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CASE.02『処世術』
01※【ほろ酔い巨根フェラ】
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このヴィラン派遣会社に拉致監禁されて数日経った頃。
ずっと一緒だったナハトが仕事の関係で数日このタワーからいなくなり、ナハトの代わりにノクシャスが俺の見張りになったのだけど……。
「……」
「……」
き、気まずい……。
朝飯でも取ろうと思ったのだが、そもそもこの人おっかなさすぎて怖いのだ。初めて会ったときも人のことをサンドバッグだとかなんだとか言ってたし……。
社員食堂にて。
魔人も人間もモンスターも様々な種族が所属しているこの会社の食堂では提供される料理もニーズに合わせている。
というか、こうやってモンスターが人を襲っていること以外のことをしてるのを見るのは初めてかもしれない。
地上で見かけるモンスターはというと大抵見境なく人を襲ったりするのものだ。最初はそう思って怯えてたが、ノクシャスが俺は新しい社員だと説明すると「よろしくな」とそれぞれ人懐っこく挨拶してくるくらいだ。
でもそうか、皆生きるために人を襲ってたのか……っていやいや、駄目だろう。なにを絆されそうになってるのだ、俺は。
そう一人でぶんぶんと頭を振ってると、「おい」とノクシャスに声をかけられる。
「……は、はい……っ!」
「手え止まってんぞ。もう腹いっぱいなのか?」
「い、いえ……その、考え事しててつい……」
「考え事だぁ? 飯食ってるときに余計なこと考えてんじゃねえぞ、モルグみてーなやつだな」
「……も、モルグさんもそうなんですか……?」
「あいつは二十四時間研究のことしか考えてねえ研究馬鹿だからな、お前はああなるなよ。……ま、ナハトみてーに何も考えねえようになってもよくねえけどな」
そうノクシャスは唇の端を持ち上げ、ニヒルな笑みを浮かべる。尖った鋭い歯が覗き、無意識のうちにドキッとした。
ノクシャスは地上でも悪い意味での有名人だ。ナハトが静ならノクシャスは動だろう。チンピラのような仲間たちを引き連れていることが多いが、一人でも複数のヒーロー相手に圧勝してしまうほどの腕っぷしだ。戦闘時のノクシャスの中継映像や動画は何度も見たことがある。
けれど、今目の前にいるノクシャスはラフな私服の姿だ。いつもの厳しい戦闘スーツでもなければ、思いの外笑ったときの笑顔は人良さげに見えるのだからよくわからない。
「仲、良いんですね……」
「別によかねえよ、普通だ普通。仕事仲間だからな」
「……そうなんですか」
ああ、とだけ言い返せばノクシャスはガツガツと何枚ものステーキ肉が重ねられたどんぶりを大口開いたそこへ掻き込んでいく。
豪快だなあ……なんて思いながらその様を眺め、俺もそれを真似するように目の前の定食を掻き込もうとして噎せてしまう。「おいおい、なにやってんだ」と呆れるノクシャスに背中をばしばし叩かれるが、背骨が折れるかと思った。
ノクシャスはどうやら案外面倒見がいいようだ。
慎重派で、面倒臭いだの暇だの言いながらも二十四時間張り付いていたナハトとは対象的に「部屋から出ていくときは俺を呼べよ」と連絡先だけ交換し、俺を部屋まで送り届けたノクシャスはそのまま仲間たちとともにどっか行ってしまった。
俺は正直ほっとしていた。ナハトとのこともあったからだ。ノクシャスにまでトイレまで入って来られたらと思うと気が気でなかった。
俺は戸締まりを確認し、部屋へと閉じこもろうとしたとき。
ふと、テーブルの上に今朝まではなかったはずの封筒が置かれていた。いきなり封筒開いて爆発するなんてことはないだろうが、なんとなく怖くなる。念の為ノクシャスを呼んだ方がいいのだろうか、でもなんか仲間のひとたちと楽しそうだったしな……。
まあ、この施設はセキュリティも万全だと言ってたし不届き者の仕業ということはないだろう。そんなことを思いながら封筒に手を伸ばせば、そこには文字が浮かび上がる。
『善家良平殿』――やはり俺宛のようだ。
裏面と念の為確認すれば、そこにも同様文字が浮かび上がる。
『安生』――安生さんから?
何故わざわざ手紙なんて、と思いながらも、知っている人間からの手紙だと分かり安堵した。
そして俺は封を切り、中を確認する。どうやら俺にしか読めない仕組みになっていたようだ、真っ白だった紙には次々と書き殴られたような文字が浮かび上がるのだ。
『手紙からで失礼するよ。君には慣れない生活を送ってもらってるわけだけど、どうだろうか。そろそろ慣れた頃かな?』
「全然慣れませんよ、こんなの……」
『突然だけど、君の履歴書の写しをもらったから原本の方は返そうと思ってね。同封してるから保管しててね。あと、君が心配してる給料のことだけど安心して。君にはボス直々に特殊な依頼が送られるから、君はそれに答えれば他の社員同様給与を与えることになってるんだ。それについてはまた私どもの方から直接お伺いしますのでどうかよろしくお願いしますね』
安生からの手紙も読み終わり、封筒の中を確認すれば確かに履歴書が入っていた。
ボス直々の依頼ってなんなんだ。そもそも、ボスは何故俺の履歴書を入手しているのか。聞きたいことはたくさんあったが、不安の方が大きくなる。俺は封筒をテーブルの上にぽいっと置き、そのままベッドへと飛び込んだ。
何者なんだ、ボスって。
あの三人と安生を従えるその上に立つ人物。……今度、ノクシャスにでも聞いてみようかな……。
そんなことを考えながら目を閉じた。
どれほど経った頃だろうか。ドンドンと叩かれる扉に飛び起きた俺はそのまま扉を開ける。
そこには、頭二個分高い影があった。
「の、ノクシャスさん……?」
「よお、おねんね中だったか?」
「あ、はい……少し昼寝をしてて……」
「ハッ、そんなんじゃ腐っちまうぞ。おい、ちょっと付き合えよ」
「え、ええ……?」
そう馴れ馴れしく肩を抱いてくるその逞しい腕はがっちりと俺をホールドして逃さない。少しでも力を入れられたら肩の骨を砕かれるのではないか、そんな恐怖のまま断りきれず俺は渋々ノクシャスに付き合うこととなる。
「ノクシャスさん、もしかしてお酒飲んでます……?」
「おう、お前も飲むか?」
「い、いえ……俺は……その、弱いので……」
「ああ? つまんねえこと言ってんじゃねえよ」
「……あの、それよりも付き合うっていうのは……」
どういうことでしょうか、と言いかけたとき、いいからいいからと背中を押される。そのまま強引に人の部屋へと入ってきたノクシャスはそのまま俺を引きずるようにドスドスとソファーに座った。
それから間もなくして、ノクシャスの部下らしき男が部屋に次々と酒や料理を運び込んでくるのだ。
「あ、あのノクシャスさん?! こ、これはどういう……」
「俺からの祝だ祝、クソみてえな世界に乾杯とお前がここに来てから四日目記念だ」
それはノクシャスがただ酒を飲みたいだけではないのか……?
思いながらも突っ込んだら噛みつかれてしまいそうで怖かった。俺はただどんどん料理で埋め尽くされるテーブルをあ然と見守ることしかできなかった。
そしてようやく酒や料理を担ぎ込まれたあと、部屋の中には食欲を唆る匂いが充満していた。
「ノクシャスさん、お腹減ってたんですか? ……朝もたくさん食べてたのに……」
「俺は食っても食っても腹減る体質なんだよ。……力の消費量が馬鹿みてえに速えからその分補給しなきゃなんねえの、そんなやつは別に珍しくねえだろ」
「……そ、そうなんですか……?」
「ああ、そうだよ。お前は食わなさ過ぎだ。今朝だって焼き魚一切れしか食ってねえし、よくそんな体でヴィランになろうなんて思ってたな」
「は、はは」
本当になりたかったのはヒーローだけど。
ヴィランの頭も頭のこの人にそれを言ったらどんな反応されるか考えるだけでも恐ろしい。冷える肝を紛らわすように、俺はグラスに注がれた酒を飲んだ。そして、話題を変えようと探る。
「ノクシャスさんに比べたら、そりゃまあ……誰だって貧相に見えますよ」
そう、ピザ数枚を重ねて丸めてそのまま一口。鋭い歯で咀嚼するノクシャスに思わず内心ぎょっとする。ピザソースで汚れた指を舐め、ノクシャスは「そうかあ?」と自分の着ていたシャツの腹部を捲るのだ。
今ここにピザ数枚が消えたわけだが……すごいな。やはりそもそもの筋肉量が違う。興味が湧き、つい俺は前のめりになってノクシャスの腹部を覗く。
「まあそうだな、お前に比べたら」
「やっぱり日頃から鍛えてるんですか?」
「そりゃあな、スーツの強度上げるにも素体がねえとすぐ駄目になるからな」
「ほら、触ってみるか?」と言われ、ぎょっとする。いや、そうだ。触るくらいなら別におかしなことではない。それに、同じ男として純粋に憧れのようなものもあった。……ヴィラン分かっててもだ、俺がこういう体になりたいと目指していたものが目の前にあるのだ。
失礼します、と恐る恐る体勢を変え、ノクシャスの腹部に手を伸ばす。
柔らかい、と思ったが少しでも指を埋め込もうとしようものなら鋼のような筋肉がそれを拒む。勢いよく指してたら指先を骨折してたに違いない。思いながらも、俺は恐る恐るその腹筋の凹凸をなぞる。
「かった……っ、すごいですね、やっぱり……同じ体とは思えないです……っ!」
「っふ……くく、はは……っ! おい、くすぐってえ触り方するなお前」
「うーん……やっぱり俺のと全然違いますね……俺も、ここのジムで鍛えたら変わりますかね」
「……ああ、そうだな。一番いいのはモルグにトレーニングメニュー組ませるといいぞ、あいつはそういうのが好きだからな」
モルグさんか……。
あの人、なんだか得体が知れないからまだ少し怖いんだよな。
思いながらぺたぺたとノクシャスの腹部を撫でていると、ふと伸びてきた大きな手に腰を掴まれる。
そしてそのままぺろんとシャツを胸までたくしあげられ、息を飲んだ。
「ぁ……っ、ん、……ノクシャスさん……っ」
「そういうお前は見れば見るほど可哀想な体だな。……ほっせえ、細すぎんだろ。こんなの抱かれたら折れるんじゃねえのか?」
「……っ、そ、そんなに……でしょうか……?」
「ああ、そんなにだ」
大きくて分厚い掌が、俺の腰から腹部を撫でる。そのままゆっくりと胸元にまで登ってくる感触にぎょっとし、こそばゆさに身動ぐが、スーツなしとはいえどノクシャスの力に叶うはずもなかった。
「っ、は、ぁ……お、俺……」
俺もノクシャスにベタベタ触ったのだ。だから、触り返されてるだけなのだ。別に筋肉の触りあいなどよくある、戯れてるだけだ。そうわかってるのに、酒のせいもあってか段々ノクシャスに触れられてる箇所が熱く痺れ始めてることに気づき、焦り始める。
なんだか雰囲気もおかしい。話題を変えないと、と思うが、胸筋の膨らみをぐっと絞るように乳首を引っ張られた瞬間、びくんと体が震えた。
痛みや衝撃もあった、それ以上に。
「っ、の、ノクシャスさん……っ?」
「……」
「っ、ぁ、っ、ん、ちょっと……ノクシャスさ……ッ! ん、ぅ……ッ!」
なんで無言なんだ、せめて何か言ってくれ。
明らかにただの触りあいではない触れ方をしてくるノクシャスに恐ろしくなって、必死にその腕から逃れようとするが、掴まれたままの乳首を捏ねられれば「んっ」と声が漏れてしまう。
「っ、あ、あの、そこは……ぁ……っ」
もう片方の胸もぐにぐにと押し潰され、絞られる。痛いのに刺さるような刺激のあとにやってくるジンジンとした甘い刺激に頭の奥がぼうっと熱くなり、抵抗することも忘れ俺は背後のノクシャスにもたれかかった。
臀部、腰の辺りに硬く芯をもったものが当たる。
「なあ、良平。鍛えてんのはこっちだけじゃねえんだけど……見てみるか?」
ごり、と寝間着代わりの薄手のスウェットの下。尻の谷間をなぞるように押し付けられるそれがなんなのか考えるだけでも戦いた。
ノクシャスの目も据わってる。食べ物の匂いと酒の匂いで篭もった部屋の中、明らかにおかしな空気も混ざっていた。
酒のせいなのだ、なにもかも。腰を揺らし、押し付けるように尻へと擦られればなにも考えられなかった。
「……は、い……っ」
これも、この地下帝国で生き抜くための処世術なのだ。……そう自分に言い聞かせる他ない。
とは言ったもののだ。
「っ、は、ぁ……ッ」
我ながらとんでもない状況になっているという自覚はあった。あったけど、それ以上に熱とアルコールで頭がふわふわして深刻に捉えることはできなかった。
ノクシャスの膝の間に腰を降ろし、俺はその目の前の膨らみを見詰めた。ゴツゴツしたノクシャスの指がベルトと前を寛げた瞬間、勢いよく飛び出してきた性器が頬に当たる。「わっ」と驚いて声を上げれば、ノクシャスが愉快そうに笑った。
「っ、す、ご……ッ」
思わず声に出てしまった。なにを食ったらここまででかくなるのかとも思ったが。元々大柄なノクシャスの性器だ。その体格に劣らずバキバキに筋を浮かべて勃起した性器はあまりにも俺の股間についているものとかけ離れており、目を逸らすことができなかった。熱もすごい、硬さもだ。鼻の穴に広がる雄の匂いに更に頭の奥が痺れていくようだった。
ノクシャスは顔もかっこいいし、きっとこれで何人もの女の人を相手にしてきたのだろう。それでも子供の腕ほどあるのではないかと思えるほど、ノクシャスのそれは太さ長さともに挿入するにはあまりにも凶器に等しく思えた。
正面から裏筋、じっくりと眺めていると吐息に反応したのかぴくぴくとノクシャスの性器が脈打つ。
「おい、良平近すぎないか? お前そのまましゃぶる気かよ」
「っ、へ、あ、いやその……ッ」
「……なあ、せっかくだししゃぶってみるか?」
ノクシャスの手が頬に触れる。そのまま拳ほどある亀頭を唇に押し付けられた瞬間、より生々しい匂いと熱に全身が震えた。
ちゅぷ、と尿道口から垂れる先走りが唇へと触れ、粘着質な音を立てる。
ノクシャスも酔ってるのだろう。ならば、お互いに気持ちがいいうちに穏便に済ませるのが最善ではないのか。いやそもそも最善ってなんだ。なんで俺は唇にちんこ押し付けられてるのか。
「じゃ……じゃあ、少しだけ……」
処世術。
男同士触り合いくらいするし、勃起したらしゃぶらせたりもする。……かもしれない。
ノクシャスに言われるがまま口を開き、亀頭にちろりと舌を伸ばす。最初からこれを口の中へ入れることは無理だと分かっていた。顎が外れる。
だからちろちろと亀頭やカリのところ、竿へと拙い動きで舐めるのが精一杯だった。
不思議と嫌悪感はなかった。舌の上でびくびくと跳ねるのが別の生き物みたいに思えて、更に大きくなるそれに畏怖すらも覚える。
「……っ、お前、本当舌ちっせえのな」
「っ、ん、ぅ……ら、っへ……ノクシャスさんのが、大きくて……っん、ぅ゛……ッ」
なるべく音を立てないようにするものの、唾液 と先端から滴る先走りが混ざる度にじゅぶ、と口の中で泡立つ。美味しい、と思うことはないが、それでもその独特の味が濃くなるほどノクシャスが気持ちよくなってくれてるのだと思えて嬉しかった。
無我夢中でノクシャスに奉仕する。自然と四つん這いになるような格好になってしまい、それでもノクシャスの内股に手を置き、顔の角度を変えて舌を突き出して側面をなめるのだ。
ノクシャスはワイングラスを手に、そんな俺を肴に飯を食べていた。
「……おい、良平お前こういうことしたことあんのか?」
「え? ……あ、あるわけ……ないです、初めてです……そんなこと」
「……まじか、お前……っすげえな」
呆れたような、愉快そうな、そんな声だった。頭をくしゃりと撫でられると嬉しくなってしまう。
昔からあまり人にこうして褒められることがなかったから――いや、あった。あったが、それも随分と昔の記憶だ。もっとノクシャスに褒めてもらい。
「おい……裏側もちゃんと舐めろ。玉の方までねっとり唾液絡めるんだよ」
「っ、ふぁい……っ」
ノクシャスに言われるがまま、竿を掴む。片手では指が回らないほどの太いそれを掴んだまま、俺は口の中の唾液を絡めた舌で裏側の太い一本の筋に根本から亀頭めがけてれろぉっと舌を這わせた。ノクシャスが僅かに息を漏らす。
ノクシャスはここを舐められるのが好きなのだろうか。俺は今度は唇で吸い付き、そのままちろちろと舌を這わせた。
「っん、ふ……ぅ……ッ」
「……っは、良平……お前、上手いな」
「ん……ッ、ぁ、ありぁとう……ございまふ……ッ」
突き出したままになっていた尻撫でられ、そのまま尻の肉をぐにっと掴まれると下腹部の奥が疼いた。集中しろ、俺。そう必死に目の前の男性器にしがみつきながら俺は忙しなく舌を動かした。
「っ、ん」
「あー……っ、くそ、挿れてぇな」
「っ、ぅ、んぶ、ふ……ーッ」
いたずらにスラックスの中に手を突っ込んできたノクシャスは下着の上から尻の谷間の奥、肛門をすりすりと撫でてくる。こんなものを挿れられてみろ、流石に俺の体も壊れてしまう。けれど、そんな想像をしてより熱くなる自分の下腹部になにも考えられなかった。
ノクシャスに尻を揉まれながらも、俺は唾液と先走りで赤黒く濡れた性器を両手で握る。手が汚れようが、もうどうだってよかった。亀頭をぱくりと咥え、舌で尿道口に残った先走りを啜りながらノクシャスの性器を刺激した。
「っ、ああ、そうだ……良平、喉も使えよ」
「っふ、ッ、ぅ゛ん゛んッ」
言われるがまま、頭を動かし、限界までノクシャスの性器を咥えようとするがやはり亀頭の半分が限界だった。それでもノクシャスを満足させられるように、言われるがまま舌を絡ませながら喉を締め付けて愛撫する。
手の中の性器がどくんどくんと脈打つのを聞きながら、俺は更に追い打ちをかけた。
「……ッ、く、……ッ!!」
唇を窄め、思いっきり吸い上げたときだった。口の中でそれは大きく跳ねる。瞬間、あまりの勢いについ口から性器が外れた。
あっと、思った次の瞬間、どろりとした大量の液体が顔面に降り注ぐのだ。
「っ、は、ぁ……ッ」
熱い。つか、この匂い。顔射されたのだとわかり、恐る恐る顔を汚す精子に触れる。濃い白濁のそれはどろりと頬から顎まで、落ちていく。
そんな俺の顔を見て「悪ィな」とノクシャスは無骨な指先で拭った。そして。
「……良平、お前、素質あんぞ」
「……ぁ、ありがとう……ございます……」
わしわしと撫でられる。けど、まだノクシャスの性器は上を向いたままだ。
こんなに出したのに、まだ出るのか……?
ちらりと視線を向け、息を飲んだときだった。
「……何してんの?」
テーブルの横、いつの間にかそこには黒ずくめの仮面の男が立っていた。――ナハトだ。
「っ、げ、ナハト……っ! お前、暫く任務で帰ってこねえって話じゃ……」
「別に、早く仕事が済んだだけ。……それよりも俺が居ることにも気付かず夢中になるほどってよっぽどだね、ノクシャス。……だからお前、禁酒令出されてたんだよ」
「はあ……クソ萎えた」
顔色一つ変えるわけでもなく、いつものことかという調子で続けるナハトにノクシャスも恥じるわけではなく寧ろどうどうとそんなことを言う。すごい、本当に一瞬にして萎えてる。
もぐもぐと残っていたピザを食べていたナハトだったが、そのまま布巾で手を拭うとじろりとこちらを向いた。仮面越しでも分かる、絶対零度の視線だ。
「な、ナハトさんこれは……っ」
「イカ臭い口で喋らないで。……お前はこっち」
そう首根っこを掴まれ、ナハトに引きずられてやってきたのは洗面台だ。
洗面台の前。頭をいきなり押さえつけられたと思えば、いきなり蛇口から溢れ出す水に溺れる。
「あ、あの……ッぉぶっ!」
そして、問答無用で顔の精液を洗い流される。そのまま口をこじ開けられたかと思えば、ナハトは容赦なく咥内へと指をねじ込み、口の中も直接洗い流そうとしてくるのだ。
「ぉごっ! ぼご……っ!」
「お前、男相手だったら見境ないんだ? ……よりによってあんな筋肉ダルマのチンポしゃぶって喜んでるなんて、本当恥ずかしくないの?」
「っ、ぅ、ご……っ、ごぼ……ッ!」
「……はあ」
鼻や器官に水が入らないようにしてくれているようだが、溺れないように必死になっていたお陰でナハトの言葉は聞き取れなかった。それでも、恐らく罵倒されていたのだかはわかった。
そしてようやく洗い流し終えたとき、前髪や着ていたシャツまでもびしょびしょになっていた。
ぜえぜえと虫の息の俺の顔にタオルを押し付け、そのままがしがしと拭いてくるのだ。
「っ、もご!」
「……本当、無防備過ぎて腹立つ」
そう舌打ちし、ナハトは俺からタオルを外した。そしてそのまま俺の頭に被せるのだ。髪を拭けということなのか。
「っは、……ぅ、ナハトさ……っ」
「……ノクシャス、あいつは脳味噌筋肉馬鹿のお人好しだけど、今度から二人きりで酒飲むなよ。……酔ってるときのアイツ、下半身まで馬鹿になるから」
「っは、ひ……」
「……はあ、本当……面倒臭……」
そう吐き捨て、背中を丸めたまま部屋へと戻ろうとしていたナハトを咄嗟に呼び止める。ナハトさん、と情けなく声が上擦ってしまったが、ナハトの耳にはしっかり届いていたようだ。
「なに」
「ぁ、ありがとう……ございました……」
「……煩い」
なんだか俺、ナハトには怒られてばかりだ。
というか当たり前だ、冷水浴びたおかげで段々酔が醒めてきたが普通に考えてあんな場面をナハトに見られたのだ。前回に引き続き、やつにとって俺は変態かなにかと思われてるに違いない。
暫く恥ずかしさのあまりどんな顔をしてナハトやノクシャスの元に戻ればいいのか分からず蹲ってることとなる。
そして数分後。
部屋に戻ると料理や酒は片付けられたあとだった。そしてノクシャスも帰ったらしい。
いつもと変わらない簡素の部屋の中、ソファーの上には我が物顔で座るナハトがいた。
やばい、こうして一対一になると緊張してしまう。またチクチク言われないだろうか。タオルを両端を掴み、深くかぶって顔を隠そうとしてると「なにやってんの」と冷ややかな声が飛んでくる。
「う……そ、その……色々ご迷惑をおかけしました……」
「もうそれ飽きた。……それより、こっち来て」
そう、自分の隣をばしばしと叩くナハト。
人に近付かれることを嫌いそうな気配すらあるのに、思いの外距離の近いナハトに色々思い出してきてまた別の緊張してくる。もたもたしてると「早く」と促され、俺は慌ててソファに座った。そして。
「……これ、お土産」
そう、ナハトが紙袋を取り出した。俺でも見たことある、地上にある電化製品店の袋だ。中を覗けばそこには新品の携帯ゲーム機が箱ごと入っていた。
「あの、これって……ナハトさんがいつもしてる……」
「退屈しのぎ。……他の男のチンポしゃぶる暇あるなら少しでも鍛えなよ。……そうすれば、俺も少しくらい退屈しのぎになるだろうから」
「あ、ありがとうございます……っ!」
「……声でか」
「あっ、ご、ごめんなさ……」
慌てて口を抑えれば、ぷいっと他所を向いたナハトは深く溜め息を吐く。またなにか言われる、そう身構えていたのだが。
「…………まあ、別にいいけど」
そう、辛うじて聞こえてくるほどの声量で呟くナハトに胸の奥に暖かいものが溢れ出す。
けど、またありがとうございますなんて言ったら詰られるだろう。俺は喜びを胸に押し込め、紙袋を抱き抱えた。
ヴィランは悪人だと思っていたのに、段々常識というものが分からなくなってくる。
やっぱり、悪い人ではないのかもしれない……。
そんなふうに思ってしまう俺も、既に染まっているということなのだろうか。
ずっと一緒だったナハトが仕事の関係で数日このタワーからいなくなり、ナハトの代わりにノクシャスが俺の見張りになったのだけど……。
「……」
「……」
き、気まずい……。
朝飯でも取ろうと思ったのだが、そもそもこの人おっかなさすぎて怖いのだ。初めて会ったときも人のことをサンドバッグだとかなんだとか言ってたし……。
社員食堂にて。
魔人も人間もモンスターも様々な種族が所属しているこの会社の食堂では提供される料理もニーズに合わせている。
というか、こうやってモンスターが人を襲っていること以外のことをしてるのを見るのは初めてかもしれない。
地上で見かけるモンスターはというと大抵見境なく人を襲ったりするのものだ。最初はそう思って怯えてたが、ノクシャスが俺は新しい社員だと説明すると「よろしくな」とそれぞれ人懐っこく挨拶してくるくらいだ。
でもそうか、皆生きるために人を襲ってたのか……っていやいや、駄目だろう。なにを絆されそうになってるのだ、俺は。
そう一人でぶんぶんと頭を振ってると、「おい」とノクシャスに声をかけられる。
「……は、はい……っ!」
「手え止まってんぞ。もう腹いっぱいなのか?」
「い、いえ……その、考え事しててつい……」
「考え事だぁ? 飯食ってるときに余計なこと考えてんじゃねえぞ、モルグみてーなやつだな」
「……も、モルグさんもそうなんですか……?」
「あいつは二十四時間研究のことしか考えてねえ研究馬鹿だからな、お前はああなるなよ。……ま、ナハトみてーに何も考えねえようになってもよくねえけどな」
そうノクシャスは唇の端を持ち上げ、ニヒルな笑みを浮かべる。尖った鋭い歯が覗き、無意識のうちにドキッとした。
ノクシャスは地上でも悪い意味での有名人だ。ナハトが静ならノクシャスは動だろう。チンピラのような仲間たちを引き連れていることが多いが、一人でも複数のヒーロー相手に圧勝してしまうほどの腕っぷしだ。戦闘時のノクシャスの中継映像や動画は何度も見たことがある。
けれど、今目の前にいるノクシャスはラフな私服の姿だ。いつもの厳しい戦闘スーツでもなければ、思いの外笑ったときの笑顔は人良さげに見えるのだからよくわからない。
「仲、良いんですね……」
「別によかねえよ、普通だ普通。仕事仲間だからな」
「……そうなんですか」
ああ、とだけ言い返せばノクシャスはガツガツと何枚ものステーキ肉が重ねられたどんぶりを大口開いたそこへ掻き込んでいく。
豪快だなあ……なんて思いながらその様を眺め、俺もそれを真似するように目の前の定食を掻き込もうとして噎せてしまう。「おいおい、なにやってんだ」と呆れるノクシャスに背中をばしばし叩かれるが、背骨が折れるかと思った。
ノクシャスはどうやら案外面倒見がいいようだ。
慎重派で、面倒臭いだの暇だの言いながらも二十四時間張り付いていたナハトとは対象的に「部屋から出ていくときは俺を呼べよ」と連絡先だけ交換し、俺を部屋まで送り届けたノクシャスはそのまま仲間たちとともにどっか行ってしまった。
俺は正直ほっとしていた。ナハトとのこともあったからだ。ノクシャスにまでトイレまで入って来られたらと思うと気が気でなかった。
俺は戸締まりを確認し、部屋へと閉じこもろうとしたとき。
ふと、テーブルの上に今朝まではなかったはずの封筒が置かれていた。いきなり封筒開いて爆発するなんてことはないだろうが、なんとなく怖くなる。念の為ノクシャスを呼んだ方がいいのだろうか、でもなんか仲間のひとたちと楽しそうだったしな……。
まあ、この施設はセキュリティも万全だと言ってたし不届き者の仕業ということはないだろう。そんなことを思いながら封筒に手を伸ばせば、そこには文字が浮かび上がる。
『善家良平殿』――やはり俺宛のようだ。
裏面と念の為確認すれば、そこにも同様文字が浮かび上がる。
『安生』――安生さんから?
何故わざわざ手紙なんて、と思いながらも、知っている人間からの手紙だと分かり安堵した。
そして俺は封を切り、中を確認する。どうやら俺にしか読めない仕組みになっていたようだ、真っ白だった紙には次々と書き殴られたような文字が浮かび上がるのだ。
『手紙からで失礼するよ。君には慣れない生活を送ってもらってるわけだけど、どうだろうか。そろそろ慣れた頃かな?』
「全然慣れませんよ、こんなの……」
『突然だけど、君の履歴書の写しをもらったから原本の方は返そうと思ってね。同封してるから保管しててね。あと、君が心配してる給料のことだけど安心して。君にはボス直々に特殊な依頼が送られるから、君はそれに答えれば他の社員同様給与を与えることになってるんだ。それについてはまた私どもの方から直接お伺いしますのでどうかよろしくお願いしますね』
安生からの手紙も読み終わり、封筒の中を確認すれば確かに履歴書が入っていた。
ボス直々の依頼ってなんなんだ。そもそも、ボスは何故俺の履歴書を入手しているのか。聞きたいことはたくさんあったが、不安の方が大きくなる。俺は封筒をテーブルの上にぽいっと置き、そのままベッドへと飛び込んだ。
何者なんだ、ボスって。
あの三人と安生を従えるその上に立つ人物。……今度、ノクシャスにでも聞いてみようかな……。
そんなことを考えながら目を閉じた。
どれほど経った頃だろうか。ドンドンと叩かれる扉に飛び起きた俺はそのまま扉を開ける。
そこには、頭二個分高い影があった。
「の、ノクシャスさん……?」
「よお、おねんね中だったか?」
「あ、はい……少し昼寝をしてて……」
「ハッ、そんなんじゃ腐っちまうぞ。おい、ちょっと付き合えよ」
「え、ええ……?」
そう馴れ馴れしく肩を抱いてくるその逞しい腕はがっちりと俺をホールドして逃さない。少しでも力を入れられたら肩の骨を砕かれるのではないか、そんな恐怖のまま断りきれず俺は渋々ノクシャスに付き合うこととなる。
「ノクシャスさん、もしかしてお酒飲んでます……?」
「おう、お前も飲むか?」
「い、いえ……俺は……その、弱いので……」
「ああ? つまんねえこと言ってんじゃねえよ」
「……あの、それよりも付き合うっていうのは……」
どういうことでしょうか、と言いかけたとき、いいからいいからと背中を押される。そのまま強引に人の部屋へと入ってきたノクシャスはそのまま俺を引きずるようにドスドスとソファーに座った。
それから間もなくして、ノクシャスの部下らしき男が部屋に次々と酒や料理を運び込んでくるのだ。
「あ、あのノクシャスさん?! こ、これはどういう……」
「俺からの祝だ祝、クソみてえな世界に乾杯とお前がここに来てから四日目記念だ」
それはノクシャスがただ酒を飲みたいだけではないのか……?
思いながらも突っ込んだら噛みつかれてしまいそうで怖かった。俺はただどんどん料理で埋め尽くされるテーブルをあ然と見守ることしかできなかった。
そしてようやく酒や料理を担ぎ込まれたあと、部屋の中には食欲を唆る匂いが充満していた。
「ノクシャスさん、お腹減ってたんですか? ……朝もたくさん食べてたのに……」
「俺は食っても食っても腹減る体質なんだよ。……力の消費量が馬鹿みてえに速えからその分補給しなきゃなんねえの、そんなやつは別に珍しくねえだろ」
「……そ、そうなんですか……?」
「ああ、そうだよ。お前は食わなさ過ぎだ。今朝だって焼き魚一切れしか食ってねえし、よくそんな体でヴィランになろうなんて思ってたな」
「は、はは」
本当になりたかったのはヒーローだけど。
ヴィランの頭も頭のこの人にそれを言ったらどんな反応されるか考えるだけでも恐ろしい。冷える肝を紛らわすように、俺はグラスに注がれた酒を飲んだ。そして、話題を変えようと探る。
「ノクシャスさんに比べたら、そりゃまあ……誰だって貧相に見えますよ」
そう、ピザ数枚を重ねて丸めてそのまま一口。鋭い歯で咀嚼するノクシャスに思わず内心ぎょっとする。ピザソースで汚れた指を舐め、ノクシャスは「そうかあ?」と自分の着ていたシャツの腹部を捲るのだ。
今ここにピザ数枚が消えたわけだが……すごいな。やはりそもそもの筋肉量が違う。興味が湧き、つい俺は前のめりになってノクシャスの腹部を覗く。
「まあそうだな、お前に比べたら」
「やっぱり日頃から鍛えてるんですか?」
「そりゃあな、スーツの強度上げるにも素体がねえとすぐ駄目になるからな」
「ほら、触ってみるか?」と言われ、ぎょっとする。いや、そうだ。触るくらいなら別におかしなことではない。それに、同じ男として純粋に憧れのようなものもあった。……ヴィラン分かっててもだ、俺がこういう体になりたいと目指していたものが目の前にあるのだ。
失礼します、と恐る恐る体勢を変え、ノクシャスの腹部に手を伸ばす。
柔らかい、と思ったが少しでも指を埋め込もうとしようものなら鋼のような筋肉がそれを拒む。勢いよく指してたら指先を骨折してたに違いない。思いながらも、俺は恐る恐るその腹筋の凹凸をなぞる。
「かった……っ、すごいですね、やっぱり……同じ体とは思えないです……っ!」
「っふ……くく、はは……っ! おい、くすぐってえ触り方するなお前」
「うーん……やっぱり俺のと全然違いますね……俺も、ここのジムで鍛えたら変わりますかね」
「……ああ、そうだな。一番いいのはモルグにトレーニングメニュー組ませるといいぞ、あいつはそういうのが好きだからな」
モルグさんか……。
あの人、なんだか得体が知れないからまだ少し怖いんだよな。
思いながらぺたぺたとノクシャスの腹部を撫でていると、ふと伸びてきた大きな手に腰を掴まれる。
そしてそのままぺろんとシャツを胸までたくしあげられ、息を飲んだ。
「ぁ……っ、ん、……ノクシャスさん……っ」
「そういうお前は見れば見るほど可哀想な体だな。……ほっせえ、細すぎんだろ。こんなの抱かれたら折れるんじゃねえのか?」
「……っ、そ、そんなに……でしょうか……?」
「ああ、そんなにだ」
大きくて分厚い掌が、俺の腰から腹部を撫でる。そのままゆっくりと胸元にまで登ってくる感触にぎょっとし、こそばゆさに身動ぐが、スーツなしとはいえどノクシャスの力に叶うはずもなかった。
「っ、は、ぁ……お、俺……」
俺もノクシャスにベタベタ触ったのだ。だから、触り返されてるだけなのだ。別に筋肉の触りあいなどよくある、戯れてるだけだ。そうわかってるのに、酒のせいもあってか段々ノクシャスに触れられてる箇所が熱く痺れ始めてることに気づき、焦り始める。
なんだか雰囲気もおかしい。話題を変えないと、と思うが、胸筋の膨らみをぐっと絞るように乳首を引っ張られた瞬間、びくんと体が震えた。
痛みや衝撃もあった、それ以上に。
「っ、の、ノクシャスさん……っ?」
「……」
「っ、ぁ、っ、ん、ちょっと……ノクシャスさ……ッ! ん、ぅ……ッ!」
なんで無言なんだ、せめて何か言ってくれ。
明らかにただの触りあいではない触れ方をしてくるノクシャスに恐ろしくなって、必死にその腕から逃れようとするが、掴まれたままの乳首を捏ねられれば「んっ」と声が漏れてしまう。
「っ、あ、あの、そこは……ぁ……っ」
もう片方の胸もぐにぐにと押し潰され、絞られる。痛いのに刺さるような刺激のあとにやってくるジンジンとした甘い刺激に頭の奥がぼうっと熱くなり、抵抗することも忘れ俺は背後のノクシャスにもたれかかった。
臀部、腰の辺りに硬く芯をもったものが当たる。
「なあ、良平。鍛えてんのはこっちだけじゃねえんだけど……見てみるか?」
ごり、と寝間着代わりの薄手のスウェットの下。尻の谷間をなぞるように押し付けられるそれがなんなのか考えるだけでも戦いた。
ノクシャスの目も据わってる。食べ物の匂いと酒の匂いで篭もった部屋の中、明らかにおかしな空気も混ざっていた。
酒のせいなのだ、なにもかも。腰を揺らし、押し付けるように尻へと擦られればなにも考えられなかった。
「……は、い……っ」
これも、この地下帝国で生き抜くための処世術なのだ。……そう自分に言い聞かせる他ない。
とは言ったもののだ。
「っ、は、ぁ……ッ」
我ながらとんでもない状況になっているという自覚はあった。あったけど、それ以上に熱とアルコールで頭がふわふわして深刻に捉えることはできなかった。
ノクシャスの膝の間に腰を降ろし、俺はその目の前の膨らみを見詰めた。ゴツゴツしたノクシャスの指がベルトと前を寛げた瞬間、勢いよく飛び出してきた性器が頬に当たる。「わっ」と驚いて声を上げれば、ノクシャスが愉快そうに笑った。
「っ、す、ご……ッ」
思わず声に出てしまった。なにを食ったらここまででかくなるのかとも思ったが。元々大柄なノクシャスの性器だ。その体格に劣らずバキバキに筋を浮かべて勃起した性器はあまりにも俺の股間についているものとかけ離れており、目を逸らすことができなかった。熱もすごい、硬さもだ。鼻の穴に広がる雄の匂いに更に頭の奥が痺れていくようだった。
ノクシャスは顔もかっこいいし、きっとこれで何人もの女の人を相手にしてきたのだろう。それでも子供の腕ほどあるのではないかと思えるほど、ノクシャスのそれは太さ長さともに挿入するにはあまりにも凶器に等しく思えた。
正面から裏筋、じっくりと眺めていると吐息に反応したのかぴくぴくとノクシャスの性器が脈打つ。
「おい、良平近すぎないか? お前そのまましゃぶる気かよ」
「っ、へ、あ、いやその……ッ」
「……なあ、せっかくだししゃぶってみるか?」
ノクシャスの手が頬に触れる。そのまま拳ほどある亀頭を唇に押し付けられた瞬間、より生々しい匂いと熱に全身が震えた。
ちゅぷ、と尿道口から垂れる先走りが唇へと触れ、粘着質な音を立てる。
ノクシャスも酔ってるのだろう。ならば、お互いに気持ちがいいうちに穏便に済ませるのが最善ではないのか。いやそもそも最善ってなんだ。なんで俺は唇にちんこ押し付けられてるのか。
「じゃ……じゃあ、少しだけ……」
処世術。
男同士触り合いくらいするし、勃起したらしゃぶらせたりもする。……かもしれない。
ノクシャスに言われるがまま口を開き、亀頭にちろりと舌を伸ばす。最初からこれを口の中へ入れることは無理だと分かっていた。顎が外れる。
だからちろちろと亀頭やカリのところ、竿へと拙い動きで舐めるのが精一杯だった。
不思議と嫌悪感はなかった。舌の上でびくびくと跳ねるのが別の生き物みたいに思えて、更に大きくなるそれに畏怖すらも覚える。
「……っ、お前、本当舌ちっせえのな」
「っ、ん、ぅ……ら、っへ……ノクシャスさんのが、大きくて……っん、ぅ゛……ッ」
なるべく音を立てないようにするものの、唾液 と先端から滴る先走りが混ざる度にじゅぶ、と口の中で泡立つ。美味しい、と思うことはないが、それでもその独特の味が濃くなるほどノクシャスが気持ちよくなってくれてるのだと思えて嬉しかった。
無我夢中でノクシャスに奉仕する。自然と四つん這いになるような格好になってしまい、それでもノクシャスの内股に手を置き、顔の角度を変えて舌を突き出して側面をなめるのだ。
ノクシャスはワイングラスを手に、そんな俺を肴に飯を食べていた。
「……おい、良平お前こういうことしたことあんのか?」
「え? ……あ、あるわけ……ないです、初めてです……そんなこと」
「……まじか、お前……っすげえな」
呆れたような、愉快そうな、そんな声だった。頭をくしゃりと撫でられると嬉しくなってしまう。
昔からあまり人にこうして褒められることがなかったから――いや、あった。あったが、それも随分と昔の記憶だ。もっとノクシャスに褒めてもらい。
「おい……裏側もちゃんと舐めろ。玉の方までねっとり唾液絡めるんだよ」
「っ、ふぁい……っ」
ノクシャスに言われるがまま、竿を掴む。片手では指が回らないほどの太いそれを掴んだまま、俺は口の中の唾液を絡めた舌で裏側の太い一本の筋に根本から亀頭めがけてれろぉっと舌を這わせた。ノクシャスが僅かに息を漏らす。
ノクシャスはここを舐められるのが好きなのだろうか。俺は今度は唇で吸い付き、そのままちろちろと舌を這わせた。
「っん、ふ……ぅ……ッ」
「……っは、良平……お前、上手いな」
「ん……ッ、ぁ、ありぁとう……ございまふ……ッ」
突き出したままになっていた尻撫でられ、そのまま尻の肉をぐにっと掴まれると下腹部の奥が疼いた。集中しろ、俺。そう必死に目の前の男性器にしがみつきながら俺は忙しなく舌を動かした。
「っ、ん」
「あー……っ、くそ、挿れてぇな」
「っ、ぅ、んぶ、ふ……ーッ」
いたずらにスラックスの中に手を突っ込んできたノクシャスは下着の上から尻の谷間の奥、肛門をすりすりと撫でてくる。こんなものを挿れられてみろ、流石に俺の体も壊れてしまう。けれど、そんな想像をしてより熱くなる自分の下腹部になにも考えられなかった。
ノクシャスに尻を揉まれながらも、俺は唾液と先走りで赤黒く濡れた性器を両手で握る。手が汚れようが、もうどうだってよかった。亀頭をぱくりと咥え、舌で尿道口に残った先走りを啜りながらノクシャスの性器を刺激した。
「っ、ああ、そうだ……良平、喉も使えよ」
「っふ、ッ、ぅ゛ん゛んッ」
言われるがまま、頭を動かし、限界までノクシャスの性器を咥えようとするがやはり亀頭の半分が限界だった。それでもノクシャスを満足させられるように、言われるがまま舌を絡ませながら喉を締め付けて愛撫する。
手の中の性器がどくんどくんと脈打つのを聞きながら、俺は更に追い打ちをかけた。
「……ッ、く、……ッ!!」
唇を窄め、思いっきり吸い上げたときだった。口の中でそれは大きく跳ねる。瞬間、あまりの勢いについ口から性器が外れた。
あっと、思った次の瞬間、どろりとした大量の液体が顔面に降り注ぐのだ。
「っ、は、ぁ……ッ」
熱い。つか、この匂い。顔射されたのだとわかり、恐る恐る顔を汚す精子に触れる。濃い白濁のそれはどろりと頬から顎まで、落ちていく。
そんな俺の顔を見て「悪ィな」とノクシャスは無骨な指先で拭った。そして。
「……良平、お前、素質あんぞ」
「……ぁ、ありがとう……ございます……」
わしわしと撫でられる。けど、まだノクシャスの性器は上を向いたままだ。
こんなに出したのに、まだ出るのか……?
ちらりと視線を向け、息を飲んだときだった。
「……何してんの?」
テーブルの横、いつの間にかそこには黒ずくめの仮面の男が立っていた。――ナハトだ。
「っ、げ、ナハト……っ! お前、暫く任務で帰ってこねえって話じゃ……」
「別に、早く仕事が済んだだけ。……それよりも俺が居ることにも気付かず夢中になるほどってよっぽどだね、ノクシャス。……だからお前、禁酒令出されてたんだよ」
「はあ……クソ萎えた」
顔色一つ変えるわけでもなく、いつものことかという調子で続けるナハトにノクシャスも恥じるわけではなく寧ろどうどうとそんなことを言う。すごい、本当に一瞬にして萎えてる。
もぐもぐと残っていたピザを食べていたナハトだったが、そのまま布巾で手を拭うとじろりとこちらを向いた。仮面越しでも分かる、絶対零度の視線だ。
「な、ナハトさんこれは……っ」
「イカ臭い口で喋らないで。……お前はこっち」
そう首根っこを掴まれ、ナハトに引きずられてやってきたのは洗面台だ。
洗面台の前。頭をいきなり押さえつけられたと思えば、いきなり蛇口から溢れ出す水に溺れる。
「あ、あの……ッぉぶっ!」
そして、問答無用で顔の精液を洗い流される。そのまま口をこじ開けられたかと思えば、ナハトは容赦なく咥内へと指をねじ込み、口の中も直接洗い流そうとしてくるのだ。
「ぉごっ! ぼご……っ!」
「お前、男相手だったら見境ないんだ? ……よりによってあんな筋肉ダルマのチンポしゃぶって喜んでるなんて、本当恥ずかしくないの?」
「っ、ぅ、ご……っ、ごぼ……ッ!」
「……はあ」
鼻や器官に水が入らないようにしてくれているようだが、溺れないように必死になっていたお陰でナハトの言葉は聞き取れなかった。それでも、恐らく罵倒されていたのだかはわかった。
そしてようやく洗い流し終えたとき、前髪や着ていたシャツまでもびしょびしょになっていた。
ぜえぜえと虫の息の俺の顔にタオルを押し付け、そのままがしがしと拭いてくるのだ。
「っ、もご!」
「……本当、無防備過ぎて腹立つ」
そう舌打ちし、ナハトは俺からタオルを外した。そしてそのまま俺の頭に被せるのだ。髪を拭けということなのか。
「っは、……ぅ、ナハトさ……っ」
「……ノクシャス、あいつは脳味噌筋肉馬鹿のお人好しだけど、今度から二人きりで酒飲むなよ。……酔ってるときのアイツ、下半身まで馬鹿になるから」
「っは、ひ……」
「……はあ、本当……面倒臭……」
そう吐き捨て、背中を丸めたまま部屋へと戻ろうとしていたナハトを咄嗟に呼び止める。ナハトさん、と情けなく声が上擦ってしまったが、ナハトの耳にはしっかり届いていたようだ。
「なに」
「ぁ、ありがとう……ございました……」
「……煩い」
なんだか俺、ナハトには怒られてばかりだ。
というか当たり前だ、冷水浴びたおかげで段々酔が醒めてきたが普通に考えてあんな場面をナハトに見られたのだ。前回に引き続き、やつにとって俺は変態かなにかと思われてるに違いない。
暫く恥ずかしさのあまりどんな顔をしてナハトやノクシャスの元に戻ればいいのか分からず蹲ってることとなる。
そして数分後。
部屋に戻ると料理や酒は片付けられたあとだった。そしてノクシャスも帰ったらしい。
いつもと変わらない簡素の部屋の中、ソファーの上には我が物顔で座るナハトがいた。
やばい、こうして一対一になると緊張してしまう。またチクチク言われないだろうか。タオルを両端を掴み、深くかぶって顔を隠そうとしてると「なにやってんの」と冷ややかな声が飛んでくる。
「う……そ、その……色々ご迷惑をおかけしました……」
「もうそれ飽きた。……それより、こっち来て」
そう、自分の隣をばしばしと叩くナハト。
人に近付かれることを嫌いそうな気配すらあるのに、思いの外距離の近いナハトに色々思い出してきてまた別の緊張してくる。もたもたしてると「早く」と促され、俺は慌ててソファに座った。そして。
「……これ、お土産」
そう、ナハトが紙袋を取り出した。俺でも見たことある、地上にある電化製品店の袋だ。中を覗けばそこには新品の携帯ゲーム機が箱ごと入っていた。
「あの、これって……ナハトさんがいつもしてる……」
「退屈しのぎ。……他の男のチンポしゃぶる暇あるなら少しでも鍛えなよ。……そうすれば、俺も少しくらい退屈しのぎになるだろうから」
「あ、ありがとうございます……っ!」
「……声でか」
「あっ、ご、ごめんなさ……」
慌てて口を抑えれば、ぷいっと他所を向いたナハトは深く溜め息を吐く。またなにか言われる、そう身構えていたのだが。
「…………まあ、別にいいけど」
そう、辛うじて聞こえてくるほどの声量で呟くナハトに胸の奥に暖かいものが溢れ出す。
けど、またありがとうございますなんて言ったら詰られるだろう。俺は喜びを胸に押し込め、紙袋を抱き抱えた。
ヴィランは悪人だと思っていたのに、段々常識というものが分からなくなってくる。
やっぱり、悪い人ではないのかもしれない……。
そんなふうに思ってしまう俺も、既に染まっているということなのだろうか。
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