モノマニア

田原摩耶

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イレギュラーは誰なのか

後の祭り

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 ……。
 …………。

 眠っていると、ドンドンと扉を叩く音が聞こえてくる。
 けたたましい荒いノックの音に叩き起こされ、うっすらと目蓋を持ち上げれば相変わらず自室に人気はなかった 。

「ん……」

 いまは何時だろうか。
 携帯電話を手に取り、現在時刻を調べてみればまだ一時間も経っていない。そして、携帯には複数の着信が入っていた。並ぶチームのメンバーの名前、その大半は純からだった。
 ドンドンと叩かれる扉。もしや、と思い、扉についたレンズから扉の向こうを確認してみれば、案の定そこには青い顔した純がいた。

「じゅん~?」

 まだ覚めていない頭でロックを解除し、扉を開けば、現れた俺に純は安堵する。しかし、それも束の間。

「仙道さんっ、大変です!風紀がヒズミを半殺しにして生徒会がリコールしろって騒いで風紀のやつらたちと乱闘騒ぎで警察が来て!」
「え?ちょっ、ちょ、待って。まったく意味わかんないから」

 断片的に、それでもしっかりと聞こえてきた『風紀』『ヒズミ』『半殺し』という言葉に冷水をぶっかけられたように脳髄が冷め始める。純も純で相当焦っているようだ。
「取り敢えず、落ち着いて」と純の肩を擦れば、少し落ち着いたらしい。深い息を吐き、純は相変わらず青い顔して「すみません、取り乱しました」と小さく頷く。

「取り敢えず、一つずつ説明して。……ね?」

 目の前に慌てている人間がいると、不思議と自分が冷静になるのがわかった。それでも、早まる脈は収まらない。

「…落ち着いて、落ち着いて聞いてくださいね」
「うん」
「敦賀真言が……――」



 ――校舎内、指導室前。
 純から話を聞いた俺はすぐさま現場である指導室までやってきていた。

「マコちゃんっ!」

 廊下の外まで飛び出したテーブル。椅子を投げつけたのだろう、窓ガラスは割れ、その付近に落ちた椅子は変な方向に曲がり足には赤い液体が付着している。
 すでに警察は帰ったようだ。荒んだ指導室内には人気はなく、数人の風紀委員が後片付けに追われていた。

「残念ですが、一足遅かったようですね」 

 指導室内へ足を踏み入れたとき、背後から声がした。聞き慣れたその柔らかい声の主を振り返れば、主、もとい石動千春は「どうも」と微笑んだ。

「ちーちゃん、マコちゃんは…」
「先ほど病院へ連れて行かれました」
「病院っ?」
「あの怪我なら入院までは行かないだろうが、暫く戻ってくるのは無理だな」

 ちーちゃんの代わりに答えたのは、風紀副委員長、石動千夏だった。
 ちーちゃんと千夏の双子が並んでいるのをみたのは初めてかもしれないが、今はそんなことにレア感を覚えている場合ではない。

「なにが、あったの」
「おや、なにも知らずに血相変えて来たんですか。可愛らしい方ですね」
「別に、知ってるけど。…純に聞いただけだから」

 茶化されてるみたいで面白くなくて、冷ややかにちーちゃんに視線を送ればちーちゃんは肩を竦めた。
 そして、すぐに気を取り直す。

「簡潔に述べれば、風紀委員長である敦賀さんが転校生に暴力を振るったというところでしょうか」
「真言も真言だけど、あの転校生も相当だな。真言相手にまじでやり合うなんて」
「あの怪我では、暫く戻ってこれないでしょうね」
「どうだかな。首の傷ももう塞がってたんだ。肋の一本や二本、二週間で治すだろ、あの化物なら」

 正直、純から聞いた話もまだ半信半疑だった。
 だって、マコちゃんが暴力を振るうような人間ではないと思っていた。思っていたし、マコちゃんが暴力を嫌っていることを知っていた。
 二人の会話に出てくるマコちゃんが俺の知ってるマコちゃんと結び付かなくて、なにより、俺でも敵わなかったヒズミがそんな大怪我をする姿なんて想像出来なくて。

「……マコちゃんが」

 日桷をやっつけた。暴力が嫌いだと言ったマコちゃんが、暴力で。
 まだどこか自分が夢を見ているようだった。いい夢なのか悪い夢なのか、まだ、わからない。

「……」
「仙道?」
「マコちゃんは、どうなるの。ねえ」
「…ここまで騒ぎ大きくしちゃぁ、最低でも二週間だな、停学。復帰できても、真言を嫌ってる連中が騒ぐだろうし、今のままこの座でいれるかどうかわかんねえ」
「まあ、敦賀さんの場合素行に問題はなかったですし、そう大事になりませんよ。仙道がそう気に病む必要はありません」

「たかが二週間、あっという間ですからね」と、ちーちゃんはいつもと変わらない笑みを浮かべる。その笑顔はどこか楽しそうに見えた。

「そうだ、これをあなたに」

 ふと、思い出したようにちーちゃんは制服のポケットからメモ用紙を取り出した。それを差し出され、受け取れば、そう遠くはない病院の住所が記されていた。

「そこに、敦賀さんがいるはずです。そんなに気になるのでしたら直接聞いてみてはいかがですか?」
「…ん、ありがと」

 それもそうだ。思いながらメモを仕舞えば、「ありがとう、ですか」とちーちゃんは意味深な笑みを浮かべる。

「……本当面白いこと言いますね、仙道は」
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