作り物は嫌ですか?

田原摩耶

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金属バットとラブレター

03※異物挿入、肛門破壊

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 放課後、体育倉庫。
 なにかあったときのために近くに体格のいいパシりたちを待機させ、御厨要人を待つこと数分。
 指定した時間、指定した場所に御厨要人は現れた。

 扉が開く音がして、地味な生徒が入ってくる。
 ピシャリと音を立てて扉を閉めた御厨は、こちらをゆっくりと見下ろした。いつも離れたところから後ろ姿ばかり見ていたから気付かなかったが、思いの外背が高い。伸びた前髪の下、二つの目が僕に向けられる。
 その目に見つめられた瞬間、何故だが背筋がぞわりと震えた。
 あいつはちっとも怯えていなかった。真っ直ぐにこちらを見つめ返してきたのだ。
 そして、やつは制服から今朝ボクが用意した手紙を取り出す。

「これ、君がいれたの?」
「そうだよ、すごく写りいいだろ」
「ブレてるけどね。もしかして緊張して震えてたのかな」

 立場をわかっていないのか、涼しい顔してからかってくる御厨に顔が熱くなる。
 見透かしたような言葉が癪に障る。
 腸が煮え繰り返りそうになるの堪え、平静を取り繕いながら、「でもまさか御厨君が噂のあれだったなんて」と強引に会話の流れを変えることにした。

「榛葉郁のボディーガード、なんて言うからもっと厳ついのかと思ったけど御厨君ひょろいじゃん。ほんと、世の中ってわからないよねえ」

「ここ一年、在校生をいじめて自主退学に追い込んでる人が目の前にいるんだもん、こうなったらせんせーたちに言わないとなあ」そう、にやにやと笑いながらボクは目の前の御厨を見据える。

 御厨のことについて調べていたとき、もう一度不登校になった巳弥子の元へと向かったボクは巳弥子から色々情報を引き出すことに成功する。

『人気のある榛葉郁に醜聞が流れないわけ、それはその友人の御厨要人が榛葉郁につく悪い虫を潰していたから』

 初め、その話を聞いた時はあんなひょろい地味男がボディーガードだなんて甚だ信じられなかったが、昨夜のあれがその制裁が行われていた最中と考えれば納得がいった。
 悪い虫と判断されケツにペンぶっ刺された巳弥子には笑いしか出ないが。

「それで、なにが言いたいのかな」

 それでも、顔色ひとつ変えずに柔らかく微笑む御厨。相変わらず穏やかな口調ではあるが、間違いなく御厨要人は少なからず動揺はしているはずだ。それでも顔に出さない御厨はなかなか食えないやつなのだろう。
 ぴり、と空気が緊迫するのを感じる。ボクは緊張を悟られないよう、なるべくゆっくりと、尚かつ単刀直入に告げた。

「慶太から離れてよ」
「悪いけどそれは無理かな」
「御厨君、君、自分の立場わかってる? ボクは君を脅迫してるんだけど」

 バカなのか、それともなにか策があるのか。
 どちらかなんて判断つかなかったが、相手の考えがまるで読めない分、警戒する必要がある。

「この写真で?」

 そう尋ねてくる御厨に「そうだよ」と余裕ぶって頷いた瞬間だった。
 目の前に御厨の手が伸びてきて、そのまま乱暴に髪を掴まれる。
 引きちぎる、までとはいかなかったが頭皮を引っ張るその痛みはなかなか大きく、呻いたボクは髪を引っ張ってくる御厨の手首を掴んだ。

「っ……まさか、君、ボクにまで手を出すつもり?」
「まさか。……ただ、君の髪は綺麗だなって思って」

 なかなか口が上手いというか、タラシなのだろうか。
 状況が状況なら素直に喜んでいただろうが、今自分は相手を脅迫している途中であり、相手は何人もの生徒を退学に追い込んだ問題児だ。
 撫でるように髪を絡められ、そのままぐいっと引っ張られる。
 そして、御厨は制服の内ポケットに手を伸ばした。

「この長さなら、ちょっと切っただけで大丈夫だね」
「……っは?」
「あまりこういうので髪切ったことないから不安だけど、安心してよ。君が暴れない限り、この可愛い耳がちょん切れることにはならないから」

 御厨の制服から現れたのは安っぽいカッターナイフだった。
 目の前、カッターナイフを手にした御厨はチキチキチキとその刃を出し、微笑んだ。

 嫌な予感が脳裏をよぎる。
 御厨の後ろ姿しか写っていない写真。
 まさか、まさか、まさか。
 背筋に滲む嫌な汗。一つの可能性に心臓が握り潰されそうになった。

「蕪木佳夫君、だっけ? 渋谷君の言った通りだ。まさかこんな可愛い子が僕のこと嗅ぎ回ってたなんて。でもごめんね、渋谷君は郁君のものだから君には諦めてもらわなきゃ」

 申し訳無さそうな顔をした御厨がカッターナイフを近付けてくる。
 髪型が好きだと言ってくれた慶太のために伸ばしていた髪にその刃が触れそうになり、鼓動が加速した。
 気付いたら、体が勝手に動いていた。

「っ、やめろッ!」

 声を上げ、カッターを手にした御厨の手を跳ね退ければ、御厨の手からカッターが飛ぶ。そしてカッターはそのまま離れたところへ落ちた。
 御厨の手からそれが離れ、ほっと安堵したときだった。

「っぅぶッ」

 小さく舌打ちをしたと思えば、髪を掴んだ状態のまま御厨に腹を膝で蹴られる。鍛えていない腹筋に容赦無く叩き込まれる固い膝小僧に潰された胃から込み上げてくる痛みと吐瀉物。それらは堪える前に口から溢れ出した。

「っ、ゔぉ゙ぇッ

 嗚咽と同時に、開いた口から吐瀉物が溢れる。
 最後に食事して時間が経っていたお陰か吐瀉物に形はなかったが、逆流し、咥内いっぱいに広がる苦味と酸味が混ざった異臭と腹部の激痛に自然と涙が滲んだ。
 びちゃびちゃと足元に落ちるそれに眉を潜める御厨は薄く笑む。
 そして髪を掴んでいた手が離れたと思えば、今度は乱暴に壁に叩き付けられた。

「はッ、ぅぐ……ッ」

 上手く受け身が取れず、壁に背中を強打したボクは丸まるようにその場に座り込んだ。
 汚れた口許を拭うが、吐瀉物が飛び散ったせいか室内全体に異臭が充満して気分が悪い。
 はぁはぁと肩を使って息をするボクの目の前、近付いてきた御厨はボクの足を踏みつけた。
 走る痛み呻くボクに構わず、こちらを見下ろしてくる御厨はどこか申し訳無さそうな顔をする。

「僕、君みたいに友達思いな子は嫌いじゃないんだ。元のデータがあるんだよね? データを消してもう二度と僕たちに付きまとわないって約束してくれたらなにもしないよ」
「っ、ひゅ、にゃ、な゛んでぇ……ぼ、ぼぐ、が……」
「僕はお願いしてるんだよ。出来るだけ穏便にすませたいけど、君が聞かないっていうならこっちも手段選ばせてもらうけど」
「――いや、ら」

 ペラペラと饒舌な御厨にそう即答すれば、僅かに御厨は目を丸くさせた。
 そして、次の瞬間伸びてきた手に制服を掴まれる。

「そう、残念だよ」

 そして一言。そう残念そうな顔をした御厨に押し倒され、そのまま乱暴に制服を脱がされる。

「いっ、ちょ、や……っ!」

 面倒臭くなったのか、時折ボタンを引きちぎられながらも服をもぎ取られた。
 あまりの手荒さに堪えきれず、慌てて抵抗するが思ったよりも力が強い。覆い被さるように服を脱がされ、あっという間に全裸にされる。
 外と連絡を取るための携帯も一緒に奪われ、内心舌打ちを漏らさずにはいられなかった。
 季節が季節だからか、酷く肌寒い。

 こいつ、ボクを犯すつもりか。まあ、それなら好都合だ。
 このまま殴り合っても無駄だろうから、このまま精子搾り取って殴り返してやる。
 腕力には自信はないが、精力は人より盛んだと自負していたボクはこの展開に逆転のチャンスを見出だした。

「……御厨君って、えっちなんだね」
「まさか。僕は男の裸体に興味ないよ」
「むっつり強姦魔のくせに興味ないって」
「そうだね」

 そう興味無さそうに続け立ち上がる御厨はボクから離れた。
 隙を狙って殴りかかろうかと思ったが、御厨はすぐにこちらへと戻ってくる。
 痛む腹部を擦りながら、咥内に残った吐瀉物を床に吐き出したときだった。
 あるものを片手に歩み寄ってくる御厨に目を見開く。

「……ちょっと待って、なにそれ」
「だから、代わりにこっちでどうかな」

 体育で使う金属バット――それを手にした御厨は「これくらいあったら君を満足させられるよね」とやっぱり柔らかく微笑んだ。

「……は? なんで? 意味わかんないんだけど……っ」
「……その反応意外だなぁ。遊んでるっていうからこのくらい余裕で入っちゃうと思ったんだけど、流石に嫌がるんだね」
「当たり前じゃん、だって、はあ? な、なにそれっ、馬鹿じゃないの?!」
「馬鹿じゃないよ。人間、入れようと思ったら何本も入るからね」

 バット片手に歩いてくる御厨は、ふとなにか思い出したような顔をし「ああ、これ例え話だから」と笑う。
 その一言に、虐めていた男子生徒の顔が脳裏を過った。

「やっぱり……巳弥子をヤったのって……っ」
「巳弥子? 誰それ。ごめんね、人の名前覚えるの苦手なんだ」
「ふざけんなっ、この変態ッ! 人の肛門破損しておいてよくものうのうと……っ警察に突き出してやる!」

 訳がわからなかった。
 まともに日本語が通じない相手を前だからか、そいつがなにをしようとしているかわかってしまった今焦りのあまりに頭がパンクしそうになる。
 怒鳴り、後ずさるボクに対し、相変わらず涼しい顔をした御厨はくすくすと小さく笑った。

「随分と熱い性格してるね、蕪木君って。でも、頭の方はあまり賢くないみたいだね」

 露骨に馬鹿にされ、沸々と嫌なものが込み上げてくる。
 ボクの言動が恐怖に震える自分を打ち消すための虚勢からだと御厨もわかっているのだろう。

「てめぇ……ッ」

 込み上げてくるものが怒りか不安か恐怖かなんて動揺するボクには判断つかなかった。
 立ち上がり、唸るボクが逃げようとしたその先を先回りするようににバットを振りかざした御厨はふと表情を消す。

「今、ここで警察に突き出されるのは困るんだよね」

 そして、そのまま腕を殴られた。

「いっ、つぅ……ッ!」

 ぐわんぐわんと体内に響く鋭い痛みに顔をしかめた瞬間、伸びてきた手に首を鷲掴まれ、その場に押し倒された。
 背中が寒いとかそんなこと関係なしに、腕の嫌な痛みに脂汗が止まらない。その側で、カランと金属が擦れるような音がした。
 頭の横、バットを突いた御厨はそのまま横たわるボクの上に跨がるように馬乗りになり、こちらを見下ろす。

「喋れないように舌を引っこ抜こうか。ああ、それなら二度とペンを握れないように指も潰さなきゃな」

 独り言のようにそうぶつぶつと危なっかしいことを口にする御厨はそのままそっとボクの下腹部に手を伸ばし、萎えてしぼんだ性器を徐に摘まんだ。

「君の大好きなセックスが出来ないように肛門をズタズタに傷付けよう。ついでにここもちょん切ったらとうとうなんにも出来なくなっちゃうね」

 御厨は楽しそうに笑う。
 脅しのつもりなのだろうか。冗談にしては全く笑えない。

「ああ、でも他に突っ込む場所を見つけたらいいかもしれない」

 そして、ふとなにか思い付いたような顔をした御厨はボクの顔に手を伸ばす。
 指先が視界へと迫り、そのままぐっと眼窩に触れた。

「ここ、とか」
「……っ」

 ぞわりと、全身が粟立つ。
 舐めるような視線が、蛇のように細められた薄暗い眼が、細く骨張った体温のない指が。
 御厨という目の前の人間のあらゆるものが不気味で、不快で、気持ち悪くて堪らない。
 大量の虫が足元から這い上がってくるような嫌な感触に、ぞくぞくと体が震えた。

 身を竦め、硬直するボクに対し、普段と変わらない優しい顔をした御厨は「蕪木君」と名前を呼んでくる。

「僕は君と喧嘩したいわけじゃないんだ。君が我慢さえしてくれれば、僕は君になにもしない」

 性器から手が離れ、皮膚を滑るようにするりと御厨の手が肛門へと伸びた。
 至近距離。キス出来そうなくらい顔を近付けてくる御厨は「蕪木君、首を縦に振るだけでいいんだよ」ともう一度問い掛けてきた。御厨が話す度に乾いた唇に息がかかる。

「は、ぁ……っ」

 呼吸が上手くできない。呼吸を繰り返す度に肺に残った空気が漏れ出ていくようだ。苦しい。声帯が震え、声が出ない。
 ボクは、ふるふると頭を横に振り、拒否した。
 自分の選択が正しいのかなんてわからなかったが、こんな危ないやつと慶太が付き合っていると思ったら素直に受け入れることが出来なかった。
 そんなボクの言葉に、眉を下げた御厨は申し訳無さそうな顔をする。

「そっか、残念だよ」

 そして、嬉しそうに笑った。
 唇の両端を持ち上げ、口許に弧を描いた御厨はカランと乾いた音を立てバットを持ち直す。

「ひッ」

 そして、その先端を開脚された肛門に宛がわれた。
 金属特有のヒンヤリとした感触に息を飲み、慌ててバットを振り払おうとしたときだった。
 暴れるボクを抑え込み、どう見ても大きさが違うそれを押し込もうとしてくるがなかなか上手く入らなかったようだ。
 ボクから手を離し、肛門に手を伸ばした御厨はそのまま親指と人差し指を入れ、左右に開く。

「やめっ、や……っ!」

 緊張で強張った全身に滲む脂汗。
 慌てて手足をバタつかせるが、御厨は構わず再びバットの先端をそこに宛がった。
 直に伝わってくる冷たいその感触に息を飲み、ぎゅっと目をキツく閉じたときだ。
 ぐり、と力任せに押された先端が体内へと僅かに押し付けられる。やっぱり入らない。流石にそこまで弛くない。そう、内心安堵しかけた瞬間、諦めると思っていた御厨は構わずバットに力を加えてきて、それを強く捩じ込もうとしてくる。

 ――無理だ、無理に決まってる、やめろ、やめてくれ、入るわけがない、諦めろよなに考えてんだよやめろやめろやめろやめろ。

 ぐぐぐ、と乱暴に押し付けられるバットは行き場に困り、明らかにサイズが違う肛門へとそのままみちみちと押し付けられる。
 そう、入れられてるのではなく押し付けられると形容した方が適切だろう。無理矢理でも飲み込めと言わん限りの御厨の乱暴な動きに、バットは強引に自らが入るサイズへと押し広げながら肛門へと進入してきた。

「ぁ゛……が、ひ、ぎゅ……ッ!」

 容赦なく入り込んでくる金属の先端に、緊張のあまり全身がガチガチと震える。声が出ない。

 やめてくれ。そう、メリメリとあらゆる筋肉を千切るように捩じ込まれるそれに懇願するように御厨を見上げれば、目があって、御厨は優しく微笑んだ。
 そして次の瞬間だった。

 ごりっ。

「ぁ、あ゙ぁッ、ッあ、あ゙ああ゙ああ゙ッ!!」

 グリップを握った御厨に一気に捩じ込まれ、遮るものを裂くように挿入してくるそれに耳元でなにかを削るような音が聞こえた。
 喉奥から這うような悲鳴が漏れ、それが自分の声だと気付くのに時間がかかった。
 痛みを痛みと認識出来ない程の激痛に、ただぶちりぶちりと繊維のようななにか千切れる音と乾いたそこを引っ張り中に押し込まれる金属バットの無機質な感触が鮮明に伝わり、脳髄を掻き回される。

 なんだなんだなんだなんだなんだこの感触は。痛い。引っ張られるような恐怖感。冷たい。裂けるような痛みに、恐怖に、焦りのあまりに頭が真っ白になった。

「やッ、いだいっ、痛い痛い痛いッ! 裂けちゃう! じぬ、裂けちゃうっ! ぬ、ぎ、ぬ゛、抜いてぇ! 抜けってばぁっ!!」
「これなら二本くらいいけそうだね」
「んぎッ!」
「すごい、ごりごりだって。どっか削れちゃってたりして」

 入らないはずなのに、無理矢理捩じ込むようにグリップまで突っ込んでくる御厨は絶叫を上げるこちらを見下げただ楽しそうに笑う。
 腹の奥、押し広げるような異物に押し出されるかのごとく胃液と涙が溢れた。あまりの震えにガチガチと歯が鳴った。

 そして、こいつはまたバットを取り出すんだ。

「ねえ蕪木君、二本目いってみようか」
「む゛、りぃ、むり、無理、や、や゛ら゛、やめでっ! いだ、いっ、痛いんだよっ!」
「たかがバット一本で泣かないでよ」

 慌てて中のバットを引き抜こうとするボクの手を掴む御厨は、二本目のバットをすでに一本のバットを飲み込んだそこに宛がう。

「ほら、二本目いくよ」

 こいつは頭がおかしいのだろうか。
 そこに人差し指を捩じ込みぐっと拡げる御厨はそのまま全身を押し付けてきて、全身が緊張した。

「やだ、やだってッ、御厨く、ひッ、ぁぎぃッ!」

 裂けるような痛み。捩じ込まれる圧迫感。穴を無理矢理拡張するようにずぶりと沈められる金属の棒にひゅっと息を飲む。

「がぁ゙、あ゙あっ! や゛だっ、やめ゙て、ごべんなざいッ、言わないからッ、言わないからっ!」
「もう? 早くない?」

 あまりの激痛に鈍くなる痛覚よりも、そんなに大きさがあるものを二本も突っ込まれたら形が変わるんじゃないのだろうかという不安感に全身が竦み上がった。
 あまりの恐怖のせいか、気付いたら強張った顔面が涙で濡れていて、そんなボクを見下ろす御厨は顔色ひとつ変えるわけでもなく相変わらず涼しそうな顔をしては人良さそうな笑みを浮かべる。

「まあいいや、せっかくだし奥まで入れようか」

 ああ、こいつは鬼かなにかなのだろうか。

 ぐっとバットを押し込んでくる御厨。腹の中、金属同士が擦れるような嫌な感触が響く。

「ぎひ、ぐッ! あ゙っ! あ゙ああッ! やだっ、助けてッ! 誰かぁっ! いやッ、裂けるッ! ぶちぶちゆっで、じ、じぬ゛、ゃ、嫌だっ! 誰かぁっ、あ゙ああ゙あっ!」

 みちみちみちと悲鳴を上げる下腹部に全身から血の気が引く。
 このままでは本当にやばい。壊される。そう、ただひたすら無我夢中になって御厨を振り払おうともがいたときだった。
 不意に、体育倉庫の扉が開く。

 もしかしたら今の声で気付いた人がいたのかもしれない。
 見張りか。そう思いながら扉に現れた人影にすがるような視線を向けたボクはそこに立つ生徒に目を向ける。

 ――慶太だ。慶太がいる。

 覆い被さってくる御厨とその下で暴れるボクを見て目を丸くした慶太は呆れたような顔をして御厨を見た。

「おいっ、御厨……っなにして……」
「けい、たぁ……ッ」

 やっぱり、慶太だ。ボクが困ったときに現れて助けてくれる。
 そう、現れた思い人の姿に酷く安堵したときだった。

 不意に、ぐりっと中のバットが動き体の中で金属が擦れ、圧迫感と言い表し難い痛みに大きく体が跳ねた。
 喉奥から「ぐえっ」と肺が潰れたような声が漏れ、顔を歪めるボクに構わず御厨は挿入を再開させる。

「ああ、渋谷君。丁度よかった。外のやつら、ちゃんと帰した?」

 なにを言い出すんだ、こいつは。
 下腹部を固定し、無理な挿入でズタズタに裂けた内壁を更に引っ張られ激痛のあまりなにがなんだかわからなくなってくる。
 体育倉庫に入ってくる慶太は「一応」とだけ答え、こちらに目を向けてきた。

「けい゛、た、だずげで、けいだぁ……ッ!」
「ほんと煩いな、蕪木君は。……渋谷君、あれ、持ってきてくれた?」

 バットの挿入で拡張された体内、全身を潰すような圧迫感に呼吸がままならず逸そのこと早く意識を無くしまいたかった。
 尋ねられた慶太はこちらまで歩いてきて「ほら」と御厨にガムテープを手渡す。

「うん、これこれ。……これでようやく静かにできるね」

 言いながらそれを受け取った御厨は適当な長さにガムテープを破り、そのままこちらの口をそれで塞いでくる。

「ふぐっ、んんッ! んんっ!」

 ただでさえ息苦しいのに、黙れという理由で口を塞がれる。
 口を覆う粘着質なそのテープはしっかりと口を塞ぎ、ビクともしない。苦しい。

「渋谷君、君もやる? せっかくだしここに何本入るか賭けてみようか」

 もがくボクの両手首を掴んだ御厨はガムテープでぐるぐるに縛りながら傍に立つ慶太に声を掛けた。遠回しにまだ突っ込むと言っているその言葉に、冷や汗が滲む。

「結構細いから五本はいくかな」
「いや、こいつ弛いから六本はいくって」
「じゃあ試してみようか」

 目の前で交わされる会話の内容に気が遠くなるのがわかった。
 慶太、嘘だ、なんで。
 御厨の横に並びそうなんでもないように続ける慶太に、なんだか頭を殴られたような気分になった。
 こんな姿を見られたところだけでもショックなのに、そんな、冷たくされるなんて。

 ぐにゃりと歪む視界。新しくバットを手にした御厨は「はい渋谷君、バット」と笑いながらそれを慶太に手渡した。
 まさか、こいつ、なにを考えているんだ。
 全身の毛穴からぶわりと嫌な汗が滲み、目を見開いたボクは御厨を見る。

「俺が?」
「君のことが好きなんだってよ、蕪木君は。だから僕より君にしてもらった方がいいんじゃないかな」
「ふっ、ぅ゙う……ッ」

 目を丸くしてバットを受け取る慶太に、そうなんでもないように続ける御厨の言葉にかっと顔が熱くなった。
 なにか言いたそうな顔をして目を向けてくる慶太だったが、やがてそれを手にボクの足元に膝立ちになる。

「これ、入んの?」

 嘘だろ、ねえ、慶太。
 冷めた目でこちらを見下ろす慶太にただならぬ恐怖を覚え、ぞくりと背筋が凍り付いた。涙が止まらない。
 いやいやと首を振るボクに構わず、御厨は「いけるよ、ほら、こことか」言いながらバットを咥えてパンパンに拡張された肛門に出来た二本のバットのその僅かな隙間指を突っ込み、ぐっと拡げる。
 御厨の指に血でぐずぐずになった内壁を引っ掛かれ、ズキンと鈍い痛みが走った。それに呻いたとき、慶太の手にしたバットの先端が宛がわれる。
 確かに隙間はあったが、明らかに入らない、間違いなく、というか無茶だ、これ以上は元に戻らなくなってしまう、やめてくれ、慶太、助けて。
 混乱した思考回路。金属同士が触れ、そのままめりっと音を立て押し込まれる先端に全身が緊張した。

 そのときだった。

「蕪木君、三本目いくよー」
「ッ!!」

 ブチり、と。
 今度はハッキリとなにかが千切れるような音がして、痛みが痛みと認識出来なくなって、無理矢理押し広げられるように突っ込まれるバットが腹の中でガチガチと音を立て、息が出来なくなって、頭がふわふわして、逸そのことこの圧迫感に押し潰されて圧死してしまいたい。
 そう思いながら、ボクは、だらりと動かなくなった両足と、股から生えた腕くらいの大きさはある金属バットを見詰めた。


「ははっ、なんかすごい音したね」
「うっわ、いたそ」
「渋谷君、次は?」
「もうないっぽい」
「そうなの? 残念だな、これじゃ賭けにならないね。……ねえ、蕪木君――あれ、気絶してる」
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