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人の心も二週間
噛まれた飼い主
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純に怒られた。というよりも、拒絶されたという方が適切なのかもしれない。
一人残された部屋の中。純の後を追い掛けるわけでもなく俺は一人暗闇の中を眺めていた。
「……」
元々、純がスキンシップを好まないことは知っていたし、俺がからかいながら頭を撫で回しても文句は垂れたがこんな風にハッキリと拒絶されたのは初めてだった。
純に掴まれた後がじんじんと痺れる。
ずっとついてきてくれている純だから、きっと心の何処かでその優しさに甘えていたのかもしれない。
だからこそ、余計、頭を殴られるようなショックを覚えた。
昔とは違う。そう、はっきりと告げられたようだった。
――そして翌日、結局一人のベッドで眠った。
そんな中、どんどんと部屋中にけたたましいノック音が響いた。
何事かと飛び起き、そのままずるずると重い体を引き摺るようにして扉を開く。
「……はぁああい」
扉を開き、まず目に入ったのは色を抜いたような派手な金髪頭。
率先して風紀を乱してそうな不良風紀副委員長は、俺の姿を見るなり眉を顰めた。
「おい、おっせーんだよ。…って、まだ着替えてねえのかよ。何時だと思ってんだ!」
「…何時って、まだ八時じゃーん…」
「もう八時だよ!遅刻すんだろ、さっさと着替えて来い!」
「はぁ?なんで俺が…つかなんで君がここにいるわけぇ?」
そうだ、そこが問題だ。
朝っぱらからがみがみと小煩い副委員長、石動千夏に俺は尋ねずにはいられなかった。
「お前、委員長からなんも聞いてないのかよ」
すると、呆れたように俺を睨む千夏。
…そういや、この前病院いった時、マコちゃんこいつを頼れとか言ってたような。って、こういう意味だったの。
「委員長はお前が心配だからって俺に護衛頼んできたんだよ。…じゃねえとわざわざやってられっかよ、おもりなんて」
後半部分は聞かなかったことにするとして、マコちゃん、こいつにわざわざそんなこと頼んでいたのか。
どうせならもっと静かなやつにしてくれたらいいのにと思う反面、俺をか弱い一般人と思ってわざわざ護衛までつけてくるマコちゃんに愛しさは積もるばかりで。
「わかったんならさっさと着替えて来い、俺まで遅刻したらどうすんだよ」
マコちゃん…とときめいていると、無粋な言葉が飛んでくる。
雰囲気ねーやつだなと思いながら「じゃあ先行ってればいいじゃん」とじとりと視線を向ければ、びきびきと石動千夏の額に青筋が浮かぶ。
「てめえ、人の話ちゃんと聞けよ」
「はいはぁい、じゃあちょっと待っててよ。着替えてくるから」
このままでは本気で張り倒されそうなので、俺は促されるがまま自室に引っ込んだ。
石動千夏は前から、なにかことあるごとに突っかかってくる。あまりにも突っかかってくるもんだからマコちゃんと仲良しな俺にヤキモチ妬いてんのかと思ったが、ただ単に俺のことが気に食わないだけのようで――正直、苦手だ。
ただの短気の単細胞なら扱いやすいが、こいつの場合あのちーちゃんと血が繋がっているお陰か妙に鋭く、一筋縄ではいかないのだ。だからこそマコちゃんが信用するのもわかっていたが、幾分相性が悪すぎる。
部屋まで上がり、そのまま寝間着にしていたTシャツを脱ごうとした俺は当たり前のように部屋に入ってくる石動千夏にぎょっとした。
「って、ちょっとなに勝手に入ってきてんの」
「俺が外に居る間、部屋の中に誰か入ってきたらどうすんだよ」
「いやいやいや、入ってくるわけ無いじゃん」
扉以外に入れる場所と言ったら窓しかないし、しかもここは結構高い位置にあるのでよじ登ってくるのも難しいだろう。だけど、こいつは俺の意見を聞くつもりはないようだ。
「いいから早く着替えろ。てめえがぐずってるから時間が押してんじゃねえか」
「…はいはーい、わかりましたー」
やっぱこいつ嫌いだ。厳しい。マコちゃんも厳しいけど、こいつの場合顔こえーし厳しいしうるせえし俺の言うこと聞いてくれねーし、苦手。
きっと、向こうも同じことおもってんのかもしれないけど。なんて文句垂れつつ、俺は制服に着替える。
なーんつーかさぁ。
なーんつーか…………。
「時間がない。朝飯は抜け。見計らってあとで俺が教室まで届けるからそれまで教室で授業受けてろよ。あんたの席の周りは風紀のやつらで固めてるから余計な心配はすんなよ」
「…」
「おい、返事は!」
「……なっちゃんって、やっぱりちーちゃんと兄弟なんだね。口うるさい所とかすげーそっくり」
あと無駄に細かいところとか。
たっぷりの厭味を込め、呆れたようにそう呟けば、みるみるうちに千夏もといなっちゃんの顔が恐ろしいことになっていく。
「てめえ…喧嘩売ってんのか…!」
まさかのマジギレ。よっぽどちーちゃんと一緒にされたのが癪に障ったらしい。もしかしたらなっちゃん呼びも不味かったのかも。どっちでもいいけどね。怒鳴られたから、ちょっとした仕返しだから。
でもやっぱおっかねえ。
「じょーだんだってば、じょーだん」
なるほど、なっちゃんはちーちゃんの名前を出したら機嫌が悪くなる、と。あとでメモしておこう。
――教室前。
もうすぐHRがあるはずだが教室の人はまばらだった。
そりゃそうだ、こんな朝からご丁寧に席に着くやつなんて素直馬鹿もいいとこだし。そんな素直馬鹿なやつらは教室前で喋ってる俺達の方をちらちらと気にしているようだ。
直接突っかかって来ないだけ可愛い方だろうが、向けられる視線に嫌なもんを感じてユッキーが言ってた噂のことを思い出した。
あー、ほんとやだなぁ。なんて思いながらなっちゃんと別れ、教室に入ろうとしたとき、「おい」となっちゃんに呼び止められる。
「ちゃんと授業聞けよ…って、委員長がいってた。…一応伝えとく」
それを言われたら真面目に聞くしかないじゃないか。
「はぁい」と俺はなっちゃんに手を振り返した。俄然、やる気出てきた。
今日は面倒なこと全部忘れて、真面目くんでいよう。
なんて密かに意気込みつつ、教室に入ったはいいが一回も教室で授業を受けたことがない俺は自分がどこの席か分からず、適当な席に座る。
ガラガラの教室の中、いかにも真面目そうなのがちらほらいるけど多分風紀だろうなー。
マコちゃん率いる風紀委員は頭が悪そうなのが多いうちの中でもまともなのが所属しているのですぐわかる。
活動時間外、腕章はしていないみたいだ。
なんて、ぼんやりと辺りを眺めていると、ふと、隣の席に影が見えた。何気なく見上げると、そこには見覚えのある人物がいた。
「……」
生徒会書記、各務陽平。
名前とは裏腹に喋らない、暗い、目立たないという影まっしぐらなよーへい君は目が合うと「初めて」と唇を動かした。
「ん?」
「はじめてだな。……きたの」
相変わらず、うっかりしていると聞き流してしまいそうなくらいの静かな声。
「うん。ちょっとねー、俺もインテリ目指そっかなって。つか、よーへい君もこのクラスだったんだ?」
奇遇だねーと笑い掛ければ、無表情のままよーへい君はこくりと頷いた。相変わらず口数の少いやつだが、相手が悪いやつではないとわかっているだけ、その静かさはなんとなく心地がいい。
少しは退屈しのぎはできそうかな、なんて思いながら俺はびくびくと震えながら入ってきた教師を眺める。
どれくらい振りだろうか、席について授業を受けるなんて。
教室を陣取って教師で遊ぶことはあったが、こうして教師の言葉を聞くのはホント久し振りかもしれない。
授業が始まって数十分。そろそろ教師の顔を見るのも飽きたので勉強してやろうかと机の中を漁ってみれば、中にはかぴかぴのティッシュと菓子の空き箱、つまりゴミだけが入っている状態で。
「…教科書持ってきてねーや」
というか、部屋を出た時点で手ぶらだし仕方ないっちゃ仕方ないけど。
これは寝て過ごすしかないな。うん、そうだ、そうしよう。一人納得したときだ。すっと、横から教科書が置かれる。
「……」
隣を見れば、ノートを拡げ、真面目に授業を受けていたよーへい君がこちらを見ていた。
「…これ、使えば」
「いいの?」
こくりと頷くよーへい君は、ぽつりと呟く。
「内容、暗記してるから」
なにそれさらっとすげえこと言ってませんか。
借してもらえるのは有り難いが、やっぱりこう、してもらいっぱなしってのは慣れないわけで。
「じゃあさ、一緒に見よ?」
考えた末、そう提案すればよーへい君はやはりどこかなに考えているのか分かんないような無表情のまま黙り込み、そして、小さく頷いた。
「……わかった」
どこか人を避けるような雰囲気を持ったよーへい君だからだろうか。自分を受け入れてくれるのが嬉しくて、えへへへと破顔しながら俺は隣のよーへい君の机に自分の机をくっつけた。
あ、俺の机じゃねーか。
一人残された部屋の中。純の後を追い掛けるわけでもなく俺は一人暗闇の中を眺めていた。
「……」
元々、純がスキンシップを好まないことは知っていたし、俺がからかいながら頭を撫で回しても文句は垂れたがこんな風にハッキリと拒絶されたのは初めてだった。
純に掴まれた後がじんじんと痺れる。
ずっとついてきてくれている純だから、きっと心の何処かでその優しさに甘えていたのかもしれない。
だからこそ、余計、頭を殴られるようなショックを覚えた。
昔とは違う。そう、はっきりと告げられたようだった。
――そして翌日、結局一人のベッドで眠った。
そんな中、どんどんと部屋中にけたたましいノック音が響いた。
何事かと飛び起き、そのままずるずると重い体を引き摺るようにして扉を開く。
「……はぁああい」
扉を開き、まず目に入ったのは色を抜いたような派手な金髪頭。
率先して風紀を乱してそうな不良風紀副委員長は、俺の姿を見るなり眉を顰めた。
「おい、おっせーんだよ。…って、まだ着替えてねえのかよ。何時だと思ってんだ!」
「…何時って、まだ八時じゃーん…」
「もう八時だよ!遅刻すんだろ、さっさと着替えて来い!」
「はぁ?なんで俺が…つかなんで君がここにいるわけぇ?」
そうだ、そこが問題だ。
朝っぱらからがみがみと小煩い副委員長、石動千夏に俺は尋ねずにはいられなかった。
「お前、委員長からなんも聞いてないのかよ」
すると、呆れたように俺を睨む千夏。
…そういや、この前病院いった時、マコちゃんこいつを頼れとか言ってたような。って、こういう意味だったの。
「委員長はお前が心配だからって俺に護衛頼んできたんだよ。…じゃねえとわざわざやってられっかよ、おもりなんて」
後半部分は聞かなかったことにするとして、マコちゃん、こいつにわざわざそんなこと頼んでいたのか。
どうせならもっと静かなやつにしてくれたらいいのにと思う反面、俺をか弱い一般人と思ってわざわざ護衛までつけてくるマコちゃんに愛しさは積もるばかりで。
「わかったんならさっさと着替えて来い、俺まで遅刻したらどうすんだよ」
マコちゃん…とときめいていると、無粋な言葉が飛んでくる。
雰囲気ねーやつだなと思いながら「じゃあ先行ってればいいじゃん」とじとりと視線を向ければ、びきびきと石動千夏の額に青筋が浮かぶ。
「てめえ、人の話ちゃんと聞けよ」
「はいはぁい、じゃあちょっと待っててよ。着替えてくるから」
このままでは本気で張り倒されそうなので、俺は促されるがまま自室に引っ込んだ。
石動千夏は前から、なにかことあるごとに突っかかってくる。あまりにも突っかかってくるもんだからマコちゃんと仲良しな俺にヤキモチ妬いてんのかと思ったが、ただ単に俺のことが気に食わないだけのようで――正直、苦手だ。
ただの短気の単細胞なら扱いやすいが、こいつの場合あのちーちゃんと血が繋がっているお陰か妙に鋭く、一筋縄ではいかないのだ。だからこそマコちゃんが信用するのもわかっていたが、幾分相性が悪すぎる。
部屋まで上がり、そのまま寝間着にしていたTシャツを脱ごうとした俺は当たり前のように部屋に入ってくる石動千夏にぎょっとした。
「って、ちょっとなに勝手に入ってきてんの」
「俺が外に居る間、部屋の中に誰か入ってきたらどうすんだよ」
「いやいやいや、入ってくるわけ無いじゃん」
扉以外に入れる場所と言ったら窓しかないし、しかもここは結構高い位置にあるのでよじ登ってくるのも難しいだろう。だけど、こいつは俺の意見を聞くつもりはないようだ。
「いいから早く着替えろ。てめえがぐずってるから時間が押してんじゃねえか」
「…はいはーい、わかりましたー」
やっぱこいつ嫌いだ。厳しい。マコちゃんも厳しいけど、こいつの場合顔こえーし厳しいしうるせえし俺の言うこと聞いてくれねーし、苦手。
きっと、向こうも同じことおもってんのかもしれないけど。なんて文句垂れつつ、俺は制服に着替える。
なーんつーかさぁ。
なーんつーか…………。
「時間がない。朝飯は抜け。見計らってあとで俺が教室まで届けるからそれまで教室で授業受けてろよ。あんたの席の周りは風紀のやつらで固めてるから余計な心配はすんなよ」
「…」
「おい、返事は!」
「……なっちゃんって、やっぱりちーちゃんと兄弟なんだね。口うるさい所とかすげーそっくり」
あと無駄に細かいところとか。
たっぷりの厭味を込め、呆れたようにそう呟けば、みるみるうちに千夏もといなっちゃんの顔が恐ろしいことになっていく。
「てめえ…喧嘩売ってんのか…!」
まさかのマジギレ。よっぽどちーちゃんと一緒にされたのが癪に障ったらしい。もしかしたらなっちゃん呼びも不味かったのかも。どっちでもいいけどね。怒鳴られたから、ちょっとした仕返しだから。
でもやっぱおっかねえ。
「じょーだんだってば、じょーだん」
なるほど、なっちゃんはちーちゃんの名前を出したら機嫌が悪くなる、と。あとでメモしておこう。
――教室前。
もうすぐHRがあるはずだが教室の人はまばらだった。
そりゃそうだ、こんな朝からご丁寧に席に着くやつなんて素直馬鹿もいいとこだし。そんな素直馬鹿なやつらは教室前で喋ってる俺達の方をちらちらと気にしているようだ。
直接突っかかって来ないだけ可愛い方だろうが、向けられる視線に嫌なもんを感じてユッキーが言ってた噂のことを思い出した。
あー、ほんとやだなぁ。なんて思いながらなっちゃんと別れ、教室に入ろうとしたとき、「おい」となっちゃんに呼び止められる。
「ちゃんと授業聞けよ…って、委員長がいってた。…一応伝えとく」
それを言われたら真面目に聞くしかないじゃないか。
「はぁい」と俺はなっちゃんに手を振り返した。俄然、やる気出てきた。
今日は面倒なこと全部忘れて、真面目くんでいよう。
なんて密かに意気込みつつ、教室に入ったはいいが一回も教室で授業を受けたことがない俺は自分がどこの席か分からず、適当な席に座る。
ガラガラの教室の中、いかにも真面目そうなのがちらほらいるけど多分風紀だろうなー。
マコちゃん率いる風紀委員は頭が悪そうなのが多いうちの中でもまともなのが所属しているのですぐわかる。
活動時間外、腕章はしていないみたいだ。
なんて、ぼんやりと辺りを眺めていると、ふと、隣の席に影が見えた。何気なく見上げると、そこには見覚えのある人物がいた。
「……」
生徒会書記、各務陽平。
名前とは裏腹に喋らない、暗い、目立たないという影まっしぐらなよーへい君は目が合うと「初めて」と唇を動かした。
「ん?」
「はじめてだな。……きたの」
相変わらず、うっかりしていると聞き流してしまいそうなくらいの静かな声。
「うん。ちょっとねー、俺もインテリ目指そっかなって。つか、よーへい君もこのクラスだったんだ?」
奇遇だねーと笑い掛ければ、無表情のままよーへい君はこくりと頷いた。相変わらず口数の少いやつだが、相手が悪いやつではないとわかっているだけ、その静かさはなんとなく心地がいい。
少しは退屈しのぎはできそうかな、なんて思いながら俺はびくびくと震えながら入ってきた教師を眺める。
どれくらい振りだろうか、席について授業を受けるなんて。
教室を陣取って教師で遊ぶことはあったが、こうして教師の言葉を聞くのはホント久し振りかもしれない。
授業が始まって数十分。そろそろ教師の顔を見るのも飽きたので勉強してやろうかと机の中を漁ってみれば、中にはかぴかぴのティッシュと菓子の空き箱、つまりゴミだけが入っている状態で。
「…教科書持ってきてねーや」
というか、部屋を出た時点で手ぶらだし仕方ないっちゃ仕方ないけど。
これは寝て過ごすしかないな。うん、そうだ、そうしよう。一人納得したときだ。すっと、横から教科書が置かれる。
「……」
隣を見れば、ノートを拡げ、真面目に授業を受けていたよーへい君がこちらを見ていた。
「…これ、使えば」
「いいの?」
こくりと頷くよーへい君は、ぽつりと呟く。
「内容、暗記してるから」
なにそれさらっとすげえこと言ってませんか。
借してもらえるのは有り難いが、やっぱりこう、してもらいっぱなしってのは慣れないわけで。
「じゃあさ、一緒に見よ?」
考えた末、そう提案すればよーへい君はやはりどこかなに考えているのか分かんないような無表情のまま黙り込み、そして、小さく頷いた。
「……わかった」
どこか人を避けるような雰囲気を持ったよーへい君だからだろうか。自分を受け入れてくれるのが嬉しくて、えへへへと破顔しながら俺は隣のよーへい君の机に自分の机をくっつけた。
あ、俺の机じゃねーか。
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