七人の囚人と学園処刑場

田原摩耶

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第六章『山邊先生の更生指導室』

08

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 保健室を後にした俺達は、当時の記憶を辿るように辺りを散策する。
 杖に慣れていない木賀島は周子に任せ、俺と進藤は先になにかがないか見て回る。そんな二手の体制が自然と出来上がっていた。

「確か、職員室もこの辺だったよな――っと、噂をすればなんとやらってか」

 目の前、『職員室』とプレートをぶら下げた扉が視界に入る。扉の前、立ち止まった進藤はこちらを振り返り「こっちこっち」と手を振ってきた。


「……見たところ、昔のまんまだな」
「だよな。ほら、ここの掲示板とかさ、ポスターわざわざ刷り下ろしたっぽくね?」

 言われて、進藤の指す方に目を向ける。
 職員室の前の通路には生徒向けに様々な季節イベントや催物、手洗いうがい促進系のポスターなどが貼られる場所がある。そして、どれも進藤の言う通り年季を感じさせない真新しさがあった。

「しかもこれ、この年って俺たちが卒業したときのやつだよな。卒業式のポスター」
「……そうだな」
「わざわざ作ったのだとしたら、なかなかだな」
「……」

 二年前。二年前の再現のため、わざわざ新たに当時を再現しようとしているのか。
 他の掲示物を調べていると、扉へと近づいていった進藤は職員室の中を覗こうとしていた。

「おい」
「あ、やっぱり周子たち来るまで待った方がいいか?」
「……またいきなり分断されても面倒だからな」
「ま、確かにそうだけどさ」

 納得したのかしてないのか、止めればあっさりと手を離した進藤はそのままずるずると職員室の扉を背に座り込む。

「……はぁ」
「なんだよ」
「なんか、本当に生きて出れんのかな。ってさ、俺たち」
「……」

 今更それを言うのか。
 学習室からなんとなく空元気にすらなれていないと思ったが、そんなことを考えていたとは。

「珍しいな、お前が悲観的になるなんて」
「流石にな。篠山とはそんなに仲良かったわけじゃないけど、ここに閉じ込められてからずっと行動してたじゃん。なんか、もしかしたらあそこにいたのは俺かもしれないなって思ってな。余計生々しいってか」
「そんなの、ここにきたときからそうだっただろ。……お前は楽天的すぎだ」

 指摘すれば、進藤は「確かにそうかも」と力なく笑うのだ。それから、こちらを見上げる。

「なあ、右代。お前は怖くないのか?」
「……なにが」
「死ぬかもしれねーって」

 それを言えば、目を覚ました時から何度も感じてきた。心臓から押し出される血液も、肌をひりつかせるような感覚も全部。

「怖くない、わけじゃない」
「……へえ?」
「けど、ここでどっかの誰かの思い通りに死ぬつもりもない。それだけだ」
「はは、なんだよそれ。……右代はやっぱ右代って感じだよな」

 お前のその反応の方がなんだそれではあるが、疲れたように笑う進藤相手にやり合う気もなれなかった。

「別にお前がどう思おうが、どう感じようが構わないけど……ヤケにはなるなよ」
「……そうだな。一人減るだけでもだいぶ変わるしな」

 それだけではない、と言いかけてやめた。
 多分、今のこいつに何言ったところで焼石に水のような気がした。外野がとやかく言ったところで、咀嚼して判断するのは本人だ。
 そして今、進藤のやつはあまりにも身近に起きた死に大しての咀嚼が上手くいっていない。
 普通の人間だったらそうなのかもしれない。――木賀島はともかく。

 俺たちの間に沈黙が流れる。それからまた暫くして、木賀島と周子の声が聞こえた。あいつらは騒がしいのですぐに分かる。

「あーっ、宰と篤紀みっけ~~」
「はぁ……はぁ……っ、ちょっと木賀島君、いきなり走るのは危ないから……ってほら! 転ぶからっ!」

 平衡感覚失った木賀島相手には手を焼かされていたようだ。思ったよりもかかった時間と、周子の疲れ具合からそれは見てとれた。

「……って、ここ、職員室?」
「ああ。……まだ中は見てない。一応、お前らが来るのを待ってた方がいいと思ってな」
「確かに、何が起きるかわからないからね」
「んじゃさっさと入っちゃおうよぉ。どうせまたなんかやらされるんでしょ? さくっとやってさくっと終わらせちゃお」

 木賀島と同じ考えではあるが、こいつの場合は気楽すぎるのだ。……塞がれるよりかはマシだが、これもこれで考えものだな。
 そうだな、とだけ同意し、俺は職員室の扉を開いた。
 そして、固まる。

 記憶のままの職員室の中。沢山のデスクと散乱する書類。本来ならば日差しが差し込んでくるはずの窓は相変わらず鉄板で塞がれ、その代わりに鉄板の上には雑な窓の絵が描かれた紙がべたべたと貼られた。
 ……俺が反応したのはそこではない。職員室の中には、俺たちの以外の人陰があったのだ。――否、正確には“人を模した形”のそれが。

「右代君、どうしーーっうわ!」
「おわ、なんだこれ。……マネキンか?」

 職員室の中には、まるで時間が止まったかのようにそれぞれ仕事に励む教師を再現したらしいマネキンが置かれていたのだ。
 一体二体だけではない、ざっと十体以上はある。そして、そのマネキンの全てが俺たち――入り口の方を見ていたのだ。
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