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少年Aの過ち
01
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「おはよう、丁塚君、鮫島君」
「はよ」
「……」
たまに不思議になる。コウメイは決して愛想はよくないのにどうしてこうも女子にモテるのか。
長い間一緒にいる俺からしてみたらコウメイのよさは充分にわかってるのだけれど、他のやつらは学校の中での無表情のコウメイしか見てない。
なのに、なぜだろう。コウメイを遠巻きに眺めてはきゃあきゃあとはしゃぐ女子たちを一瞥し、俺達は教室へ向かう。
まるで腫れ物に触れるかのように道を開けてくるやつもいれば、必死に笑顔作って挨拶してくるやつもいる。
そんな連中に適当に愛想振りまきながら教室へ入ろうとした時、ふと、廊下の隅で固まって話していた女子グループが視界に入った。正確には、その会話だが。
「そういや、今度はB組の子が家出だって」
「え?誰?」
「ほら、委員長!あんなに真面目そうだったのに……」
「家出ってまじ?」
「もしかして事件に巻き込まれたとかそういう系なんじゃないの?じゃないと、ここまで続くなんて有り得ないっしょ」
「怖ー」
「……」
どうでもいい人間が一人居なくなっただけでもやはり広まってしまうようだ。
まあ、所詮は噂だ。痕跡も証拠も存在も消してしまえば、すぐに風化してしまう。
それでもやはり、少しペース配分を考える必要があるかもしれない。
一人考えながら、俺は教室へ入った。
携帯にリツから着信がきていたことに気付いた俺は授業が終わり、すぐにリツに電話をした。
数秒もしない内にリツは電話に出る。
『来斗、終わったよ』
「おう、ご苦労様」
『あぁ……やっぱりいいなぁ、来斗のご苦労様。すごい癒される……ね、もう一回言って?』
「なんだよそれ……ご苦労様」
『ら、来斗……ッ!』
受話器の向こうから鼻息荒いリツの声が聞こえる。
なにかジッパーを下ろすような音が聞こえたのだけれど、敢えて俺は聞かなかったことにした。
『……ふぅー……、あ、あのさ、よかったら今日、ご飯食べに行かない?』
なにをして一息ついているのか気になったが、触らぬが仏というやつだ。
食事、食事かー。どうせ、コウメイも今日委員会あるしな……いいかな、食事くらい。思いながら、ふと見た窓の外。
丁度向かい側にある校舎の人影が動き、何気なくそちらへ目を向けた俺はそのまま凍り付いた。
「……え?」
そこには、コウメイがいた。そして、その向かい側には派手な女子生徒が、一人。
確かあそこは科学室の倉庫ではなかっただろうか。
『あ、別にご飯じゃなくてもいいけどさ、ちょっと会いたいなー……なんて……』
勿論、声までは聞こえなかったが女子生徒はなにやらコウメイに迫っているようで。
やめろ、コウメイに触るな。そう、窓に手をついたとき。
「あ……」
コウメイの手が女子生徒の後頭部をわし掴んだ。
次の瞬間、コウメイの顔と女子生徒の顔が重なった。
「……ッ!!」
思わず、手にしていた携帯端末を握り締めていた。それを叩き付けそうになったが、端末から聞こえてきたリツの声になんとか破壊衝動は留まった。
だけど。
『もしもし?来斗?……もしもし?』
「っ……わりい、なんでもない、つか、ちょっと今あれだから切るな」
『えっ?来斗?らい……』
とてもじゃないが、リツと呑気にお話出来そうにはない。
一方的に通話を切った俺は、そのまま携帯端末を壁に向かって投げ付けた。
衝撃に強く出来たそれはただ跳ね返って落ちるだけで。足元に転がる端末。ただ虚しさばかりが胸の中を侵食していって。
「……ッなんで、嫌がらねえんだよ」
無人の通路に響く声。窓の外を振り返る勇気は、なかった。
コウメイがキスした。知らない女子と。俺だってしたことないのに。コウメイの唇をどこの骨かもわからないような女が触れたと思うだけで、マグマのように腹の奥底から嫌悪感がこみ上げてくる。
相手の顔、ちゃんと見とけばよかった。じゃないと、リツに頼めない。
……始末できない。
「はよ」
「……」
たまに不思議になる。コウメイは決して愛想はよくないのにどうしてこうも女子にモテるのか。
長い間一緒にいる俺からしてみたらコウメイのよさは充分にわかってるのだけれど、他のやつらは学校の中での無表情のコウメイしか見てない。
なのに、なぜだろう。コウメイを遠巻きに眺めてはきゃあきゃあとはしゃぐ女子たちを一瞥し、俺達は教室へ向かう。
まるで腫れ物に触れるかのように道を開けてくるやつもいれば、必死に笑顔作って挨拶してくるやつもいる。
そんな連中に適当に愛想振りまきながら教室へ入ろうとした時、ふと、廊下の隅で固まって話していた女子グループが視界に入った。正確には、その会話だが。
「そういや、今度はB組の子が家出だって」
「え?誰?」
「ほら、委員長!あんなに真面目そうだったのに……」
「家出ってまじ?」
「もしかして事件に巻き込まれたとかそういう系なんじゃないの?じゃないと、ここまで続くなんて有り得ないっしょ」
「怖ー」
「……」
どうでもいい人間が一人居なくなっただけでもやはり広まってしまうようだ。
まあ、所詮は噂だ。痕跡も証拠も存在も消してしまえば、すぐに風化してしまう。
それでもやはり、少しペース配分を考える必要があるかもしれない。
一人考えながら、俺は教室へ入った。
携帯にリツから着信がきていたことに気付いた俺は授業が終わり、すぐにリツに電話をした。
数秒もしない内にリツは電話に出る。
『来斗、終わったよ』
「おう、ご苦労様」
『あぁ……やっぱりいいなぁ、来斗のご苦労様。すごい癒される……ね、もう一回言って?』
「なんだよそれ……ご苦労様」
『ら、来斗……ッ!』
受話器の向こうから鼻息荒いリツの声が聞こえる。
なにかジッパーを下ろすような音が聞こえたのだけれど、敢えて俺は聞かなかったことにした。
『……ふぅー……、あ、あのさ、よかったら今日、ご飯食べに行かない?』
なにをして一息ついているのか気になったが、触らぬが仏というやつだ。
食事、食事かー。どうせ、コウメイも今日委員会あるしな……いいかな、食事くらい。思いながら、ふと見た窓の外。
丁度向かい側にある校舎の人影が動き、何気なくそちらへ目を向けた俺はそのまま凍り付いた。
「……え?」
そこには、コウメイがいた。そして、その向かい側には派手な女子生徒が、一人。
確かあそこは科学室の倉庫ではなかっただろうか。
『あ、別にご飯じゃなくてもいいけどさ、ちょっと会いたいなー……なんて……』
勿論、声までは聞こえなかったが女子生徒はなにやらコウメイに迫っているようで。
やめろ、コウメイに触るな。そう、窓に手をついたとき。
「あ……」
コウメイの手が女子生徒の後頭部をわし掴んだ。
次の瞬間、コウメイの顔と女子生徒の顔が重なった。
「……ッ!!」
思わず、手にしていた携帯端末を握り締めていた。それを叩き付けそうになったが、端末から聞こえてきたリツの声になんとか破壊衝動は留まった。
だけど。
『もしもし?来斗?……もしもし?』
「っ……わりい、なんでもない、つか、ちょっと今あれだから切るな」
『えっ?来斗?らい……』
とてもじゃないが、リツと呑気にお話出来そうにはない。
一方的に通話を切った俺は、そのまま携帯端末を壁に向かって投げ付けた。
衝撃に強く出来たそれはただ跳ね返って落ちるだけで。足元に転がる端末。ただ虚しさばかりが胸の中を侵食していって。
「……ッなんで、嫌がらねえんだよ」
無人の通路に響く声。窓の外を振り返る勇気は、なかった。
コウメイがキスした。知らない女子と。俺だってしたことないのに。コウメイの唇をどこの骨かもわからないような女が触れたと思うだけで、マグマのように腹の奥底から嫌悪感がこみ上げてくる。
相手の顔、ちゃんと見とけばよかった。じゃないと、リツに頼めない。
……始末できない。
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