2 / 5
02
しおりを挟む
――そして、現在。
悲鳴が響き渡る駅前。
昨日までは平和だったそこは、駆け付けたときには酷い残状だった。無茶苦茶な形で積み上げられた自動車の山に、瓦礫と化した駅の一部。逃げ回る住民たちを捕まえ襲う雑魚戦闘員。
そして、
「なるほど、お前がシュガーマリンか」
目の前にいるのは、いつもの中年腹の戦闘員――ではなく、表面がやけにテラテラと黒光りしたタイツとド派手なコート、たっぱも俺二人分くらいあんじゃないのかってくらいでけえムキムキの男がいた。鼻から上を覆い隠す虎を模したような仮面と、短い金髪頭を見て『やべえ』と俺は直感した。
どう見ても全身で悪の組織の幹部ですって表してる。というかでけえ。あと俺は不良が苦手だ。
「……っ、だったらなんだよ! 俺の街で好き勝手すんじゃねえ!」
「は、その声……男か? なんだぁ? 魔法少女はもう人材不足か? ま、ここまでガキだったら女も男も関係ねえか」
「な……ッ」
馬鹿にしやがって。見た目がどれだけゴツかろうと、スーツで強化された体は別だ。シュガシュガキック(ルルン命名)で速攻蹴散らしてやる、と目の前の怪人に飛びかかる。
そしてその太い首に蹴りをかましたときだった。
「え」
普段ならば相手は吹き飛ぶほどの威力を発するシュガシュガキック(ルルン命名)がまるで効かない。それどころか、びくともしない目の前の男に思考が停止する。
――そのせいで、一瞬の判断が遅れてしまった。
「なんだぁ? この足は……」
「ぁ……ッ」
「ほっせえな、棒っきれか?」
大きな手が足首を捕らえる。まずい、と思ったときには遅かった。体ごと引っ張られ、まるで宙ぶらりんの体勢で怪人に体を持ち上げれた。
「や……っ、離せ……ッ!」
逆さになり、捲れそうになるスカートの裾を慌てて押さえつけたのが悪手だった。両手が塞がったまま、軽々と体を地面に叩きつけられる。
「っぐ、う……ッ!!」
このスーツでなければ確実に無事ではいなかっただろう。飛び散るコンクリートの破片、のめり込む体。一瞬意識が飛びそうになるのを堪え、そのまま俺はコンクリートの破片を掴んで怪人の顔面に向かって投げた。やつはそれを受け止め、笑う。
「手グセが悪ィ嬢ちゃんだな」
画面越し、その目に加虐の色が滲むのを見て背筋が震えた。スカートの裾がなんだ、下着も黒ボクサーから白のフリル付きのTバックになっているのを見られたくなかったが今はわりとピンチだ。半ばヤケクソに体を動かし、そのまま男の腕にしがみつく。
「……ッ、お前よりマシだ!」
そのまま全体重を使って、仕返しに男の体を地面にぶん投げようとするが、やはりびくともしない。
なんでだ、と思ってるとそのまま体を放り投げられた。
「が、ッ!」
「なんで効かねえんだって顔だな。ま、いちいち言わなくてもわかんだろ」
「っ……なにが、だよ……」
「今まで下っ端連中が身を呈してお前の戦闘データを取ってくれてたから、俺らにはお前の弱点も全部筒抜けってわけだ」
そんなわけ、と言いかけるよりも先に、起き上がろうとした首を掴まれる。そのまま体を持ち上げられ、やつの目線に合う高さまで体を持ち上げられた。
「っ、カハ……ッ!」
「エネルギーの最大放出量、それから戦闘時間からして……その可愛いおべべが使いもんにならなくなるまで十分か?」
「……ッ!」
初めてルルンと出会ったときの言葉を思い出す。
そう言えばルルンのやつも言っていた、制限時間があると。そして時間が切れれば、自然と変身が解除される。それと、エネルギーを使いすぎてエナジー切れになっても変身は解けるのだと。
今までそんなに長引くような戦闘がなかったため、酷く動揺した。
「まあいい、今まで随分と部下たちを可愛がってくれたらしいからなぁ? ちゃんと、お返ししてやんのが礼儀ってやつだよなァ!」
「ぁ゛ッ、ぐ!」
宙ぶらりんになったままの胴体に容赦なく叩き込まれるハンマーのような硬さの拳に昼間食った弁当が腹から込み上げそうになってくる。
咄嗟に防御するが、それを無視して二度三度と更にぶん殴られ、息をする暇もなかった。悲鳴に混じって「シュガーマリン!負けないで!」と子供の声が聞こえてくるが、それもすぐに頭を駅の壁に叩きつけられ掻き消された。
「っ、この、やろ……ッ」
「へえ、まだ喋れんのか。タフなやつだな」
「黙れ、お前なんか……ッ、ぁ゛ぐ!!」
腹を蹴りあげられた衝撃は、俺の体を通って背後の壁まで伝わっていた。壁の一部と一緒に吹き飛んだ体は、そのまま瓦礫に埋もれた。
「っは、ぁぐ……っ」
胸に取り付けられた大ぶりのリボン、その中央のジェムの輝きが弱くなってる。電気切れの電球みたいにチカチカと光が途切れ始めてるのを見て血の気が引いた。
まだ十分も経っていない、ということはエナジー切れか。
ここは一旦引くのが懸命だ、街の人たちは守りたいが、それでもやはり一人では限界がある。
それに、このままやられるのが一番最悪だ。
「……っ、ごめん、皆……」
はち切れそうな胸を押さえつけ、残された力を振り絞って俺は瓦礫から体を起こし、そして半壊した駅前から逃げ出した。
悲鳴が響き渡る駅前。
昨日までは平和だったそこは、駆け付けたときには酷い残状だった。無茶苦茶な形で積み上げられた自動車の山に、瓦礫と化した駅の一部。逃げ回る住民たちを捕まえ襲う雑魚戦闘員。
そして、
「なるほど、お前がシュガーマリンか」
目の前にいるのは、いつもの中年腹の戦闘員――ではなく、表面がやけにテラテラと黒光りしたタイツとド派手なコート、たっぱも俺二人分くらいあんじゃないのかってくらいでけえムキムキの男がいた。鼻から上を覆い隠す虎を模したような仮面と、短い金髪頭を見て『やべえ』と俺は直感した。
どう見ても全身で悪の組織の幹部ですって表してる。というかでけえ。あと俺は不良が苦手だ。
「……っ、だったらなんだよ! 俺の街で好き勝手すんじゃねえ!」
「は、その声……男か? なんだぁ? 魔法少女はもう人材不足か? ま、ここまでガキだったら女も男も関係ねえか」
「な……ッ」
馬鹿にしやがって。見た目がどれだけゴツかろうと、スーツで強化された体は別だ。シュガシュガキック(ルルン命名)で速攻蹴散らしてやる、と目の前の怪人に飛びかかる。
そしてその太い首に蹴りをかましたときだった。
「え」
普段ならば相手は吹き飛ぶほどの威力を発するシュガシュガキック(ルルン命名)がまるで効かない。それどころか、びくともしない目の前の男に思考が停止する。
――そのせいで、一瞬の判断が遅れてしまった。
「なんだぁ? この足は……」
「ぁ……ッ」
「ほっせえな、棒っきれか?」
大きな手が足首を捕らえる。まずい、と思ったときには遅かった。体ごと引っ張られ、まるで宙ぶらりんの体勢で怪人に体を持ち上げれた。
「や……っ、離せ……ッ!」
逆さになり、捲れそうになるスカートの裾を慌てて押さえつけたのが悪手だった。両手が塞がったまま、軽々と体を地面に叩きつけられる。
「っぐ、う……ッ!!」
このスーツでなければ確実に無事ではいなかっただろう。飛び散るコンクリートの破片、のめり込む体。一瞬意識が飛びそうになるのを堪え、そのまま俺はコンクリートの破片を掴んで怪人の顔面に向かって投げた。やつはそれを受け止め、笑う。
「手グセが悪ィ嬢ちゃんだな」
画面越し、その目に加虐の色が滲むのを見て背筋が震えた。スカートの裾がなんだ、下着も黒ボクサーから白のフリル付きのTバックになっているのを見られたくなかったが今はわりとピンチだ。半ばヤケクソに体を動かし、そのまま男の腕にしがみつく。
「……ッ、お前よりマシだ!」
そのまま全体重を使って、仕返しに男の体を地面にぶん投げようとするが、やはりびくともしない。
なんでだ、と思ってるとそのまま体を放り投げられた。
「が、ッ!」
「なんで効かねえんだって顔だな。ま、いちいち言わなくてもわかんだろ」
「っ……なにが、だよ……」
「今まで下っ端連中が身を呈してお前の戦闘データを取ってくれてたから、俺らにはお前の弱点も全部筒抜けってわけだ」
そんなわけ、と言いかけるよりも先に、起き上がろうとした首を掴まれる。そのまま体を持ち上げられ、やつの目線に合う高さまで体を持ち上げられた。
「っ、カハ……ッ!」
「エネルギーの最大放出量、それから戦闘時間からして……その可愛いおべべが使いもんにならなくなるまで十分か?」
「……ッ!」
初めてルルンと出会ったときの言葉を思い出す。
そう言えばルルンのやつも言っていた、制限時間があると。そして時間が切れれば、自然と変身が解除される。それと、エネルギーを使いすぎてエナジー切れになっても変身は解けるのだと。
今までそんなに長引くような戦闘がなかったため、酷く動揺した。
「まあいい、今まで随分と部下たちを可愛がってくれたらしいからなぁ? ちゃんと、お返ししてやんのが礼儀ってやつだよなァ!」
「ぁ゛ッ、ぐ!」
宙ぶらりんになったままの胴体に容赦なく叩き込まれるハンマーのような硬さの拳に昼間食った弁当が腹から込み上げそうになってくる。
咄嗟に防御するが、それを無視して二度三度と更にぶん殴られ、息をする暇もなかった。悲鳴に混じって「シュガーマリン!負けないで!」と子供の声が聞こえてくるが、それもすぐに頭を駅の壁に叩きつけられ掻き消された。
「っ、この、やろ……ッ」
「へえ、まだ喋れんのか。タフなやつだな」
「黙れ、お前なんか……ッ、ぁ゛ぐ!!」
腹を蹴りあげられた衝撃は、俺の体を通って背後の壁まで伝わっていた。壁の一部と一緒に吹き飛んだ体は、そのまま瓦礫に埋もれた。
「っは、ぁぐ……っ」
胸に取り付けられた大ぶりのリボン、その中央のジェムの輝きが弱くなってる。電気切れの電球みたいにチカチカと光が途切れ始めてるのを見て血の気が引いた。
まだ十分も経っていない、ということはエナジー切れか。
ここは一旦引くのが懸命だ、街の人たちは守りたいが、それでもやはり一人では限界がある。
それに、このままやられるのが一番最悪だ。
「……っ、ごめん、皆……」
はち切れそうな胸を押さえつけ、残された力を振り絞って俺は瓦礫から体を起こし、そして半壊した駅前から逃げ出した。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
【完結】催眠なんてかかるはずないと思っていた時が俺にもありました!
隅枝 輝羽
BL
大学の同期生が催眠音声とやらを作っているのを知った。なにそれって思うじゃん。でも、試し聞きしてもこんなもんかーって感じ。催眠なんてそう簡単にかかるわけないよな。って、なんだよこれー!!
ムーンさんでも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる