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出揃った役者、逃亡する主役。
噂と憶測
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風紀委員に呼ばれたマコちゃんと別れ、再度一人になった俺は歩き出す。とにかく、居ても立ってもいられなかったのだ。
生徒会室にいたヒズミと会長。二人はなにを話していたのだろうか。そして、ヒズミはなんでこの学園に来たんだ。
『会いたかったよ』
脳裏に蘇る軽薄で突き抜けたように明るい声に吐き気を覚えた。全身から汗が滲み、肩が震え出す。
「……っ」
狂ったような笑い声。全身を這う骨っぽい手の感触。
昼も夜もわからない暗闇。皮膚が破裂するような激痛。
忘れたくて頭の奥に押し込んでいた映像が次々と瞼裏に浮かび上がり、全身が緊張した。
「は、ぁ…ッ」
ズキズキと疼き出す手首の傷を掴み、指先で傷口を引っ掻く。しかし、うぞうぞと傷口の中で蠢く嫌な感触は取れず。フラッシュバックに軽く目が眩んで、足の力が抜けそうになった。咄嗟に壁に凭れ、体勢を保つ。
なんでヒズミはあんな変装までして。俺に会いたかった?なんで。なんのために。まさかまた、まだ、足りなくて。逃げた俺が気にくわなかったから?
どうしよう。どうしたらいい。
思考回路が乱れだし、軽いパニックに陥りかけたときだった。不意に、肩を掴まれる。
「っ!!」
緊張した全身がびくっと跳ね上がり、青い顔のまま振り返ればそこには。
「……大丈夫?」
無造作な黒髪。相変わらず表情のないそいつは俺と目が合うなりやっぱり高揚のない声で尋ねてくる。
――生徒会書記、各務陽平。
図書館の帰りなのか、数冊の本を抱えた各務の姿に俺はほっと安堵する。
「…よーへい君」
どうやら俺はヒズミとの悪夢に気を取られ彼の気配に気付かなかったようだ。迂闊だった。
「……手首、どうかした?」
「ぅえ?」
「押さえてる」
そうよーへい君に指摘されつられて自分の手元に目を向ける。
手首に引かれた蚯蚓が張ったような一本の線を思い出し、咄嗟に俺は手を背に隠した。
「いや、なんか虫に刺されちゃったみたいでさー痒くて痒くて」
慌てて笑顔を取り繕い、俺はよーへい君に笑いかけた。
虫は虫でも猛毒を孕んだ害虫だろう。ヒズミの顔が頭を過り、咄嗟に振り払った。
よーへい君は相変わらず無表情のままで。なにを考えてるかわからないその目でじっと瞳の奥を覗かれればまるで頭の中まで見られるような不思議な感覚に囚われてしまい、不思議と目が逸らせなくなった。
まさか、見られたのだろうか――傷跡。
元々隠していたわけではないが、なんだか聡そうなよーへい君には見られたくなかった。嫌な汗が滲む。
「……そう」
対するよーへい君は結局なにも言わずに俺から目を逸らした。気を遣ってくれたのか本当になにも気付いてなかったのか俺には判断つかなかったが、あの目が逸らされ俺はほっと安堵する。
「あの、さ。よーへい君」
音もなく現れたのはビックリしたが、こんなところでよーへい君と出会えたことは俺にとっていい機会なのだろう。せっかくだから会長たちのことを聞いてみるか。
「……なに?」
「…あの転校生君ってさぁー、うちの会長と仲がいいわけ?」
まどろっこしい駆け引きはあまり得意ではない俺は単刀直入に尋ねることにした。
無表情のまま黙り込むよーへい君。どうやら考えてるらしい。
「……なんで?」
「や、なんかさっき生徒会室行ったらあの転校生君と会長がなんかしてたから」
そう見た通りのことを問い掛ければまたよーへい君は黙った。
本人は考え事してくれているのだろうが急に無表情のまま黙られてるとなにか気に障ったんじゃないかと心配にせずにはいられない。
そんなとき、不意によーへい君は口を開いた。
「セフレ」
「へ?」
「……会長、手が早いから」
だから、転校生にも手を出したんじゃないか。そんなことを大真面目に口にするよーへい君に俺は硬直する。
いや、有り得ない。あのヒズミが。いやでも、ヒズミだし。というか、だとしたらどっちがどっちなんだ。
一瞬想像してしまい全身からさぁっと血の気が引いていくのを鮮明に感じた。
「いやいやいや、セフレって……」
というか、よーへい君もセフレとか言っちゃうんだ。
なんか意外。
「本当は、俺もよくわからない」
呆れ果てる俺に続けるよーへい君も思うところがあったようだ。よくわからないというよりも、興味なさそうに見える。
「でも、意外だなぁ。会長って面食いだと思ってた」
本音だ。変に高飛車なやつだから、尚更。そんな俺の呟きに、よーへい君の目がこちらを向く。
「そんなに、気になるの」
「ん、だってさ、まぁほら興味はあるじゃん。やっぱり」
「……」
あまり、がっつきすぎてしまったか。
怪しまれたか。じっとこちらを見てくるよーへい君に嫌な汗が滲んだ。
「……そういうことなら、庶務や副会長に聞いた方がいい」
俺なんかよりも、仲が良いだろうから。なんて自虐めいた口調で続けるよーへい君もに、まぁ確かになと俺は納得する。
それでも、あの三人にはあまりそういうことは聞きたくなかった。だってなんかトラブルメーカーだし。
「うーん、そうかぁ。そうだよなぁ」
言いながらうんうん唸る俺。まあ確かに会長とヒズミのことは気になったが変に嗅ぎ回ってたらヒズミたちの耳に入る可能性も高くなるだろう。
その点を踏まえて軽口ではないよーへい君を選んだのだが知らないのなら仕方がない。
「そっかー、ごめんねぇ。引き留めちゃって」
これ以上の収穫はないだろう。そう諦めた俺はよーへい君に笑いかける 。
別にいいと小さく呟きうつ向くよーへい君。照れてるのだろうか、分かりにくい。
「じゃ、またあとでね」
そう、こくりと頷き返してくるよーへい君と別れ、俺はその場を後にする。
会長とヒズミ。会長とヒズミ。会長とヒズミ。頭の中でぐるぐると巡る固有名詞について考えながら俺は一旦寮へと戻ることにした。
そして、俺が二人の関係性について気づくのに然程時間は掛からなかった。
生徒会室にいたヒズミと会長。二人はなにを話していたのだろうか。そして、ヒズミはなんでこの学園に来たんだ。
『会いたかったよ』
脳裏に蘇る軽薄で突き抜けたように明るい声に吐き気を覚えた。全身から汗が滲み、肩が震え出す。
「……っ」
狂ったような笑い声。全身を這う骨っぽい手の感触。
昼も夜もわからない暗闇。皮膚が破裂するような激痛。
忘れたくて頭の奥に押し込んでいた映像が次々と瞼裏に浮かび上がり、全身が緊張した。
「は、ぁ…ッ」
ズキズキと疼き出す手首の傷を掴み、指先で傷口を引っ掻く。しかし、うぞうぞと傷口の中で蠢く嫌な感触は取れず。フラッシュバックに軽く目が眩んで、足の力が抜けそうになった。咄嗟に壁に凭れ、体勢を保つ。
なんでヒズミはあんな変装までして。俺に会いたかった?なんで。なんのために。まさかまた、まだ、足りなくて。逃げた俺が気にくわなかったから?
どうしよう。どうしたらいい。
思考回路が乱れだし、軽いパニックに陥りかけたときだった。不意に、肩を掴まれる。
「っ!!」
緊張した全身がびくっと跳ね上がり、青い顔のまま振り返ればそこには。
「……大丈夫?」
無造作な黒髪。相変わらず表情のないそいつは俺と目が合うなりやっぱり高揚のない声で尋ねてくる。
――生徒会書記、各務陽平。
図書館の帰りなのか、数冊の本を抱えた各務の姿に俺はほっと安堵する。
「…よーへい君」
どうやら俺はヒズミとの悪夢に気を取られ彼の気配に気付かなかったようだ。迂闊だった。
「……手首、どうかした?」
「ぅえ?」
「押さえてる」
そうよーへい君に指摘されつられて自分の手元に目を向ける。
手首に引かれた蚯蚓が張ったような一本の線を思い出し、咄嗟に俺は手を背に隠した。
「いや、なんか虫に刺されちゃったみたいでさー痒くて痒くて」
慌てて笑顔を取り繕い、俺はよーへい君に笑いかけた。
虫は虫でも猛毒を孕んだ害虫だろう。ヒズミの顔が頭を過り、咄嗟に振り払った。
よーへい君は相変わらず無表情のままで。なにを考えてるかわからないその目でじっと瞳の奥を覗かれればまるで頭の中まで見られるような不思議な感覚に囚われてしまい、不思議と目が逸らせなくなった。
まさか、見られたのだろうか――傷跡。
元々隠していたわけではないが、なんだか聡そうなよーへい君には見られたくなかった。嫌な汗が滲む。
「……そう」
対するよーへい君は結局なにも言わずに俺から目を逸らした。気を遣ってくれたのか本当になにも気付いてなかったのか俺には判断つかなかったが、あの目が逸らされ俺はほっと安堵する。
「あの、さ。よーへい君」
音もなく現れたのはビックリしたが、こんなところでよーへい君と出会えたことは俺にとっていい機会なのだろう。せっかくだから会長たちのことを聞いてみるか。
「……なに?」
「…あの転校生君ってさぁー、うちの会長と仲がいいわけ?」
まどろっこしい駆け引きはあまり得意ではない俺は単刀直入に尋ねることにした。
無表情のまま黙り込むよーへい君。どうやら考えてるらしい。
「……なんで?」
「や、なんかさっき生徒会室行ったらあの転校生君と会長がなんかしてたから」
そう見た通りのことを問い掛ければまたよーへい君は黙った。
本人は考え事してくれているのだろうが急に無表情のまま黙られてるとなにか気に障ったんじゃないかと心配にせずにはいられない。
そんなとき、不意によーへい君は口を開いた。
「セフレ」
「へ?」
「……会長、手が早いから」
だから、転校生にも手を出したんじゃないか。そんなことを大真面目に口にするよーへい君に俺は硬直する。
いや、有り得ない。あのヒズミが。いやでも、ヒズミだし。というか、だとしたらどっちがどっちなんだ。
一瞬想像してしまい全身からさぁっと血の気が引いていくのを鮮明に感じた。
「いやいやいや、セフレって……」
というか、よーへい君もセフレとか言っちゃうんだ。
なんか意外。
「本当は、俺もよくわからない」
呆れ果てる俺に続けるよーへい君も思うところがあったようだ。よくわからないというよりも、興味なさそうに見える。
「でも、意外だなぁ。会長って面食いだと思ってた」
本音だ。変に高飛車なやつだから、尚更。そんな俺の呟きに、よーへい君の目がこちらを向く。
「そんなに、気になるの」
「ん、だってさ、まぁほら興味はあるじゃん。やっぱり」
「……」
あまり、がっつきすぎてしまったか。
怪しまれたか。じっとこちらを見てくるよーへい君に嫌な汗が滲んだ。
「……そういうことなら、庶務や副会長に聞いた方がいい」
俺なんかよりも、仲が良いだろうから。なんて自虐めいた口調で続けるよーへい君もに、まぁ確かになと俺は納得する。
それでも、あの三人にはあまりそういうことは聞きたくなかった。だってなんかトラブルメーカーだし。
「うーん、そうかぁ。そうだよなぁ」
言いながらうんうん唸る俺。まあ確かに会長とヒズミのことは気になったが変に嗅ぎ回ってたらヒズミたちの耳に入る可能性も高くなるだろう。
その点を踏まえて軽口ではないよーへい君を選んだのだが知らないのなら仕方がない。
「そっかー、ごめんねぇ。引き留めちゃって」
これ以上の収穫はないだろう。そう諦めた俺はよーへい君に笑いかける 。
別にいいと小さく呟きうつ向くよーへい君。照れてるのだろうか、分かりにくい。
「じゃ、またあとでね」
そう、こくりと頷き返してくるよーへい君と別れ、俺はその場を後にする。
会長とヒズミ。会長とヒズミ。会長とヒズミ。頭の中でぐるぐると巡る固有名詞について考えながら俺は一旦寮へと戻ることにした。
そして、俺が二人の関係性について気づくのに然程時間は掛からなかった。
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