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真欺君と叶え屋さん
01
しおりを挟む「いいか、鮮花。にこっ、だ。にこっ」
「こうか」
「ん、ん~~違う。もっとこう……口角をだな……」
「……もう今日は終わりだ。疲れた」
「おい、自分から言ったんだろ。どうしたら他のクラスメイトのやつらをビビらせずに済むのかって」
「顔面の筋肉は一日や二日で柔らかくなるものではない。焦らずゆっくりと解していくのが最適解なはずだ」
「なんで俺が諭されてるんだよ……」
転校して数週間。
俺は友達一号、またの名を今世塔と一緒に屋上で笑顔の練習をしていた。
今世曰く大抵笑ってりゃなんとかなる、らしい。普段から表情がコロコロ変わる今世だからこそ妙な説得力がある。
けど、上手くいかない。
諦め、ごろりとコンクリートの上に寝転がれば、「おい、汚れるぞ」と今世がハンカチを取り出してきた。敷け、ということらしい。こういう変なところでマメなところも人との交流を円滑に進めるためのコツなのかもしれない。
「……いや、いい。俺はこれで」
「お前が良いならいいけど。……それにしても、なんで屋上なんだ?」
「ここの屋上には怪異は入ってこない。過去に何人も自殺者が出てからちゃんと実力のある人間にお祓いをさせたらしい。……今世もここでは見えてないだろう?」
「……確かに、ギャラリーはいないな。けどその話、知りたくなかったな」
「何がだ。解決策は練られているんだぞ」
「……鮮花に説明してもな」
「分かりあうことを諦めるな、今世。諦めたらそこで終わりだ」
「だからなんで俺がさっきから諭されてるんだよ……」
どうやら今世は自殺者という言葉が引っかかったらしい。特にこの世では珍しくもない。そこにある背景を考えては想像を膨らませ落ち込むらしい。俺にはあまりない感覚だったので驚いた。
「それにしても、想像力が豊かなんだな」
「お前の場合、それは嫌味じゃねえんだからすごいよな」
「? 褒めてるんだが?」
「分かってるよ。どーもありがとうございます」
とにかく人のいいところは褒めろと言った今世本人が微妙な顔をしてるのはどういった了見なのだろうか。そのまま俺の隣に腰を下ろした今世は、疲れたように空を見上げる。
「けど、いい事知ったな。ここなら怪異もいねえし……てか、さっきから人来ないなと思ったらそういう事だったのか?」
「事故防止のために普段は閉鎖されてるらしいな」
「そんなところに勝手に鍵持って入ってきたのか?!」
「表向きは鍵は紛失扱いになってる。安心しろ。後で怪異に拾わせて職員室に返させる」
「怪異をそんな扱いするなよ」
「お前は怪異に優しいのかどうか分からないな」
最初は視界に入れるだけで泡を吹いて倒れていた今世だが、一緒に行動する内に多少、ハムスターサイズの無害な怪異だったら視界に入れても耐えれるようになっていた。
流石に担任の頭の上に巨大な生首が乗っていた時は叫び声を上げていたが、この調子なら真顔で流すくらいにはなるかもしれない。
俺は人間と仲良くなるため、今世は怪異に慣れるために俺たちは一緒に行動することになった。
普段一人で行動することが当たり前だった俺にとって今世といる時間は新鮮だ。
多分、楽しい。のだと思う。ただ、次の休み時間は今世に何をさせようかと考えたりしてつい授業中もぼんやりとしてしまっては何度か担任に怒られることも屡々あり、そこは困っていた。
クラスメイトたちに混ざって窓の外、真っ直ぐに浮かんでいた女子生徒が声なく笑っているのを一瞥し、俺は再び目の前のボードに集中することにする。
学校内は生徒数と同じくらい、下手したらそれ以上の怪異が存在している。
意思を持って生徒のように振る舞う者もいれば、意思すらなくただ設備のように存在する者まで様々だ。
人間の思念体から出来た事象が怪異だとすれば、元人間は幽霊と呼ぶ。
これからは歴とした元人間だった者たちで、怪異よりも意思疎通を図ることは難しくない。が、この世に長く留まり続けることにより自律できずただの悪霊と成り果てた者も少なくはない。
理性のない、それでいてこの世に執着している悪霊程質が悪い者はない。そして、学校という場所ほどそういった悪霊は少なくはない。
「……はー……っ、キツ……お前よく今日平気だったな。窓の外見たか? ずーっとお前のこと見てただろ、あの子」
「ああ、女子生徒の霊か。あれは悪霊だ。目を合わせるなよ」
「えっ? 俺一回がっつり目が合ったんだけど、ま、まじかよ」
「まあ、お前のところにはあのお兄さんがいるから大丈夫だろうが」
ホームルームが終わり、学校から帰る途中。
今世の実兄、今世絢は厄除け体質――というより強力な守護神が憑いている。霊感体質のこいつが護られていないのは哀れではあるが、一つ屋根の下でいればその恩恵も受けれるだろう。
現に今世は憑いていないし、今世と一緒にいると力の弱い怪異も近寄ってこないらしい。普段下校中毎回感じる付き纏われるような感覚もない。ただ離れたところから絡みつくような視線を感じるのみだ。
「……っ、それにしても、お前は逆に今までよく一人で頑張ってきたよな。俺だったら頭おかしくなってるって」
「俺の父もその手のことには理解ある人だったからな」
「ああ……そういう。それなら心強い……か?」
「それに、もう慣れた」
「……ふーん」
いつでも饒舌な今世だが、珍しく歯切れが悪い。
「お前もそのうち慣れる。任せろ」
「任せろ……って言われちゃあな」
それから今世はすぐに「じゃあ、頼むわ」といつも通りの笑顔を浮かべた。ちょっと困ったような笑顔。
俺はその笑い方がなんとなく好きだった。
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