魔王城は本日も平和です。

田原摩耶

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ep.2 異世界オイルマッサージ(触手用)

頼れる同僚たち

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 カイネに手伝ってもらい触手にオイルマッサージを施したあの日からというものの、触手たちは以前よりも元気になっていた。
 そりゃもう多少枕にしてもそのまま凹んで潰れかけたりするどころか硬すぎるぐらいバキバキになったりと。
 それはそれで寝にくかったが、元気はないよりある方がいい。

 が、問題はいくつかあった。



「……うーむ」

 大前提として、この世界には女が存在しない。
 そんな地獄のような環境ではあるが、なんとかそんな劣悪な環境にも慣れ始めていたというのに。
 例えばちょっと昼寝する。そんで、起きたら下半身がイラついて仕方ない、なんてことが多くなった。
 内容はよく覚えていないが、なんかやたらとエロい夢を見るようになったのだ。ぜってーそれのせいだ。
 オナニーでもして一時的に性欲は解消されるものの、流石魔族というべきか。三大欲求も人間の時とは比にならない。

 由々しき問題であることは間違いない。
 ということで、ここはもう性欲を司る四天王の先輩を頼ることにした。



 ――魔王城・円卓の間。
 四天王会議がない時は幹部クラス以上の談話室と化している円卓の間は現在二つの席は相変わらず空席のままで、魔王様の席も代理のぬいぐるみが転がっている。
 それを尻目に俺とヒューゴは隣り合って円卓にておやつをつついていた。今日の三時のおやつは人間界で人気だというクッキーの詰め合わせだ。
 うーん、故郷の味がする。多分。
 ……って、やべ。忘れてた。ヒューゴさんに話があってきたんだった、俺。

「ヒューゴさんって、性欲溜まったらやっぱ筋トレするんすか」
「な、何いきなり言い出すんだよ?!」
「や、気になって」
「君はなんでも気になる年頃なのか? そもそも、そう言った話はオープンの場でするもんじゃないだろ」
「ええ……」

 その辺の魔族は寧ろ性に奔放と言うか大っぴらと言うか恥じらいがないってのに、相変わらずヒューゴは変なところで堅苦しいっつーか、照れ屋というか。
 クラスの下ネタ苦手な真面目君を思い出しつつ、「そこをなんとか」とさくりとクッキーを齧る。

「それに、そう言う話はズハオの方が詳しいんじゃないか?」
「ズハオ、あいつはちょいちょい部屋に連れ込んでるじゃないっすか。この前その場面遭遇して聞くの気まずいんすよね」
「そんなことがあったのか……まったく、あいつは変わらないな」

 頭を痛めるヒューゴを見て、そこで俺はハッとした。
 日頃から麻痺しかけていたが、あの時抱いていた相手も男になるのか。男を抱くっていう脳がなかっただけに想像に及ばなかったが、何故かカイネが頭を過っては慌てて振り払った。

 やめろやめろ、思春期か俺は。
 つうか、確かにあいつの声もやばかったな。どっから声出てんだとか、目隠し越しだったからこそ余計なんか変な想像掻き立てられてるってか、やばいまたムラついてきた。

「……男って、実際どうなんすか?」
「え。いきなり何言い出すかと思ったら……」
「別に……気になっただけっすけど」
「どうも何も、俺たちの場合は君のように男とか種族を気にしないからな。まあ、子作り目的となれば話は変わってくるだろうけど……」

「俺は、思い合ってる子とだけそういうことをするべきだと思うけどな」とヒューゴはうんうんと頷いている。そういやこの人純愛派だったんだ。
 その割に抱き潰してトラウマになってるらしいが、そんな淫魔が言うのだからまあ確かに?とも思えてきた。

 でも、目隠しして顔すら見えない状況だったらイケんのかな。誰とでも。

「……」
「あ、そうだ。カイネとは最近どうなんだ? 彼、君の親しかっただろ」
「え? どうって」
「彼に頼み込んでみたらいいんじゃないか、抱かせてくれって」

 思わず食いかけクッキーを落としそうになる。
 この人、天然でこれだからこえーよ。

「……いや、あの、あいつはそういうんじゃないんで」
「ええ? でも、彼は君のことを好意的に思ってるだろ?」
「そりゃまあ……」

 あいつは昔からの腐れ縁で、この世界で唯一現実の俺と関わりあるやつで、それで――なんだ?

 そこまで考えてフリーズした時、ニヤニヤとヒューゴが笑っていることに気づいた。

「……なんすか」
「いや? いいじゃないか。人間みたいで」
「……」

 魔族のあんたに言われると嫌味みたいだな。いや、元人間ですけども。
 なんだか居心地が悪くなってきた。丁度そんなとき、円卓の間の扉が開く。
 扉の奥から浮かび上がるのは大きなシルエットだ。その頭部には二本の太い角が生えている。

 ――四天王の一人、竜人族の社畜もといボドがそこにいた。

「げ。おいガキども、ここで菓子食うなっつってんだろうが」
「あ、ボドさん。久しぶりっす」
「今回お仕事忙しそうだね、ボド」
「まあ、ぼちぼちな。……ったく、人カスのくせにイカサマ疑ってきやがって面倒なんだよ。こっちはわざわざ法を学んできてバレねえようにやってきてるってのに」

 じゃあイカサマしてんのか、と突っ込みかけたがボドの眼力で殺されかねないのでやめておく。
「ボドさんの食えるもんないっすよ」と声をかければ、「今用意させてる」とシャツの襟を緩めながら空いていた席にどかりと腰をかける。

「お疲れだ、ボドさん」
「教育してた新人たちも使い物にならねえから俺が表出て台回すハメになったんだからな? この俺がだ」
「ボドさんがディーラーって、せめて黒服でしょ」
「黒服もした。バニーも彼氏とのデートあるから休みたいとか言い出したから給仕も俺がした」
「……っ、ふ……」
「おい、ヒューゴなに笑ってやがる」
「い、いや、ボドさんって真面目だなって……」
「誰かさんらの飯を賄わねえといけねえからなあ? ペットが増えるから餌代もあるんだわ。なあルーナ?」
「……ざっす」

 顔こえーし圧あるけど、魔王の側近ってことで一番責任感あるしいい上司ではあるんだよな。多分。こえーけど。目合わせたくねえけど。

「最近の若者は声が小せえんだよ。……ま、ルーナは元々そうだっがな」
「なんなら、今のルーナのが口数多いしな」

 先代ルーナトークにしんみりとした空気になってるところ、ふとボドはこちらへと視線を投げかけてくる。

「今度職業見学でもするか? お前のペットはどうだ。暇してんなら寄越せよ。……お前でもいいけどな」
「え、それって……」
「ボドさん、それってルーナたちを人間たちのところに連れて行くってこと?」
「ここにずっと引き篭もってても張り合いねえだろ。それに、なんだ? 溜まってんだって?」
「……げ、聞いてたんすか。アンタ」
「俺の聴力舐めんなよ。筒抜けだと思え。……ま、そういうのも含めて経験だ。人間の使い方を覚えた方がこの先やりやすい」
「ボドさん、悪い遊びルーナに教えようとしてない?」
「してねえよ。等価交換だ。俺はお前の触手とペットを借りる。んで、お前は特別好きにさせてやってもいいって感じでな」

 結局人手不足をなんとかしたいらしい。これは面倒臭そうだ。しかも酒が入ったボドさんは更に面倒臭くなる。
 絡まれるのを察知し、俺は「善処しまーす」とだけ答え、こっそりとそのまま円卓の間を後にすることにした。
「逃げやがったな、ガキ」とボドの声が聞こえたが、無理矢理引き戻されることはなかったのでよし。



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