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出揃った役者、逃亡する主役。
王子様の企み
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――学生寮内、食堂前。
「珍しいですね、仙道が僕を食事に誘うなんて」
「ちーちゃんこそ、珍しーじゃん。親衛隊は?」
まだ制服のままのちーちゃんの周りにはいつものちっこい親衛隊たちの姿はなく、何なんとなく気になって尋ねてみたらちーちゃんは控えめに笑った。
「あれ、仙道は聞いてなかったのですかね」
「なにが?」
「昨日、親衛隊を解散させたんですよ」
「へー解散ねぇ」
そりゃどうりでいないわけだ。
……って、解散?
「え、何、解散て」
ありえない。あんなに親衛隊をかわいがっていたちーちゃんが親衛隊を解散させるなんて。初耳だ。とりくろう余裕すらなくて、思わず素で動揺する俺にちーちゃんはクスクスと上品に笑う。
「仙道、酷い顔になってますよ」
「だって、普通にびびんだけど」
「でしょうね、だって嘘ですから」
ケロリとした顔で続けるちーちゃん。これほどまでにこの男をはっ倒したくなったことはないだろう。
色々なことが重なってナイーブになっていただけにちーちゃんのいらぬお茶目にまんまと引っ掛けられた俺は何だから居た堪れなくなる。
「……もうちーちゃんのこと信じない」
「元から信じてないくせに面白いことを言いますね。可愛かったですよ、ショック受けた貴方の顔」
そんなに僕の事が好きですか、なんてまた頭の湧いたようなことを言い出すちーちゃん。
「親衛隊の子たちが気になっただけだし。解散の腹いせでさらに暴走すんじゃないかって」
「貴方が心配してくれるなんて珍しいじゃないですか」
心配というか、これ以上仕事が増えたらやなだけなんだけど。
敢えて口には出さないが、俺の性格を把握しているちーちゃんにはバレているかもしれない。
「でもまあ、解散されそうなのは本当なんですけどね」
俺にだけ聞こえる声でポツリとつぶやかれたその一言にどういう意味だとちーちゃんを見上げる。目あってちーちゃんは笑った。
「立ち話も何ですし、食堂へと行きましょうか。今ならきっと、そう混んでないはずですし」
というわけでちーちゃんと一緒に食堂までやってきた俺。
行くまでの間なんかちっちゃくてやかましいちーちゃんの親衛隊らしき子達が石動様石動様うるさかったから俺達は食堂の個室借りて二人きりになることにする。
生徒会役員の特権だ。せっかく役員になったんだから利用しないとね。
「ちーちゃんの親衛隊ってさ、可愛い顔してる割に怖いよね」
「やはり愛の大きさでしょうか。やぁ、愛されてるって恐ろしいですねぇ」
ふふふ、と笑いながら分厚いステーキを一切パクリ。
昼間っぱらからそんな胃もたれしそうなもんよく食えるなーなんて思いながら俺は目の前のちーちゃんを眺める。ご丁寧にナプキンで口周りを拭ったちーちゃんはゆっくりと俺を見た。
「あなたのところはどうなんですか」
「どうって、何が」
「佐倉君、親衛隊結成したそうじゃないですか」
全く、どいつもこいつも情報が早い。もしかして純のやつが言いふらしてるんじゃないのかと疑いたくなる。
「親衛隊っつーか、あれ非公認だから」
「またそんな事言って。いいじゃないですか、佐倉君に任せといたほうが貴方も楽になるんじゃないですか?実際、僕も親衛隊に助けられてますから」
「夜、寂しい時とか?」
そう軽口叩けば、小さく笑ったちーちゃんは「秘密です」と呟く。いつもなら聞いてもいない下半身の事情までくっちゃべるちーちゃんがはぐらかすのが珍しく感じたが、詳しく追求する気にもならなかった。
俺は手元のサラダにフォークを立てた。サクリと音を立て、葉物野菜に刃先が突き刺さる。
ちーちゃんは、俺と純の関係に薄々気が付いているようだ。ただの先輩後輩ではないと。それでも何も言ってこないのはこの学園にとって然程珍しいことではないからだろうか。
たまに気持ちが悪いけど話が通じるちーちゃんは俺にとっていい話し相手だった。……恋の相談相手としても。
「んで、さっきの話なんだけど」
「ああ、僕の親衛隊のことでしょう」
「なんで、解散の話なんか出てんの」
「そりゃ勿論、ここ最近の騒動が原因でしょうね」
「誰が言ってんの?」
「うちの会長以外誰がいるんですか」
まあ、なんとなく想像はついていた。
――生徒会会長、玉城由良。
またあの男か、と舌打ちをせずにはいられなかった。
「ほんと、あの人何考えてんだろーね」
悪趣味なのには変わりないのだろうけど。俺が言いたいことが分かったらしい。ちーちゃんは笑う。
「さぁ、僕にもあの人のことはわかりません」
「仲いいんじゃねーの?」
「そりゃまぁ役職上顔を合わせる機会も多いですが、だからといって会長のことをなんでも知ってるわけではないので」
「ふーん」
なんとなく腑に落ちないが、ちーちゃんにあたっても仕方がない。
「しかしまぁ、新歓のこともですがまた良からぬことを企んでいなければいいのですが」
また、という単語が喉に引っかかる。またってことは、前にも何かあったということだろうか。
「とにかく、あなたもくれぐれも気をつけたほうがいいですよ。あまり、食えない相手ですからね」
「確かに。腹壊しそーだね」
「下品な方ですね。食事中にそういうことを言うのはやめてください」
お前にだけは言われたくない。
「珍しいですね、仙道が僕を食事に誘うなんて」
「ちーちゃんこそ、珍しーじゃん。親衛隊は?」
まだ制服のままのちーちゃんの周りにはいつものちっこい親衛隊たちの姿はなく、何なんとなく気になって尋ねてみたらちーちゃんは控えめに笑った。
「あれ、仙道は聞いてなかったのですかね」
「なにが?」
「昨日、親衛隊を解散させたんですよ」
「へー解散ねぇ」
そりゃどうりでいないわけだ。
……って、解散?
「え、何、解散て」
ありえない。あんなに親衛隊をかわいがっていたちーちゃんが親衛隊を解散させるなんて。初耳だ。とりくろう余裕すらなくて、思わず素で動揺する俺にちーちゃんはクスクスと上品に笑う。
「仙道、酷い顔になってますよ」
「だって、普通にびびんだけど」
「でしょうね、だって嘘ですから」
ケロリとした顔で続けるちーちゃん。これほどまでにこの男をはっ倒したくなったことはないだろう。
色々なことが重なってナイーブになっていただけにちーちゃんのいらぬお茶目にまんまと引っ掛けられた俺は何だから居た堪れなくなる。
「……もうちーちゃんのこと信じない」
「元から信じてないくせに面白いことを言いますね。可愛かったですよ、ショック受けた貴方の顔」
そんなに僕の事が好きですか、なんてまた頭の湧いたようなことを言い出すちーちゃん。
「親衛隊の子たちが気になっただけだし。解散の腹いせでさらに暴走すんじゃないかって」
「貴方が心配してくれるなんて珍しいじゃないですか」
心配というか、これ以上仕事が増えたらやなだけなんだけど。
敢えて口には出さないが、俺の性格を把握しているちーちゃんにはバレているかもしれない。
「でもまあ、解散されそうなのは本当なんですけどね」
俺にだけ聞こえる声でポツリとつぶやかれたその一言にどういう意味だとちーちゃんを見上げる。目あってちーちゃんは笑った。
「立ち話も何ですし、食堂へと行きましょうか。今ならきっと、そう混んでないはずですし」
というわけでちーちゃんと一緒に食堂までやってきた俺。
行くまでの間なんかちっちゃくてやかましいちーちゃんの親衛隊らしき子達が石動様石動様うるさかったから俺達は食堂の個室借りて二人きりになることにする。
生徒会役員の特権だ。せっかく役員になったんだから利用しないとね。
「ちーちゃんの親衛隊ってさ、可愛い顔してる割に怖いよね」
「やはり愛の大きさでしょうか。やぁ、愛されてるって恐ろしいですねぇ」
ふふふ、と笑いながら分厚いステーキを一切パクリ。
昼間っぱらからそんな胃もたれしそうなもんよく食えるなーなんて思いながら俺は目の前のちーちゃんを眺める。ご丁寧にナプキンで口周りを拭ったちーちゃんはゆっくりと俺を見た。
「あなたのところはどうなんですか」
「どうって、何が」
「佐倉君、親衛隊結成したそうじゃないですか」
全く、どいつもこいつも情報が早い。もしかして純のやつが言いふらしてるんじゃないのかと疑いたくなる。
「親衛隊っつーか、あれ非公認だから」
「またそんな事言って。いいじゃないですか、佐倉君に任せといたほうが貴方も楽になるんじゃないですか?実際、僕も親衛隊に助けられてますから」
「夜、寂しい時とか?」
そう軽口叩けば、小さく笑ったちーちゃんは「秘密です」と呟く。いつもなら聞いてもいない下半身の事情までくっちゃべるちーちゃんがはぐらかすのが珍しく感じたが、詳しく追求する気にもならなかった。
俺は手元のサラダにフォークを立てた。サクリと音を立て、葉物野菜に刃先が突き刺さる。
ちーちゃんは、俺と純の関係に薄々気が付いているようだ。ただの先輩後輩ではないと。それでも何も言ってこないのはこの学園にとって然程珍しいことではないからだろうか。
たまに気持ちが悪いけど話が通じるちーちゃんは俺にとっていい話し相手だった。……恋の相談相手としても。
「んで、さっきの話なんだけど」
「ああ、僕の親衛隊のことでしょう」
「なんで、解散の話なんか出てんの」
「そりゃ勿論、ここ最近の騒動が原因でしょうね」
「誰が言ってんの?」
「うちの会長以外誰がいるんですか」
まあ、なんとなく想像はついていた。
――生徒会会長、玉城由良。
またあの男か、と舌打ちをせずにはいられなかった。
「ほんと、あの人何考えてんだろーね」
悪趣味なのには変わりないのだろうけど。俺が言いたいことが分かったらしい。ちーちゃんは笑う。
「さぁ、僕にもあの人のことはわかりません」
「仲いいんじゃねーの?」
「そりゃまぁ役職上顔を合わせる機会も多いですが、だからといって会長のことをなんでも知ってるわけではないので」
「ふーん」
なんとなく腑に落ちないが、ちーちゃんにあたっても仕方がない。
「しかしまぁ、新歓のこともですがまた良からぬことを企んでいなければいいのですが」
また、という単語が喉に引っかかる。またってことは、前にも何かあったということだろうか。
「とにかく、あなたもくれぐれも気をつけたほうがいいですよ。あまり、食えない相手ですからね」
「確かに。腹壊しそーだね」
「下品な方ですね。食事中にそういうことを言うのはやめてください」
お前にだけは言われたくない。
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