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噛ませ犬
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静寂。日生の荒い呼吸だけが辺りに響いていた。
やってしまった、とでも思ってるのだろう。本当に分かりやすい。
日生が腰を抜くと同時に、栓を失ったケツの穴からは精子が溢れる。一回で満足したのか、なんて思ったが、そういうわけではないのだろう。まだ芯を持ったそれを感じながらも、俺は日生を見上げた。
「……っ、は……日生君、いっぱい出したねえ」
「……、……」
「十和のやつ、まだ戻ってこねえみたいだし……もう一回しちゃう?」
なんて、人が誘ってやったってのに日生はガン無視。それどころか、頭を抱えて深い息を吐くのだ。
「うわ、その反応酷くね?」
「……よく普通に喋れますね、先輩」
「ん? なに? それ褒めてる?」
「……お、俺は……謝りませんよ」
「なにそれ、もしかして俺に悪いって気にしてたわけ? ウケる」
「ウケるって……」
せっかく筆卸してやったってのに、さっきからやけに妙な顔をして黙りこくってたと思えばこれだ。
真面目というか、なんというか。もっと楽しいとか、スッキリしたとか、他にあるだろうにこいつは罪悪感を感じたわけだ。俺に。
俺は起き上がり、乱れたシャツを整えようとしていた日生の胸倉、そのぶら下がったネクタイを掴む。思いっきり引っ張れば、何事かと日生がこちらを向いた。
「っ、先輩、なにを……」
「口止め、しなくていいんだ? 七緒に」
「…………ッ」
そう、耳元で囁やけば日生はこちらを睨んだ。おーこわ、まじで怒ってやんの。
「言いたきゃ好きにどうぞ。……あいつがあんたと俺、どっちの言うことを信じるかどうか知りませんけど」
「もしかして俺マウント取られてる?」
「それ言ったところで、自分の信用落とすだけだと思いますけど」
うーわ、可愛くねえ。俺のイメージ、照れながらも「七緒には秘密にしててください……っ!」って泣きついてへこへこしてくれるのを期待してたんだけど実際はどうだ。
動揺するどころか人に向かってこの冷たい目。嫌いじゃねえ。
「……それより、それ、さっさとどうにかしてください。目のやり場に困るので」
「お前が出したんだろ、犬みたいにぺろぺろ綺麗にしてくんねえの?」
「……ッ」
あ、これは嫌なのか。こいつの地雷分かりやすいようで分かりにくいな。
なんて思ってると、ティッシュ手にした日生が俺の元まで戻ってくる。そして開いたままの脚に触れてくるので何をするつもりなのだと呆れてると「綺麗にするんですよね」と怪訝そうな顔をした。
「ぺろぺろしてくれんの?」
「……しません。けど、そのままでは確かに下着が汚れてしまうので、取り敢えず拭うくらいはした方かと思っただけです」
「いーよ、別に。どうせすぐ風呂に行くから」
そう立ち上がろうと下半身に力を込めれば、ごぷりと中に溜まったものが溢れてくる。それを目の当たりにして、日生も黙りこくった。
「ちょっと見すぎ。見たいんだったらもっと近くで見てもいいけど」
「み……みません。というか、先輩――」
そう日生が言いかけた矢先だった。
廊下の方から足音が近付いてくる。
このやかましさは間違いない、十和だ。
「……ッ、先輩、下着……ッ!」
「えー、どうせこのまま風呂行くんだから別によくね?」
「よくねえですから!」
慌てて俺の下着を拾い上げた日生は、そのまま半ば強引に人に下着を履かせてくるのだ。
「ちょ、汚れるじゃん」
「どうせ風呂入るんでしょう、ほらっ!」
さっきまで落ち着いてたと思いきや、今度は死ぬほど焦り出す日生が面白くてわざと脱ごうとするが本気で怒られた。
結局日生の手によって整えられた俺だったが、お陰様で十和が戻ってきたときには二回戦目云々の気分ではなくなっていた。
扉の前までやってきていた足音は止まり、そしてガチャリとドアノブが掴まれる。
数秒で慌てて元の位置に戻り、何事もなかったように参考書を読み始めていた日生が面白くて笑ってしまいそうになった。
どうせ匂いと雰囲気で気付かれるというのに、馬鹿だなあ。いや、十和も十和でなかなか抜けてるところあるしな。案外いけそうな気もしてきた。
そんなことを考えてるうちに扉が開き、ゆっくりと扉が開かれた。
――十和だ。
おずおずと顔を覗かせた十和は、床の上、座り込んでる俺に気付き露骨に嫌そうな顔をするのだ。
「てめえまだ居たのかの」
「いるに決まってんじゃん、俺の部屋だし」
「お前の部屋じゃねえ! 俺の部屋だっての!」
「ならお友達残してどっか行くなっての。可哀想だろ、日生君が」
ねー、と日生に視線を向ければあいつ、目を逸しやがった。
「それより、随分と遅かったな十和。ちゃんと上手くシコってきたか?」
妙に空気がピリついてたので和やかにしてやろうとしたが、十和の野郎無言で蹴ってきやがった。
「さっさと出ていけ!」
「ったく、随分な扱いだよな。お前が居ない間、誰が日生君の相手してやったと思ってんだよ」
「……ッ」
俺の言葉に日生が反応してるもんだから笑ってしまいそうになる。
いやそういう意味じゃねえけど、実際そうだけど。
「なに、どーしたの? 日生く……」
「ゴホッ! ゲホッ!」
「ど、どうした日生?! おいテメェ日生に余計なちょっかいかけたんじゃねえだろうな!」
したと言えばしたけども。
ちら、と日生に視線を向けるのと、「十和、もういいから!」と必死に日生が十和を止めるのはほぼ同時だった。
「本当に大丈夫か? なんか顔色も……」
「大丈夫、大丈夫だから……ちょっと俺トイレ借りるね」
「え」
言うや否や十和から逃げ出すように部屋を出ていく日生。すれ違いざま視線がぶつかる。
「あ、じゃあ俺もトイレ」
そんでついでに日生の後を追いかけて俺は十和を一人残して部屋を後にする。
「なんでだよ」と部屋の奥から十和のツッコミが聞えてきたが無視した。
トイレを借りると言っていた日生は洗面台に直行していた。あいつ、念入りに手を洗ってやがる。
ついてきた俺の姿を見ると、露骨にでかい溜め息を吐くのだ。
「なんだよその反応は、心配してきてやったってのに」
「先輩、本当に隠す気ありますか?」
「なんで隠す前提なんだよ」
「なんでって」
「気持ちよかったろ? 俺の……もがっ」
言いかけた矢先、濡れたままの手で口を塞がれる。辺りをキョロキョロと見渡した日生は、周りに人気がないことを再確認すると「あのですね」とこめかみをひくつかせる。
そして何かを言いかけた日生だったがやがて諦めたようだ。先程よりも長く息を吐いた。
「……とにかく、さっきのことは確かに俺にも非があります。けど、煽ってきたのは先輩です。お互いのためにも忘れてください。俺も記憶から抹消しますので」
絵に書いたような真面目野郎だ。というよりも頑固というか、見れば見るほど七緒とは正反対だ。
おもしれーけど、面白くない。
「とか言っちゃって、忘れられんのかよ」
「先輩……ッ」
「因みに、俺はお前のこと忘れらんねえけど?」
「相性結構よかったし」と日生に下腹部に手を伸ばし、その下のブツをそっと掌全体で包み込むように柔らかく撫であげれば、掌の中でそれが反応するのが分かって思わず噴き出した。
「なんだ、お前――」
「ッ、……!」
言いかけた矢先である、日生のやつは人の手を振り払いやがった。そして、そのまま洗面台から逃げ出した。
分かりやすすぎんだろ、あいつ。
どんだけ真面目ぶってても身体は素直ってか。
「シャワー浴びたくなったらいつでも浴びていいからね」
ついでに日生の背中に声をかけてやるが、とうとうあいつはなにも言わずに十和の部屋へと戻っていったようだ。
俺はやれやれと息をつき、そしてシャワーを浴びることにした。
それから部屋を出た俺はそのまま二度目のシャワーを済ませ、脱衣室に出てタオルを被った俺はそこでようやく肝心の替えの下着を持ってくるのを忘れていたことに気付く。
まあいいや、どうせ十和も部屋にいるだろうし。
取り敢えず上だけ着て、スウェット片手にそのままフルチンで脱衣室を後にする。
そのままずるずるとだるい身体を引きずって戻ってきた自室前、ふと十和の部屋の方から声が聞こえてきた。揉めているようには聞こえなかったが、楽しそうにも聞こえない。
好奇心で盗み聞きでもしてやろうかと扉に近付いたときだった。
タイミングを計ったように十和の部屋の扉が開く。そしてそこから現れた人物に「お」と声が漏れた。それは向こうも同じだった。
現れた日生は人の顔を見て固まり、そのままゆっくりと下半身に目を向けた。んで、再び俺の顔を見る。
あと思えば凄まじい速さで十和の部屋の扉を閉めた。この間一秒。
「いや、見すぎだから」
「な……なんで履いてないんですか」
「んー、趣味?」
「しゅ……」
「ってのは冗談で、替えのやつ持ってきてなかったからさ。仕方なくねーじゃん」
あまりにも日生が面白い顔するもんだから一応フォローしておいてやる。
「誰かさんが汚した下着しかなかったし」と日生にくっつき耳打ちすれば、日生の顔があっという間に茹でたタコみたいになった。
「……っ、せめてそれで隠すくらいしたらどうですか」
さっき散々フルチンよりも恥ずかしいところ見たし触れたくせに散々な言われようだ。
「怒んなよ、それともまた興奮してきちゃった?」
「……ッ! 触らないでください……ッ」
分かりやすいくらいの嫌いっぷり。いやーここまで来ると清々しくて悪くない。
顔を赤くした日生はそのまま俺の横をすり抜けようとする。その先は俺の残りがでいい感じにほかほかになってる風呂場くらいしかない。
「ん? どっか行くの?」
「……しゃ、シャワーを借りようかと」
「へえ、十和いいって?」
「一応は。けど、『なんで』って顔されましたけど」
「そりゃそうだよな」と笑えば、「先輩のせいですよ」と言わんばかりの顔で睨まれた。
「……っ、とにかく、十和に変なこと言わないでくださいね。……さっきのあれも、俺も忘れますので」
「へえ? なんで?」
「なんでって……」
「気持ちよかったろ、筆卸」
そう日生の股間を鷲掴みにした瞬間、手の中でびくりと反応するそれに「お」と呟いた。瞬間、日生に手首を掴み、無理矢理引き剥がされてしまった。
「……っ、なにしてんですか、あんた……ッ!」
「またしたくなったら付き合ってやるよ、案外悪くなかったから――のチン揉みだけど?」
「――ッ」
おお、絶句してる。
「本当、期待を裏切らない人ですね」
「やっぱ期待してんじゃん、むっつりだなあ日生君は」
「今のは嫌味です。……それから、二度目はありませんので」
そうぴしゃりと言いのけ、日生は俺の返事を聞く前にそのままシャワールームへと向かった。耳からその項まで赤くなってる。
本当面白いくらいわかりやすいやつだ。
「……」
本当面白いやつだよな。
俺にタダで口止めしようだなんて、本当。
ないわと思ったが、少しは暇潰しになりそうだな。俺はこれからのことを考え、鼻歌混じりに部屋まで戻った。
部屋に戻った俺は転がっていた携帯に手を伸ばし、画面をつける。そして通知欄には不在着信が六件の文字。
相馬から一件、知らない番号から一件、あとの四件は全て岸本からだ。知らない番号のことも気になったが、岸本から何度も電話がかかっていることに軽い恐怖を覚える。
なにかあったのだろうか。もしくは知らぬうちに俺がなにかしたのか。どちらにせよ岸本からのしつこい着信にいい予感はしない。
そのままタンスを足で開き、中から適当な下着を取り出した俺はそれを身につけ、ベッドへと飛び込んだ。そして岸本に折り返しの電話をかけることにする。
1コール、2コール、3コール。
……もしかしてまた女といちゃついてんのか。
中々出ない岸本にもういいやと通話を終わらせようとしたときだった。――繋がった。
『……はぁーい』
そして端末越しに聞こえてくるのは岸本の声。明らかに不機嫌なその声の奥からは、例のごとくきゃいきゃいとはしゃぐ女子共の声が聞こえてきた。
「もしもし? 葵衣ちゃん?」
『……あ、大地? 大地なの?!』
どうやら着信元を見ずに電話に出たらしい、俺の声に反応した岸本は『さっきから電話かけたのに、なにしてたの』と先程よりもハキハキと噛み付いてきた。
「なにもくそも俺も忙しかったんですー」
『何が忙しいなの? どうせ浮気でもしてたんでしょ』
図星だ。
「うるせ、つかなに。めちゃくちゃ不在着信あってビビったんだけど?」
『あっ! そうだった!』
ってこいつ忘れてたのかよ。
『三年にさあ、此花って先輩いたじゃん』
「……コノハナ?」
『そうそう此花だよ此花。そいつが今日教室まで大地のこと訪ねてきてたけど……大地さあまたなんかやったの?』
「……あ」
――忘れてた。
先日あの男と鞄が入れ替わっていたことを思い出したと同時に、わざわざ教室まで来たという此花に少し驚いた。
てか、またってなんだ。俺をなんだと思ってんだこいつは。
「へえーー、それでなんて?」
『さあ? クラスのやつに大地の連絡先聞きまくってたくらいしか覚えてないや』
その岸本の言葉に、俺は先程鬼のようにかかってきていた見慣れない番号を思い出した、
ということは、相馬もそれ関係なのだろうか。後でかけ直すか。
「おっけ、了解了解。教えてくれてありがと」
『……ねえ、本当に大丈夫なの? 此花ってろくな噂聞かないんだけど、まさかあいつのこと狙ってるなんて言わないよね』
おお、流石伊達に腐れ縁をやってない。
「大正解」とだけ口にし、俺はそのまま岸本との通話を終わらせた。
やってしまった、とでも思ってるのだろう。本当に分かりやすい。
日生が腰を抜くと同時に、栓を失ったケツの穴からは精子が溢れる。一回で満足したのか、なんて思ったが、そういうわけではないのだろう。まだ芯を持ったそれを感じながらも、俺は日生を見上げた。
「……っ、は……日生君、いっぱい出したねえ」
「……、……」
「十和のやつ、まだ戻ってこねえみたいだし……もう一回しちゃう?」
なんて、人が誘ってやったってのに日生はガン無視。それどころか、頭を抱えて深い息を吐くのだ。
「うわ、その反応酷くね?」
「……よく普通に喋れますね、先輩」
「ん? なに? それ褒めてる?」
「……お、俺は……謝りませんよ」
「なにそれ、もしかして俺に悪いって気にしてたわけ? ウケる」
「ウケるって……」
せっかく筆卸してやったってのに、さっきからやけに妙な顔をして黙りこくってたと思えばこれだ。
真面目というか、なんというか。もっと楽しいとか、スッキリしたとか、他にあるだろうにこいつは罪悪感を感じたわけだ。俺に。
俺は起き上がり、乱れたシャツを整えようとしていた日生の胸倉、そのぶら下がったネクタイを掴む。思いっきり引っ張れば、何事かと日生がこちらを向いた。
「っ、先輩、なにを……」
「口止め、しなくていいんだ? 七緒に」
「…………ッ」
そう、耳元で囁やけば日生はこちらを睨んだ。おーこわ、まじで怒ってやんの。
「言いたきゃ好きにどうぞ。……あいつがあんたと俺、どっちの言うことを信じるかどうか知りませんけど」
「もしかして俺マウント取られてる?」
「それ言ったところで、自分の信用落とすだけだと思いますけど」
うーわ、可愛くねえ。俺のイメージ、照れながらも「七緒には秘密にしててください……っ!」って泣きついてへこへこしてくれるのを期待してたんだけど実際はどうだ。
動揺するどころか人に向かってこの冷たい目。嫌いじゃねえ。
「……それより、それ、さっさとどうにかしてください。目のやり場に困るので」
「お前が出したんだろ、犬みたいにぺろぺろ綺麗にしてくんねえの?」
「……ッ」
あ、これは嫌なのか。こいつの地雷分かりやすいようで分かりにくいな。
なんて思ってると、ティッシュ手にした日生が俺の元まで戻ってくる。そして開いたままの脚に触れてくるので何をするつもりなのだと呆れてると「綺麗にするんですよね」と怪訝そうな顔をした。
「ぺろぺろしてくれんの?」
「……しません。けど、そのままでは確かに下着が汚れてしまうので、取り敢えず拭うくらいはした方かと思っただけです」
「いーよ、別に。どうせすぐ風呂に行くから」
そう立ち上がろうと下半身に力を込めれば、ごぷりと中に溜まったものが溢れてくる。それを目の当たりにして、日生も黙りこくった。
「ちょっと見すぎ。見たいんだったらもっと近くで見てもいいけど」
「み……みません。というか、先輩――」
そう日生が言いかけた矢先だった。
廊下の方から足音が近付いてくる。
このやかましさは間違いない、十和だ。
「……ッ、先輩、下着……ッ!」
「えー、どうせこのまま風呂行くんだから別によくね?」
「よくねえですから!」
慌てて俺の下着を拾い上げた日生は、そのまま半ば強引に人に下着を履かせてくるのだ。
「ちょ、汚れるじゃん」
「どうせ風呂入るんでしょう、ほらっ!」
さっきまで落ち着いてたと思いきや、今度は死ぬほど焦り出す日生が面白くてわざと脱ごうとするが本気で怒られた。
結局日生の手によって整えられた俺だったが、お陰様で十和が戻ってきたときには二回戦目云々の気分ではなくなっていた。
扉の前までやってきていた足音は止まり、そしてガチャリとドアノブが掴まれる。
数秒で慌てて元の位置に戻り、何事もなかったように参考書を読み始めていた日生が面白くて笑ってしまいそうになった。
どうせ匂いと雰囲気で気付かれるというのに、馬鹿だなあ。いや、十和も十和でなかなか抜けてるところあるしな。案外いけそうな気もしてきた。
そんなことを考えてるうちに扉が開き、ゆっくりと扉が開かれた。
――十和だ。
おずおずと顔を覗かせた十和は、床の上、座り込んでる俺に気付き露骨に嫌そうな顔をするのだ。
「てめえまだ居たのかの」
「いるに決まってんじゃん、俺の部屋だし」
「お前の部屋じゃねえ! 俺の部屋だっての!」
「ならお友達残してどっか行くなっての。可哀想だろ、日生君が」
ねー、と日生に視線を向ければあいつ、目を逸しやがった。
「それより、随分と遅かったな十和。ちゃんと上手くシコってきたか?」
妙に空気がピリついてたので和やかにしてやろうとしたが、十和の野郎無言で蹴ってきやがった。
「さっさと出ていけ!」
「ったく、随分な扱いだよな。お前が居ない間、誰が日生君の相手してやったと思ってんだよ」
「……ッ」
俺の言葉に日生が反応してるもんだから笑ってしまいそうになる。
いやそういう意味じゃねえけど、実際そうだけど。
「なに、どーしたの? 日生く……」
「ゴホッ! ゲホッ!」
「ど、どうした日生?! おいテメェ日生に余計なちょっかいかけたんじゃねえだろうな!」
したと言えばしたけども。
ちら、と日生に視線を向けるのと、「十和、もういいから!」と必死に日生が十和を止めるのはほぼ同時だった。
「本当に大丈夫か? なんか顔色も……」
「大丈夫、大丈夫だから……ちょっと俺トイレ借りるね」
「え」
言うや否や十和から逃げ出すように部屋を出ていく日生。すれ違いざま視線がぶつかる。
「あ、じゃあ俺もトイレ」
そんでついでに日生の後を追いかけて俺は十和を一人残して部屋を後にする。
「なんでだよ」と部屋の奥から十和のツッコミが聞えてきたが無視した。
トイレを借りると言っていた日生は洗面台に直行していた。あいつ、念入りに手を洗ってやがる。
ついてきた俺の姿を見ると、露骨にでかい溜め息を吐くのだ。
「なんだよその反応は、心配してきてやったってのに」
「先輩、本当に隠す気ありますか?」
「なんで隠す前提なんだよ」
「なんでって」
「気持ちよかったろ? 俺の……もがっ」
言いかけた矢先、濡れたままの手で口を塞がれる。辺りをキョロキョロと見渡した日生は、周りに人気がないことを再確認すると「あのですね」とこめかみをひくつかせる。
そして何かを言いかけた日生だったがやがて諦めたようだ。先程よりも長く息を吐いた。
「……とにかく、さっきのことは確かに俺にも非があります。けど、煽ってきたのは先輩です。お互いのためにも忘れてください。俺も記憶から抹消しますので」
絵に書いたような真面目野郎だ。というよりも頑固というか、見れば見るほど七緒とは正反対だ。
おもしれーけど、面白くない。
「とか言っちゃって、忘れられんのかよ」
「先輩……ッ」
「因みに、俺はお前のこと忘れらんねえけど?」
「相性結構よかったし」と日生に下腹部に手を伸ばし、その下のブツをそっと掌全体で包み込むように柔らかく撫であげれば、掌の中でそれが反応するのが分かって思わず噴き出した。
「なんだ、お前――」
「ッ、……!」
言いかけた矢先である、日生のやつは人の手を振り払いやがった。そして、そのまま洗面台から逃げ出した。
分かりやすすぎんだろ、あいつ。
どんだけ真面目ぶってても身体は素直ってか。
「シャワー浴びたくなったらいつでも浴びていいからね」
ついでに日生の背中に声をかけてやるが、とうとうあいつはなにも言わずに十和の部屋へと戻っていったようだ。
俺はやれやれと息をつき、そしてシャワーを浴びることにした。
それから部屋を出た俺はそのまま二度目のシャワーを済ませ、脱衣室に出てタオルを被った俺はそこでようやく肝心の替えの下着を持ってくるのを忘れていたことに気付く。
まあいいや、どうせ十和も部屋にいるだろうし。
取り敢えず上だけ着て、スウェット片手にそのままフルチンで脱衣室を後にする。
そのままずるずるとだるい身体を引きずって戻ってきた自室前、ふと十和の部屋の方から声が聞こえてきた。揉めているようには聞こえなかったが、楽しそうにも聞こえない。
好奇心で盗み聞きでもしてやろうかと扉に近付いたときだった。
タイミングを計ったように十和の部屋の扉が開く。そしてそこから現れた人物に「お」と声が漏れた。それは向こうも同じだった。
現れた日生は人の顔を見て固まり、そのままゆっくりと下半身に目を向けた。んで、再び俺の顔を見る。
あと思えば凄まじい速さで十和の部屋の扉を閉めた。この間一秒。
「いや、見すぎだから」
「な……なんで履いてないんですか」
「んー、趣味?」
「しゅ……」
「ってのは冗談で、替えのやつ持ってきてなかったからさ。仕方なくねーじゃん」
あまりにも日生が面白い顔するもんだから一応フォローしておいてやる。
「誰かさんが汚した下着しかなかったし」と日生にくっつき耳打ちすれば、日生の顔があっという間に茹でたタコみたいになった。
「……っ、せめてそれで隠すくらいしたらどうですか」
さっき散々フルチンよりも恥ずかしいところ見たし触れたくせに散々な言われようだ。
「怒んなよ、それともまた興奮してきちゃった?」
「……ッ! 触らないでください……ッ」
分かりやすいくらいの嫌いっぷり。いやーここまで来ると清々しくて悪くない。
顔を赤くした日生はそのまま俺の横をすり抜けようとする。その先は俺の残りがでいい感じにほかほかになってる風呂場くらいしかない。
「ん? どっか行くの?」
「……しゃ、シャワーを借りようかと」
「へえ、十和いいって?」
「一応は。けど、『なんで』って顔されましたけど」
「そりゃそうだよな」と笑えば、「先輩のせいですよ」と言わんばかりの顔で睨まれた。
「……っ、とにかく、十和に変なこと言わないでくださいね。……さっきのあれも、俺も忘れますので」
「へえ? なんで?」
「なんでって……」
「気持ちよかったろ、筆卸」
そう日生の股間を鷲掴みにした瞬間、手の中でびくりと反応するそれに「お」と呟いた。瞬間、日生に手首を掴み、無理矢理引き剥がされてしまった。
「……っ、なにしてんですか、あんた……ッ!」
「またしたくなったら付き合ってやるよ、案外悪くなかったから――のチン揉みだけど?」
「――ッ」
おお、絶句してる。
「本当、期待を裏切らない人ですね」
「やっぱ期待してんじゃん、むっつりだなあ日生君は」
「今のは嫌味です。……それから、二度目はありませんので」
そうぴしゃりと言いのけ、日生は俺の返事を聞く前にそのままシャワールームへと向かった。耳からその項まで赤くなってる。
本当面白いくらいわかりやすいやつだ。
「……」
本当面白いやつだよな。
俺にタダで口止めしようだなんて、本当。
ないわと思ったが、少しは暇潰しになりそうだな。俺はこれからのことを考え、鼻歌混じりに部屋まで戻った。
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相馬から一件、知らない番号から一件、あとの四件は全て岸本からだ。知らない番号のことも気になったが、岸本から何度も電話がかかっていることに軽い恐怖を覚える。
なにかあったのだろうか。もしくは知らぬうちに俺がなにかしたのか。どちらにせよ岸本からのしつこい着信にいい予感はしない。
そのままタンスを足で開き、中から適当な下着を取り出した俺はそれを身につけ、ベッドへと飛び込んだ。そして岸本に折り返しの電話をかけることにする。
1コール、2コール、3コール。
……もしかしてまた女といちゃついてんのか。
中々出ない岸本にもういいやと通話を終わらせようとしたときだった。――繋がった。
『……はぁーい』
そして端末越しに聞こえてくるのは岸本の声。明らかに不機嫌なその声の奥からは、例のごとくきゃいきゃいとはしゃぐ女子共の声が聞こえてきた。
「もしもし? 葵衣ちゃん?」
『……あ、大地? 大地なの?!』
どうやら着信元を見ずに電話に出たらしい、俺の声に反応した岸本は『さっきから電話かけたのに、なにしてたの』と先程よりもハキハキと噛み付いてきた。
「なにもくそも俺も忙しかったんですー」
『何が忙しいなの? どうせ浮気でもしてたんでしょ』
図星だ。
「うるせ、つかなに。めちゃくちゃ不在着信あってビビったんだけど?」
『あっ! そうだった!』
ってこいつ忘れてたのかよ。
『三年にさあ、此花って先輩いたじゃん』
「……コノハナ?」
『そうそう此花だよ此花。そいつが今日教室まで大地のこと訪ねてきてたけど……大地さあまたなんかやったの?』
「……あ」
――忘れてた。
先日あの男と鞄が入れ替わっていたことを思い出したと同時に、わざわざ教室まで来たという此花に少し驚いた。
てか、またってなんだ。俺をなんだと思ってんだこいつは。
「へえーー、それでなんて?」
『さあ? クラスのやつに大地の連絡先聞きまくってたくらいしか覚えてないや』
その岸本の言葉に、俺は先程鬼のようにかかってきていた見慣れない番号を思い出した、
ということは、相馬もそれ関係なのだろうか。後でかけ直すか。
「おっけ、了解了解。教えてくれてありがと」
『……ねえ、本当に大丈夫なの? 此花ってろくな噂聞かないんだけど、まさかあいつのこと狙ってるなんて言わないよね』
おお、流石伊達に腐れ縁をやってない。
「大正解」とだけ口にし、俺はそのまま岸本との通話を終わらせた。
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