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いつだってそれは付き纏う。
会計は思案する
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……。
…………。
長かった。無駄に長かった。本人からしてみれば簡潔にさくさく進行したつもりなのだろうし実際さくさく進行したのだが進行し過ぎたあまりに当初の『簡単に』という単語がどっか飛んでいってしまってた。
と、まあそんなわけであまりの眠気に勝てず爆睡してしまい気付いたときには生徒会室には皆いなくなっていた。
誰か一人くらい起こしてくれたっていいのに。
なんてぶーたれる一人きりの生徒会室内。遠くから体育やってる生徒の声が聞こえてきて、つられて開きっぱなしになった窓から外を見た。
青い空に緑の木々。
山中に出来たこの学園は他の学校に通うやつらからは監獄と呼ばれていた。
施設や設備は完璧でかなり整ったこの全寮制男子校。
全国でも偏差値が高いことで有名で、その反面よくない噂がゴロゴロしていた。
賄賂出せば簡単に裏口入学出来るが、一度入学したら卒業まで自由に出入りできず、過酷な扱いを受ける。その代わり、絶対偏差値は上がる。……らしい。
ほんと、馬鹿馬鹿しい。うちの学校の偏差値が高いのは簡単にカンペが手に入ってカンニング行為が横行されてるからだし、周りからはお堅いやつばかりが入ってると思われているが実際は勉強なんてどうでもよくて楽に高卒資格が欲しい馬鹿なやつらが大体だ。それに、俺もその内の一人だ。とにかくどこか違う高校へ逃げたくて、俺はこの学園へとやってきた。馬鹿でも金と行動範囲の制限さえすれば絶対外部からの接触から守ってくれるこの学園へと。
しかし、中には俺とは真逆みたいなやつもいる。黒い噂があるにも関わらず、偏差値の数字を信じてやってきたやつも。
マコちゃんも、その内の一人なのかもしれない。だからこそ、自ら風紀委員長に立候補し、根本から歪んだこの学園の内部を叩き直そうとしている。
――ほんと、お節介だなあと思う。
周り無視して自分一人確実に知恵身に付けていけばいいものを、わざわざ周りに手を差し伸べようとするのだから。
ひんやりとした窓ガラスにそっと触れ、その冷たさに自分の熱を感じた。
まあ、そんなマコちゃんを少しでも手助けしたくて生徒会に入った俺も俺なんだろうけど。マコちゃん曰く悪の根元らしい駄目生徒代表連中を内部から変えていく。そんな大層なこと俺に出来るのか今でも疑問だが、少しはマコちゃんの力になれるなら俺も慣れない電卓を叩いてやろう。
生徒会会計の椅子に自ら望んで腰を下ろした十七歳の春。
少しだけ、今まで億劫だった学園生活に光が射したような気がした。
◆ ◆ ◆
そろそろ俺も帰るか。寝起きの頭でぼけーっとしていた俺は小さく伸びをし、背骨を伸ばす。
そのとき、生徒会室の扉が開いた。
「お、なんだ。仙道だけか」
誰かと思いながら振り返れば、派手に弄った茶髪に黒スーツに派手な赤いカラーシャツというどこぞの胡散臭いホストみたいな男が一人。
――生徒会顧問、凩。下の名前は忘れた。
「どうしたの、せんせ。なにか用?」
「ああ、ちょっと緊急のな」
言いながら封筒から資料を取り出すせんせいはそれを俺に差し出した。つられて受けとる。それは一人の生徒の名簿のようだった。
「……誰これ」
黒くもっさりとしたもじゃもじゃ頭に宴会とかで使うようなぐるぐるの瓶底眼鏡がかなり不審な男子生徒のデータが記載されたその名簿に思わず眉を寄せる。
すっげえ、濃い。名前欄には日桷和馬と書かれてた。
「それ、うちの転校生」
「まじで」
「んでお前らに校舎案内してもらおうかと思ったんだけど」
「え?今日?」
「多分今門のとこにいるんじゃねえの」
急すぎますよ、凩せんせい。
「つーか今皆帰ったみたいなんだけど」
「いや、一人いるだろ」
「ぅえ?」
「お・ま・え」
ぽんと肩に手を置くせんせいは語尾にハートを散りばめた。きもちわるい。
「いや、や、やだって、なんで俺が」
「そろそろお前だって慣れてきただろこの学園に。いい機会じゃないか、転校生同士仲良くしたら」
「やーだー!絶対やだ!めんどくせーもん!せんせがいったらいいじゃないすか!」
「俺はこれから授業入ってんの。どうせお前このあとサボるんだろ?いいだろ、散歩と思えば」
こんな面倒な散歩があってたまるか。
なかなか折れようとしないせんせいに対し負けじと睨み返せば俺たちの間に沈黙が流れる。
ちょうどそのときだった、生徒会室の扉が再び開く。
「どうしましたか、お二方。喧しい声でぎゃーぎゃー騒いでみっともないですよ」
ちーちゃんだ。
「おう、石動」
「ちーちゃん、ちーちゃん助けて」
隙をついてせんせーの腕から抜け出した俺はちーちゃんにしがみつき、助けを求める。ノリがいいちーちゃんは抱き止めてくれた。
「凩先生、まさかとは思いますがあなた生徒会室で生徒と不純同性交遊に及ぼうと…」
「ちょっと待て、現在進行形で凄まじい誤解してるぞお前」
というかわけで俺とちーちゃんの訝しげな目に耐えれなくなったらしいせんせーはちーちゃんに先ほどの日桷和馬の名簿を渡し一通り説明する。
「なるほど、案内ですか」
「ああ、こいつがどうしても行きたがらなくってな」
「おや、困りましたね。仕事を選りすぐるのはよくないですよ、仙道」
「……ちーちゃんだって恋人は顔で選ぶくせにぃ」
「ええ、お陰で今まで一度足りとも恋人ができたことがありません」
肩を竦めて笑うちーちゃん。セフレはいっぱいいるのにね、という言葉は敢えて飲み込んだ。
こいつの場合理想が高すぎるのだ。あまりにも注文が多すぎてどんな理想だったか忘れてしまったが。
「凩先生、校内を案内するだけでいいんですね?」
「ああ、簡単でいいからな。取り敢えず合流したら理事長室まで連れて行ってくれ。そうしたら後は理事長がなんとかするだろう」
「わかりました」
そうぺこりと頭を下げるちーちゃんは資料を仕舞い、そのまま生徒会室を後にしようとする。
仕事の早いやつ。
思わず「ちーちゃん」と引き止めた。
「まじで行くの?」
「ええ、あなたも来ますか?」
「んや、やめとく」
そう答えればちーちゃんは気を悪くするわけでもなく「わかりました」とにこりと微笑み、そのまま出ていった。
――なんだろうか、なんとなく嫌な予感がする。
自分の中にある漠然とした不安をどうすることもできずただ俺はちーちゃんがいなくなった後を呆然と眺めていた。
ちーちゃんもせんせーもいなくなって再びぽつんと取り残された俺は今度こそ生徒会室を後にする。
「お疲れ様です」
扉を開けた矢先だ。生徒会室の前には純と数人の男子生徒が立っていた。
「わあ、びっくりした」
「嘘つかないでください。眉一つ動かなかったですよ」
まあ、だって正直そんな気はしてたし。
「これからどちらへ」
「んー、じゃ、飯でも食いに行こっかなあ」
「ご一緒させていただきます」
冗談だろ。足を進めていた俺は思わず斜め後ろからついてくる純を振り返った。
「まじです」
「やだよ、一人がいい」
「だってよ。お前らついてくんじゃねえ」
「いや君もね」
背後の二人の親衛隊らしき子をあしらおうとする純に突っ込まずにはいられない。
「じゃああれです、俺たちは違うテーブルで食べるんで」
「食べたらいいじゃん、勝手に。俺のいないとこで」
「いえ、仙道さんも一緒に」
純の頑固さはどうにかならないのだろうか。なにを言っても聞こうとしない純に折れたのは俺の方だった。
「勝手にしなよ」
そう言って、食堂へ進む足を進めればぱあっと嬉しそうな顔をした親衛隊たちは慌てて俺の後ろをついてくる。
多少密度が濃くなったが、昔に比べたら肌寂しいくらいだ。
そんなことを考えかけ、慌てて思考を振り払った俺は純たちと一緒に昼食を取ることにする。
…………。
長かった。無駄に長かった。本人からしてみれば簡潔にさくさく進行したつもりなのだろうし実際さくさく進行したのだが進行し過ぎたあまりに当初の『簡単に』という単語がどっか飛んでいってしまってた。
と、まあそんなわけであまりの眠気に勝てず爆睡してしまい気付いたときには生徒会室には皆いなくなっていた。
誰か一人くらい起こしてくれたっていいのに。
なんてぶーたれる一人きりの生徒会室内。遠くから体育やってる生徒の声が聞こえてきて、つられて開きっぱなしになった窓から外を見た。
青い空に緑の木々。
山中に出来たこの学園は他の学校に通うやつらからは監獄と呼ばれていた。
施設や設備は完璧でかなり整ったこの全寮制男子校。
全国でも偏差値が高いことで有名で、その反面よくない噂がゴロゴロしていた。
賄賂出せば簡単に裏口入学出来るが、一度入学したら卒業まで自由に出入りできず、過酷な扱いを受ける。その代わり、絶対偏差値は上がる。……らしい。
ほんと、馬鹿馬鹿しい。うちの学校の偏差値が高いのは簡単にカンペが手に入ってカンニング行為が横行されてるからだし、周りからはお堅いやつばかりが入ってると思われているが実際は勉強なんてどうでもよくて楽に高卒資格が欲しい馬鹿なやつらが大体だ。それに、俺もその内の一人だ。とにかくどこか違う高校へ逃げたくて、俺はこの学園へとやってきた。馬鹿でも金と行動範囲の制限さえすれば絶対外部からの接触から守ってくれるこの学園へと。
しかし、中には俺とは真逆みたいなやつもいる。黒い噂があるにも関わらず、偏差値の数字を信じてやってきたやつも。
マコちゃんも、その内の一人なのかもしれない。だからこそ、自ら風紀委員長に立候補し、根本から歪んだこの学園の内部を叩き直そうとしている。
――ほんと、お節介だなあと思う。
周り無視して自分一人確実に知恵身に付けていけばいいものを、わざわざ周りに手を差し伸べようとするのだから。
ひんやりとした窓ガラスにそっと触れ、その冷たさに自分の熱を感じた。
まあ、そんなマコちゃんを少しでも手助けしたくて生徒会に入った俺も俺なんだろうけど。マコちゃん曰く悪の根元らしい駄目生徒代表連中を内部から変えていく。そんな大層なこと俺に出来るのか今でも疑問だが、少しはマコちゃんの力になれるなら俺も慣れない電卓を叩いてやろう。
生徒会会計の椅子に自ら望んで腰を下ろした十七歳の春。
少しだけ、今まで億劫だった学園生活に光が射したような気がした。
◆ ◆ ◆
そろそろ俺も帰るか。寝起きの頭でぼけーっとしていた俺は小さく伸びをし、背骨を伸ばす。
そのとき、生徒会室の扉が開いた。
「お、なんだ。仙道だけか」
誰かと思いながら振り返れば、派手に弄った茶髪に黒スーツに派手な赤いカラーシャツというどこぞの胡散臭いホストみたいな男が一人。
――生徒会顧問、凩。下の名前は忘れた。
「どうしたの、せんせ。なにか用?」
「ああ、ちょっと緊急のな」
言いながら封筒から資料を取り出すせんせいはそれを俺に差し出した。つられて受けとる。それは一人の生徒の名簿のようだった。
「……誰これ」
黒くもっさりとしたもじゃもじゃ頭に宴会とかで使うようなぐるぐるの瓶底眼鏡がかなり不審な男子生徒のデータが記載されたその名簿に思わず眉を寄せる。
すっげえ、濃い。名前欄には日桷和馬と書かれてた。
「それ、うちの転校生」
「まじで」
「んでお前らに校舎案内してもらおうかと思ったんだけど」
「え?今日?」
「多分今門のとこにいるんじゃねえの」
急すぎますよ、凩せんせい。
「つーか今皆帰ったみたいなんだけど」
「いや、一人いるだろ」
「ぅえ?」
「お・ま・え」
ぽんと肩に手を置くせんせいは語尾にハートを散りばめた。きもちわるい。
「いや、や、やだって、なんで俺が」
「そろそろお前だって慣れてきただろこの学園に。いい機会じゃないか、転校生同士仲良くしたら」
「やーだー!絶対やだ!めんどくせーもん!せんせがいったらいいじゃないすか!」
「俺はこれから授業入ってんの。どうせお前このあとサボるんだろ?いいだろ、散歩と思えば」
こんな面倒な散歩があってたまるか。
なかなか折れようとしないせんせいに対し負けじと睨み返せば俺たちの間に沈黙が流れる。
ちょうどそのときだった、生徒会室の扉が再び開く。
「どうしましたか、お二方。喧しい声でぎゃーぎゃー騒いでみっともないですよ」
ちーちゃんだ。
「おう、石動」
「ちーちゃん、ちーちゃん助けて」
隙をついてせんせーの腕から抜け出した俺はちーちゃんにしがみつき、助けを求める。ノリがいいちーちゃんは抱き止めてくれた。
「凩先生、まさかとは思いますがあなた生徒会室で生徒と不純同性交遊に及ぼうと…」
「ちょっと待て、現在進行形で凄まじい誤解してるぞお前」
というかわけで俺とちーちゃんの訝しげな目に耐えれなくなったらしいせんせーはちーちゃんに先ほどの日桷和馬の名簿を渡し一通り説明する。
「なるほど、案内ですか」
「ああ、こいつがどうしても行きたがらなくってな」
「おや、困りましたね。仕事を選りすぐるのはよくないですよ、仙道」
「……ちーちゃんだって恋人は顔で選ぶくせにぃ」
「ええ、お陰で今まで一度足りとも恋人ができたことがありません」
肩を竦めて笑うちーちゃん。セフレはいっぱいいるのにね、という言葉は敢えて飲み込んだ。
こいつの場合理想が高すぎるのだ。あまりにも注文が多すぎてどんな理想だったか忘れてしまったが。
「凩先生、校内を案内するだけでいいんですね?」
「ああ、簡単でいいからな。取り敢えず合流したら理事長室まで連れて行ってくれ。そうしたら後は理事長がなんとかするだろう」
「わかりました」
そうぺこりと頭を下げるちーちゃんは資料を仕舞い、そのまま生徒会室を後にしようとする。
仕事の早いやつ。
思わず「ちーちゃん」と引き止めた。
「まじで行くの?」
「ええ、あなたも来ますか?」
「んや、やめとく」
そう答えればちーちゃんは気を悪くするわけでもなく「わかりました」とにこりと微笑み、そのまま出ていった。
――なんだろうか、なんとなく嫌な予感がする。
自分の中にある漠然とした不安をどうすることもできずただ俺はちーちゃんがいなくなった後を呆然と眺めていた。
ちーちゃんもせんせーもいなくなって再びぽつんと取り残された俺は今度こそ生徒会室を後にする。
「お疲れ様です」
扉を開けた矢先だ。生徒会室の前には純と数人の男子生徒が立っていた。
「わあ、びっくりした」
「嘘つかないでください。眉一つ動かなかったですよ」
まあ、だって正直そんな気はしてたし。
「これからどちらへ」
「んー、じゃ、飯でも食いに行こっかなあ」
「ご一緒させていただきます」
冗談だろ。足を進めていた俺は思わず斜め後ろからついてくる純を振り返った。
「まじです」
「やだよ、一人がいい」
「だってよ。お前らついてくんじゃねえ」
「いや君もね」
背後の二人の親衛隊らしき子をあしらおうとする純に突っ込まずにはいられない。
「じゃああれです、俺たちは違うテーブルで食べるんで」
「食べたらいいじゃん、勝手に。俺のいないとこで」
「いえ、仙道さんも一緒に」
純の頑固さはどうにかならないのだろうか。なにを言っても聞こうとしない純に折れたのは俺の方だった。
「勝手にしなよ」
そう言って、食堂へ進む足を進めればぱあっと嬉しそうな顔をした親衛隊たちは慌てて俺の後ろをついてくる。
多少密度が濃くなったが、昔に比べたら肌寂しいくらいだ。
そんなことを考えかけ、慌てて思考を振り払った俺は純たちと一緒に昼食を取ることにする。
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