9 / 87
出揃った役者、逃亡する主役。
帰ってきたのは誰
しおりを挟む生徒会室を出た俺は、気が付いたら特別教室棟までやってきていた。
どんだけ逃げてんだ。なんて自嘲しながらあまり人気のないそこを見渡したとき、不意に近くの扉から凄まじい物音が聞こえた。そしてすぐ、声変わりをしていない高い悲鳴が聞こえてくる。
この状況には覚えがあった。――また、親衛隊か。
正直今は自分を落ち着かせることで精一杯だったが、だからといってこのまま見捨てることもできない。
一息吐き、乱れた呼吸を整えた俺はその扉に近付いた。
科学準備室。そう書かれたプレートを横目に扉を開く。
「……ねえ、なんか今こっからすごい音聞こえてきたんだけどー」
いいながら中を覗けば、ビンゴ。そこにはやけに体格のいい不良たちに囲まれた小柄の男子生徒が二人。
片方は胸ぐら掴まれてて、辺りにはビーカーの破片が散乱している。どうやら揉み合った際にぶつかったらしい。もう片方の男子生徒は今にも泣きそうな顔をして俺を見るなり「京様」と声を震わせた。
なんか正義のヒーローみたいだなあ、なんて思いながら俺は集団に歩み寄る。
「てめえ、勝手に入ってくんじゃねえよ」
「そ?俺からしてみたら勝手に揉め事起こすんじゃねえよって感じなんだけどなー」
「ぁあ?」
不良グループの一人が近付いてくる。
至近距離から顔を覗き込んでくる不良の首根っこを手のひらで掴み、そのまま顔面に狙いを定めて拳をのめり込ませた。
あーやばい、俺素手だった。拳から右腕にじんと痺れが走るのを感じながら顔を歪め鼻血を吹き出し不良を壁に叩き付ければ、呆れたような顔をしてやつらは俺を見る。
「あんまり大袈裟にしたくないからさあ、ね?君たち大人しく指導室に行ってくれないかな」
頬を緩め笑みを浮かべる。思ったよりも綺麗な笑顔ができた。
「じゃないと、これ以上は優しく出来そうにないから」
呆けた顔をしてこちらを見てくる不良たちだったが仲間をやられたという事実を理解したようだ。
次の瞬間、「てめえ」やら「なにしてんだお前」やらなんか叫びながら飛び掛かってくる。
……本当は喧嘩とかダメって言われてるんだけどね。
ヒズミと再会したせいか、昔の自分が帰ってきたらしい。歯止めが利かなかった。否、あまりの動揺でストッパーを無くしたのか。どちらにせよ、俺は正気ではなかったのだろう。
ロッカーの中にあったモップを手に取り、俺は微笑んだ。今度はうまく笑えなかった。
ガラスが割れるつんざくような音に呻き声。
薬品が飛び散ろうが構わず襲い掛かってくる連中をモップの柄で滅多打ちにして血塗れの顔面をモップで拭うように叩き潰す。気が付いたら開いた口から笑い声が洩れた。とうとう泣き出した男子生徒二人は「京様もういいです、もういいですから」と俺にしがみついて止めてくる。
いいわけないじゃん。どうせならもう二度とこちらに歯向かわないように徹底的にやらなければいつかまた牙を向けられるのはわかっている。言い聞かせるように口の中で呟く。
本心ではわかっていた。本当は男子生徒たちのことなんかどうでもよくて誰かをぶん殴りたくて正当防衛を理由に不良を痛め付けていると。わかっていたし、自分がそれを容認しているのもわかっていた。
54
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
王道学園なのに会長だけなんか違くない?
ばなな
BL
※更新遅め
この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも
のだった。
…だが会長は違ったーー
この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。
ちなみに会長総受け…になる予定?です。
無自覚副会長総受け?呪文ですかそれ?
あぃちゃん!
BL
生徒会副会長の藤崎 望(フジサキ ノゾム)は王道学園で総受けに?!
雪「ンがわいいっっっ!望たんっっ!ぐ腐腐腐腐腐腐腐腐((ペシッ))痛いっっ!何このデジャブ感?!」
生徒会メンバーや保健医・親衛隊・一匹狼・爽やかくん・王道転校生まで?!
とにかく総受けです!!!!!!!!!望たん尊い!!!!!!!!!!!!!!!!!!
___________________________________________
作者うるさいです!すみません!
○| ̄|_=3ズザァァァァァァァァァァ
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで
伊月乃鏡
BL
俺の名は田中宗介!
どこに出しても恥ずかしい隠れコミュ障だ!
そんな俺だが、隠れコミュ障ゆえの初手ハイテンションでチャラ男認定されてまぁ大変! 今更コミュ障なのがバレるのもチンケなプライドが傷つくのでチャラ男のフリをしている!
友達が著しく少ない以外は平凡な日常を送っていたはずの俺だけど、何故かあの、憧れの生徒会長と同室になっちゃって……!?
しかも転校生が何故か俺に懐いてきて、同じ委員会にまで入ってきて!?
懐いてきてくれてるのかなコレ!? わかんないコミュ障だから!! 後輩に懐かれた経験、“無”だから!
薄い二年間を送ってきた俺の最後の一年。
憧れの会長と急接近、とまではいかないけど友達くらいになれちゃったりするかな!?
俺一体、どうなっちゃうの〜!?
※
副題 コミュ障と愉快な仲間たち
【追記】
現実の方が忙しくなったため、一日一話以上更新になります。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる