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しおりを挟む「……はぁ」
何故こんなことになったのか。
上がり込んできた大聖を絶対に部屋に入れたくないと暴れた結果、大聖を憐れんだゆまが「俺の部屋ならいいよ、大聖君」なんて言い出すお陰で「そんなこと許可できるか」と言い返したのが悪かった。
大聖は俺の部屋の床の上に転がっていた。ベッドは死守することはできたが、正直こいつと同じ部屋にいるだけでも生きた心地がしない。寝れるなんてもっての他だ。
しかし、大聖は余程眠たかったのか。俺の部屋にきた途端そのまま床の上に転がって爆睡し始めたのだ。
こいつが考えてることが理解できないのは今に始まったことではないが、それでもここまで面の皮が厚いと羨ましくすら思えた。
結局その晩、俺は一睡もできずに大聖の寝相を見ることになった。
そして朝方、外が明るくなり始めた頃。大聖はむくりと起き上がる。
「……よく寝た」
「一晩だっただろ、さっさと帰れ」
「うお、お前まだ起きてたのかよ」
「誰かさんがいるせいでな」
「それ、俺のこと?」
寧ろお前以外に誰がいるのだ。
そのまま胡座を掻きながらスマホを確認する大聖は、「けどま、ありがとな」なんて言い出すのだ。
「お陰で助かったわ」
「…………」
そもそも、なんで帰りたくねえんだよ。
それも俺の家に押しかけるための口実かと思ったが、こいつの場合そんなご丁寧なものを用意せずとも上がりこんで来ても不思議ではない。
聞こうか迷って、やめた。代わりに「じゃあさっさと帰れよ」とそのままそっぽ向いたとき、ふと背後に気配を感じた。大聖だ。
「なに、まだなんか――」
あんのかよ、と振り返ろうとしたときだった。背後から覆いかぶさってくるかのように抱きしめてくる大聖に全身から血の気が引いた。
なんで、なんだ。なんでこいつ。
「――っ、――」
「……明日真」
耳元で大聖の声がする。普段よりも低いその声は鼓膜から脳味噌まで流れ込んできて、いつの日かの思い出したくもない記憶と現実がリンクした瞬間――俺は、気付けば背後の大聖に思いっきり後頭部で頭突きをしていた。
不意打ちだったらしい。もろ後頭部食らった大聖は、男前の顔面を歪めていた。その鼻先からボタボタと鼻血が溢れ出す。それを見て、鼻を抑えた大聖はこちらを睨んだ。
「っ、てめ……何……」
「それはこっちのセリフだ……っ! 出ていけ、早く……っ!」
「ああっ?! なんだよいきなり……」
「いきなりはテメェだろ、馬鹿大聖……っ!」
報復されようが知ったこっちゃねえ。
少しは反省したのかと思ったが、んなことはなかった。その顔からして寧ろ俺がいきなりキレだしたと思ってやがる。
とにかくこいつを家から追い出そう、そう大聖の腕を掴み、引っ張ろうとしたとき。舌打ちをした大聖は俺の胸倉を掴んだのだ。
「――っ、な、」
何をするのだ、と慌ててその手を引き剥がそうとしたのも束の間。すぐ目の前、迫る大聖の顔に視界が陰る。
一瞬、脳の処理が追いつかなかった。
……何故俺はこいつにキスをされているのか。
「っ、ふ、ぅ゛……ッ」
顎を掴まれ、無理矢理固定されたかと思えば唇に噛み付かれる。
触れるだけ、重ねるだけの可愛らしいものではない。唇の薄皮に食い込むやつの歯、焼けるような吐息、下唇を食まれたと思えばそのままねじ込まれる肉厚な舌に目を見開いた。咥内に濃厚な鉄の匂いが広がり、頭が真っ白になる。
「ぅ゛、む゛ーー~~っ!!」
渾身の力を込めてやつの伸びた髪を引っ張るが、大聖は力を緩めるどころか苛ついたように眉間に皺を寄せる。そして、必死に閉じていた唇の隙間に宛てがわれる舌。
開けろというかのように唇を這わされる舌の感触に、呼吸の方法まで忘れそうになるくらい俺はパニックになっていた。
「……っ、明日真……お前さぁ、俺のこと好きすぎんだろ。どんだけ意識してんだよ」
「……っ、んなわけ、ね゛……っん、ゃ、めぉっ、ざけんな、クソ……っ、ぉ゛……む゛、ぅ……っ!」
「ふざけてんのはテメェだろ、ずっと俺のこと目で追ってたくせに。……ああ?」
そんなわけないだろ、と言いたいのに。ちゅ、ぢゅる、とわざと汚い音を立てて唇を吸い上げられると余計思考が乱れる。
触るな。やめろ、あっち行け――そう大聖の腕を掴み離そうとしたとき、狙ったかのように開いた口の中に入ってくる大聖の舌を無理矢理受け入れさせられた。
「ふー……っ、ぅ……ッ! ぅ……っ」
「っ、ん、は……っ、あんときはあんなに可愛かったってのに……なんだ? 最近構ってやれなかったから拗ねてんのか」
「っ、んな、わけ……っ」
ねえ、と言いかけたとき。いつの間にかに腰に回されていた腕に身体を抱き寄せられる。ベッドから逃げようとしたが、そのまま乗り上がってきたやつに身体ごと引きずり込まれそうになり血の気が引いた。
「っ、ゃ、め……」
ぁ、やばい。と思った。寝間着越し、腰を掴む大きな手の感触。頭に、血が登っていく。
――気持ち悪い。吐き気が胃から喉まで競り上がってきて、視界の縁がじわじわと浸食され、影によって狭まっていく。器官が狭くなる。空気を入れ替えたいのに、上手く吸えない。
声を出すこともできなくなる俺に、「明日真?」と大聖が動きを止めたとき。
俺は、手元にあった枕を思いっきり大聖の顔面に投げつけた。
こんなの、やつにとっては対してダメージにならないと分かってた。けど、今の俺にとって重要なのはそんなことよりも少しでもやつの動きを封じ込めることだった。
枕を受け止め、それを退かそうとするほんの数秒を狙って俺は思いっきり大聖に布団を投げつける。
「っ、なんだよ、おい……っ!」
「出ていけ……っ!」
「ああ? まだんなこと言って……」
鬱陶しそうに布団を剥ぎ取った大聖は俺の方を見て固まった。
今まで見たことのないような顔で大聖はこちらをじっと見てる。俺は、自分がどんな顔をしてるのかすらも考える余裕はなかった。
「……お前なんて、大嫌いだ」
――これ以上、唯一の思い出まで汚さないでくれ。
そう、言葉を続けることはできなかった。
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