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しおりを挟む「……っくそ、全然進まねえ、お前重すぎんだろ」
「明日真が筋肉落ちてるだけだろ。それか、このチャリがポンコツかのどっちかだな」
「お前のせいに決まってんだろ!」
学年主任から逃げるように校門を出た俺は、近くの駅前までチャリを走らせた。そこで止めれば、そのまま大聖が降りる。
「なんでここで止めんの? お前んちまで連れてけよ」
「うるせえ、ここまで送ってやっただけでも感謝しろ」
「ひっでぇ、冷てえやつ。皆の憧れの明日真君がこんなやつだったなんてショックだわ」
思わず「あぁ?」と反応しそうになったときだ、近くにいた後輩らしき女子集団が「あれって時津先輩じゃない?」「一緒にいる人誰だろ、かっこいいけど」「てか、時津先輩なんか学校にいるときと雰囲気違くない?」「なんか怖い……」と好き勝手言ってるのが聞こえてきてずんと気分が落ち込む。
「……っ、もういいだろ、お前とはもう関わらねえって言ったはずだ」
「それはお前が勝手に決めただけだろ」
「お前のそういうところが嫌なんだよ」
これ以上こいつの顔を見たら、また後輩たちに失望されてしまいそうな言葉を吐いてしまいそうだった。
俺は捨て台詞のように吐き捨て、そのまま大聖を置き去りにしてチャリに乗った。そのまま駆けだそうとした瞬間、一気に後ろのタイヤが重くなる。
「な――」
「じゃ、出発」
「――人の話を聞け、クソ野郎……っ!!」
当たり前のように人の腰に手を回してくる大聖に思わず声もデカくなる。
「こわ」という後輩女子の声も俺の怒声に掻き消される。ああ、クソ、本当に。
人目から逃げるよう、結局俺は家の近くまで送り届けるハメになった。
大聖は自分勝手だ。まるで世界は自分中心に回ってるかのような振る舞いをする。
俺はずっとそんな大聖のことをかっこいいと思ってたし、憧れていた。
どうしても俺は周りの顔色を確認してしまう性分だったからこそ、余計。
けれど、それは俺が幼かったからだ。いつまでも俺も小学生ではない。中学に上がってから、俺は大聖がいかに勝手なやつだと身を以て知らされることになったのだ。
「――ほら、降りろよ」
流石に家にまで大聖を連れて帰る気にはなれなかった。そう適当なコンビニの前でチャリを止めれば、大聖は「なに?買い物?」と不思議そうな顔をした。
「ここまでだ」
「えー、いいじゃん。お前んち泊めてよ」
「……っ、俺がお前を泊めると思ってんのか? 本気で?」
せっかくクールダウンしていたはずなのに、こいつの涼しい顔を見ていたらつい頭に血が昇ってしまいそうになるのが余計嫌だった。
対する大聖は、「泊めるだろ、お前は」と即答するのだ。形のいい唇に笑みを浮かべ、冷ややかな笑みを浮かべて。
「……っ、お前のそういうところ、まじで」
「別にタダで泊めろとは言わねえし、ちゃんとお礼してやるからいいだろ」
「……お礼?」
「また抱いてやるよ」
気付いたら俺はスクールバッグごと大聖の顔面に投げつけていた。それを拾い上げるのも忘れ、チャリに乗った俺は再び漕ぎ出す。やつが乗り込んでくる前に、逃げるように。
ずっと思い出さないようにしていたのに、大聖のクソ野郎にとってはやはり“その程度”のことなのだ。軽口と脅迫に使えるような、“その程度”の。
腸が煮えくり返り、叫び出したい衝動に駆られるのを堪えるような気持ちでペダルを踏む。
友達もいる。家も程々に裕福。家族仲もぼちぼち。勉強も運動もできるし、成績も上々。
――それなのに、胸のうちはぽっかりと穴が空いたように満たされることが決してない。
そして俺はその原因を知ってる。三年経ってもずっと、俺の心の内を巣食う男のことを。
『明日真』
あいつの声変わりは早かった。少しだけ掠れた声で、あいつは俺の名前を呼んだ。
『明日真、行くぞ』
あいつは俺が当たり前のようについてくると信じて疑わなかったし、俺もこいつの隣にいると思ってた。
夏が近付くと思い出す。海塩の匂いと波の音。日に焼けてヒリつく肌の熱さ。
『――明日真』
そして、夕陽に照らされたあいつの顔を見て初めて抱いた感情。
「ぉ゛え゛」
町中。チャリを漕ぎながら、込み上げてくる吐き気に耐えられず、俺は近くの公衆便所に駆け込み嘔吐する。
最悪だ。余計な記憶まで思い出してしまった。
目の前の汚え便器に余計吐き気がこみ上げ、二度目のゲロをぶち撒けた。
「……クソボケ野郎」
もうここにはいないクソボケ野郎に吐き捨てながら、俺は目を瞑る。
これはもう一種のトラウマのようなものだった。あいつは、大聖は俺に二度と消えない傷跡を残していった。
人生順風満帆だった俺に、汚点をつけたのだ。
『なあ、明日真――セックスってしたことあるか?』
【人生の汚点様】
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