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人の心も二週間
裏端会談 *???side
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昔から、山岸拓哉は足の速さには自信があった。
小学生の頃からかけっこは一番だったし、中学の頃はリレーでアンカー任されるのは毎年のことで、本人も自分の足の速さは自負していた。
短距離だけではなく、スポーツ全般が得意だったし、本当は高校だって特待でもっと良い所を用意してもらえるはずだった。勿論、過去形だ。
そんな自分が捕まるはずがない。そう思っていたのだが、予想外の出来事が起こった。
ずきずきと痛む後頭部を抑え、掌にぬるりとした感触が触れた。
ヘマをした。
それはギリギリで、どちらかと言えばただのかすり傷に近いのだが、追いかけてきた佐倉純が手にしたバッドが飛んでくるのを避けることが出来なかった。見事直撃し、一瞬目眩を覚えたが拓哉は意地でも逃げてきた。
こんなにも焦って逃げたのは何年ぶりのことだろうか。もしかしたら初めてかもしれない。
――学園敷地内、裏庭。
既に閉じられた昇降口とは反対の裏口から校舎を後にした拓哉は、そこにいた人影に近づいて行く。
「あーいたたた、くっそー、佐倉純、あいつまじ邪魔だわ…」
「……仙道京は」
「失敗。二、三人だけなら俺一人でも余裕と思ったけど、佐倉純、あいつがもうゴキブリ並みにしつこいしつこい」
予め待機していた海堂侑士は、ようやくやってきた仲間の姿に眉根を寄せる。
山岸拓哉のその手のひらが赤くなっていることに気付いたのだろう。益々表情を険しくした海堂侑斗は硬い表情のまま続けた。
「怪我したのか」
「俺だって人間だからな。殴られたら内出血起こして赤い血が青くなるんだよ」
「人間」と、海堂侑士は唇を動かす。向けられる冷ややかな視線に、山岸拓哉は苦笑した。
「なにそのリアクション。すげー失礼だろ。………でもま、頭かち割られた分のお礼貰えたしいいかな」
「……礼?」
「キョウとチューしてきた」
「……」
「和真の野郎が騒ぐからどんなもんかと思ったけど、想像以上だったわ。あれ。邪魔がいなけりゃレイプしてやろうと思ったんだけどなぁ」
悪びれた様子もなく続ける山岸拓哉に、海堂侑士はわざわざ突っ込むことすらも惜しいとでも言うかのような口調で、ただ「それ、日桷に言うなよ」とだけ呟く。
表情が乏しいのも、言葉数が少ないのも、山岸拓哉の発言への不快感や嫌悪感からではない、海堂侑士の場合、これが通常なのだ。
「言わねえよ。ヒス回されたら全身の骨が粉々になる」
肩を竦め、山岸拓哉は喉を鳴らして笑う。
対する海堂侑士はどこか遠くを見つめたままで。
「……佐倉純か」
先ほど、山岸拓哉の口から出た名前を口にする海堂侑士に、にっと拓哉は笑みを浮かべた。そして数回頷いて見せる。
「そうそう。お前もキョウとやりたいんなら、そっちを先に潰した方がいいかもな。下手な犬より鼻が効く」
「お前と一緒にするな、拓哉」
お前みたいなヘマはしない。それとも、お前みたいなことはしない。どちらだろうか。
山岸拓哉は「そりゃわりーな」と軽薄に返し、学生寮へと歩き出した。
小学生の頃からかけっこは一番だったし、中学の頃はリレーでアンカー任されるのは毎年のことで、本人も自分の足の速さは自負していた。
短距離だけではなく、スポーツ全般が得意だったし、本当は高校だって特待でもっと良い所を用意してもらえるはずだった。勿論、過去形だ。
そんな自分が捕まるはずがない。そう思っていたのだが、予想外の出来事が起こった。
ずきずきと痛む後頭部を抑え、掌にぬるりとした感触が触れた。
ヘマをした。
それはギリギリで、どちらかと言えばただのかすり傷に近いのだが、追いかけてきた佐倉純が手にしたバッドが飛んでくるのを避けることが出来なかった。見事直撃し、一瞬目眩を覚えたが拓哉は意地でも逃げてきた。
こんなにも焦って逃げたのは何年ぶりのことだろうか。もしかしたら初めてかもしれない。
――学園敷地内、裏庭。
既に閉じられた昇降口とは反対の裏口から校舎を後にした拓哉は、そこにいた人影に近づいて行く。
「あーいたたた、くっそー、佐倉純、あいつまじ邪魔だわ…」
「……仙道京は」
「失敗。二、三人だけなら俺一人でも余裕と思ったけど、佐倉純、あいつがもうゴキブリ並みにしつこいしつこい」
予め待機していた海堂侑士は、ようやくやってきた仲間の姿に眉根を寄せる。
山岸拓哉のその手のひらが赤くなっていることに気付いたのだろう。益々表情を険しくした海堂侑斗は硬い表情のまま続けた。
「怪我したのか」
「俺だって人間だからな。殴られたら内出血起こして赤い血が青くなるんだよ」
「人間」と、海堂侑士は唇を動かす。向けられる冷ややかな視線に、山岸拓哉は苦笑した。
「なにそのリアクション。すげー失礼だろ。………でもま、頭かち割られた分のお礼貰えたしいいかな」
「……礼?」
「キョウとチューしてきた」
「……」
「和真の野郎が騒ぐからどんなもんかと思ったけど、想像以上だったわ。あれ。邪魔がいなけりゃレイプしてやろうと思ったんだけどなぁ」
悪びれた様子もなく続ける山岸拓哉に、海堂侑士はわざわざ突っ込むことすらも惜しいとでも言うかのような口調で、ただ「それ、日桷に言うなよ」とだけ呟く。
表情が乏しいのも、言葉数が少ないのも、山岸拓哉の発言への不快感や嫌悪感からではない、海堂侑士の場合、これが通常なのだ。
「言わねえよ。ヒス回されたら全身の骨が粉々になる」
肩を竦め、山岸拓哉は喉を鳴らして笑う。
対する海堂侑士はどこか遠くを見つめたままで。
「……佐倉純か」
先ほど、山岸拓哉の口から出た名前を口にする海堂侑士に、にっと拓哉は笑みを浮かべた。そして数回頷いて見せる。
「そうそう。お前もキョウとやりたいんなら、そっちを先に潰した方がいいかもな。下手な犬より鼻が効く」
「お前と一緒にするな、拓哉」
お前みたいなヘマはしない。それとも、お前みたいなことはしない。どちらだろうか。
山岸拓哉は「そりゃわりーな」と軽薄に返し、学生寮へと歩き出した。
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