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CASE.07『同業者にご注意』
06
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『俺も行く』と言う望眼を断る理由もなかった。
確かに、俺としても望眼がいてくれた方が心強い。
それに、担当変更のことも直接伝えたい。そう望眼は付け足した。
「言っておくが、断じて私情は挟んでないからな」も何回も言っていた。それを言われる度に昨夜のあれこれが過ぎってしまい、俺は「大丈夫です」としか言えなくなるのだ。
というわけで、さっそく俺はサディークに返信することにした。
望眼はサディークと会うのはこの後すぐでも構わない、ということだったので昼前に本社ロビーで会う約束を取り付る。
サディークからすぐに返事は返ってきた。「分かった」と簡素なものだ。
それから望眼とはサディークに会った時の対応や大まかな流れについて事前に話し合う。
そんなことをしているうちにサディークとの待ち合わせの時間はやってきた。それから俺達はそのまま一階へとエレベーターを使って降りていく。
「さっきも言ったけど、一応俺としても良平の意見は尊重したいと思ってる。けど、見てて話しにならなさそうだと思ったらすぐ間に入るからな」
「は、はい! わかりました」
そんなやり取りを交わしている間にエレベーターはあっという間に目的地である一階に着いた。開く扉から俺達はエレベーターを降りる。
なんだか今更緊張してきた。
どんな顔をしてサディークに会えばいいのだろう。まずは謝らないとな、とかそんなことを考えている間にロビーまでやってきた俺。望眼は少し離れたところから様子を見るということで、一旦別れる形になった。
何故そんなことをするのだろうかと疑問に思ったが、望眼曰く「ああいうタイプは第三者がいることを嫌がるからな、お前の横に俺がいたらそもそも現れない可能性もある」とのことだった。まだ直接サディークに会っていないはずなのになんというサディークへの理解の高さなのだろうか、と俺は感動していた。
確かに、そもそもサディークが現れない可能性もあるということなのか。
そんなこんなで、一人俺はエントランスの脇でサディークがやってくるのを待っていた。
流れるように出入りする従業員を確認するが、サディークの姿はまだ見当たらない。
もしかして早く来すぎてしまったのだろうか、と腕時計を確認する。が、時間的には丁度くらいだ。サディークが待ち合わせに遅れるイメージはなかっただけに、なんとなく心配になってくる。
そんな中、端末がメッセージを受信した。サディークからだ。
慌てて確認すれば、「急用が入ったから行けそうにない。またあとで改めて連絡する」という旨の内容だった。
俺は、近くのラウンジでこちらの様子を伺っていた望眼の元へと向かう。
ラウンジの一人掛け用ソファに腰を掛け、缶コーヒーを飲んでいた望眼はやってきた俺から何かを察したようだ。
「サディークのやつ、逃げたか?」
「に、逃げたというか……急用が入ったそうです」
「大体そういうんだよ、逃げる奴は。……しまったな、お前と一緒にいるところどっかで見られたか? ……まあ、仕方ねえか。またあとからでも奴から連絡来るだろうから、そんときは言えよな」
「はい、わかりました」
俺はサディークのことは信じたいのが本音だったが、望眼はそうではないようだ。それほど心配してくれてるのかもしれない、と思うことにした。
俺はサディークに返信し、それからそのまま望眼の仕事について回ることになる。
◆ ◆ ◆
「まあ一旦サディークのことはさておき、一応貴陸さんにも伝えて良平に新しい担当付けてもらうようには伝えてるから」
「すみません、俺のせいでなにからなにまで……」
「あー大丈夫、そんなに気にしなくて。誰しも……は通らねえかもだけど、起きたことは仕方ねえから」
仕事も一段落し、近くの喫茶店で休憩していた俺と望眼。
それにしても、新しい担当か。
いい加減気持ちを切り替えなければならな、なんて考えながら頼んだドーナツを食べていると、ふと望眼がこちらを見ていることに気付いた。「どうしたんですか?」と聞き返したとき、望眼は「あー、いや……」とやや歯切れの悪い返事をする。
「……食ってるところ、可愛いなって思って」
「んぐっ」
思わず噴き出しそうになる。
「も、望眼さん、公私混同はしないって……」
「してねえよ、してねーって! 感想述べるくらいいいだろ? それにほら、今は休憩中だし」
そういう問題なのか。
あまりにも不意打ちだったので顔がぽかぽかと熱くなる。
「俺のマフィンも食うか?」
「だ、大丈夫です……というか、望眼さんがお腹減ったってここ来たんですから、望眼さんも食べないと……」
「……うーん。そのつもりだったんだけどな」
「やっぱ、お腹いっぱいですか?」
「お前が食べさせてくれたら入るかも」
「望眼さん」と思わず声が上擦った。冗談に聞こえない。というか気付けば椅子同士が近い。隣まで椅子を持ってきた望眼に「仕事中ですよ」と小声で手を掴めば、「休憩中だ」とそのまま手を握られる。
「ちょっと、望眼さん……」
「なあ今夜さ、お前用事とかあんのか?」
「え……」
いくら周りに客がいないとは言えどだ。にぎにぎと手を触られ、狼狽える。どう考えても、それの誘いである。
「よ、用事は……今のところは……ない、ですけど」
連日は流石に俺も死ぬ、俺の尻が限界を迎える。そう望眼の手をやんわりと離そうとしたとき、「けど?」と更に迫ってきた望眼に心臓が止まりそうになった。
そんな矢先だった。
「よお、お前らも休憩中か?」
いきなり望眼の背後からにゅっと現れた大柄なスーツの男に俺も望眼もぎょっとする。
顔を上げれば、そこには貴陸とひょろりとしたスーツの男――東風がいた。
「ぁ、ど、どもおはようございます貴陸さん! 東風さん!」
「なんだぁ? お前ら仲良いな、そんなにくっついて座ってたらかえって食いにくいだろ。……あ、同席していいか?」
「は、はい、どうぞ……っ!」
貴陸に尋ねられ、慌てて椅子を離した俺は貴陸たちのために近くの椅子を引っ張ってくる。東風はペコリと頭を下げ、そのまま俺と望眼の間に腰をかけるのだ。
しかし、なんというタイミングだ。
助かった、このままではまた流されそうになっていただけに安堵する。
「そういや東風、お前、良平とは初めましてじゃないか?」
「あー……一回廊下ですれ違いました」
「すれ違いましたって、自己紹介はしてないのかよ」
「まあ、まだっすね」
「おい」と貴陸に小突かれた東風は「急いでたんですよ」と肩を竦める。そして改めてこちらへと向き直る東風。
「どうも、東風です。……さっきは挨拶できなくてごめんね」
「あ、いえ……あっ! 良平です、よろしくお願いします!」
そう猫背を曲げ、軽く頭を下げる東風に釣られて俺も自己紹介をする。
そんな俺に東風は「声でっか」とだけぽつりとつぶやくのだ。
「あ、ご……ごめんなさい」
「いや、別にいいよ。望眼が好きそうな子だね」
どこか眠たげな顔のまま手元の茶色い液体にストローを刺して咥える東風に、丁度マフィンを咀嚼していた望眼が咽る。
「東風さん、その言い方やめてくださいよ」
「や、別にそのままの意味なんだけど……なに?」
「はぁ……こっわ。……まあ確かに良平は可愛いですけど」
も、望眼さん……。
ごにょ、と口籠りながらそっぽ向く望眼の反応があからさますぎて、つい釣られて顔がじんわりと熱くなった。
どう反応していいのか困ってると、「貴陸さんも好きそう」と東風は呟く。瞬間、貴陸は「はは、まあな」と大きく口を開いて笑うのだ。
「良平みたいな弄れもせず真っ直ぐな部下は誰でも可愛いだろ」
「はは、言いそー。俺は普通寄りっすけど、因みに」
「え」
「あー良平気にすんな、東風さん誰にでもこういう人だからな。ちょっとデリカシーないだけで、ほら落ち込まなくていいからな」
あまりにもあっけらかんとした口調で「普通」と言われたことはなかなか衝撃的で、望眼のフォローになんとか自分を保つことができた。
なんというか、独特な雰囲気の人だ。柔らかい口調や態度と見せかけて、実際は掴めないというか。
この人が洗脳の能力持ってるのか……。
でも確かにこの人なら荒っぽいヴィランの人たちものらりくらり躱してしまいそうだ。
「そういや良平とは久しぶりだな。望眼からちょこちょこお前が頑張ってるって話は聞いてたんだが……悪いな、望眼。任せっぱなしで」
「あー別にいいっすよ、俺も助けられてるんで」
「い、いえ……俺の方こそ望眼さんに色々教えていただけて、勉強させてもらってます」
なんだかこんな風に褒められるとムズムズしてきて、耐えられずぺこぺこと頭を下げれば望眼と目があった。
すぐ目を逸らすのも変な気がして、つい見つめ合うような形になったときだ。
「ほーん。随分と仲良くなったんだな、お前ら」
にやにやと笑う貴陸にぎくりとした。
他意はないと分かっていてもだ、酒の勢いとはいえど一線を越えてしまった今冗談に聞こえなかった。
「貴陸さん、やめてくださいよ」
「はは、照れんなよ。なんだ望眼、お前も照れるくらいはするのな」
「……それより、わざわざここに来たってことは俺達に用があったんじゃないんすか」
話題を変えようとする望眼の言葉に、貴陸は笑顔を消した。
ただたまたま貴陸たちも食事にきただけだと思っていただけに、その反応に驚く。
「ああ、まあな」
「ここ出ます?」
「いや、別にこのままでいい。東風もいるしな」
一瞬何を言ってるのかわからなかったが、もし聞かれたら東風の能力を使えばいい、ということか。
なんとなく背筋が伸びる。もしかして俺、邪魔じゃないのかと思って望眼と貴陸へと交互に目を向ければ「お前もそのままでいい」と貴陸が応えた。また心を読まれてたのか。
「お前ら、ハイエナ野郎の噂は知ってるか?」
「あー例の同業者っすよね」
「ああ、そうだな。その件で、今回査察が入ることになった。現在所属している社員全員にな」
貴陸の言葉に、望眼は「うげ」と露骨に面倒臭そうな顔をする。
「あ、あの……査察って……」
「ああ、そうかお前はわからないか。……分かりやすく言えば三者面談みたいなやつだよ。営業と担当と、それから査察官が来るようになってる。今回の場合は、お前の担当も望眼に見てもらうから気にしなくていいぞ」
そう貴陸は笑う。
なるほど、三者面談と聞いたら分かりやすい。
貴陸曰く、近々その査察官なる人がやってくるらしい。
そして営業部はその人たちに協力しなければならない。
なんだかコソコソ調べると考えると確かにそれなりの罪悪感はあったが、このままスパイを野放しにしておくわけにはいけないというのが上の判断らしい。
とは言えど大変なのは望眼や東風などの多くの担当を持つ人たちだ。
蚊帳の外である俺は、なにやら話し込んでる三人の会話を聞きつつ、どんな人が来るのだろうか。なんて考えていた。流石に安生は忙しそうだしな。
「ま、そういうわけだ。くれぐれも口外厳禁だからな。うちの部署に限ってそんなやつは居ねえと思うが、念の為こうして直接伝えて回ってたんだ」
「あーなるほど、そういうことっすか」
「因みに、お前らが一番最初だから。もし今漏らしたら速攻特定するからよろしく」
なんて、さらっと口にする東風にどきっとした。
いや最初からバラすつもりはないが、俺はどうやら顔に出やすいタイプのようなので責任重大だ。
「き、気をつけます……」
項垂れる俺に「よろしく」と東風は口の端を持ち上げるだけの笑みを浮かべた。
望眼の言うとおりだ、この人のことまるでまだ理解できそうにない。
それから、俺は貴陸たちと食事を済ませた。
その日、東風が能力を使うところを見るなんてことはなかったが、やはり気をつけなければ。
そんなことばかりを考えながら食事をしていたおかげで、後半ご飯の味がしなかったのは言うまでもない。
――本社前、喫茶店前道路。
相変わらず夜が開けることはないこの街だが、人工的な灯りはたくさんあるために常にギラギラと眩い。
そして時間的には夕方頃だろう。これから仕事へと向かうヴィランたちや夜行性のヴィランたちがそろそろ動き出す時間帯だ。
ちらほらと朝方では見ないタイプのおっかないヴィランたちも増えてきた。
「じゃあ、これから貴陸さんたちは他の奴らのところに行くんすね」
「ああ、ここからが長丁場だろうからな」
そう肩を慣らす貴陸。そんなに大変なのだろうか。「どこかに出張されてるとかですか?」と尋ねれば、「当たらずも遠からず、だな」と貴陸は快活に笑った。
「中には今どこにいるのか分からねえ社員もいるしな」
「えっ、それは……」
「重要任務で出張中の社員のサポートで付き添いに行ってるやつもいるんだ、うちの部署には」
そんなこともしなければならないのか、と驚き固まる俺に、貴陸は「まあそいつが大分特殊なだけでもあるがな」と付け足した。
「少なくとも良平は本拠点はこの本社になるだろうな」
「あ、そうなんですね……」
「なんだ、がっかりしたか?」
「い、いえ! とんでもないです!」
「はは、良平といいお前らといい本社が大好きだからな」
「現地はおっかなすぎて嫌ですもん、普通に」
そう答えたのは東風だった。隣で望眼は大きく頷いている。
やはり、ヴィランの人たちと言えど皆が皆好戦的というわけではないらしい。俺と同じ考えの人がいて、安心した。
「じゃ、またな」
「はーい」
「はい、お疲れ様でした!」
「おお、良平はいい返事だな。いいぞ、そのまま真っ直ぐすくすと育ってくれよな」
「わ、わわ……」
大きくて、岩のような硬い手のひらで頭をわしわしと撫でられついふらつく俺。
「おおっと。悪い、お前望眼よりも小さかったな」
「い、いえ……すみません、体幹鍛えてきます」
「その調子だ、頑張れよ」
「はい……っ!」
なんだろう。貴陸に褒められるとなんだか父親に褒められたような気分になる。
両親や兄以外の人にこうして期待してもらえるのは素直に嬉しかった。
頑張らなければ、と拳を握り締め漲る俺。そんな俺に笑う貴陸だったが、ふとなにかを思い出したように「ああそうだった」と手を叩く。
「なあ、良平」
「は、はい」
「お前、サディークと揉めたんだってな。望眼から聞いたぞ」
単刀直入に切り込まれ、俺はなにも言えなかった。
怒られるのではないか、と怯えていたが、貴陸の態度は先程とあまり変わりない。顎を指先で擦り、その口元には少し含んだ笑みを浮かべていた。
「す、すみません……俺……っ」
「あー別に怒ってるわけじゃねえんだ。まあ最初はそんなもんだ。次に丁度良さそうなやつ、こっちでまた見繕っておく。多分、明日の朝までには端末の方にデータ送っておくからな」
「わ、わかりました……」
「望眼、やつのこと頼んだぞ」
「了解でーす」
土下座する準備もできていたのだが、許されてしまった。
けど流石に望眼に引き継ぎをするまではちゃんとしなければ、と改めて気を引き締める。
そしてこのまま他の営業部の社員に会いに行くという貴陸と東風を見送り、そして再び店の前には俺と望眼の二人きりになった。
「……はあ、なんか随分と賑やかな休憩になったな」
「確かにそうですね。……けど、東風さんに改めて挨拶できてよかったです。それに、貴陸さんにも……」
「そうだな。まー、東風さんのデリカシーのなさは誰にでもって感じだから気にすんなよ」
「はい、大丈夫です。……不思議な方でした、柔らかいナイフみたいな……」
改めて東風の印象を告げれば、望眼は吹き出す。そして「だろ?」と目を細めて笑った。
「ま、あの人たちのことはいーんだわ。……なあ良平、さっきの話の続きだけど」
「はい? ……あっ」
聞き返そうかと望眼を見上げたとき、俺は貴陸たちがやってくる直前のやり取りを思い出した。
――すっかり忘れていた。
ああ、そういえばそんな話をしていたら貴陸たちがやってきてなあななになってしまったのだった。
思い出し、今さらになって顔が熱くなった。
「ええと、あの、望眼さん……」
「あー、やっぱ待ってくれ」
どうしたらいいのだろうかと必死に言葉を探していると、望眼の方からストップが入る。
どうしたのだろうかと顔を上げれば、冷や汗を滲ませた望眼がいた。
「もしかして、お前……今朝のあれは社交辞令的なやつだったりするのか?」
「え?」
「だって、さっきも貴陸さんたちがやってきてほっとした顔してたし……もしかして、俺に合わせて仕方なく合わせているとか……」
見る見るうちに望眼の顔が青ざめていくのを見て、慌てて俺は「そんなことはありません!」と否定を口にする。
「良平……」
「確かに成り行きはちょっと望眼さんに流されたところもありますけど、その、嫌だったら『やめてください』ってちゃんと言いますし、それに……気持ち良かったのは本当なので……!」
「よ、良平……気持ちは伝わったが公道で叫ぶのはちょっとやめておいた方がいいかもな」
「あ……っ! す、すみません……!」
望眼にあらぬ誤解をさせたくないという気持ちが前に出すぎてしまったようだ。
そしてちゃんとそれは望眼にも伝わったらしく、少し気恥ずかしそうな顔をした望眼は「それならよかったけど」と安心したように息を吐いた。
やはり望眼は優しい。俺のこともちゃんと考えてくれているのだ。
それならば、と俺は決心する。
「けど、その……」
あのですね、とこっそりと声を潜めて望眼に近づけば、また不安そうな顔をした望眼は「やっぱりなんかあんのか?」と身構える。
「あ、違うんです。……その、俺、あんまり体力ある方ではないので、その……連日はちょっと、ど……どうにかなっちゃうんじゃないかって……」
何を言ってるのだ、俺は。
言いながら語尾は萎んでいき、全身の血液が顔面へと集中していく。顔がポカポカしてきた。
そんな俺にぽかんと口を開く望眼だったが、それも一瞬。俺が言わんとしたことに気付いた望眼は「あー……」と顔を掌で覆う。
「わ、悪かった……それは」
「い、いえ……」
「悪いついでで申し訳ないんだが、今の……ちょっとキた」
「……へ?」
その言葉に釣られて視線を下げた俺は慌てて顔を逸らす。
「も、望眼さん! ここ外ですよ?! 何考えてるんですか?!」
「わかってる、みなまで言うなって! 大体、今のは不可抗力だろ」
「望眼さんって……」
「お……おい、なんだよその目は……」
俺も男なので望眼の気持ちも分からないわけではないが、それにしてもどこでスイッチが入るというのか。脱いだ上着で前を隠す望眼を見ていると流石に申し訳ない気持ちになってきた。
仮にも、お世話になっている先輩だしな。
「……わかりました」
決心する俺に、望眼は「良平?」とこちらを見下ろしてくる。
――責任は、取らなければならない。
「一晩中、は難しいですけど……少しだけなら」
お手伝いします、と俺は周りから見えないように望眼にそっと体を寄せた。
それに、このままでは他の社員に顔出しすることも難しいだろう。上着で隠された下腹部、その下で張り詰めた下腹部をそっと撫でれば、目の前の望眼の喉から唾を飲み込む音を聞いた。
確かに、俺としても望眼がいてくれた方が心強い。
それに、担当変更のことも直接伝えたい。そう望眼は付け足した。
「言っておくが、断じて私情は挟んでないからな」も何回も言っていた。それを言われる度に昨夜のあれこれが過ぎってしまい、俺は「大丈夫です」としか言えなくなるのだ。
というわけで、さっそく俺はサディークに返信することにした。
望眼はサディークと会うのはこの後すぐでも構わない、ということだったので昼前に本社ロビーで会う約束を取り付る。
サディークからすぐに返事は返ってきた。「分かった」と簡素なものだ。
それから望眼とはサディークに会った時の対応や大まかな流れについて事前に話し合う。
そんなことをしているうちにサディークとの待ち合わせの時間はやってきた。それから俺達はそのまま一階へとエレベーターを使って降りていく。
「さっきも言ったけど、一応俺としても良平の意見は尊重したいと思ってる。けど、見てて話しにならなさそうだと思ったらすぐ間に入るからな」
「は、はい! わかりました」
そんなやり取りを交わしている間にエレベーターはあっという間に目的地である一階に着いた。開く扉から俺達はエレベーターを降りる。
なんだか今更緊張してきた。
どんな顔をしてサディークに会えばいいのだろう。まずは謝らないとな、とかそんなことを考えている間にロビーまでやってきた俺。望眼は少し離れたところから様子を見るということで、一旦別れる形になった。
何故そんなことをするのだろうかと疑問に思ったが、望眼曰く「ああいうタイプは第三者がいることを嫌がるからな、お前の横に俺がいたらそもそも現れない可能性もある」とのことだった。まだ直接サディークに会っていないはずなのになんというサディークへの理解の高さなのだろうか、と俺は感動していた。
確かに、そもそもサディークが現れない可能性もあるということなのか。
そんなこんなで、一人俺はエントランスの脇でサディークがやってくるのを待っていた。
流れるように出入りする従業員を確認するが、サディークの姿はまだ見当たらない。
もしかして早く来すぎてしまったのだろうか、と腕時計を確認する。が、時間的には丁度くらいだ。サディークが待ち合わせに遅れるイメージはなかっただけに、なんとなく心配になってくる。
そんな中、端末がメッセージを受信した。サディークからだ。
慌てて確認すれば、「急用が入ったから行けそうにない。またあとで改めて連絡する」という旨の内容だった。
俺は、近くのラウンジでこちらの様子を伺っていた望眼の元へと向かう。
ラウンジの一人掛け用ソファに腰を掛け、缶コーヒーを飲んでいた望眼はやってきた俺から何かを察したようだ。
「サディークのやつ、逃げたか?」
「に、逃げたというか……急用が入ったそうです」
「大体そういうんだよ、逃げる奴は。……しまったな、お前と一緒にいるところどっかで見られたか? ……まあ、仕方ねえか。またあとからでも奴から連絡来るだろうから、そんときは言えよな」
「はい、わかりました」
俺はサディークのことは信じたいのが本音だったが、望眼はそうではないようだ。それほど心配してくれてるのかもしれない、と思うことにした。
俺はサディークに返信し、それからそのまま望眼の仕事について回ることになる。
◆ ◆ ◆
「まあ一旦サディークのことはさておき、一応貴陸さんにも伝えて良平に新しい担当付けてもらうようには伝えてるから」
「すみません、俺のせいでなにからなにまで……」
「あー大丈夫、そんなに気にしなくて。誰しも……は通らねえかもだけど、起きたことは仕方ねえから」
仕事も一段落し、近くの喫茶店で休憩していた俺と望眼。
それにしても、新しい担当か。
いい加減気持ちを切り替えなければならな、なんて考えながら頼んだドーナツを食べていると、ふと望眼がこちらを見ていることに気付いた。「どうしたんですか?」と聞き返したとき、望眼は「あー、いや……」とやや歯切れの悪い返事をする。
「……食ってるところ、可愛いなって思って」
「んぐっ」
思わず噴き出しそうになる。
「も、望眼さん、公私混同はしないって……」
「してねえよ、してねーって! 感想述べるくらいいいだろ? それにほら、今は休憩中だし」
そういう問題なのか。
あまりにも不意打ちだったので顔がぽかぽかと熱くなる。
「俺のマフィンも食うか?」
「だ、大丈夫です……というか、望眼さんがお腹減ったってここ来たんですから、望眼さんも食べないと……」
「……うーん。そのつもりだったんだけどな」
「やっぱ、お腹いっぱいですか?」
「お前が食べさせてくれたら入るかも」
「望眼さん」と思わず声が上擦った。冗談に聞こえない。というか気付けば椅子同士が近い。隣まで椅子を持ってきた望眼に「仕事中ですよ」と小声で手を掴めば、「休憩中だ」とそのまま手を握られる。
「ちょっと、望眼さん……」
「なあ今夜さ、お前用事とかあんのか?」
「え……」
いくら周りに客がいないとは言えどだ。にぎにぎと手を触られ、狼狽える。どう考えても、それの誘いである。
「よ、用事は……今のところは……ない、ですけど」
連日は流石に俺も死ぬ、俺の尻が限界を迎える。そう望眼の手をやんわりと離そうとしたとき、「けど?」と更に迫ってきた望眼に心臓が止まりそうになった。
そんな矢先だった。
「よお、お前らも休憩中か?」
いきなり望眼の背後からにゅっと現れた大柄なスーツの男に俺も望眼もぎょっとする。
顔を上げれば、そこには貴陸とひょろりとしたスーツの男――東風がいた。
「ぁ、ど、どもおはようございます貴陸さん! 東風さん!」
「なんだぁ? お前ら仲良いな、そんなにくっついて座ってたらかえって食いにくいだろ。……あ、同席していいか?」
「は、はい、どうぞ……っ!」
貴陸に尋ねられ、慌てて椅子を離した俺は貴陸たちのために近くの椅子を引っ張ってくる。東風はペコリと頭を下げ、そのまま俺と望眼の間に腰をかけるのだ。
しかし、なんというタイミングだ。
助かった、このままではまた流されそうになっていただけに安堵する。
「そういや東風、お前、良平とは初めましてじゃないか?」
「あー……一回廊下ですれ違いました」
「すれ違いましたって、自己紹介はしてないのかよ」
「まあ、まだっすね」
「おい」と貴陸に小突かれた東風は「急いでたんですよ」と肩を竦める。そして改めてこちらへと向き直る東風。
「どうも、東風です。……さっきは挨拶できなくてごめんね」
「あ、いえ……あっ! 良平です、よろしくお願いします!」
そう猫背を曲げ、軽く頭を下げる東風に釣られて俺も自己紹介をする。
そんな俺に東風は「声でっか」とだけぽつりとつぶやくのだ。
「あ、ご……ごめんなさい」
「いや、別にいいよ。望眼が好きそうな子だね」
どこか眠たげな顔のまま手元の茶色い液体にストローを刺して咥える東風に、丁度マフィンを咀嚼していた望眼が咽る。
「東風さん、その言い方やめてくださいよ」
「や、別にそのままの意味なんだけど……なに?」
「はぁ……こっわ。……まあ確かに良平は可愛いですけど」
も、望眼さん……。
ごにょ、と口籠りながらそっぽ向く望眼の反応があからさますぎて、つい釣られて顔がじんわりと熱くなった。
どう反応していいのか困ってると、「貴陸さんも好きそう」と東風は呟く。瞬間、貴陸は「はは、まあな」と大きく口を開いて笑うのだ。
「良平みたいな弄れもせず真っ直ぐな部下は誰でも可愛いだろ」
「はは、言いそー。俺は普通寄りっすけど、因みに」
「え」
「あー良平気にすんな、東風さん誰にでもこういう人だからな。ちょっとデリカシーないだけで、ほら落ち込まなくていいからな」
あまりにもあっけらかんとした口調で「普通」と言われたことはなかなか衝撃的で、望眼のフォローになんとか自分を保つことができた。
なんというか、独特な雰囲気の人だ。柔らかい口調や態度と見せかけて、実際は掴めないというか。
この人が洗脳の能力持ってるのか……。
でも確かにこの人なら荒っぽいヴィランの人たちものらりくらり躱してしまいそうだ。
「そういや良平とは久しぶりだな。望眼からちょこちょこお前が頑張ってるって話は聞いてたんだが……悪いな、望眼。任せっぱなしで」
「あー別にいいっすよ、俺も助けられてるんで」
「い、いえ……俺の方こそ望眼さんに色々教えていただけて、勉強させてもらってます」
なんだかこんな風に褒められるとムズムズしてきて、耐えられずぺこぺこと頭を下げれば望眼と目があった。
すぐ目を逸らすのも変な気がして、つい見つめ合うような形になったときだ。
「ほーん。随分と仲良くなったんだな、お前ら」
にやにやと笑う貴陸にぎくりとした。
他意はないと分かっていてもだ、酒の勢いとはいえど一線を越えてしまった今冗談に聞こえなかった。
「貴陸さん、やめてくださいよ」
「はは、照れんなよ。なんだ望眼、お前も照れるくらいはするのな」
「……それより、わざわざここに来たってことは俺達に用があったんじゃないんすか」
話題を変えようとする望眼の言葉に、貴陸は笑顔を消した。
ただたまたま貴陸たちも食事にきただけだと思っていただけに、その反応に驚く。
「ああ、まあな」
「ここ出ます?」
「いや、別にこのままでいい。東風もいるしな」
一瞬何を言ってるのかわからなかったが、もし聞かれたら東風の能力を使えばいい、ということか。
なんとなく背筋が伸びる。もしかして俺、邪魔じゃないのかと思って望眼と貴陸へと交互に目を向ければ「お前もそのままでいい」と貴陸が応えた。また心を読まれてたのか。
「お前ら、ハイエナ野郎の噂は知ってるか?」
「あー例の同業者っすよね」
「ああ、そうだな。その件で、今回査察が入ることになった。現在所属している社員全員にな」
貴陸の言葉に、望眼は「うげ」と露骨に面倒臭そうな顔をする。
「あ、あの……査察って……」
「ああ、そうかお前はわからないか。……分かりやすく言えば三者面談みたいなやつだよ。営業と担当と、それから査察官が来るようになってる。今回の場合は、お前の担当も望眼に見てもらうから気にしなくていいぞ」
そう貴陸は笑う。
なるほど、三者面談と聞いたら分かりやすい。
貴陸曰く、近々その査察官なる人がやってくるらしい。
そして営業部はその人たちに協力しなければならない。
なんだかコソコソ調べると考えると確かにそれなりの罪悪感はあったが、このままスパイを野放しにしておくわけにはいけないというのが上の判断らしい。
とは言えど大変なのは望眼や東風などの多くの担当を持つ人たちだ。
蚊帳の外である俺は、なにやら話し込んでる三人の会話を聞きつつ、どんな人が来るのだろうか。なんて考えていた。流石に安生は忙しそうだしな。
「ま、そういうわけだ。くれぐれも口外厳禁だからな。うちの部署に限ってそんなやつは居ねえと思うが、念の為こうして直接伝えて回ってたんだ」
「あーなるほど、そういうことっすか」
「因みに、お前らが一番最初だから。もし今漏らしたら速攻特定するからよろしく」
なんて、さらっと口にする東風にどきっとした。
いや最初からバラすつもりはないが、俺はどうやら顔に出やすいタイプのようなので責任重大だ。
「き、気をつけます……」
項垂れる俺に「よろしく」と東風は口の端を持ち上げるだけの笑みを浮かべた。
望眼の言うとおりだ、この人のことまるでまだ理解できそうにない。
それから、俺は貴陸たちと食事を済ませた。
その日、東風が能力を使うところを見るなんてことはなかったが、やはり気をつけなければ。
そんなことばかりを考えながら食事をしていたおかげで、後半ご飯の味がしなかったのは言うまでもない。
――本社前、喫茶店前道路。
相変わらず夜が開けることはないこの街だが、人工的な灯りはたくさんあるために常にギラギラと眩い。
そして時間的には夕方頃だろう。これから仕事へと向かうヴィランたちや夜行性のヴィランたちがそろそろ動き出す時間帯だ。
ちらほらと朝方では見ないタイプのおっかないヴィランたちも増えてきた。
「じゃあ、これから貴陸さんたちは他の奴らのところに行くんすね」
「ああ、ここからが長丁場だろうからな」
そう肩を慣らす貴陸。そんなに大変なのだろうか。「どこかに出張されてるとかですか?」と尋ねれば、「当たらずも遠からず、だな」と貴陸は快活に笑った。
「中には今どこにいるのか分からねえ社員もいるしな」
「えっ、それは……」
「重要任務で出張中の社員のサポートで付き添いに行ってるやつもいるんだ、うちの部署には」
そんなこともしなければならないのか、と驚き固まる俺に、貴陸は「まあそいつが大分特殊なだけでもあるがな」と付け足した。
「少なくとも良平は本拠点はこの本社になるだろうな」
「あ、そうなんですね……」
「なんだ、がっかりしたか?」
「い、いえ! とんでもないです!」
「はは、良平といいお前らといい本社が大好きだからな」
「現地はおっかなすぎて嫌ですもん、普通に」
そう答えたのは東風だった。隣で望眼は大きく頷いている。
やはり、ヴィランの人たちと言えど皆が皆好戦的というわけではないらしい。俺と同じ考えの人がいて、安心した。
「じゃ、またな」
「はーい」
「はい、お疲れ様でした!」
「おお、良平はいい返事だな。いいぞ、そのまま真っ直ぐすくすと育ってくれよな」
「わ、わわ……」
大きくて、岩のような硬い手のひらで頭をわしわしと撫でられついふらつく俺。
「おおっと。悪い、お前望眼よりも小さかったな」
「い、いえ……すみません、体幹鍛えてきます」
「その調子だ、頑張れよ」
「はい……っ!」
なんだろう。貴陸に褒められるとなんだか父親に褒められたような気分になる。
両親や兄以外の人にこうして期待してもらえるのは素直に嬉しかった。
頑張らなければ、と拳を握り締め漲る俺。そんな俺に笑う貴陸だったが、ふとなにかを思い出したように「ああそうだった」と手を叩く。
「なあ、良平」
「は、はい」
「お前、サディークと揉めたんだってな。望眼から聞いたぞ」
単刀直入に切り込まれ、俺はなにも言えなかった。
怒られるのではないか、と怯えていたが、貴陸の態度は先程とあまり変わりない。顎を指先で擦り、その口元には少し含んだ笑みを浮かべていた。
「す、すみません……俺……っ」
「あー別に怒ってるわけじゃねえんだ。まあ最初はそんなもんだ。次に丁度良さそうなやつ、こっちでまた見繕っておく。多分、明日の朝までには端末の方にデータ送っておくからな」
「わ、わかりました……」
「望眼、やつのこと頼んだぞ」
「了解でーす」
土下座する準備もできていたのだが、許されてしまった。
けど流石に望眼に引き継ぎをするまではちゃんとしなければ、と改めて気を引き締める。
そしてこのまま他の営業部の社員に会いに行くという貴陸と東風を見送り、そして再び店の前には俺と望眼の二人きりになった。
「……はあ、なんか随分と賑やかな休憩になったな」
「確かにそうですね。……けど、東風さんに改めて挨拶できてよかったです。それに、貴陸さんにも……」
「そうだな。まー、東風さんのデリカシーのなさは誰にでもって感じだから気にすんなよ」
「はい、大丈夫です。……不思議な方でした、柔らかいナイフみたいな……」
改めて東風の印象を告げれば、望眼は吹き出す。そして「だろ?」と目を細めて笑った。
「ま、あの人たちのことはいーんだわ。……なあ良平、さっきの話の続きだけど」
「はい? ……あっ」
聞き返そうかと望眼を見上げたとき、俺は貴陸たちがやってくる直前のやり取りを思い出した。
――すっかり忘れていた。
ああ、そういえばそんな話をしていたら貴陸たちがやってきてなあななになってしまったのだった。
思い出し、今さらになって顔が熱くなった。
「ええと、あの、望眼さん……」
「あー、やっぱ待ってくれ」
どうしたらいいのだろうかと必死に言葉を探していると、望眼の方からストップが入る。
どうしたのだろうかと顔を上げれば、冷や汗を滲ませた望眼がいた。
「もしかして、お前……今朝のあれは社交辞令的なやつだったりするのか?」
「え?」
「だって、さっきも貴陸さんたちがやってきてほっとした顔してたし……もしかして、俺に合わせて仕方なく合わせているとか……」
見る見るうちに望眼の顔が青ざめていくのを見て、慌てて俺は「そんなことはありません!」と否定を口にする。
「良平……」
「確かに成り行きはちょっと望眼さんに流されたところもありますけど、その、嫌だったら『やめてください』ってちゃんと言いますし、それに……気持ち良かったのは本当なので……!」
「よ、良平……気持ちは伝わったが公道で叫ぶのはちょっとやめておいた方がいいかもな」
「あ……っ! す、すみません……!」
望眼にあらぬ誤解をさせたくないという気持ちが前に出すぎてしまったようだ。
そしてちゃんとそれは望眼にも伝わったらしく、少し気恥ずかしそうな顔をした望眼は「それならよかったけど」と安心したように息を吐いた。
やはり望眼は優しい。俺のこともちゃんと考えてくれているのだ。
それならば、と俺は決心する。
「けど、その……」
あのですね、とこっそりと声を潜めて望眼に近づけば、また不安そうな顔をした望眼は「やっぱりなんかあんのか?」と身構える。
「あ、違うんです。……その、俺、あんまり体力ある方ではないので、その……連日はちょっと、ど……どうにかなっちゃうんじゃないかって……」
何を言ってるのだ、俺は。
言いながら語尾は萎んでいき、全身の血液が顔面へと集中していく。顔がポカポカしてきた。
そんな俺にぽかんと口を開く望眼だったが、それも一瞬。俺が言わんとしたことに気付いた望眼は「あー……」と顔を掌で覆う。
「わ、悪かった……それは」
「い、いえ……」
「悪いついでで申し訳ないんだが、今の……ちょっとキた」
「……へ?」
その言葉に釣られて視線を下げた俺は慌てて顔を逸らす。
「も、望眼さん! ここ外ですよ?! 何考えてるんですか?!」
「わかってる、みなまで言うなって! 大体、今のは不可抗力だろ」
「望眼さんって……」
「お……おい、なんだよその目は……」
俺も男なので望眼の気持ちも分からないわけではないが、それにしてもどこでスイッチが入るというのか。脱いだ上着で前を隠す望眼を見ていると流石に申し訳ない気持ちになってきた。
仮にも、お世話になっている先輩だしな。
「……わかりました」
決心する俺に、望眼は「良平?」とこちらを見下ろしてくる。
――責任は、取らなければならない。
「一晩中、は難しいですけど……少しだけなら」
お手伝いします、と俺は周りから見えないように望眼にそっと体を寄せた。
それに、このままでは他の社員に顔出しすることも難しいだろう。上着で隠された下腹部、その下で張り詰めた下腹部をそっと撫でれば、目の前の望眼の喉から唾を飲み込む音を聞いた。
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