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CASE.08『デート・オア・デッド』

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 謎の煙は暫くすればすうっと霧のように消えていった。
 そして、視界を遮るものがなくなったと思えば俺は見知らぬ通路の真ん中に座り込んでいた。

「え……?」

 何が起きたんだ。まさか、俺の力?……いや、そんな訳ない。
 ならば、と俺は辺りを見渡した。そして、

「無雲さん……?」

 そう、天井を見上げながら口にするが返事は返ってこない。
 どんな能力かは分からないが、俺を瞬間移動させたということ、なのだろう。おそらく。

「あ、ありがとうございます……っ!」

 どこにいるか分からないので取り敢えずぺこペこと四方八方に向かって頭を下げておく。
 俺の声は届いていた、というかやはり見られていたのかな。恥ずかしくなってきたが、一先ずは逃げられたことに安堵した。

 それから俺は取り敢えず自分の居場所を把握することにした。
 ここは多分、紅音が向かっていた囚人たちが逃げ隠れしている通路の奥――のはずだけど……。
 取り敢えず檻の元へ戻ろうと歩き出すが、どうやら通路の奥は迷路のようになってるらしい。どちらが出口かも分からないまま俺は取り敢えず人の気配を探す。
 紅音と会えたらそれが一番いいのだが――それにしても、危ない目に遭ったな……。
 中途半端に触られたせいでなんだか変な気分になってきたが、いけない。集中しないと。

「……」

 だ、だめだ。集中しようとすればするほど勃ってきた……。どうしよう。借り物の制服を汚すわけにはいかないし、なんとかこう……ならないのか。
 腰を引いたままひょこひょこ歩くという挙動不審になりつつ、俺は人気のない場所を探す。
 そのまま隅っこへとひょこひょこ移動する。それから俺は腕につけていたデバイスを起動させた。それから慌てて俺は本部――シェムさんへと通信を繋げた。
 通信が繋がるまで少しだけ間はあった。それから、ウィンドウにシェムさんの顔が表示された。……一瞬、なんだか疲れたような顔していたがすぐに笑顔に変わる。

『……やあ、どうしたんだい?』
「あ、あの、すみません! お手洗いをお借りしたいのですが……」
『それは急を要するのか?』
「は、はい、なるべく早めの方が助かります……っ!」
『……』

 やはりゲーム中は難しいのだろうか。脇見で何かを確認したシェムさんはすぐににこりと笑った。

『了解だ。このゲームが終わり次第即座にトイレを用意しよう』
「あ、げ、ゲームが終わるまで我慢ですか……?」
『ああ、すまないがそういうシステムになっていてな。ゲーム中は如何なることがあってもその扉を開けることは不可能になっているんだ』

 さらっと恐ろしいことを言われた気がするが、そう言われたら諦めるしかない。

「わ、わかりました。それまでなんとか……持ちこたえます……!」
『ああ、頑張ってくれたまえ』

 間もなくして一方的にシェムとの通信は途切れた。
 まあ、トイレを我慢するよりかはましか。
 勃ちかけた己を再度チラ見してバレないか確認したあと、再び俺はシェムさんに連絡する。
 今度はすぐにシェムは出てきた。何故だがこの一瞬で髪が乱れている気がするが気の所為だろうか。それに、なんか疲れてるような……。 

『それで……今度はどうしたんだ?』
「あ、す、すみません何度も……! あの、因みにこの通路の中って……カメラとかってやっぱりたくさん仕掛けられてるんですか?」
『カメラ? ……ああ、そうだな。公平な進行のためそちらの映像はすべてリアルタイムで受け取ってるが……』
「え゛」
『……ん? ……おかしいな』
「何かあったんですか?」
『君がいるその通路にもカメラがあるはずなのだが、何か煙のような――』

 そう、シェムが席を立ったと同時に映像が大きく乱れる。そして次の瞬間、ぷつりと通信が途切れた。

「……? ん? あれ……?」

 電波の影響かと思いきや、腕のデバイスは画面が真っ暗のままうんともすんとも言わなくなってしまっている。
 バッテリー切れ?けれど、さっきまで普通に動いていた気もする。それに、シェムさんがなんか通話切れる前に気になることを言っていた気がする。

「……」

 けど、理由がなんにしろもしかしたら今ならカメラは起動していないということか。

 ……す、少し、少しだけなら……。
 こそこそと壁に背を向けたまま、ちらりと下半身を見る。相変わらずぱつぱつになってしまってるそこを見て、俺はごくりと固唾を飲んだ。
 どうか、誰も来ませんように……!
 そう、天に願いながら自分の胸に手を伸ばした。
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