モノマニア

田原摩耶

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鬼さんこちら、手の鳴る方へ。

甘やかしたい人

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「おい、お前、ここでなにしてるんだ」
「なにって、夜這いに決まってるじゃないですか」
「なんだって?」

 林檎が別の器官に入り、咽る。これもどれも、全部このちーちゃんのせいだ。
 血相を変えるマコちゃんを慌てて止める。

「マコちゃん、ちが、ちーちゃんは俺を心配して…っ」

 言いかけて、また、げほりと咳が出た。背中を丸め、うーんと唸る俺にマコちゃんは慌てて背中を摩ってくれる。

「おい、わかった、わかったから無理して喋るな」

 大きくて、優しい手。……気持ちいい。
 マコちゃんに摩ってもらえて、だいぶ楽になる俺にちーちゃんは「仲がよろしいことで何より」と冷やかしを入れてくる。こいつに言われると含みがあるようで素直に喜べない。

「彼氏さんも戻ってきたことですし、僕もそろそろ戻りますね」
「ちーちゃん、ありがと」
「気にしなくてもいいですよ。…それに、素直な仙道は少々気味が悪いですしね」
「二十四時間年中無休で気味が悪いあんたに言われたくないんだけど」

 そう言い返せば、一笑したちーちゃんは小さく会釈し、そのまま開きっぱなしになっていたカーテンから外へ出る。ちーちゃんが出ていってすぐ、マコちゃんはカーテンを締め切った。本当、わかりやすい。

「バタバタして、悪かった。もう大丈夫だ」
「マコちゃんの大丈夫は、アテにならないからな~」
「…」
「えへへ、嘘だってば」

 ちーちゃんがいなくなって、再び締め切ったベッドルームにて。
 怖い顔するマコちゃんに笑いかければ、少しだけ視線を泳がせたマコちゃんはごほんと態とらしく咳払いをする。そして、じろりと俺を見た。

「お前も、何かあったときはすぐに声を上げろ。いいな?」
「声って、俺もー子供じゃないんだからさぁ、心配し過ぎだって」
「心配するのは当たり前だろ。危なっかしいんだよ、お前は。特に」

 そうなのだろうか、自分ではよくわからない。けど、あまりマコちゃんの怒った顔を見たくない。……心配も、させたくない。
 だから、なるべく頑張っているのだけど、その結果余計マコちゃんをハラハラさせてしまっているのかもしれない。

「京の身に何かあったって聞いて、心臓が止まったんだからな」
「ごめんね、マコちゃん」

 ぷりぷりと怒るマコちゃんの頭を撫でれば、マコちゃんはなんか言いたさそうな顔をして俺を見るが、結局何も言わずに俺の手を受け入れる。耳が赤い。可愛い。

「でもちーちゃんのことはホント気にしなくていいから」
「いい噂は聞かない」
「俺だっていい噂流れてないでしょ」

 そう言い返せば、マコちゃんは押し黙った。
 学園内の風紀秩序に関わる噂や不満などは全て風紀室に持ち込まれていることはわかっている。適当に言ってみたのだが、やはり俺に関するあれこれも持ち込まれているみたいだ。気にはなったが、否定もしないマコちゃんの様子からしてその内容は伺えた。

「考え過ぎだってば。そのうちハゲるよー?」

 艶々した前髪を撫で付け、笑いかければ、レンズの下のマコちゃんの目が俺を見る。
 誰のせいだと言いたいのだろう。小さく笑って、俺はマコちゃんから手を離す。

「ありがとね、マコちゃん」

 マコちゃんと一緒にいると、時間を忘れる。遠くからゲーム終了の放送が聞こえてきてようやく、俺は結構な長い時間を保健室で過ごしていることに気が付いた。
 そろそろだ。大分、楽になったであろう上半身をゆっくりと起こせば、別途のそばの椅子に座っていたマコちゃんが「あ、おい」と止めてくる。俺はそれを「大丈夫」と制した。

「そろそろ、時間だから」
「時間?…閉会式か?」
「ん」
「それなら気にする必要は無い」

 やけにはっきりとした口調だった。マコちゃんの言葉の意味がよくわからなかったが、あの小憎たらしい会長との約束がある今、なんとしてでも約束は守らなければならない。

「でも、ほら、一応俺主催側だし…」
「お前も頑固だな。…いいだろう。式に顔を出しても構わないが、お前のそばから離れないからな」
「…ん、分かった」

 諦めたように息を吐くマコちゃんに安堵する。俺とマコちゃんは閉会式会場へと向かうことにした。
 立って歩くのも辛かったが、マコちゃんがいるからだろう。不審に思われないよう、平常通り歩くことが出来た。
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