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崩壊前夜
修羅場×修羅場×修羅場
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「な……」
目撃証言はあったし、ここにいるとは知っていた。
それでも、実際にあいつの姿を見た瞬間全身が緊張してしまう。
頭の中が真っ白になってしまうのだ。
「ん?」とこちらの気配に気付いたようだ、振り返ったヒズミと思いっきり視線がぶつかった。
瞬間、やつは口を大きく開け嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「……お、キョウ! キョウじゃん!」
「……っ!」
最悪だ。
逃げなければ、と思うのに、足が竦みそうになる。
「お前は……」
駆け寄ってくるヒズミ、なっちゃんも気付いたようだ。
そうだ、なっちゃんにはヒズミとの最悪なところを見られたんだった。
本当に、タイミングが悪い。なんてものではない。
そんななっちゃんが目に入ってないのか、一目散に俺の前までやってきたヒズミはそのまま俺の手をぎゅっと握る。
熱い掌に包み込むように挟まれる右手に、自然と厭な汗が流れた。ドクドクと脈打つ心臓。
喉元まで吐き気がこみ上げる。それなのに、ヒズミから目を逸らすことも忘れていた。
「良かった、ずっと心配してたんだよ。会いに行きたかったけど、由良のやつに止められてさあ」
やつがなにを言っているのか、右から左へと言葉は抜けていく。
「なあ、キョウ」と、するりとその指が絡みつきそうになったときだった。
乾いた音とともに、ヒズミの手が振り払われた。
「……っ」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
固まる俺の肩を掴んだなっちゃんは、そのままヒズミから引き離すように俺とヒズミの間に割って入るのだ。
「あ……?」
「なっちゃ……」
「ああ……お前、いたのか」
なっちゃんが助けてくれた。
その事実を理解した次の瞬間、やってくるのは嬉しさや喜びや安堵よりも、ヒズミの目がなっちゃんに向けられたことに対する恐怖だった。
「またテメェ絡みかよ、転校生」
うんざりしたような、苛ついた口調で吐き捨てるなっちゃん。
ああ、だめだ。そんな煽るような真似。この単細胞馬鹿には死ぬほど効くのだ。
そして案の定、なっちゃんの言葉を受けてヒズミの目の色が変わるのを見てしまう。
ヒズミの身体の向きが変わるのを見て、咄嗟に俺はヒズミの腕にしがみついた。
「待って、ヒズミ……」
なっちゃんに手を出さないでくれ。
そう声を絞り出すことは敵わなかった。
なんで止めるのだ、という顔をしたなっちゃん。
そしてこちらを見下ろしたヒズミはそのまま俺の顎を掴む。
「ひ……っ、ん……ッ!」
「な……」
一瞬、自分がなにされてるのかもわからなかった。
暗くなった視界の中、重ねられる唇の薄い粘膜越しに伝わってくるヒズミの熱。
ぎょっとするなっちゃんも無視して、そのまま躊躇なく舌を挿れて俺の舌に絡めてくるヒズミに凍りつく。
「ッ、ん゛、う……ッ」
やめろ、と覆いかぶさってくるようにキスしてくるヒズミの胸を叩くが、びくともしない。
それどころか、手首を掴まれ、更に深くヒズミの舌に咥内を荒らされるのだ。
ほんの数秒の間だっただろうが、俺にとっては地獄のような時間だった。
濡れた音が響く咥内。耐えられず、ヒズミの舌に思いっきり歯を立てれば、口の中いっぱいにヒズミの血の味が広がった。
代わりに俺の舌を吸い上げたヒズミは、そのままぢゅぽんと音を立てて唇を離す。
「心配しなくても、俺は大丈夫だからな。京」
「……っ」
自分の血で赤く染まった唇を舌で舐め取り、ヒズミは笑った。
そのときだ、背後のかいちょーの部屋の扉が開く。
そして、かいちょーの部屋から現れた少年には見覚えがあった。
確か、かいちょーの親衛隊の子……花崗だ。確か純が呼ばれたっていうのもこの子だったはずだ。
そして、花崗は部屋の前で揉めていた俺達に驚くわけでもなく、寧ろ呆れたような顔をするのだ。
「……ちょっと。急にいなくなったと思ったら、なに勝手なことしてんの?」
その言葉はそれは明らかにヒズミに向けられたものだった。
かいちょーとヒズミの関係を考えれば、別に知り合いでもおかしくはない。
それでも、この状況でその第一声は俺にでもおかしいって分かった。
目撃証言はあったし、ここにいるとは知っていた。
それでも、実際にあいつの姿を見た瞬間全身が緊張してしまう。
頭の中が真っ白になってしまうのだ。
「ん?」とこちらの気配に気付いたようだ、振り返ったヒズミと思いっきり視線がぶつかった。
瞬間、やつは口を大きく開け嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「……お、キョウ! キョウじゃん!」
「……っ!」
最悪だ。
逃げなければ、と思うのに、足が竦みそうになる。
「お前は……」
駆け寄ってくるヒズミ、なっちゃんも気付いたようだ。
そうだ、なっちゃんにはヒズミとの最悪なところを見られたんだった。
本当に、タイミングが悪い。なんてものではない。
そんななっちゃんが目に入ってないのか、一目散に俺の前までやってきたヒズミはそのまま俺の手をぎゅっと握る。
熱い掌に包み込むように挟まれる右手に、自然と厭な汗が流れた。ドクドクと脈打つ心臓。
喉元まで吐き気がこみ上げる。それなのに、ヒズミから目を逸らすことも忘れていた。
「良かった、ずっと心配してたんだよ。会いに行きたかったけど、由良のやつに止められてさあ」
やつがなにを言っているのか、右から左へと言葉は抜けていく。
「なあ、キョウ」と、するりとその指が絡みつきそうになったときだった。
乾いた音とともに、ヒズミの手が振り払われた。
「……っ」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
固まる俺の肩を掴んだなっちゃんは、そのままヒズミから引き離すように俺とヒズミの間に割って入るのだ。
「あ……?」
「なっちゃ……」
「ああ……お前、いたのか」
なっちゃんが助けてくれた。
その事実を理解した次の瞬間、やってくるのは嬉しさや喜びや安堵よりも、ヒズミの目がなっちゃんに向けられたことに対する恐怖だった。
「またテメェ絡みかよ、転校生」
うんざりしたような、苛ついた口調で吐き捨てるなっちゃん。
ああ、だめだ。そんな煽るような真似。この単細胞馬鹿には死ぬほど効くのだ。
そして案の定、なっちゃんの言葉を受けてヒズミの目の色が変わるのを見てしまう。
ヒズミの身体の向きが変わるのを見て、咄嗟に俺はヒズミの腕にしがみついた。
「待って、ヒズミ……」
なっちゃんに手を出さないでくれ。
そう声を絞り出すことは敵わなかった。
なんで止めるのだ、という顔をしたなっちゃん。
そしてこちらを見下ろしたヒズミはそのまま俺の顎を掴む。
「ひ……っ、ん……ッ!」
「な……」
一瞬、自分がなにされてるのかもわからなかった。
暗くなった視界の中、重ねられる唇の薄い粘膜越しに伝わってくるヒズミの熱。
ぎょっとするなっちゃんも無視して、そのまま躊躇なく舌を挿れて俺の舌に絡めてくるヒズミに凍りつく。
「ッ、ん゛、う……ッ」
やめろ、と覆いかぶさってくるようにキスしてくるヒズミの胸を叩くが、びくともしない。
それどころか、手首を掴まれ、更に深くヒズミの舌に咥内を荒らされるのだ。
ほんの数秒の間だっただろうが、俺にとっては地獄のような時間だった。
濡れた音が響く咥内。耐えられず、ヒズミの舌に思いっきり歯を立てれば、口の中いっぱいにヒズミの血の味が広がった。
代わりに俺の舌を吸い上げたヒズミは、そのままぢゅぽんと音を立てて唇を離す。
「心配しなくても、俺は大丈夫だからな。京」
「……っ」
自分の血で赤く染まった唇を舌で舐め取り、ヒズミは笑った。
そのときだ、背後のかいちょーの部屋の扉が開く。
そして、かいちょーの部屋から現れた少年には見覚えがあった。
確か、かいちょーの親衛隊の子……花崗だ。確か純が呼ばれたっていうのもこの子だったはずだ。
そして、花崗は部屋の前で揉めていた俺達に驚くわけでもなく、寧ろ呆れたような顔をするのだ。
「……ちょっと。急にいなくなったと思ったら、なに勝手なことしてんの?」
その言葉はそれは明らかにヒズミに向けられたものだった。
かいちょーとヒズミの関係を考えれば、別に知り合いでもおかしくはない。
それでも、この状況でその第一声は俺にでもおかしいって分かった。
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