者もいて、夜に現れるという者もいれば昼間にしか現れないという者もいる。つまり、時間を無駄にした。


「…………」

 近くの郵便局を出て、空を見上げる。夕闇に染まる空の下、腕時計を確認した。そろそろセールの時間だ。スーパーで飯を買ってから帰ろう。
 ……聞き込みはまた今度だ。それに、叶え屋さんなるものを知れただけでも収穫のはずだ。
 どこからともなく漂ってくるカレーの匂いに釣られつつ、俺はそのまま最寄りのスーパーへと向かった。



 たくさんの客に揉みくちゃにされながらもなんとか食糧を確保し、店を出たときにはすっかり日が暮れていた。
 これ以上遅くなる前にさっさと晩飯にありつこう。
 そう天国荘へと足を進める。

 長く細い帰路をぽつぽつと点在する街灯が頼りない灯りで照らしていく。それを潜るようにしてひたすら帰路を歩いた。

「こんばんは」

 どこからともなく声が聞こえてくる。夜の闇に紛れてぼうっと伸びた影がこちらを待ち伏せしていた。見覚えのある細く長い影。――例の財布を拾ってくれた怪異だ。
 最後に会ったときよりも言葉がハッキリと頭に響いた。
 敵意はなさそうだが、あまり懐かれても困りものだ。

「ひと、ひと、ひとり?」
「一人だ」
「友達……とも、だち、いない? 友達、いなくなった?」
「一緒に帰っていないだけだ。いる」
「友達、いる」

 心なしかその声が沈んで聞こえたが、表情も分からない相手だ。あまり深入りしないに限る。
 そのまま足早に路地を抜ける。

「友達? なりたい」

 等間隔で件の怪異は着いてきていた。
 ノイズ混じりの声は子供のようにも男のようにも聞こえる。
『相手に隙を見せるな』と、いつの日か鮮花さんに言いつけられていた言葉が過ぎる。
 とは言えど、変に逆上する場合もある。……財布を拾ってくれるようなやつだ、まあ、いいか。

「好きにしろ」

 家まで着いてくるな、と言ったところでどこにでも怪異は現れる。
 諦めたような気持ちのまま怪異の方を見れば、怪異の黒く覆われた皮膚がぶるりと跳ねるのが分かった。……これは、喜んでるのか?
「ありがとう」「嬉しい」と壊れたように繰り返しながら怪異は後ろから直立不動のまま滑るようについてくる。
 野良犬でも手懐けたような気分のまま、時折ぽつぽつと辿々しい言葉遣いで話しかけてくる怪異に返事をしながら天国荘へと帰ることにした。

 今日一日でたくさんの怪異と関わったせいか、普段よりも肉体が重たく感じた。早く布団に横になりたい。ぼんやりと思いながら空腹で音が鳴る腹を撫でた。
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