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第四章『七人目の囚人』
【side:周子】
しおりを挟む「ねぇねぇルイ、三人とも遅いねえ」
「そうですね」
「もしかして陽太辺り死んでんじゃないかなー」
「それはどうでしょうか」
「何それ?ルイは誰が死んでると思う?」
「なんだかんだ皆帰ってくると思います、俺は。皆さん、悪運が強いようなので」
「あ、確かに~~」
「……」
それにしても、木賀島君はどうしてこうも人の神経を逆撫でするようなことを言うのだろうか。
不思議でならないが、確かに三人が遅いのは気に掛かった。
「委員長は?誰に死んでほしい?」
不意に、木賀島君がこちらを振り返る。
それは憶測でもなんでもなく、ただの悪口も同然の問い掛けで。
「そんなの…いるわけないじゃないか」
「へぇ、意外~。委員長なら真っ先に宰のこと挙げそうだったのに~」
「…あのね、確かに彼は問題があると思うけれどそれと死んでほしいということには直結しないよ」
「ふーん、宰の可愛い姿見て考え方変わっちゃった?」
一瞬、木賀島君の言葉の意味が理解できなかった。
「右代宰が可愛いと結びつかないと思いますが、普通」
「まぁルイには分かんないだろうねえ。けど、宰は本当可愛いんだよぉ~~?動きとかたまにまじ凶暴だけどジタバタしてると本当小動物みたいでさぁ」
「木賀島君ッ!」
聞くに耐えれず、気が付いたら大きな声を上げていた。
驚いたようにこちらを見る2人。その視線が痛かったが、それでも、大人しく聞き流せなかった。
「…君は、記憶がないんじゃないのか?」
「ふふ、委員長も信じてたのぉ?それ」
「ウケるんだけど~」と笑う木賀島君に全身の血が熱くなる。
目を見開く僕に、木賀島君はクスクス笑いながらこちらを見た。
「覚えてるよぉ、全部」
「委員長がガツーンって俺を殴ったのもねえ」そう、笑う木賀島君に背筋が凍るのを覚えた。
恐怖とも怒りとも違う、なんだろうか、この不快感は。
「なぜ無益な嘘を吐くようなことを」
「だって宰が面白かったからさ」
「君の思考は理解し難いですが、今に始まったことではありませんか」
「あは、ルイってば分かるー」
「呆れてるんですよ」
右代君には、このことは言わないでおこう。その方が少しは心中穏やかでいれるはずだ。
そう思って、わざわざそんなこと考えてる自分に驚く。
右代宰の心中を察するなんて、以前なら微塵も考えなかったけれど。
笑う木賀島君の横顔を見てると、あの時の右代君の声が鼓膜に染み込んで剥がれないのだ。
これは、僕の平穏のためだ。右代君には大人しくしてもらいたい。そう、自分に言い聞かせることにする。
「それにしても、本当に遅いですね」
「的屋ってことはーもしかして撃ち合いやってたりしてねえ」
「木賀島君…縁起でもないことは言わない方が…」
「せめて中の様子が分かれば自分たちも動けるのですが」
そう、扉に近付く篠山君。先程何度も確認したその扉はやっぱり開かない。
「もっかい小銭で鍵開けたら使えたりしてねえ」
そう、笑う木賀島君は転がっていた百円を弄びながら扉に近付く。
そして、その扉の下部、取り付けられた鍵穴に小銭を押し当てた時だった。
ガチャリと音を立て、鍵穴が回った。
「…」
「…」
「………マジ?」
流石の木賀島君も想定外だったようで、その笑顔は見事に引き攣っていた。
「でかしましたね、那智」
「早速扉を開けてみよう」
「はい」
僕と篠山君は右代君が出ていったはずのその扉を開ける。そして、息を飲んだ。
扉の向こう、そこには真っ暗な闇が広がっていた。
「ちょっと…これってさぁ、どういうこと?」
「どういうことも何もそのままではないですか?通路はないと」
「…エレベーター式ってことか」
「じゃあさじゃあさ、無理じゃん。危ねーし閉めとこうよ、ここ」
言うなり、木賀島君は扉を開いた。
彼のいう事は最もだ。僕たちが降りたところでまともに着地する保証はない。
「他の扉はどうでしょうか」
篠山君の言葉にハッとする。
そうだ、三人は別々の扉から進んだ。それならば、と右隣の――旭君が進んだ扉を調べる。
「……こっちも同じ造りみたいだね」
右代君の通った扉同様、右隣の扉の奥には闇が広がっていた。
「篠山君、そっちは……」
左隣、進藤君の進んだ扉を調べていた篠山君に声を掛ける。
「こっちもどうやら……」
同じようですね、と篠山君が言い掛けた時だった。
どこからともなく奇妙な音が聞こえてくる。
それは地下から競り上がってくるような、振動を伴った音で。
「ルイ、危ないっ!」
そう、木賀島君が篠山君を扉から引き離した時だった。
何もなかったそこに、部屋が現れる。正確には、エレベーターの機体と言うべきか。
「これは……」
「ありがとうございます、那智。……それにしても、雑な造りですね」
「ま、これに挟まって死んでくれたらラッキーって感じなんじゃないの?」
「……」
流石の篠山君も危機感を覚えたようだ。
不快そうに眉間を寄せる篠山君の顔色は些か良くない。
「……どうして、進藤君の扉だけ機体が戻ってきたんでしょうか」
そして、篠山君はぽつりと口にした。僕がなるべく考えたくなかった、その疑問を、口に。
「まさか、篤紀ってば死んじゃったのかなぁ?」
木賀島君の不謹慎な言葉に「そんなわけないだろ」と言い返すことも出来なかった。
僕自身が正直、それを連想したからだ。
「…」
悩んでる暇はなかった。開いた扉に手を掛け、戻ってきた機体に乗り込もうとした時、篠山君に袖を掴まれる。
「篠山君」
「確かに気になるでしょうが、些か危険だと思います」
「…大丈夫、それにこの機体はちゃんと戻るような仕組みになってるみたいだしそのまま取り残されることはないだろうから」
「戻ってくるのが空の状態前提だとしたら?」
「……」
「また同じ所に辿り着く確証もありません」
篠山君の言葉は正論だ。
だけど、こんな状況下、正論愚論で動いている場合ではない。
「僕が戻ってこなくて皆が先に戻ってきた場合、僕のことは待たなくていいよ」
「周子宗平、君はもう少し冷静な人だと思っていました」
「…僕は…」
「一人では危険です。自分たちも同行します」
「達ぃ~~?って、え、なに、俺もぉ?」
「あの二人にはメモでも残しておけば大丈夫でしょう、ほら、ここら辺を傷つければ書けなくもない」
言いながら、サイドテーブルをコインで傷付け始める篠山君。
人のことは言えないのではないだろうか。と突っ込まずにはいられなかったが、それでも、冷静とはいえない判断だがそれが嬉しく感じたのも事実だった。
「一人では何かあっても何も出来ませんからね」
一緒に行きましょう、と篠山君はエレベーターに乗りこんだ。
続けて、篠山君に引っ張られるような形でやってきた木賀島君の僕ら三人を乗せたエレベーターは降下を始める。
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