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鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
要注意人物A *風紀side
しおりを挟む【side:千夏】
そろそろ、このつまらない催物の閉会式も始まった頃だろうか。
指導室の壁にかかった時計を一瞥した石動千夏は深い息を吐き、そして再度視線を目の前の男子生徒に戻す。
寝癖なのか天パなのか、それともなにかの爆発に巻き込まれたのか、もさもさの黒い髪にちゃんと見えてるのか?と聞きたくなるような分厚い瓶底眼鏡をかけた男子生徒の名前は確か、日桷和真。
「だーかーらー、言ってんじゃん。俺はキョウを助けただけなんだって!悪いのはあいつら!なんで俺が文句言われなきゃならないんだよ」
「あ?キョウ?そんなやついねえから、あそこ」
「いただろ、いたって!ほら、すっげー綺麗で白くて可愛くて金髪の!」
綺麗?白い?可愛い?どう頭を捻ってもそんなやついなかったと思う。そう千夏が小首かしげた時、隣にいた風紀委員がハッとする。
「…副委員長、もしかして金髪って会計のことじゃ…」
日桷和真に聞こえないよう、小声で耳打ちしてくる委員だったがどうやらばっちり日桷和真の耳に届いていたようだ。
「会計?キョウ、会計やってんのか?すげー、あいつ頭もいいのか!」
ガタリと音を立て、椅子から立ち上がる日桷和真は興奮で赤くなった頬を掌で抑える。
「……流石、俺のキョウ」
ほぅ、と恍惚の溜息を漏らすやつの目にはここにはいない会計、仙道京の姿が写っているのかもしれない。そう疑いたくなるほど、日桷の眼中には自分たちの姿はなかった。分厚いレンズの下から覗くその目を見た千夏は、寒気を覚える。
――指導室を他の委員に任せ、さっさと退散してきた千夏は廊下に出て、制服から取り出したタバコを咥える。
その隣、先程の風紀委員が不安そうな顔をしてこちらを見上げていた。まさかついてくるとは思ってなかった千夏は慌ててタバコを隠す。
「ふ、副委員長…」
「言いたいことはわかってる」
そして、それでも不安そうな顔の委員に千夏は先程までのことを思い出す。――恐らく、日桷のことだろう。
「ああいうタイプは嫌いなんだよ、俺。話聞かねえし、思い込みが激しい。…さっきのこと、委員長には言うなよ」
「は、はいっ」
委員長である敦賀真言は仙道京と特別仲が良いというのは風紀委員内でも周知の事実だった。委員長はそういうのではないと慌てて否定していたが、その仲が恋人同然というのも皆理解していた。
委員長が同性愛だろうが千夏たちにとって問題はそこではなく、相手があの仙道京だということが重要だった。
おまけに、仙道京に惚れ込んでいる委員長はひどく嫉妬深い。
それに、あの空き教室の残状。委員長と同じように仙道京に執着する転校生の日桷和真。
……なにか、嫌な予感がする。
「あー、くそ、マジめんどくせぇ」
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