4 / 23
真欺君は普通じゃない
02
しおりを挟む天国荘の大家さんとは一度だけ会った。
鍵をもらいに行くついでに鮮花さんに挨拶だけさせられたのだ。
大家さんは101号室に暮らしている。そこは管理人室にもなってるらしく、困ったことがあれば101号室の扉を叩けということだった。
因みに、大家さんとやりとりしたのは扉越しだったので顔は知らない。声も知らない。ただ真っ白な手だけが伸びて俺に鍵を渡してきた。
そのあと鮮花さんが世間話をしていたが、側から見れば鮮花さんが一人でベラベラ喋っているだけだった。
鮮花さんが俺以外の人に饒舌になってる姿を見たのは変な感じだったが、多分大家さんは悪い人ではないのだろう。
起床し、登校の準備をする。
今朝はバタバタすることを見越して予め用意していたパンを齧り、制服に着替えた。
昨夜現れた子供の姿はないが、また夜にでも顔を出すのだろう。
なんて思いながら真新しいブレザーに袖を通す。そしてそのまま俺は部屋を出た。
扉を開けた瞬間、たくさんの色と音が飛び込んでくる。
まるで、隔離された部屋の中からようやく世界へと繋がれたような感覚だ。
けれど、俺にとっては些か騒がしすぎる。
陽射しの眩しさに目を細め、俺は天国荘を後にした。隣の部屋から悲鳴のような声が聞こえてきたが、きっとこれもいつものなのだろう。
だって、このアパートは完全防音なのだ。
因みに、俺の部屋は二階の『203号室』だ。両サイドの住人にはまだ会えてないが、鮮花さん曰くこのアパートでは基本ご近所付き合いをしたがらない者が多いという。
だから、お前には丁度いいだろうと。
正解だ。
「いってらっしゃい」
天国荘を出ていこうとしたとき、どこからともなく声が聞こえてきた。振り返れば、巨大な薄い膜のようなものが天国荘全体を飲み込んでいた。
その膜に浮かぶ目玉が二つ、俺をぎょろりと見つめては笑う。
俺は会釈だけしてその場を後にした。
今まで鮮花さんと暮らしていた田舎町でも人ではないものはたくさんいた。
けれど、たくさんの人間が集まるこの都会ではまた違うタイプの怪異が多いようだ。
人の頭の上を忙しなく掛けていく雨雲は負の感情を撒き散らし、車に擬態したスライムのような生き物は上機嫌に歌っている。
誰もがそれらに気付いていないかのように早足に立ち去っていくのを横目に、俺もその人の群れに混ざることにした。
学校では入学式とクラス発表があった。それから各教室に移動し、簡単に自己紹介をするといういつもの流れになる。
「鮮花……真欺です。よろしく」
名前順だから毎回俺は頭の方で挨拶し、それから席についた。後は他の生徒たちの挨拶を適当に聞き流す時間になっていたのだけど。
着席後、俺の次に挨拶するはずの生徒が反応しなかった。
「今世君?」と女教師に促され、「あ、はい」と慌てて後ろの席の男は立ち上がる。
「今世塔――よろしくお願いします」
やたら顔色が悪い男がそこにいた。
見たところ運動が得意そうな、健康優良児といった生徒だが――と思いながら椅子を動かして振り返れば、ふと目があう。そして、直ぐ逸らされた。
ああ、と思った。
――この男、視えるのか。
それから最後まで滞ることなく自己紹介は終わる。
それから簡単なホームルームを終え、午前中に解放されることになった。
今世、と言ったか。あの男はホームルームが終わるなり、そのままそそくさと教室を後にした。
もしかしたら話が合うかもしれない、と思っていただけに少し残念だったが、まあいい。俺は諦めて教室を出ようとして、ふと窓ガラスに写った自分の姿を一瞥した。
両肩、頭部にまで覆いかぶさるようにのしかかってくる無数の子供。ぺちぺちと顔を叩いてくるそれらをそっと教室に放ち、俺は先程よりも軽くなった体で学校を後にした。
70
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
お前ら、、頼むから正気に戻れや!!
彩ノ華
BL
母の再婚で俺に弟が出来た。義理の弟だ。
小さい頃の俺はとにかく弟をイジメまくった。
高校生になり奴とも同じ学校に通うことになった
(わざわざ偏差値の低い学校にしたのに…)
優秀で真面目な子と周りは思っているようだが…上辺だけのアイツの笑顔が俺は気に食わなかった。
俺よりも葵を大事にする母に腹を立て…家出をする途中、トラックに惹かれてしまい命を落とす。
しかし目を覚ますと小さい頃の俺に戻っていた。
これは義弟と仲良くやり直せるチャンスなのでは、、!?
ツンデレな兄が義弟に優しく接するにつれて義弟にはもちろん愛され、周りの人達からも愛されるお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!
彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど…
…平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!!
登場人物×恋には無自覚な主人公
※溺愛
❀気ままに投稿
❀ゆるゆる更新
❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる