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人の心も二週間
空いた部屋に一人と一匹
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イエローエッジ。
耳に馴染んでいたその名前は今はただ懐かしい。
誰が言い出したのか分からないが、俺とその周囲の連中はまとめてそう呼ばれていた。
イエローエッジには近付くな。男はボコられ身ぐるみ剥がされ無一文にされ、女はヤリ回されるからだとか。
馬鹿馬鹿しい、根拠のない噂話だ。とは言わない。
実際、チームの奴らの中にはそんなことをするやつらもいたらしいし。取り敢えず馬鹿やりたかった俺はそんな連中のことを気にするわけでもなく、ただ自分の好きなように生きていた。
やられたらやり返して応報合戦の繰り返しの日々。名前と拳が汚れていくばかりで、何一つ満たされない。
満たされたとしても一時的な興奮だ。時間が経てばまたすぐに欲求不満になる。
結局、その欲求を完全に満たすこともなく俺はイエローエッジを解散させた。副総長だった純もユッキーも降り、逃げてきた俺についてきたが散り散りになった他の幹部たちが今どうなっているのかもわからない。否、俺はもう関わらないように逃げたのだ。知る権利もない。
だけど、当時、総長だとかヘッドだとか持て囃されていた頃よりも今、生徒会会計だとかクソ地味な役職に就いてマコちゃんをおもいながらシコシコ電卓打ってる方が遥かに充実しているのも事実なわけで。………それも、最近までのことだけど。
「また明日、朝迎えに来るからな。俺達の寿命を縮ませたくないのなら、大人しく待ってろよ」
「はいはい、早く部屋戻りなよ」
「仙道、お前な…」
――学生寮、自室前。
ぞろぞろとついてきた護衛たちにひらひらと手を振れば、ユッキーは眉間にシワを寄せる。
「雪崎さん、消灯まで時間ないですよ」
そんなユッキーを宥めるように耳打ちする青に、相変わらず不機嫌なままのユッキーは舌打ちをする。
そして、諦めたように大きな溜息をついた。
「じゃあな」
扉の前、踵を返したユッキーたちはそのまま俺の部屋の前を後にする。
その後ろ、少し遅れてついていこうとしていた純の肩をポンポンと叩き、引き止めた。
「純」
何事かと目を丸くする純の腕を引っ張り、俺は他のやつらに気付かれないようにそのまま純を自室へと招き入れる。
「あ、あの、仙道さん…」
「んー?」
「良いんですか、俺、部屋に入れて」
マコちゃんがいなくなって、やけに広くなった自室内。
どことなく緊張した様子の純をソファーに座らせ、適当な飲み物を用意してやる。
「本当はダメなんだけどね、純は特別」
言いながら、テーブルの上にバカみたいな色をしたジュースを注いだグラスを置けば、「え」と目を丸くした純は俺を見上げた。それを無視して、俺は純の足元に屈み込む。
「ほら、足出して」
「っちょ、なに……」
足を持ち上げ、そのまま裾を捲りあげれば何事かと純は赤くなったり青くなったりと動揺しだす。
ジタバタする純を押さえ込み、俺は足首に視線を留めた。関節の部分、腫れ上がった足首は捻っているようだ。
……やっぱり。
ジュースと一緒に用意した湿布とテープを手に取り、俺は純を見上げる。
「湿布。純のことだから、どーせ保健室行ってないんでしょ」
「う」
「俺、あんま器用じゃないからぐしゃっとなるかも知んないけど、我慢してね」
「動くなよ」と釘を刺しながら湿布のシートを剥がせば、逃げられないと悟ったようだ。
どこか拗ねたような顔のまま、純は「うっす…」と呟く。
いつもこんくらい大人しかったらいいのに。なんて思いながら、俺は純が暴れ出さないうちに手当を済ませることにした。
「…ッ」
湿布が剥がれないよう、見様見真似で足首をテープで固定したとき。びくんと跳ね上がる純に、思わず「はは」と口から笑い声が出てしまう。
涙目の純は睨むように俺に視線を向けた。
「…なんで笑うんすか」
「なんか、純の顔が梅干し見たいになってたから」
「ひっでぇ」
「ごめんて……あ」
丁度そのときだ。部屋に取り付けられたスピーカーから、消灯時間を示すチャイムが響いた。
同時に部屋の照明が消え、咄嗟に俺は明かりの代わりに携帯を取り出す。しかし、これだけでは頼りないの。
「消灯時間、間に合わなかったねぇ」
指定された消灯時間が過ぎれば寮内の施設は勿論エレベーターも機能しなくなる。階段があるので登り降りできないというわけではないが、やはり、視界が利くと利かないじゃ大分変わってくるわけで。
それなのに。
「いいっすよ、別に。夜目利くんで」
ソファーから立ち上がろうとする純に、咄嗟に俺はその裾を掴んでいた。
薄暗い視界の中。きょとんとした純と、確かに視線がぶつかった。
「…泊まっていけば?」
「え?」
「だから……部屋まで降りるの、エレベーター使えないし階段辛いでしょ。その足じゃ」
耳に馴染んでいたその名前は今はただ懐かしい。
誰が言い出したのか分からないが、俺とその周囲の連中はまとめてそう呼ばれていた。
イエローエッジには近付くな。男はボコられ身ぐるみ剥がされ無一文にされ、女はヤリ回されるからだとか。
馬鹿馬鹿しい、根拠のない噂話だ。とは言わない。
実際、チームの奴らの中にはそんなことをするやつらもいたらしいし。取り敢えず馬鹿やりたかった俺はそんな連中のことを気にするわけでもなく、ただ自分の好きなように生きていた。
やられたらやり返して応報合戦の繰り返しの日々。名前と拳が汚れていくばかりで、何一つ満たされない。
満たされたとしても一時的な興奮だ。時間が経てばまたすぐに欲求不満になる。
結局、その欲求を完全に満たすこともなく俺はイエローエッジを解散させた。副総長だった純もユッキーも降り、逃げてきた俺についてきたが散り散りになった他の幹部たちが今どうなっているのかもわからない。否、俺はもう関わらないように逃げたのだ。知る権利もない。
だけど、当時、総長だとかヘッドだとか持て囃されていた頃よりも今、生徒会会計だとかクソ地味な役職に就いてマコちゃんをおもいながらシコシコ電卓打ってる方が遥かに充実しているのも事実なわけで。………それも、最近までのことだけど。
「また明日、朝迎えに来るからな。俺達の寿命を縮ませたくないのなら、大人しく待ってろよ」
「はいはい、早く部屋戻りなよ」
「仙道、お前な…」
――学生寮、自室前。
ぞろぞろとついてきた護衛たちにひらひらと手を振れば、ユッキーは眉間にシワを寄せる。
「雪崎さん、消灯まで時間ないですよ」
そんなユッキーを宥めるように耳打ちする青に、相変わらず不機嫌なままのユッキーは舌打ちをする。
そして、諦めたように大きな溜息をついた。
「じゃあな」
扉の前、踵を返したユッキーたちはそのまま俺の部屋の前を後にする。
その後ろ、少し遅れてついていこうとしていた純の肩をポンポンと叩き、引き止めた。
「純」
何事かと目を丸くする純の腕を引っ張り、俺は他のやつらに気付かれないようにそのまま純を自室へと招き入れる。
「あ、あの、仙道さん…」
「んー?」
「良いんですか、俺、部屋に入れて」
マコちゃんがいなくなって、やけに広くなった自室内。
どことなく緊張した様子の純をソファーに座らせ、適当な飲み物を用意してやる。
「本当はダメなんだけどね、純は特別」
言いながら、テーブルの上にバカみたいな色をしたジュースを注いだグラスを置けば、「え」と目を丸くした純は俺を見上げた。それを無視して、俺は純の足元に屈み込む。
「ほら、足出して」
「っちょ、なに……」
足を持ち上げ、そのまま裾を捲りあげれば何事かと純は赤くなったり青くなったりと動揺しだす。
ジタバタする純を押さえ込み、俺は足首に視線を留めた。関節の部分、腫れ上がった足首は捻っているようだ。
……やっぱり。
ジュースと一緒に用意した湿布とテープを手に取り、俺は純を見上げる。
「湿布。純のことだから、どーせ保健室行ってないんでしょ」
「う」
「俺、あんま器用じゃないからぐしゃっとなるかも知んないけど、我慢してね」
「動くなよ」と釘を刺しながら湿布のシートを剥がせば、逃げられないと悟ったようだ。
どこか拗ねたような顔のまま、純は「うっす…」と呟く。
いつもこんくらい大人しかったらいいのに。なんて思いながら、俺は純が暴れ出さないうちに手当を済ませることにした。
「…ッ」
湿布が剥がれないよう、見様見真似で足首をテープで固定したとき。びくんと跳ね上がる純に、思わず「はは」と口から笑い声が出てしまう。
涙目の純は睨むように俺に視線を向けた。
「…なんで笑うんすか」
「なんか、純の顔が梅干し見たいになってたから」
「ひっでぇ」
「ごめんて……あ」
丁度そのときだ。部屋に取り付けられたスピーカーから、消灯時間を示すチャイムが響いた。
同時に部屋の照明が消え、咄嗟に俺は明かりの代わりに携帯を取り出す。しかし、これだけでは頼りないの。
「消灯時間、間に合わなかったねぇ」
指定された消灯時間が過ぎれば寮内の施設は勿論エレベーターも機能しなくなる。階段があるので登り降りできないというわけではないが、やはり、視界が利くと利かないじゃ大分変わってくるわけで。
それなのに。
「いいっすよ、別に。夜目利くんで」
ソファーから立ち上がろうとする純に、咄嗟に俺はその裾を掴んでいた。
薄暗い視界の中。きょとんとした純と、確かに視線がぶつかった。
「…泊まっていけば?」
「え?」
「だから……部屋まで降りるの、エレベーター使えないし階段辛いでしょ。その足じゃ」
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