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第三章
05※
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この男の意図が何一つ分からない。
「間人君、昔の君みたいだね」
何故、こんな真似をするのか。
愛おしそうに髪を掬い、唇を押し付けた男は笑う。
「兄さんって呼んでみてよ」
「……」
「間人君」
「……っ、――」
ここで逆らっては駄目だ。せっかくここまで耐えてきたのだ。分かっていても口が動かなかった。心がそれを拒むのだ。
こちらを見据えていた二つの目が細められる。柔和な笑みと掛け離れた、黒く淀んだ底しれぬ双眼。
「嫌だ、なんて言うわけないよね。君が」
前髪を軽く掻き上げ、こちらを覗き込んでくる花戸に視界の縁が黒い影に覆われていくようだ。目眩とも違う。視野狭窄。目の前の花戸以外見ることが出来なかった。
口を開き、息を吐く。
「――」
自分がなんと言ったのか、なんと口にしたのか分からなかった。耳鳴りに全ての音が呑まれ、ただ俺を見詰めていた花戸の顔が嬉しそうに綻び、そのまま唇に柔らかくキスをされたことだけは覚えていた。
「これから、俺のことは兄さんって呼ぶんだよ。間人君」
「……はい」
「敬語もなしだ。家族なんだからタメ口でいいよ。ああ、けれど乱暴な言葉遣いは俺も傷付くから優しい言葉遣いでね」
「……わかった」
「よしよし、いい子だね。間人君は」
俺は一体何をしてるのだろうか。
ここまでの記憶が朦朧としてる。気付けば俺は花戸の膝の上に座らされ、頭を撫でられていた。
くだらない恋人ごっこの次はまた家族ごっこときたものだ。ありもしないものを作り上げ、それを演じることでこの男は何を満たしてるのか。
そのくせ、自分を兄と呼ばせながらも腰を抱く手も唇を食む仕草もやめようとしない。何もかもが矛盾している。俺は、兄とこんなことをしたことなどなければしたいと思ったこともない。それなのに、この男は兄に成り代わろうとした上で俺を抱くのだ。
髪を切ってからというものの、花戸は以前のように――いや、以前よりも執拗に俺を求めるようになった。
数日前まで、一人ベッドの上で寝て大半過ごしていたのが遠い日のことのように思えるほど花戸との過ごす時間が増える。
それも、兄弟としてのロールプレイングを行いながらだ。
「っ、は、……っ、ぁ……っ、に、ぃさ……っ」
シーツを掻き毟るように爪を立て、背後から覆い被さってくる花戸の性器をひたすら受け止める。
内臓を掻き混ぜるように出入りする性器の感覚は脳にまで到達し、吐き気を通り越して何も感じることはなくなっていた。あるのは激痛にも似た快楽と、心臓まで蝕む自己嫌悪のみだ。
「ぁっ、く、ひ――っ! ぁ、あ、ぁ……っ!」
花戸の言うことを聞いていれば、暴力を奮われることも苦痛を受けることもない。と、思っていた。
俺にとってはこの男に優しく甘く“弟”として抱かれること自体が何よりも屈辱でしかなかった。
それならば、いっそのこと電流でも流された方がましだ。
喉元まで出かかったどす黒く肥大化した感情を飲み込み、享受する。全てはこの男を殺すため、俺はこの男の玩具に成り下がった。
「間人君、昔の君みたいだね」
何故、こんな真似をするのか。
愛おしそうに髪を掬い、唇を押し付けた男は笑う。
「兄さんって呼んでみてよ」
「……」
「間人君」
「……っ、――」
ここで逆らっては駄目だ。せっかくここまで耐えてきたのだ。分かっていても口が動かなかった。心がそれを拒むのだ。
こちらを見据えていた二つの目が細められる。柔和な笑みと掛け離れた、黒く淀んだ底しれぬ双眼。
「嫌だ、なんて言うわけないよね。君が」
前髪を軽く掻き上げ、こちらを覗き込んでくる花戸に視界の縁が黒い影に覆われていくようだ。目眩とも違う。視野狭窄。目の前の花戸以外見ることが出来なかった。
口を開き、息を吐く。
「――」
自分がなんと言ったのか、なんと口にしたのか分からなかった。耳鳴りに全ての音が呑まれ、ただ俺を見詰めていた花戸の顔が嬉しそうに綻び、そのまま唇に柔らかくキスをされたことだけは覚えていた。
「これから、俺のことは兄さんって呼ぶんだよ。間人君」
「……はい」
「敬語もなしだ。家族なんだからタメ口でいいよ。ああ、けれど乱暴な言葉遣いは俺も傷付くから優しい言葉遣いでね」
「……わかった」
「よしよし、いい子だね。間人君は」
俺は一体何をしてるのだろうか。
ここまでの記憶が朦朧としてる。気付けば俺は花戸の膝の上に座らされ、頭を撫でられていた。
くだらない恋人ごっこの次はまた家族ごっこときたものだ。ありもしないものを作り上げ、それを演じることでこの男は何を満たしてるのか。
そのくせ、自分を兄と呼ばせながらも腰を抱く手も唇を食む仕草もやめようとしない。何もかもが矛盾している。俺は、兄とこんなことをしたことなどなければしたいと思ったこともない。それなのに、この男は兄に成り代わろうとした上で俺を抱くのだ。
髪を切ってからというものの、花戸は以前のように――いや、以前よりも執拗に俺を求めるようになった。
数日前まで、一人ベッドの上で寝て大半過ごしていたのが遠い日のことのように思えるほど花戸との過ごす時間が増える。
それも、兄弟としてのロールプレイングを行いながらだ。
「っ、は、……っ、ぁ……っ、に、ぃさ……っ」
シーツを掻き毟るように爪を立て、背後から覆い被さってくる花戸の性器をひたすら受け止める。
内臓を掻き混ぜるように出入りする性器の感覚は脳にまで到達し、吐き気を通り越して何も感じることはなくなっていた。あるのは激痛にも似た快楽と、心臓まで蝕む自己嫌悪のみだ。
「ぁっ、く、ひ――っ! ぁ、あ、ぁ……っ!」
花戸の言うことを聞いていれば、暴力を奮われることも苦痛を受けることもない。と、思っていた。
俺にとってはこの男に優しく甘く“弟”として抱かれること自体が何よりも屈辱でしかなかった。
それならば、いっそのこと電流でも流された方がましだ。
喉元まで出かかったどす黒く肥大化した感情を飲み込み、享受する。全てはこの男を殺すため、俺はこの男の玩具に成り下がった。
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