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崩壊前夜
撒き餌か尻尾か袋のネズミ
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「うげ、春日」
「うげってなに、てか何してんの? お前。勝手な真似するなって言ってたのに……」
言いながら、ちらりとこちらを見た花崗は「ああ」と納得したような顔をする。
それからすぐ、俺のよく見かける花崗の顔をするのだ。
かいちょーの隣にいる時の、にこにこかわいい顔。
「これはこれは会計様がいるなんて、……もしかしてかいちょーに用ですか?」
「花崗、君」
「うちの会長なら今ほーんのちょっぴり手が塞がってるので、僕が代わりにご用件伺いますけど」
どう見たってそんな状況ではないと分かってるだろうに。
言いながら近付いてくる花崗にそこはかとなく嫌な予感を覚える。
なのに、動けない。
「仙道様?」
「ぁ……」
逃げなきゃ、と頭ん中が思考停止したときだった。
いきなり首根っこを掴まれたと思えば、強引にヒズミから引き剥がされる。
それから。
「何ボーッとしてんだよ、さっきまでの勢いはどうしたんだ。……お前」
「ち……ちゃん」
すぐ頭の上から落ちてくるその声に、一気に現実へと引き戻される。
「お前も懲りてねえみたいだな、こいつに金輪際関わるなとあれほどうちの委員長に言われただろうが」
「はー……ったく、この学園って全員が全員こうなのか? 人の恋路を邪魔するやつらばっかりだな、春日」
「馴れ馴れしく僕の名前呼ばないでくれる?」
「んだよ、冷てえな」
「それより、花崗。これはどういうことか説明してもらおうか? こいつは謹慎期間だぞ、オマケに病院からも脱走の連絡が学園にきてる。
――まさか、脱走手伝った上に匿ってる訳じゃねえだろうな」
なっちゃんの怖い顔で睨みつけられる花崗。
けど、対する花崗は全然気にしてないという顔で。
「やだな、僕たちはただ勝手に抜け出してたこいつを見つけて捕獲してただけ。手筈が整ったらちゃんと病室まで送還してやるつもりだったってのに、風紀は短気なやつらばっかなんだね」
「んだと、テメェ……」
「なに?! そうだったのか、春日!」
「そうだっての。だから、風紀はお呼びでないんだよね」
嘘だ。と思った。
確証なんて別にないけど、花崗の雰囲気や言葉尻から俺たちを馬鹿にしてるのが見えたから。
早く帰りたい。一刻も離れたい。
それでも、俺がここまで来たのには理由があったはずだ。
「――……かいちょーはどこ?」
ここまで騒いでおいてても一向に部屋から出てこない男を思い浮かべる。
王様気取りのやなやつ。
「かいちょーと直接話がしたいんだけど、今すぐ」
震えを誤魔化すように拳を握り締める。
掌に食い込む爪が痛いけど、そんなの関係ない。
状況証拠は揃ってる。
ここで今あいつを逃してはまた振り出しに戻るだけだ。
囮だろうが、出された尻尾はふん捕まえる。
それが俺のやり方だ。
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