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すっかり暗くなった住宅街。人んちの玄関前の段差に腰をかけていたその派手頭に「おい」と声をかければ、やつはこちらを振り返る。
「よ、明日真」
「よ、じゃねえよ。不審者で警察呼ぶぞ」
「お前が部屋に上げてくんねえから、ここで野宿しようかと思ってさ」
呆れて言葉も出なかった。こいつと真面目に話していると頭が痛くなる。
「他にいくらでもいるだろ、お前をタダで泊めてやるようなやつ」
女になら困ってないはずだ、といつしか聞いたあまりよくない噂を思い出した。
大聖は表情を変えず、ただこっちを見て「いねえよ」と呟いた。
「いねえって……」
「お前みたいなお人好し、明日真だけだって言ってんの」
「……どの口で言ってんだよ」
「この口」
と、どさくさに紛れて顔を近付けてくる大聖にぎょっとする。咄嗟にやつの顔面を手で抑えつければ、そのままぬるりと濡れた舌が這わされ、気付けば俺はやつの頬を思いっきりビンタしてた。
破裂音。目を丸くした大聖なそのまま口元に大きな笑みを浮かべる。
「――っ、はは、いってぇ~~!」
「……っ帰れよ、迷惑だ」
「……んだよ、明日真。今日優しかったじゃん」
「優しくしたつもりはねえよ、お前が勝手に付き纏ってきたんだろ。言ったよな、もう二度と関わんなって」
「俺はそれ、受け入れたつもりはねえんだけど」
「……っ、……」
ふざけんな、と言い返しそうになったとき、伸びてきた手に口を塞がれる。
「何時だと思ってんだ、近所迷惑だろうが」
それ以前に俺に迷惑をかけているお前が言うのか、という俺の言葉は遮られた。
もご、と呻く俺を一瞥した大聖は「んじゃお邪魔します」とそのまま玄関まで歩いていくのだ。ふざけんな離せ、つうか帰れ。そう、必死にその腕を振り払い家から引き離してやろうとするのに大聖はそれすらも無視して俺の家へと上がったのだ。
「大聖君だ」
「よう、ゆま。またイケメンになったな」
「大聖君もね」
「口も見る目もあるって将来有望だな」
――お前はどの立場のなんなんだよ!
「もご……っ!」
「ところで大聖君、うちの兄ちゃんどうして捕まってるの?」
「こいつが騒いで近所に迷惑かかるからなあ。悪いけど、今日一泊させてもらうな」
「そうなんだ、ご飯は食べた?」
「一応食った」
「おやつあるよ、食べる?」
「食う!」
ゆま、順応しなくていい。こんなやつ追い出せ早くしろ。と必死にアイコンタクトを送るも全て無駄だった。
おやつに釣られてリビングへと勝手に向かう大聖に解放された俺は「ゆま、警察呼べ警察!」と叫ぶ。「兄ちゃん煩いよ」とゆまに怒られた。こいつ、長い物に巻かれることまで覚えてないか。
「そもそも『食う!』じゃねえんだよ、大聖、お前どの面下げて人んち上がってきてんだ」
「……? この面だけど?」
「きょとんとしてんじゃねえ……っ! そもそも俺は――」
お前のことを許した覚えはねえ、と玄関先での問答を再び掘り返した矢先だった。
冷蔵庫前、ゆまから何かを受け取った大聖がこちらを振り返った。瞬間。
「んむっ」
「ほら、これ食え。お前も好きだったろ」
唇に押し付けられるソーダ味の棒付き氷菓。ひんやりとした感触に思わず唇がくっつきそうになり、咄嗟に俺は口を開けてそれを受け入れそうになり、ハッとする。
つうか、それ俺が食うつもりで買ってきたやつだし。という言葉も構わず、二本目を取り出した大聖は目の前でその氷菓を齧るのだ。
「久し振りに食うとうめえな」
当たり前だ、と言い返してやりたかったが、口の中のものが邪魔して喋れない。それをしゃりしゃりと齧りながら、代わりに俺は大聖の脛を蹴った。この男、びくともしねえ。無敵かよ。
「よ、明日真」
「よ、じゃねえよ。不審者で警察呼ぶぞ」
「お前が部屋に上げてくんねえから、ここで野宿しようかと思ってさ」
呆れて言葉も出なかった。こいつと真面目に話していると頭が痛くなる。
「他にいくらでもいるだろ、お前をタダで泊めてやるようなやつ」
女になら困ってないはずだ、といつしか聞いたあまりよくない噂を思い出した。
大聖は表情を変えず、ただこっちを見て「いねえよ」と呟いた。
「いねえって……」
「お前みたいなお人好し、明日真だけだって言ってんの」
「……どの口で言ってんだよ」
「この口」
と、どさくさに紛れて顔を近付けてくる大聖にぎょっとする。咄嗟にやつの顔面を手で抑えつければ、そのままぬるりと濡れた舌が這わされ、気付けば俺はやつの頬を思いっきりビンタしてた。
破裂音。目を丸くした大聖なそのまま口元に大きな笑みを浮かべる。
「――っ、はは、いってぇ~~!」
「……っ帰れよ、迷惑だ」
「……んだよ、明日真。今日優しかったじゃん」
「優しくしたつもりはねえよ、お前が勝手に付き纏ってきたんだろ。言ったよな、もう二度と関わんなって」
「俺はそれ、受け入れたつもりはねえんだけど」
「……っ、……」
ふざけんな、と言い返しそうになったとき、伸びてきた手に口を塞がれる。
「何時だと思ってんだ、近所迷惑だろうが」
それ以前に俺に迷惑をかけているお前が言うのか、という俺の言葉は遮られた。
もご、と呻く俺を一瞥した大聖は「んじゃお邪魔します」とそのまま玄関まで歩いていくのだ。ふざけんな離せ、つうか帰れ。そう、必死にその腕を振り払い家から引き離してやろうとするのに大聖はそれすらも無視して俺の家へと上がったのだ。
「大聖君だ」
「よう、ゆま。またイケメンになったな」
「大聖君もね」
「口も見る目もあるって将来有望だな」
――お前はどの立場のなんなんだよ!
「もご……っ!」
「ところで大聖君、うちの兄ちゃんどうして捕まってるの?」
「こいつが騒いで近所に迷惑かかるからなあ。悪いけど、今日一泊させてもらうな」
「そうなんだ、ご飯は食べた?」
「一応食った」
「おやつあるよ、食べる?」
「食う!」
ゆま、順応しなくていい。こんなやつ追い出せ早くしろ。と必死にアイコンタクトを送るも全て無駄だった。
おやつに釣られてリビングへと勝手に向かう大聖に解放された俺は「ゆま、警察呼べ警察!」と叫ぶ。「兄ちゃん煩いよ」とゆまに怒られた。こいつ、長い物に巻かれることまで覚えてないか。
「そもそも『食う!』じゃねえんだよ、大聖、お前どの面下げて人んち上がってきてんだ」
「……? この面だけど?」
「きょとんとしてんじゃねえ……っ! そもそも俺は――」
お前のことを許した覚えはねえ、と玄関先での問答を再び掘り返した矢先だった。
冷蔵庫前、ゆまから何かを受け取った大聖がこちらを振り返った。瞬間。
「んむっ」
「ほら、これ食え。お前も好きだったろ」
唇に押し付けられるソーダ味の棒付き氷菓。ひんやりとした感触に思わず唇がくっつきそうになり、咄嗟に俺は口を開けてそれを受け入れそうになり、ハッとする。
つうか、それ俺が食うつもりで買ってきたやつだし。という言葉も構わず、二本目を取り出した大聖は目の前でその氷菓を齧るのだ。
「久し振りに食うとうめえな」
当たり前だ、と言い返してやりたかったが、口の中のものが邪魔して喋れない。それをしゃりしゃりと齧りながら、代わりに俺は大聖の脛を蹴った。この男、びくともしねえ。無敵かよ。
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