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思い出したくもない黒歴史。
その場のノリと空気で、あいつは今まで俺と築き上げてきたあらゆるものをぶっ壊して行きやがったのだ。
『やめろって、大聖』
『大丈夫大丈夫、ちゃんとやり方聞いてきたから』
『嫌だ、したくない、お前とそんな――』
『なに、お前俺のこと嫌いなの?』
『きらいじゃ、ねえけど』
『じゃ、問題ねえじゃん』
俺は成長期が来るのが遅かった。今では身長は180センチまで伸びたが、そのときは大聖の方が遥かに大きかった。
押し倒され、少し体を抑え込まれれば勝てるわけがなかったのだ。
当時、初めて彼女というものができたばっかで浮かれていた俺をあの男は容赦なく俺の初めてを奪ったのだ。
何度も抵抗したし、やめろと懇願した。けれどあいつは止めなかった。『チンポねえ女じゃ無理だろ』と馬鹿にしたように笑いながら、何度も俺の中を出入りしたあの男を。
それまで確かに俺達は親友だった――はずだ。それがきっかけで彼女に顔を合わせることはできなくなって別れ、それ以降、俺は人と付き合うことができなくなった。
申し訳なさもあったが、それ以上に人と深く繋がることに嫌悪感すら覚えたのも同じ頃だ。
逃げ帰るように駆け込んだ自室。俺は腰にまとわりついた大聖の腕の感触をいち早く消すため、着替えを用意して再びバタバタと風呂場へと駆け込む。
小学生の弟が何事かとゲーム機片手に顔を出してきたが、俺の血相から察したようだ。すぐに面倒臭そうな顔をして引っ込んでいった。
「……っ、クソ……」
最悪の気分のまま服を脱ぎ、熱々のシャワーを頭から被る。それでも気分が晴れることはなかった。
大聖に裏切られてからも、あいつは何も変わらず俺に接してきた。それが余計腹立って何度か大喧嘩になったこともあったが、そのときたまたま通りかかった先生に止められたのだ。
あいつはなんで俺が怒ってるのか理解していないという顔で、いつもと変わらないヘラヘラとした面でこちらを見てる。
それが余計神経を逆撫でしてくるのだ。
その日の一件以来、俺は大聖と付き合わなくなった。あいつから話しかけても無視したし、わざと避けた。
周りの生徒に何かあったのだろうと悟られたのか、俺と大聖のことに敢えて触れてくるようなやつはいなかった。
噂で色々言われてるのは知ってる。
俺の元カノがあいつと寝ただとか、なんだとか。そんなアホ臭い内容だ。
実際はもっと酷い。口が裂けても言えるわけがなかった。
お陰で俺は女子相手に興奮することもなくなったし、好意を向けてくる男子相手には苦手意識しか持てなくなり、人間を信じることもできなくなった。
――あいつのせいで、なにもかもがめちゃくちゃになったのだ。
シャワーを浴びたことで少しは気分が紛れたと思えば、油断をすればまた大聖の腹立つニヤケ面が浮かんではかき消す。
……飯食って寝よ。このまま起きてたところで気分は最悪のままだ。
そう自分に言い聞かせ、リビングへと向かう。リビングには弟がいた。来年中学生に上がる弟だ。
「兄ちゃん、機嫌悪い?」
「いや、別に。どうかしたか?」
「……本当?」
「嘘吐いてどうすんだよ」
「でも、風呂場で『クソ!』って言ってたじゃん」
「……………………ゴキブリが出たんだよ」
我ながら苦しい言い訳だ。弟は馬鹿ではないし、俺の態度からも察してるのだろう。「ふーん」と向けられる目はやや白い。俺はそれを無視して冷蔵庫まで歩いていく。
風呂上がり、火照った体でコーラを一気飲みするのが最高だと総場が決まってる。予めストックしていたコーラのペットボトルを取り出したとき、ずり、とソファーによじ登った弟はこちらを見た。
「そういや、兄ちゃんって大聖君と仲直りしたの?」
そして、ボトルキャップを外してコーラを口に含んだ矢先だった。ピンポイントで地雷を踏んでくる弟に、思わず口の中のものを噴き出しそうになった。
「……っ、ゲボ! ごほ! ……な゛ん……っ」
「いや、さっきから家の前で大聖君いるから気になってさ」
「はあ?!」
思わずでかい声が出てしまう。リビングの窓へと駆け寄り、カーテンの隙間から玄関の方を確認した。すると、確かに何かがいる。暗くなり始めた家の前、座り込んでいるクソヤンキーが一匹。
「ゆま、警察に通報しろ」
「えー、やだよ。兄ちゃんが通報しろよ。俺だったら子供のイタズラだって思われるし」
「俺だって子供だ」
「こういうときばっか言うじゃん。でも、俺大聖君に喧嘩売りたくないからやだ」
「……」
賢すぎる弊害が出たかもしれない。
大聖と関わらないという選択を取るのは正しい。あいつ、俺以外のやつには死ぬほど短気だしな。
家前で暴れられても癪だ。
「分かった。……お前は大人しくしてろよ、もし騒ぎ出したら騒音が酷いって警察に通報していいからな」
「兄ちゃん、そんなに大聖君のこと捕まえたいの?」
当たり前だ、と言い掛けて堪えた。念の為防犯用に布団叩きを手にし、俺は家を出たのだ。
その場のノリと空気で、あいつは今まで俺と築き上げてきたあらゆるものをぶっ壊して行きやがったのだ。
『やめろって、大聖』
『大丈夫大丈夫、ちゃんとやり方聞いてきたから』
『嫌だ、したくない、お前とそんな――』
『なに、お前俺のこと嫌いなの?』
『きらいじゃ、ねえけど』
『じゃ、問題ねえじゃん』
俺は成長期が来るのが遅かった。今では身長は180センチまで伸びたが、そのときは大聖の方が遥かに大きかった。
押し倒され、少し体を抑え込まれれば勝てるわけがなかったのだ。
当時、初めて彼女というものができたばっかで浮かれていた俺をあの男は容赦なく俺の初めてを奪ったのだ。
何度も抵抗したし、やめろと懇願した。けれどあいつは止めなかった。『チンポねえ女じゃ無理だろ』と馬鹿にしたように笑いながら、何度も俺の中を出入りしたあの男を。
それまで確かに俺達は親友だった――はずだ。それがきっかけで彼女に顔を合わせることはできなくなって別れ、それ以降、俺は人と付き合うことができなくなった。
申し訳なさもあったが、それ以上に人と深く繋がることに嫌悪感すら覚えたのも同じ頃だ。
逃げ帰るように駆け込んだ自室。俺は腰にまとわりついた大聖の腕の感触をいち早く消すため、着替えを用意して再びバタバタと風呂場へと駆け込む。
小学生の弟が何事かとゲーム機片手に顔を出してきたが、俺の血相から察したようだ。すぐに面倒臭そうな顔をして引っ込んでいった。
「……っ、クソ……」
最悪の気分のまま服を脱ぎ、熱々のシャワーを頭から被る。それでも気分が晴れることはなかった。
大聖に裏切られてからも、あいつは何も変わらず俺に接してきた。それが余計腹立って何度か大喧嘩になったこともあったが、そのときたまたま通りかかった先生に止められたのだ。
あいつはなんで俺が怒ってるのか理解していないという顔で、いつもと変わらないヘラヘラとした面でこちらを見てる。
それが余計神経を逆撫でしてくるのだ。
その日の一件以来、俺は大聖と付き合わなくなった。あいつから話しかけても無視したし、わざと避けた。
周りの生徒に何かあったのだろうと悟られたのか、俺と大聖のことに敢えて触れてくるようなやつはいなかった。
噂で色々言われてるのは知ってる。
俺の元カノがあいつと寝ただとか、なんだとか。そんなアホ臭い内容だ。
実際はもっと酷い。口が裂けても言えるわけがなかった。
お陰で俺は女子相手に興奮することもなくなったし、好意を向けてくる男子相手には苦手意識しか持てなくなり、人間を信じることもできなくなった。
――あいつのせいで、なにもかもがめちゃくちゃになったのだ。
シャワーを浴びたことで少しは気分が紛れたと思えば、油断をすればまた大聖の腹立つニヤケ面が浮かんではかき消す。
……飯食って寝よ。このまま起きてたところで気分は最悪のままだ。
そう自分に言い聞かせ、リビングへと向かう。リビングには弟がいた。来年中学生に上がる弟だ。
「兄ちゃん、機嫌悪い?」
「いや、別に。どうかしたか?」
「……本当?」
「嘘吐いてどうすんだよ」
「でも、風呂場で『クソ!』って言ってたじゃん」
「……………………ゴキブリが出たんだよ」
我ながら苦しい言い訳だ。弟は馬鹿ではないし、俺の態度からも察してるのだろう。「ふーん」と向けられる目はやや白い。俺はそれを無視して冷蔵庫まで歩いていく。
風呂上がり、火照った体でコーラを一気飲みするのが最高だと総場が決まってる。予めストックしていたコーラのペットボトルを取り出したとき、ずり、とソファーによじ登った弟はこちらを見た。
「そういや、兄ちゃんって大聖君と仲直りしたの?」
そして、ボトルキャップを外してコーラを口に含んだ矢先だった。ピンポイントで地雷を踏んでくる弟に、思わず口の中のものを噴き出しそうになった。
「……っ、ゲボ! ごほ! ……な゛ん……っ」
「いや、さっきから家の前で大聖君いるから気になってさ」
「はあ?!」
思わずでかい声が出てしまう。リビングの窓へと駆け寄り、カーテンの隙間から玄関の方を確認した。すると、確かに何かがいる。暗くなり始めた家の前、座り込んでいるクソヤンキーが一匹。
「ゆま、警察に通報しろ」
「えー、やだよ。兄ちゃんが通報しろよ。俺だったら子供のイタズラだって思われるし」
「俺だって子供だ」
「こういうときばっか言うじゃん。でも、俺大聖君に喧嘩売りたくないからやだ」
「……」
賢すぎる弊害が出たかもしれない。
大聖と関わらないという選択を取るのは正しい。あいつ、俺以外のやつには死ぬほど短気だしな。
家前で暴れられても癪だ。
「分かった。……お前は大人しくしてろよ、もし騒ぎ出したら騒音が酷いって警察に通報していいからな」
「兄ちゃん、そんなに大聖君のこと捕まえたいの?」
当たり前だ、と言い掛けて堪えた。念の為防犯用に布団叩きを手にし、俺は家を出たのだ。
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