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出揃った役者、逃亡する主役。
帰ってきたのは誰
しおりを挟む生徒会室を出た俺は、気が付いたら特別教室棟までやってきていた。
どんだけ逃げてんだ。なんて自嘲しながらあまり人気のないそこを見渡したとき、不意に近くの扉から凄まじい物音が聞こえた。そしてすぐ、声変わりをしていない高い悲鳴が聞こえてくる。
この状況には覚えがあった。――また、親衛隊か。
正直今は自分を落ち着かせることで精一杯だったが、だからといってこのまま見捨てることもできない。
一息吐き、乱れた呼吸を整えた俺はその扉に近付いた。
科学準備室。そう書かれたプレートを横目に扉を開く。
「……ねえ、なんか今こっからすごい音聞こえてきたんだけどー」
いいながら中を覗けば、ビンゴ。そこにはやけに体格のいい不良たちに囲まれた小柄の男子生徒が二人。
片方は胸ぐら掴まれてて、辺りにはビーカーの破片が散乱している。どうやら揉み合った際にぶつかったらしい。もう片方の男子生徒は今にも泣きそうな顔をして俺を見るなり「京様」と声を震わせた。
なんか正義のヒーローみたいだなあ、なんて思いながら俺は集団に歩み寄る。
「てめえ、勝手に入ってくんじゃねえよ」
「そ?俺からしてみたら勝手に揉め事起こすんじゃねえよって感じなんだけどなー」
「ぁあ?」
不良グループの一人が近付いてくる。
至近距離から顔を覗き込んでくる不良の首根っこを手のひらで掴み、そのまま顔面に狙いを定めて拳をのめり込ませた。
あーやばい、俺素手だった。拳から右腕にじんと痺れが走るのを感じながら顔を歪め鼻血を吹き出し不良を壁に叩き付ければ、呆れたような顔をしてやつらは俺を見る。
「あんまり大袈裟にしたくないからさあ、ね?君たち大人しく指導室に行ってくれないかな」
頬を緩め笑みを浮かべる。思ったよりも綺麗な笑顔ができた。
「じゃないと、これ以上は優しく出来そうにないから」
呆けた顔をしてこちらを見てくる不良たちだったが仲間をやられたという事実を理解したようだ。
次の瞬間、「てめえ」やら「なにしてんだお前」やらなんか叫びながら飛び掛かってくる。
……本当は喧嘩とかダメって言われてるんだけどね。
ヒズミと再会したせいか、昔の自分が帰ってきたらしい。歯止めが利かなかった。否、あまりの動揺でストッパーを無くしたのか。どちらにせよ、俺は正気ではなかったのだろう。
ロッカーの中にあったモップを手に取り、俺は微笑んだ。今度はうまく笑えなかった。
ガラスが割れるつんざくような音に呻き声。
薬品が飛び散ろうが構わず襲い掛かってくる連中をモップの柄で滅多打ちにして血塗れの顔面をモップで拭うように叩き潰す。気が付いたら開いた口から笑い声が洩れた。とうとう泣き出した男子生徒二人は「京様もういいです、もういいですから」と俺にしがみついて止めてくる。
いいわけないじゃん。どうせならもう二度とこちらに歯向かわないように徹底的にやらなければいつかまた牙を向けられるのはわかっている。言い聞かせるように口の中で呟く。
本心ではわかっていた。本当は男子生徒たちのことなんかどうでもよくて誰かをぶん殴りたくて正当防衛を理由に不良を痛め付けていると。わかっていたし、自分がそれを容認しているのもわかっていた。
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