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第六章『山邊先生の更生指導室』
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「話し合いっつったって、時間、限られてるんだろ」
そんなことしてる場合かよ、と眼球を動かして周子を睨めばやつは「そんなときだからこそ、って言ってるだろ」と眉を吊り上げる。
……怒っている。周子のくせに。いや、やつも焦っているのだろう。
「そもそもだよ。本当に木賀島君がターゲットの予定だったって言うなら木賀島君の言う通りこのステージ自体成り立たないはずだよ」
「……」
「でも、だからって木賀島君がここで……その、切断したからといってちゃんとクリア判定されるかどうかは不明だし」
「どういう仕組みかは分からないけど、この機械。さっきの衝撃で判別つかないくらいボロボロだしね」そう自分を落ち着かせるように口にする。
その言葉に不意に俺は先程マネキンの一部を拾ったことを思い出した。
――まさか、あれか。あれが何かしらゲームの進行を乱す原因になってるとしたら。
「周子……つまりお前は、このゲームは不成立になるって言うんだな」
「可能性としてはある。一番最悪なのは君たちが身を呈したあと、後出しで全員罰されることになるってことだよ」
「そんなのに賭けろって? ……それだったらさあ、いっそのこと俺と宰、一緒に指落とす?」
「そんなことしちゃったら俺、宰のこと支えてあげられなくなっちゃうけどねえ」緊張感のない声が響く。洒落になんねえことを言いやがる、こいつは。ただでさえそんな時間もねえってのに。
四択――実質二択の中から一つを選ぶ。ミスれば全員死ぬ。時間はない。
「……っ、進藤」
「ぅお、どうした?」
「俺のポケットの中、見ろ。……機械が入ってる」
突然何を言い出すんだ、と三人の目がこちらを向く。今は一分一秒でも惜しい。
あの壊れたマネキンの中から零れ出た一部だ。
「さっさとしろ!」と進藤を怒鳴れば、進藤は驚いた顔したあと「へーへー」と俺のスラックス、そのポケットに手を突っ込んだ。
「んお、なんか入ってんな……なんだこのちっこいの」
「それを壊せ、早くしろ」
「え、壊すっつったって」
「踏むとかあるだろ!」
一分を切り、残り三十秒。この時間から切断は難しい。怒鳴られるがまま、小さなその機械――何かしらのセンサーらしき小型の部品を床に転がした進藤はそのまま思いっきり靴の裏で踏み潰した。呆気なくそれはぱきりと音を立てて粉々に砕ける。
瞬間、耳を劈くようなブザー音が響く。脳が割れそうなほどの警告音。時計の秒針が進む前に針は動きを止め――そして、スクリーンにいっぱいに『ERROR』の文字が表示される。
「ま、待って、右代君――何したの?!」
「……知らねえ」
「知らねえって……」
「お前が言い出したんだろ、『このゲームは成り立たない』って」
「だから、ついでにおまけしておいたんだよ」自分でも無茶苦茶なことを言ってる自覚はあったし、あんぐりと口を開いたまま固まる周子の表情からもそれはありありと理解できた。
けれども。
「それさあ、危険要素が増えただけじゃね?」
なんて、木賀島が口にしたのと同時だった。ガチャリと音を立てて手足の拘束が外れた。
「え、右代君、君……」
「……っ、勝った……のか」
「まじかよ! つか俺が今踏みつけたこれ、なんだったんだよ」
「それは知らねえけど……周子?」
険しい顔をしたまま周子は押し黙る。そのまま椅子から立ち上がる俺。そんな俺を他所に、木賀島は職員室の扉を確認しにいっていた。
「大抵のシステムって緊急時のときのための抜け道用意しておくものだけど……もしかしたら運良くそれを引いたのかもしれない。けど、その場合って大抵――」
それから先は周子は口にしなかった。
が、言わんとしていることは分かる。
大抵の場合はシステムエンジニアが存在し、そのシステムを修復を行う。けれど今回のは事故のようなものだ。
ゲーム中止、或いは……。
「んぁ、あれえ? でも扉開いてねえんだけど」
そう言いながらガチャガチャ出入り口の扉を開こうとし、蹴り上げる木賀島。その天井部分から何やら機械が現れるのを見た。あれは、何か薬物を散布するためだけの機械。篠山が死んだ学習室で見た、あのクソみてえな――。
「おい、木賀島……っ!」
離れろ、いや違う。脱出できる場所を探さねえと。駄目だ、間に合わねえ。扉の側にいた木賀島の首根っこを掴んだと同時に、室内に『なにか』が散布され始める。ミスト状のそれは空から降り注ぎあっという間に室内を満たしていった。
そんなことしてる場合かよ、と眼球を動かして周子を睨めばやつは「そんなときだからこそ、って言ってるだろ」と眉を吊り上げる。
……怒っている。周子のくせに。いや、やつも焦っているのだろう。
「そもそもだよ。本当に木賀島君がターゲットの予定だったって言うなら木賀島君の言う通りこのステージ自体成り立たないはずだよ」
「……」
「でも、だからって木賀島君がここで……その、切断したからといってちゃんとクリア判定されるかどうかは不明だし」
「どういう仕組みかは分からないけど、この機械。さっきの衝撃で判別つかないくらいボロボロだしね」そう自分を落ち着かせるように口にする。
その言葉に不意に俺は先程マネキンの一部を拾ったことを思い出した。
――まさか、あれか。あれが何かしらゲームの進行を乱す原因になってるとしたら。
「周子……つまりお前は、このゲームは不成立になるって言うんだな」
「可能性としてはある。一番最悪なのは君たちが身を呈したあと、後出しで全員罰されることになるってことだよ」
「そんなのに賭けろって? ……それだったらさあ、いっそのこと俺と宰、一緒に指落とす?」
「そんなことしちゃったら俺、宰のこと支えてあげられなくなっちゃうけどねえ」緊張感のない声が響く。洒落になんねえことを言いやがる、こいつは。ただでさえそんな時間もねえってのに。
四択――実質二択の中から一つを選ぶ。ミスれば全員死ぬ。時間はない。
「……っ、進藤」
「ぅお、どうした?」
「俺のポケットの中、見ろ。……機械が入ってる」
突然何を言い出すんだ、と三人の目がこちらを向く。今は一分一秒でも惜しい。
あの壊れたマネキンの中から零れ出た一部だ。
「さっさとしろ!」と進藤を怒鳴れば、進藤は驚いた顔したあと「へーへー」と俺のスラックス、そのポケットに手を突っ込んだ。
「んお、なんか入ってんな……なんだこのちっこいの」
「それを壊せ、早くしろ」
「え、壊すっつったって」
「踏むとかあるだろ!」
一分を切り、残り三十秒。この時間から切断は難しい。怒鳴られるがまま、小さなその機械――何かしらのセンサーらしき小型の部品を床に転がした進藤はそのまま思いっきり靴の裏で踏み潰した。呆気なくそれはぱきりと音を立てて粉々に砕ける。
瞬間、耳を劈くようなブザー音が響く。脳が割れそうなほどの警告音。時計の秒針が進む前に針は動きを止め――そして、スクリーンにいっぱいに『ERROR』の文字が表示される。
「ま、待って、右代君――何したの?!」
「……知らねえ」
「知らねえって……」
「お前が言い出したんだろ、『このゲームは成り立たない』って」
「だから、ついでにおまけしておいたんだよ」自分でも無茶苦茶なことを言ってる自覚はあったし、あんぐりと口を開いたまま固まる周子の表情からもそれはありありと理解できた。
けれども。
「それさあ、危険要素が増えただけじゃね?」
なんて、木賀島が口にしたのと同時だった。ガチャリと音を立てて手足の拘束が外れた。
「え、右代君、君……」
「……っ、勝った……のか」
「まじかよ! つか俺が今踏みつけたこれ、なんだったんだよ」
「それは知らねえけど……周子?」
険しい顔をしたまま周子は押し黙る。そのまま椅子から立ち上がる俺。そんな俺を他所に、木賀島は職員室の扉を確認しにいっていた。
「大抵のシステムって緊急時のときのための抜け道用意しておくものだけど……もしかしたら運良くそれを引いたのかもしれない。けど、その場合って大抵――」
それから先は周子は口にしなかった。
が、言わんとしていることは分かる。
大抵の場合はシステムエンジニアが存在し、そのシステムを修復を行う。けれど今回のは事故のようなものだ。
ゲーム中止、或いは……。
「んぁ、あれえ? でも扉開いてねえんだけど」
そう言いながらガチャガチャ出入り口の扉を開こうとし、蹴り上げる木賀島。その天井部分から何やら機械が現れるのを見た。あれは、何か薬物を散布するためだけの機械。篠山が死んだ学習室で見た、あのクソみてえな――。
「おい、木賀島……っ!」
離れろ、いや違う。脱出できる場所を探さねえと。駄目だ、間に合わねえ。扉の側にいた木賀島の首根っこを掴んだと同時に、室内に『なにか』が散布され始める。ミスト状のそれは空から降り注ぎあっという間に室内を満たしていった。
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